その88
別れの時
項垂れる係官は置いといて、
他の者はてきぱきと帰り支度を進める
最後の確認を終え、村を出る前に
手土産を渡す。
中身を説明すれば1人を除き、
皆喜んでくれた。
出口にて係官の見送れば、
今まで自制してたのか、
今回持ってきたあれは何だと、
急におばちゃんが沸きだした。
わかったわかったと気押されながらも
教会前にたどり着く。
前回、畑作業を鑑みるに
水やりが特にハードに思えた。
1人が水甕を背負い、もう1人が
柄杓で掬って作物に掛ける。
これじゃ能率が悪いと思い、
「あれば便利」と用意した物だ。
蛇口付きのタンクとジョウロ。
初見ながらおばちゃんには
ピンと来たらしい。流石だ。
実際にやって見せる。
ガーディアンにお願いし、
川に水を汲んで貰い、タンクに注ぐ。
上部にはフィルターがあり、
小石等、つまりを防いでくれる。
後は蛇口からジョウロに給水。
ジャー。ジャー。ジャー。
小学生でも水やり出来るから
やや拍子抜けかと思ったが、
おばちゃんは大興奮していた。
「これはいい、いいのう、
若いもんに水さえ汲んで貰えば
わしらでも水やりが出来る。
それに柄杓では難しかった、
狙った処に掛けられる。
ハハ、これがあれば今までの苦労は
もういらん。
ヤスオよ、これをもっと寄越せ。
もっと持ってくるんじゃ。 」
喜んでもらえたのは幸いだが、
半狂乱のおばちゃんに詰め寄られれば
逃げだしたくもあった。
「わかった、わかったから落ち着け。
その一つは別として、数を揃えば
金がかかるが、払いはどうする?」
ジョウロを我が子のように抱える
おばちゃんだったが、ごそごそと
懐から金貨を出す。
「この金貨は姫様がココを去る時、
餞別にくれたものじゃ。
いざという時が今までこんかったが
次の村長になるんじゃ、
今が使い時じゃろ。
釣りが出るなら、貰っとけ。
これはそれ程のもんじゃからの 」
ジョウロを持ち、早速といった感じで
畑に向かっていった。
まるでオモチャだな。
試したくて仕方がないのだろう。
暖かく見守っていると、村の入口に
新たな人が来たと知らせが飛ぶ。
駆け付けれると、集落の人が
石塔にあった村への書簡を
届けてくれたらしい。
どうやらスール氏の一件が片付いたか
セムジュに読んで貰うとしよう。
隣町へと急ぐ馬車。
係官達一行だ。
土産にと貰った食べ物をガリゴリと
噛み砕く係官。
色々な味を体感して、
気付けば中身はカラになっていたが、
漸く土産にも考えが及ぶ。
「ふむ、小さく硬い土産だったが
味は悪くない。
あの村にしてはいい物であったか」
そう感心しつつも、鼻にはあの土産の
香りが漂ってくる。
元をたどると御者からだ。
それが暫く続けば羨ましくもある。
「商人から随分土産を貰ったのか?
あるなら少し譲ってくれまいか 」
御者は驚くも、土産は皆同じ量でした
と返す。
「これでどうだ」と銀端1枚を出すが
御者は譲らない。
仕方なく諦めれば、今度は違う香りが
鼻につく。
「正直に言ってみろ。金を渡して
多く貰ったんだろ。
でなければそんなに続く訳がない」
御者はため息をしつつも
「旦那は商人の説明、聞いてなかった
でしょう?
これは飴というらしく、噛まずに
口中で転がして食べる物でさぁ。
砂糖を使った物らしく、あっしは
銀貨でも譲りませんぜ 」
その一言に、噛み砕いて食べていた
自分を後悔する。 が
「そういえば旦那、今回であの村から
解放されるんでしたね。
おめでとうございやす。
あっしは次の方を乗せる時、
また頂けないか期待してますんで」
ああ、本当の後悔はこれからだと
頭を垂れるのであった。




