三回戦突破
「さて、今回はカルの試合か」
「そうだね。三回戦は今日で全部終わるみたいだから、この後にフィールの試合もあるはずだよ」
そう話す蓮華と秋久。蓮華は特に心配する様子もなく闘技場にいるカルミラに視線を送る。
「まあ、あいつなら大丈夫だろ」
「私は?」
いつもの口調でそう聞いてくるフィルミネスに蓮華はカルミラのときと同じように話す。
「お前も、何とかなるだろ」
「そりゃそうよ」
「じゃあ、なんで聞いたんだよ」
フィルミネスは自信満々にそう言うと、自分の試合ではないのに何かスイッチが入ったような目をしている。いつも通りフィルミネスはやる気に満ちているようだ。
そうこうしているうちに試合が近くなったのか、もう何度も聞いた新聞部の部員の女子の声が発せられた。
「みなさんこんにちは。もう知ってるかもしれませんが、実況を務めさせていただく滝沢です。よろしくお願いしまーす」
滝沢はそう言って軽く会釈をする。その後、隣にいた女性に手のひらを向ける。
「そして、今回の解説は女帝として恐れられている望月巴さでーす。巴さん本日はよろしくお願いします」
「なぜ私なんだ? というか理事長はどうした?」
「理事長はクビにしました。全然解説してくれないので……」
「そうか」
滝沢の容赦のない言葉に巴は言葉を失う。そんな静寂を破るかのように理事長が実況席に入ってくる。
「望月くん、そこは僕の席だよ。どきたまえ!」
しかし巴の腰が移動することはなかった。それを見て、理事長はむきになる。
「望月くん。いいからどきなさい。てゆーか、女帝だかなんだか知らないけどたかが担任教師が僕に逆らえると思っているのかね? さもなくば君……クビだよ」
『クビ』という単語に巴は反応を見せた。巴はイスに座ったまま首だけを理事長の方向に向けた。そして、本物の女帝のように理事長をにらみつける。
「うるさい……だまれ……」
物静かな言い方だが明らかに殺意がこもっていた。その言葉に理事長は委縮してしまう。
「……ごめんなさい……」
そう言って、重い足取りでこの場を去って行った。
理事長が去って行くのと入れ違いになるようにカルミラが姿を現した。そして対戦相手の女子もほぼ同時に入ってくる。その時点で試合開始までのカウントダウンは二分を切っていた。
「カルー! がんばれー!」
そんな凛の声援にカルミラはこくりとうなずきを返した。
そして、試合開始の時間は刻一刻と迫ってくる。
「バトル・スタート!」
滝沢がそう叫んだ。彼女の声が闘技場に響き渡らないうちに、相手は駆けてきた。それもとんでもない速さで。カルミラの校章に剣の先が触れそうになったが何とか横に飛んでかわした。
そして、カルミラの頬を空気がなでた。
風?
そこでカルミラはようやくやる気になったかのようにアクセプションを展開する。拳銃とナイフが一体化した銃剣がカルミラの右手におさまった。
「よし」
そう言うとカルミラは、またも仕掛けてくる相手の動きを眠たげな目でよく見る。
その小柄な風貌には似合わずカルミラは敵の攻撃を捌いて捌いて、捌き切る。
「なんで、そんなに防げるのよ!」
一度も表情を変えずに攻撃を捌き切るカルミラに対して相手は焦りが募る。
しかし、相手の風を使った加速が相当早いのかカルミラ自身は攻撃に移れない。
今の攻防を見ていたフィルミネスが心配そうに言う。
「カルミラ、苦戦してるのかな?」
「そうだね。全然攻撃できてないわ。能力を使うひまもないみたい」
凛も同意見というように語る。秋久も同じようで二人の話を聞きながらうなづいている。
しかし、蓮華は違うようだ。
「いやいや、相手に焦りは見え始めてるから心理的にはカルが勝ってる」
そう断言する蓮華にフィルミネスは疑問をぶつけた。
「でも攻撃できてないのは事実よ」
「今は、だろ。カルはちゃんと防いでる。要は一撃……たった一撃相手の校章に入れりゃあ勝ちなんだ。今の優劣なんていくらでもひっくりかえせる」
「でも、相手は相当速いしひっくりかえすこと自体が難しいんじゃ……」
「そうだなー速いな。しかも剣振るときにも使ってるから、なお早い……でも攻撃の方向転換なら月島に比べてかなり遅い。能力があだになってる」
蓮華以外の三人は納得せざる得ない。それほどのことを蓮華はこの攻防の中で見つけていた。
足が地面を蹴る音と、刃物がぶつかり合う音以外の音は一切しない。カルミラはいまだに攻撃に転ずることができずにいた。
だがそれでもカルミラの表情は崩れない。対して相手の顔には明らかな疲労が見えていた。
そして、先ほど蓮華が言ったように剣を振り下ろした瞬間にスキが生まれた。
この時を待ってた。
銃剣のナイフの部分で相手の校章を狙いにいった。しかしそれはあっけなくかわされてしまう。相手の顔に笑みが浮かんだ。
「私が読み勝ったようね」
この言葉と同時に相手は剣を振った。カルミラはそれをかわそうと右に移動するが相手の剣は彼女の校章に届いた。しかし、カルミラは相変わらずの無表情でこうつぶやいた。
「想定内」
カルミラの校章は二つに割れて地に落ちた。誰もが終わったと思ったがカルミラはそれでも攻撃をやめない。空中で銃口を相手の校章に向け、左手で銃剣を支え、そして――撃つ。
銃声が鳴り響き相手の校章も砕けた。
「勝者……カルミラ・ストローク!」
その言葉を聞き相手は納得がいかない様子でカルミラに詰め寄る。
「どうしてあなたが勝ってるの!? おかしい……じゃ……ない?」
カルミラの左胸を見るとそこには確かに校章が存在していた。きょとんとしている相手に向かってカルミラは言った。
「偽物」
「え?」
「あなたは偽物を壊した」
「やっぱあいつの創造の能力すげーな」
「なんか万能って感じだね」
蓮華の発言に秋久も同意の声をあげた。
「蓮華、私たちカルを迎えに行ってくるね」
「ああ、席はとってる」
それを聞いて、フィルミネスと凛はカルミラの元へ走って行った。
そこで秋久は大きく体を伸ばす。
「それにしても少し危なかったね」
「まあ、ひやひやするところはいくつかあったな」
「うん。でも勝った。これでカルも三回戦突破。後はフィールだけだね」
「そうだな」
◆
試合開始まであと五分。フィルミネスは控室を出て闘技場に向かった。
残り三分ほどで、フィルミネスは闘技場に到着した。
今、この試合を一番見てほしい人は誰ですか? と聞かれれば迷わず霧ヶ谷蓮華と答えるだろう。なぜなら、この試合に勝ったらおいしいラーメン屋に連れて行ってくれる約束をしたからである。だから、フィルミネスは今まで以上にやる気に満ちていた。
「バトル・スタート!」
火の玉が飛んできた。フィルミネスはそれをなんなく剣で斬る。しかし相手は間髪入れずに撃ってくる。なかなか止まらないのでフィルミネスは自分を中心に炎の壁を作って防ぐ。
「おお、相手もフィールと同じ能力だ」
秋久がそう言うと凛もそれに続いた。
「ああいう能力を使える人は多いって本当だったんだ」
「ああいう能力って?」
凛は秋久にそう聞かれると言葉を失った。正直なところ凛はよくわかっていない。
「炎、水、土、雷、風を操る能力のことだ。最近じゃあ五属性なんて呼ばれているらしい。これらを操る能力者は多いんだ」
「そう、それよ。てゆーかあたしが言おうとしてたんだから口挟まないでよね」
「あと、この五属性の能力者は親がどちらもジェンティーレじゃない、または片方だけジェンティーレっていう場合が統計的に見ても明らかに多い結果になってる」
凛の発言を無視して蓮華は話を続けた。
「口挟むなって言ったでしょ!」
「うるさい。静かにしてられないのか。ったく」
頬を膨らませて地団駄を踏む凛。そんな姿の凛をカルミラも無視して話す。
「とてもシンプルな能力……だから使い手次第」
「使い手次第?」
「うん」
カルミラの発言がよくわからなかったのか秋久は蓮華に、どうして? と言わんばかりに視線を向ける。
「つまり、同じ能力者が戦う場合、能力での優劣があまりつかない。なら、どこで差がつくかというと能力をいかに工夫して使うかとか、あとはもっと単純にその能力事態の強さで決まる」
「なるほど」
秋久はあごに親指と人差し指を添えて考え込むと自分なりに納得したような顔をした。それを見て蓮華はフィルミネスを見るようにあごで促す。
「その点あいつは問題なさそうだ」
そこには自分の剣を思い切り地面に突き刺したフィルミネスの姿があった。すると闘技場の地面のあらゆるところから火柱が上がっていった。
◆
「蓮華。これでラーメンの件はいいわね?」
フィルミネスは帰り道胸を張ってそう言ってきた。蓮華はわかりきっていたように軽く返事をする。そこで蓮華の携帯端末が鳴った。
「篠原先輩と会長も勝ったってさ」
「え? 誰から?」
蓮華の言ったことには一切興味を示さずに誰から送られてきたのかということに関心を持ったフィルミネス。蓮華は顔を近づけてくるフィルミネスに何事かと思ったが、質問に答える。
「篠原先輩だよ」
「え? なんで? いつメアド交換したの?」
「いつだったかは忘れたけど、朝に一緒にランニングし始めたときかな」
フィルミネスは蓮華とマリがそんなに仲よかったのかと改めて思い知らされ、絶望した表情を蓮華に向けた。
しかし、フィルミネスはそんな嫉妬のような思いは忘れることにした。
「蓮華、ラーメンはいつ食べに行く?」
「いつでもいい」
「じゃあ、明日! わかった!?」
いつも以上にうっとおしさを感じるフィルミネスの押し問答で蓮華は何も言えなかった。
そして次の日、蓮華に連れられて『千変万化』に行ったフィルミネスがどうなったかは言うまでもないだろう。




