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異世界転生したら勇者だと言われたので逃亡します  作者: すみっこSE


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21/22

おれ、三人旅の役割分担に苦戦して、黒鎖会の噂を集める

 ◇ ◇ ◇

逃亡生活二十三日目。西方への旅は、順調に――とは言い難いが、それなりに進んでいた。

「サノ、火起こしをしろ」

「銀さん、それ、あなたの仕事にしません? 練習になりますよ」

「私は今、聖遺物についての考察で頭がいっぱいだ。手が回らん」

「口は回ってますけどね」

三人旅の役割分担は、初日から早々に固まっていた。火起こしと荷運びはおれ、馬の世話と道の選定はリーゼロッテさん、そして――

「私は、方針を考える係だ」

「その方針、具体的に何か決まったことあります?」

「ある。ヴェルダンに着いたら、情報を集める」

「それ、当たり前すぎて方針って言えるんですか」

銀さんは、聞こえないふりをして、焚き火の前に堂々と座った。この人の「方針係」、実質「何もしない係」なのではという疑惑が、日に日に強まっていた。

 ◇ ◇ ◇

「サノ、お前は、その加減とやらの練習、進んでいるのか」

夕食の後、リーゼロッテさんが、ふと聞いてきた。

「まあ、それなりに。廃教会の乱闘のときは、我ながら頑張ったと思います」

「頑張った、にしては、賊が三人、壁にめり込んでいたが」

「あれは想定外の強さが出たというか」

「一人は、天井近くまで吹っ飛んでいたぞ」

「その節はご迷惑を」

リーゼロッテさんは、呆れた顔をしながらも、どこか面白そうにこちらを見ていた。

「王国の訓練兵にも、お前ほどの膂力を持つ者はいない。……本当に、素養測定を受けるまで、自分の力に気づかなかったのか」

「はい。前世……じゃなくて、田舎じゃ、普通の力だと思ってたので」

「今、前世と言いかけなかったか」

「言葉のあやです」

「銀さんもよく使ってましたね、その台詞」と、おれは付け加えた。

「言葉のあや、便利な言葉だ。使い回しているのがバレているとも知らず」銀さんが、したり顔で言った。

「あなたも同じくらい使ってますけどね」

 ◇ ◇ ◇

旅の道中、時折立ち寄る町や村で、おれたちは〈黒鎖会〉についての噂を集めた。

「あの、すみません。黒鎖会って、聞いたことあります?」

とある宿場町の食堂で、おれは店主に聞いてみた。

「黒鎖会? ……坊主、あんまりそういうのに首突っ込まない方がいいぞ。物騒な連中だ」

「物騒、ってどんな風に」

「借金取り立てから、盗品の裏売買、汚れ仕事なら何でも請け負う連中さ。西方のヴェルダンに、でかい元締めがいるって噂だ」

店主は、声を潜めて続けた。

「一度目をつけられたら、逃げ切るのは至難の業だとも言われてる。関わらないのが一番だよ」

「……ですよね」

おれは、苦笑いを浮かべながら、内心で頭を抱えた。逃げ切るのが至難の業な組織相手に、こちらから乗り込もうとしているのだから、皮肉なものだった。

 ◇ ◇ ◇

別の町では、リーゼロッテさんが、詰め所の知り合いから情報を仕入れてきた。

「黒鎖会、王国の記録にも、いくつか記載がある。……厄介なことに、組織の構成員の多くが、元傭兵や、元騎士崩れだそうだ」

「元騎士崩れ、ですか」

「訓練を受けた者が裏社会に流れる。よくある話だ。……剣の腕は、正規の騎士に劣らない者もいるという」

銀さんが、腕を組んで考え込んだ。

「聖遺物のような貴重な品を扱うなら、それ相応の護衛は置いているだろうな。単純な力押しでは、厳しいかもしれん」

「じゃあ、どうするんです」

「潜入して、情報を探るのが定石だろう」

「潜入って、簡単に言いますけど」

「サノ、お前の腕力があれば、多少の無茶は通せる」

「無茶振り、また来た」

三人での相談は、いつも通り、リーゼロッテさんの情報収集と、銀さんの大雑把な方針と、おれへの無茶振りで構成されていた。この役割分担、本当にこれでいいのか、日に日に不安が募る。

 ◇ ◇ ◇

ヴェルダンが近づくにつれ、街道を行き交う人々の雰囲気も、少しずつ変わっていった。商人よりも、傭兵や、訳ありげな旅人の姿が目立つようになる。

「なんか、治安、悪くなってきましたね」

「ヴェルダンは、表向きは商業都市だが、裏では黒鎖会の縄張りだという噂もある。……気を引き締めろ」

リーゼロッテさんの言葉に、おれと銀さんは、揃って頷いた。

夜営の焚き火を囲みながら、おれは、ふと三人の関係を振り返った。

数週間前まで、追う者と追われる者だった三人が、今は同じ焚き火を囲み、同じ目的地を目指している。奇妙な巡り合わせだが――不思議と、嫌な感じはしなかった。

「銀さん、リーゼロッテさん」

「なんだ」

「なんです」

「なんでもないです。ただ、なんか、変な組み合わせだなって、改めて思って」

「変とは失礼な」リーゼロッテさんが、むっとした顔をした。

「褒めてます、一応」

「一応、が余計だ」

銀さんが、その様子を見て、小さく笑った。

「まあ、変な組み合わせでも、悪くない道連れだ。……そうだろう、サノ」

「はい、まあ。悪くないです」

焚き火の炎が、三人の顔を、静かに照らしていた。逃亡生活二十三日目、ヴェルダンまでの距離は、あと僅かに迫っていた。

――なお、このときのおれは知らなかった。

ヴェルダンの街の一角、黒鎖会の拠点となる屋敷で、ある人物が、部下からの報告を受けていたことを。

「廃教会の一件、しくじった者たちが、ここまで逃げ戻ってきたか」

「はい。それと――妙な三人組が、こちらに向かっているという情報も」

「妙な三人組、とは」

「勇者と噂される黒髪の男、聖女リリアーヌ様、そして王国騎士の女、との情報です」

屋敷の主は、しばらく沈黙した後、低く笑った。

「……面白い。大陸の役者が、勝手に舞台に上がってくるとはな」

影は、静かに、次の一手を練り始めていた。

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