↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したら勇者だと言われたので逃亡します  作者: すみっこSE


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/64

おれ、仲間に報告して、備えるための旅を始める

 ◇ ◇ ◇

逃亡生活百四十二日目。

おれは、緊急の伝令を送り、銀さんとリーゼロッテさんに、王都で集まってもらった。

「――というわけなんです」

白い空間での出来事を、おれは、包み隠さず話した。管理局のこと。上位管理者のこと。そして、「備えておけ」という、最後の言葉。

話を聞き終えた二人は、しばらく、沈黙していた。

「……つまり、この世界は」

リーゼロッテさんが、絞り出すように言った。

「何者かに、管理されている、ということか」

「そういうことに、なりますね」

「にわかには、信じがたい話だ」

 ◇ ◇ ◇

「私は、信じよう」

銀さんが、静かに言った。

「銀さん?」

「聖女として、長年、神殿にいた身だ。……この世界に、人智を超えた何かが存在することは、感覚的に、理解できる」

銀さんは、真剣な表情で続けた。

「それに、〈大陸の鍵〉の存在自体が、その証左だろう。……あれほどの力を持つ品が、自然に生まれるとは、思えん」

「確かに」

「問題は」リーゼロッテさんが、話を戻した。「その管理局とやらが、我々に、何を求めているか、だ」

 ◇ ◇ ◇

「求めてる、というか」

おれは、少し考えてから、答えた。

「たぶん、何も求めてないんだと思います」

「何も?」

「ただ、観察してるだけ、というか。……規定があるから介入しない、って言ってましたし」

「だが、『備えておけ』とも言ったのだろう」

「はい。……そこだけ、規定を破ってでも、伝えたかったんじゃないかと」

おれは、あの時の、管理官の声を思い出していた。

「あの人、なんだかんだ、おれのこと、気にかけてくれてる気がするんですよね」

 ◇ ◇ ◇

「では、我々は、何に備えるべきなのだ」

リーゼロッテさんの問いに、おれたちは、揃って、考え込んだ。

「ザガル殿の話と、繋げて考えれば」銀さんが、口を開いた。「〈門〉が開くことに、備えよ、ということだろう」

「門から、何が来るか分からない、と」

「そうだ。……そして、それは、管理局にとっても、望ましくない事態、ということになる」

「管理局が困ることって、何なんでしょうね」

「分からん。……だが、少なくとも、彼らが規定を曲げてでも警告する程度には、深刻な事態だ」

 ◇ ◇ ◇

「とりあえず、できることから、やりましょう」

おれの提案に、二人が頷いた。

「まず、ザガルさんに、この話を伝えます」

「私は、神殿の古い文献を、洗い直そう」銀さんが言った。「〈門〉に関する記述が、残っているかもしれん」

「私は、王国の記録を当たる」リーゼロッテさんが続けた。「歴代の勇者について、詳細な記録があるはずだ」

「歴代の勇者、ですか」

「ああ。……お前と同じ、門を通ってきた者たちだ。……何か、手がかりがあるかもしれん」

 ◇ ◇ ◇

その日から、おれたちは、それぞれの調査を、開始した。

おれは、魔王領へ向かい、ザガルに、白い空間での出来事を報告した。

「……管理局、か」

ザガルは、深く考え込んだ。

「我らの口伝にも、それらしき記述はない。……だが、辻褄は合う」

「合いますか」

「歴代の勇者が、なぜ、一定の周期で現れるのか。……我らも、長年、疑問に思っていた」

ザガルは、静かに続けた。

「送り込まれていたのなら、納得がいく」

 ◇ ◇ ◇

「ザガルさん、こっちの調査、進展ありました?」

「多少はな」

ザガルは、一枚の古い羊皮紙を、机に広げた。

「先祖の遺した記録の中に、〈門〉についての、より詳しい記述を見つけた」

「本当ですか!」

「読み上げよう。……『門は、大いなる魔素の奔流によって開かれる。開かれし時、内なるものと外なるものが、交わる』」

「内なるものと、外なるもの」

「解釈は難しい。……だが、少なくとも、一方通行ではないことは、確かなようだ」

 ◇ ◇ ◇

「あと、これも気になる」

ザガルは、羊皮紙の別の箇所を指差した。

「『門を開きしは、常に、人の欲なり』」

「人の欲」

「つまり、門は、自然に開くものではない。……誰かが、意図的に、あるいは欲に駆られて、開こうとした時に、開く」

おれは、思わず、息を呑んだ。

「じゃあ、この前、大聖堂で門が開きかけたのは」

「あの書記官が、〈大陸の鍵〉の力に呑まれかけた時だな。……力を求める欲が、引き金になった可能性は高い」

 ◇ ◇ ◇

「だとすると」

おれは、慎重に、考えを整理した。

「〈大陸の鍵〉が、共同管理下で安定してる限り、門は開かない、ってことですか」

「理屈の上では、そうなる。……だが」

ザガルの表情が、険しくなった。

「〈大陸の鍵〉は、この世界に、一つだけとは限らん」

「え」

「口伝には、こうもある。……『鍵は、複数ありき』と」

 ◇ ◇ ◇

逃亡生活百五十日目。

おれたちの前に、新たな謎が、姿を現していた。

複数の〈鍵〉。開かれる〈門〉。そして、それを見守る、管理局。

「先は、長そうですね」

「そのようだな」

ザガルは、静かに頷いた。

「だが、焦る必要はない。……今は、まだ、平和が続いている」

「そうですね」

おれは、窓の外を見た。

魔王領の畑では、今日も、魔族の人々が、作物の世話をしている。二百年ぶりに蘇った、豊かな大地。

守るべきものが、そこにあった。

――なお、このときのおれは知らなかった。

大陸の遥か南、まだ誰も足を踏み入れていない、深い森の奥で。

苔むした古代の遺跡が、静かに、眠り続けていたことを。

その最奥に安置された祭壇の上で。

〈大陸の鍵〉と、瓜二つの石が、微かに、脈打つように、輝いていた。

二つ目の鍵は、確かに、存在していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。