表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したら勇者だと言われたので逃亡します  作者: すみっこSE


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/36

おれ、逃亡者なりの答えを出して、一歩を踏み出す

 ◇ ◇ ◇

逃亡生活三十六日目。約束の一週間が経ち、エドヴァルドが、再び、ヴェルダンの町を訪れた。

「サノ殿、リリアーヌ様、リーゼロッテ殿。……お待たせいたしました。皆様の、ご返答を、伺いに参りました」

宿の一室、簡素なテーブルを挟んで、おれたちは、エドヴァルドと向かい合っていた。

この一週間、おれは、何度も、何度も、考えた。ミレとの旅を思い出し、ドーラばあちゃんの言葉を思い出し、マーサさんの生き方を思い出し、そして――この数週間を、共に過ごしてきた、銀さんとリーゼロッテさんの顔を、思い浮かべた。

出た答えは、ラノベの主人公のような、格好いいものでは、なかった。だが、それでも――これが、おれなりの、答えだった。

 ◇ ◇ ◇

「エドヴァルドさん」

おれは、まっすぐ、彼を見据えた。

「返事の前に、いくつか、条件を、聞いてもらえますか」

「条件、ですか」

「はい」

おれは、深呼吸をひとつして、続けた。

「一つ目。『魔王軍対策特別部隊』とやらに、おれは、無条件で従うつもりはありません。……戦うか戦わないか、危険な任務を受けるか受けないか、それは、その都度、おれ自身が、判断させてもらいます」

「……つまり、命令には従わない、と」

「命令、じゃなくて、相談してほしいんです。おれを、道具みたいに扱うんじゃなくて、一人の人間として、意思を、尊重してほしい。……それが、譲れない、一つ目の条件です」

エドヴァルドは、少し、驚いた顔をしたが、やがて、静かに頷いた。

「……二つ目は」

「二つ目。銀さんが――リリアーヌさんが、神殿に戻るにしても、王国が、彼女の意思を無視して、勝手に扱うことは、許しません。彼女も、おれと同じ、一人の人間です」

銀さんが、隣で、少し、驚いたように、こちらを見た。おれは、構わず、続けた。

「三つ目。もし、この先、おれが本当に、命の危険がある戦いを強いられそうになったら――その時は、また、逃げます。今度は、堂々と」

 ◇ ◇ ◇

部屋に、しばしの沈黙が落ちた。エドヴァルドは、しばらく、おれを見つめた後、ふっと、口元を緩めた。

「……面白い方だ、あなたは」

「怒らないんですか、そんな条件出して」

「怒る理由が、ありません。……むしろ、王国が、これまで、いかに『勇者』という存在を、都合よく扱ってきたか、痛感させられます」

エドヴァルドは、静かに、続けた。

「かつて、この大陸には、多くの『勇者』が、いました。……ですが、その多くが、望まぬ役目を背負わされ、心を病み、あるいは、命を落としてきた。……その反省が、王国に、正しく生かされてきたとは、言い難い」

「エドヴァルドさん……」

「サノ殿の条件、私の一存では、決められません。……ですが、王に、正式に、進言いたしましょう。あなたの意思を、尊重した形での、部隊編成を」

 ◇ ◇ ◇

「それで」エドヴァルドが、改めて、聞いた。「サノ殿。……その条件が、通るとして、あなたは、特別部隊への参加を、お受けになりますか」

おれは、隣に座る、銀さんと、リーゼロッテさんを、それぞれ、見た。

銀さんは、静かに、頷いた。リーゼロッテさんも、まっすぐ、おれを見つめている。

「……受けます」

おれは、はっきりと、答えた。

「ただし、あくまで、おれの意思で、です。魔王軍と戦うのが、正義だから、じゃない。……この一ヶ月で出会った人たちが、おれにとって、大事な存在になったから。その人たちのために、戦える時は、戦いたいと、思ったから」

「それは、勇者としての、責務とは」

「違います。あくまで、おれ個人の、選択です。……その違い、分かってもらえますか」

エドヴァルドは、しばらく、おれを見つめた後、深く、頭を下げた。

「……承知いたしました。その意思、しかと、王都へ、お伝えいたします」

 ◇ ◇ ◇

エドヴァルドが去った後、部屋には、おれたち三人だけが、残された。

「サノ」銀さんが、静かに、口を開いた。「あの条件、私のことまで、含めてくれるとは、思わなかった」

「当然でしょう。銀さんも、おれと同じ、逃げてきた身なんですから」

「……ありがとう」

銀さんは、珍しく、素直に、そう言った。

「それにしても」リーゼロッテさんが、呆れたような、でも、どこか嬉しそうな顔で言った。「王国の使者相手に、あそこまで、堂々と、条件を突きつけるとはな」

「堂々とするの、この一ヶ月で、だいぶ鍛えられましたから」

「腕相撲の成果、ちゃんと出ているようだな」

「その節は、お世話になりました」

三人で、顔を見合わせて、笑った。

 ◇ ◇ ◇

逃亡生活三十六日目、おれは、ついに、一つの答えを、出した。

それは、「勇者になる」という、単純な決断ではなかった。逃げ続けることを、完全にやめたわけでもない。

ただ――守りたいもののために、時に戦い、時に逃げる。その両方を、自分の意思で、選び取っていく。それが、おれなりの、答えだった。

「なあ、二人とも」

「なんだ」

「なんです」

「これから、よろしくお願いします。……逃亡者改め、なんちゃって勇者、サノとして」

「なんちゃって、とは、また」

銀さんが、苦笑した。

「上等だ。……その心意気、嫌いじゃない」

リーゼロッテさんも、そう言って、初めて、はっきりと、笑った。

逃げることから始まった物語は、ここに、一つの区切りを迎えた。だが、それは、終わりではなく――新しい旅の、始まりだった。

――なお、このときのおれは知らなかった。

王都に戻ったエドヴァルドが、王への謁見の間で、こう報告していたことを。

「勇者サノ殿、聖女リリアーヌ様、そして、隊長補佐リーゼロッテ・クロイツ。……三名による、『魔王軍対策特別部隊』、正式に、発足する運びとなりました」

「……して、勇者の様子は、どうであった」

玉座から、静かな声が、響いた。

「型破りな御方です、陛下。……ですが」

エドヴァルドは、微かに、笑みを浮かべた。

「型破りだからこそ、この国に、本当に必要な『勇者』なのやもしれません」

大陸の片隅、小さな逃亡劇から始まった物語は、こうして、新たな章の幕を、開けようとしていた。

そして、遥か北の地では――誰も知らぬところで、本物の魔王軍が、静かに、その牙を、研ぎ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ