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月の仙人、異世界に降り立つ  作者: 名無しの戦士


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第27話 魔法について 前半

 自らを最高峰の魔法研究者だと豪語するだけあって、ドミニクスの教えは驚くほど理に適っていた。元より利発で何事も飲み込みが早いフランソワは、魔力に寵愛された才を存分に発揮。スポンジが濁流を飲み込むかの如く、知識と技術を吸収していった。


「そこっ!右手の操作がブレてるわよ。5番の鉄球が低い、魔力をただ『流さ』ない、意志で押し通すの!」


 ドミニクス専用に設えられた別棟の研究室。部屋の中心に鎮座する椅子に腰掛けたフランソワの周りをふわふわと宙に浮かぶ5個の鉄球。

 

 鉄球自体は街の鍛冶屋で調達した、一見すれば何の変哲もない代物。1から5までの番号を刻まれた球を寸分の狂いもなく一定の高度で維持し続ける練習。それが一ヶ月間繰り返してきた基礎の授業内容。


 最初は体内に宿る魔力と仙気が反発しあってまともに浮かせることすらできなかった。


 仙気について独自に研究を進めていたドミニクスは、魔力は『火種』、仙気を『燃料』と定義した。後者のみ体内に宿した我には現象を起こす『火種』がはなから存在しないため、完璧に制御できる。

 

 対して両方を所持したフランソワは相性が良すぎて、制御を誤れば一瞬で暴走する厄介な力になっていた。


「すぅぅ…っ」


 呼吸で冷静さを保ちつつ細い指先を虚空へと突き出す。フランソワの額を汗が伝い、顎の先から床へと落ちる。五番の鉄球が重力に抗うように跳ね上がり、他の四球と完璧に水平な軌道を描いた。


 繊細なガラス細工を巨大な万力で形作るような、極限の精神作業が要求される技術。一瞬でも出力を跳ね上げる仙気の制御が漏れれば、鉄球は砲弾へと姿を変じ、建物を容易く貫通するだろう。


「6…7…8…9……10!はい、そこまで。魔力を抜きなさい。合格よ、ソワ」


 ドミニクスの合図に緊張から解放されたフランソワは魔力と仙気の供給を止めた。重力に従う5個の鉄球が床の絨毯へと鈍い音を立てて沈み込む。


「ほんの一ヶ月でこれだけの高密度な出力を維持できるなんて凄いわ。貴女をこのまま自国に連れて帰って後継者に任命できないのが、生涯で一番の心残りになりそうだわ。貴女になら、私の生涯を費やして積み上げた研鑽を全てを譲り渡してもいいとさえ思っているわ」


「姫様、お水とハンカチにございます、見事な御業でした。このアキト、主の不屈の執念に心の底から感服いたしました」


「はぁ…はぁ。ふ、二人ともありがとう。わたくしに掛かればこの程度、朝飯前よ」


 その場に膝をつき、懐から清潔なハンカチを取り出して彼女の白皙の頬を伝う汗を吸い取るようにそっと拭う。


 我の手から差し出されたコップを奪い取るようにして、ぐいっと中身を飲み干す。この時、「飲み水を冷やしすぎないのが肝。訓練後の繊細な内臓を、急激な冷気で驚かせぬよう、人肌よりわずかに低い程度の適温を常に心掛けている。



 15分間の休憩が終われば、次は座学の授業だ。我らは『魔導士の書斎』へと場所を移す。重厚なアンティークの椅子に深く腰を下ろし、黒板の脇に待ち構えたドミニクスの講義を聞く。


「体力もそこそこ回復したようですし、昨日の続きから始めるわ。ソワは当然として、魔法が使えないアキトもしっかりノートに書き留めなさい。魔法対策には魔法を知るのが肝心よ」


「わたくしの記憶力を舐めないで先生。一言一句、覚えるわ」


「某も同意です」


「頼もしい返答ね。じゃあ、小手調べにクイズといきましょうか」


 不敵に微笑んだドミニクスは、上品な姿勢で万年筆を握るフランソワに視線を向けた。


「相手の魔法使いが『レベル1の火魔法』を放ってきたとするわ。貴女なら、何属性の魔法でそれを打ち負かすかしら?」


 基本中の基本な初歩的な問いに、フランソワは拍子抜けしたように万年筆を動かして答える。


「決まってるじゃない。反対属性の水をぶつければ一瞬で消えるわ。常識よ」


「正解よ」


 意地悪く口角を上げた魔法の講師はチョークで黒板を叩いた。続けて問題を投げかける。


「じゃあ水属性以外で、火の攻撃を制する属性を全て答えなさい」


 黒板に描かれた属性の相関図をなぞるように視線を流したフランソワの口が開く。


「物理で勝つ『土魔法』、空へ飛ばす『風属性』…最後に同じ『火属性』」


「あらゆる魔法を浄化する光属性と、全てを吸収する闇属性も同様の結果ね」


 「じゃあ、二問目ね」と、ドミニクスは続けた。


「レベル2の火魔法を打ち負かすレベル1の属性はどれかしら?」


 謎解きに近しい問いに可愛く顎に指を当てて、考えに耽ったフランソワはやがて顔を上げた。


「威力差を考慮しても…やはり『水属性』かしら?」


 考えを巡らせた返答に教師役のドミニクスは腕をクロスに交差させた。…外れだったらしい。


「ブブー!ざんねーん不正解。正解は『存在しない』でした。残念だったわね、ソワ」


「……屁理屈ではなくて?」


 不満げのフランソワへ意地悪な子供のように片目をとじて舌を少しだけ覗かせると、黒板に描かれた『火』の文字をチョークで力強く二重線で囲った。


「よく聞いて、これは魔法学における絶対的な階位の壁よ。火を消すには原則、同格かそれ以下の出力である場合のみ。レベル2の火が放つ熱量は、レベル1の水の質量を遥かに上回るわ。ぶつけた瞬間に水は蒸発、火勢を削ぐことすらできずに焼き尽くされるわ。これが魔力密度の差、言い換えれば『格』の違いよ」


 そう締め括るのであった。

四月の引っ越しで投稿頻度が下がるかもしれません。

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