表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したら勇者だと言われたので逃亡します  作者: すみっこSE


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/51

おれ、氷姫と刃を交えて、村を守り抜く

 ◇ ◇ ◇

セレナの操る氷の槍が、鋭くおれへと突き込まれた。

「――っ!」

おれは紙一重でそれを躱した。地面が抉れるように凍りつく。

「ほう、避けたか。……勇者、その動き、悪くない」

「褒められても、嬉しくないですね」

おれは拳を構え、セレナへと距離を詰めた。だが、セレナは槍を巧みに操り、間合いを常に一定に保っている。

「サノ、一人で突っ込むな! 連携を意識しろ!」

リーゼロッテさんの声に、おれは頷いた。バルガスとの戦いで得た経験が、ここで活きる。

 ◇ ◇ ◇

「銀さん、左から!」

「分かっている!」

銀さんが細剣を構え、セレナの側面へと回り込む。おれは正面から注意を引きつけた。

「小癪な……!」

セレナが舌打ちしながら、氷の壁を周囲に展開した。おれたちの連携を分断しようとする狙いが見て取れた。

「くっ、視界が……!」

リーゼロッテさんの焦る声が聞こえる。おれは咄嗟に、氷の壁に拳を叩き込んだ。

「――ふっ!」

加減などしていられなかった。全力の一撃で、氷の壁が粉々に砕け散る。

「なっ……! 私の氷の壁を……!」

セレナの驚愕の声が響いた。

 ◇ ◇ ◇

「今だ、銀さん!」

「分かっている!」

視界が開けた、その隙を銀さんが見逃さなかった。細剣が、セレナの槍の柄を鋭く打ち払う。

「くっ……!」

セレナが体勢を崩した。そこへ、リーゼロッテさんが鋭く斬り込む。

「はぁあああっ!」

リーゼロッテさんの一撃が、セレナの鎧の肩口を掠めた。氷の破片が飛び散る。

「――ぬ、ぐぅっ!」

セレナが後方へと飛び退いた。三人がかりの連携が、確実に彼女を追い詰めていた。

 ◇ ◇ ◇

「……面白い。バルガスが退けられたのも頷ける」

セレナは荒い息をつきながらも、まだ戦意を失っていなかった。

「だが、まだ私の本当の力は見せていない」

セレナの周囲、空気が一気に冷え込んだ。

「これで終わりにしよう。……〈絶対零度〉」

セレナが槍を大きく振りかぶった。周囲一帯が瞬時に凍てつく冷気に包まれていく。

「サノ、危ない!」

銀さんの叫び声が響いた。おれは咄嗟にその場から飛び退こうとした。だが、足元が既に凍りつき始めていた。

「くっ……! 動けない……!」

 ◇ ◇ ◇

「――させるか!」

リーゼロッテさんが、おれの前に飛び出した。氷の一撃が彼女の剣に直撃する。

「リーゼロッテさん!」

「大丈夫だ……! この程度……!」

リーゼロッテさんは歯を食いしばりながら、氷の一撃を受け止めていた。だが、その体は少しずつ冷気に蝕まれていく。

「リーゼロッテ、耐えろ! すぐに行く!」

銀さんが鋭く叫んだ。おれはその声に、はっと我に返った。凍りついた足元を力ずくで砕き、セレナへと突進する。

「……なに?」

セレナが初めて、僅かに動きを止めた。三方から同時に迫るおれたちの気迫に、押されたのかもしれなかった。

おれは、その僅かな隙を見逃さなかった。

「――うおおおおおっ!」

おれの拳が、セレナの槍を真っ二つにへし折った。

 ◇ ◇ ◇

「な……! 私の槍が……!」

セレナが大きく後退した。だが、その顔には、これまでとは違う動揺の色が浮かんでいた。

「セレナ、あなた、さっき、なぜ止まったんですか」

おれの問いに、セレナはしばらく沈黙した。

「……お前たちの、絆というものを見た。仲間を庇う、その姿。我ら魔物には、ない、ものだ」

「魔物には、仲間、いないんですか」

「いる。だが、我らの繋がりは力による支配と従属だ。お前たちのような、対等な信頼ではない」

セレナの声には微かな羨望のようなものが滲んでいた。

 ◇ ◇ ◇

「今日のところは退く。……だが、忘れるな、勇者」

セレナは砕けた槍を拾い上げながら続けた。

「我らが主の真の力を見た時、お前たちのその絆とやらが、どれほど通用するか。見物だ」

セレナはそう言い残し、黒い霧に包まれ姿を消した。村を覆っていた氷も次第に溶け始めていく。

「……終わった、のか」

おれはその場にへたり込んだ。全身が重く、疲労が一気に押し寄せてくる。

「サノ、よくやった」

銀さんが駆け寄ってきて、おれの肩を支えてくれた。

「リーゼロッテさんは」

「私は大丈夫だ。少し冷えただけだ」

リーゼロッテさんはそう言いながらも、明らかに疲弊した様子だった。それでも、その顔には確かな達成感が浮かんでいた。

 ◇ ◇ ◇

村人たちは無事だった。凍りついた家屋や田畑は、これから修復が必要だろう。だが、命が失われることはなかった。

「勇者様、聖女様、騎士様……! 本当にありがとうございました!」

村長が涙ながらに頭を下げた。おれたちは、その言葉に静かに頷いた。

逃亡生活五十四日目、二人目の四天王との戦いを乗り越えて、おれたちの絆は、また一つ強くなった気がした。

――なお、このときのおれは知らなかった。

荒野の岩山、玉座に静かに腰掛ける、あの影の元へ。

バルガスと、セレナが揃って報告に訪れていたことを。

「……両名とも、退けられたか」

影の声は、これまでにない興味の色を帯びていた。

「面白い。本当に面白い。……ならば」

影がゆっくりと立ち上がった。

「次は、私が直々に出向くとしよう」

大陸の命運を賭けた、本当の対決の刻が静かに近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ