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温泉卓ゲ部の奇妙な日常  作者: 宵宮祀花
SYSTEMⅠ◆デバッガー最終試験
20/23

決意

 フレイが張った防護壁の内側で、三人の少女は一先ず息を吐いた。


「コロンビーナ、大丈夫?」

「はい……これくらいなら、ログアウトすれば……」


 電脳世界で完全分解したものは戻らないが、一部であれば本人次第ながら元に戻ることがある。この世界では『気の持ちよう』が物をいう。もしもコロンビーナが心から絶望して「二度と自分の脚は戻らないし、歩くことも出来ない」と信じ切ってしまったら、それは真実となる。だが手足の喪失を目の当たりにしても希望を捨てなければ、現実世界で元通り生活することが出来る。

 上位のDiverは下半身が吹き飛んでもその場で再構築し、任務を続行する者もいるという。


「でも、彼をどうにかしないことには動けそうにありません……すみません……」

「そうだよね……さすがにぼくらはまだ部位破損の再構築までは出来ないや」


 現在はフレイが張った防護壁の中にいるため安全だが、いつまでもこうしてはいられない。

 どうやら此方からも彼の姿は見えないが、彼からも此方を認識出来ていないようで、先ほどから暴れ狂いながら「何処へ逃げやがった!」と喚き散らしている。


「……そうか。そういうことだったんだね」


 不意に、フレイがぽつりと呟いた。


「サマエルから情報が入った。どうやら彼は、人を金で雇って、精神鑑定と意識調査を代行させたみたいだね」

「えっ……」

「そんなことって出来るの? だって筆記関連は全部、専用の会場で集まってやるよね?」


 三人の少女の声が重なり、カラヴィンカの素朴な疑問が投げかけられる。

 フレイは申し訳なさそうな顔で、静かに続けた。


「……恥ずかしながら、彼がいた会場の試験官も、買収されていたそうだよ」

「なるほどね」


 カラヴィンカは納得したといった表情で頷いた。

 彼のあの精神性で試験をパスしているよりは、何らかの裏口を使ったと言われたほうが納得感があるのは、ルーナも、そしてコロンビーナも同感だった。


「候補生の君たちに任せるのは申し訳ないのだけれど、彼の対処を頼めるかな」

「えっ、わたしたちですか?」


 驚くルーナの横で、カラヴィンカは力強く頷いた。


「やろうよ、ルーナ。下らない妄想で候補生たちを壊して好き勝手やってるクソ馬鹿自己中野郎を合法的にぶっ飛ばすチャンスだよ?」


 カラヴィンカのひどい物言いにフレイは苦笑し、コロンビーナは思わず笑ってから顔を背けた。笑ってしまったことを隠そうとしているが、肩が小刻みに震えている。

 言い方はともかくとして、彼のしたことが許されないことであるのは事実。そしていまこの場で動けるのが自分たちしかいないことも、わかっていた。


「……うん、わかった。やろう。実はわたしもちょっと……ううん、結構怒ってるし」

「そうこなくっちゃ!」


 打って出ることが決まると、コロンビーナは女道化師の格好をした藁人形を作成して、ルーナに手渡した。


「これは……?」

「私のスキル《スケアクロウ》です。一度だけ攻撃を代わってくれるものです。でも、いまの私の状態では一体が限界で……すみません」

「そんな、謝らないで。凄く心強いよ。ありがとう」


 ルーナはコロンビーナにお礼を言うと、人形をカラヴィンカに渡した。

 まさか自分に回ってくると思わなかったカラヴィンカは、驚いて二度見した。


「ぼくでいいの?」

「カラヴィンカは相手を翻弄して交わしながら戦うでしょう? さっきも庇ってもらったし、また似たようなことになったら危険なのはカラヴィンカのほうだから」

「わかった。じゃあ、ぼくがしっかり守るからね」


 ルーナとカラヴィンカが頷き合うと、フレイが防護壁のコードを書き換え始めた。


「此方から出られるようにコードを書き換えたよ。但し、一度出たら彼をどうにかしないことには戻ることは出来ない。僕もコロンビーナを守らなきゃいけないから、あとは君たち次第だ」

「わかったよ。覚悟は出来てる。だよね?」

「うん」


 二人で前を見据え、小さく深呼吸をする。


「――――3、2、1! 《アンヘルグロリア》!」


 飛び出すのと同時に、カラヴィンカが翼を生成。飛び上がって風を纏い、ルーナの前に立った。

 当然ロノウェの姿も目撃することになるのだが、ルーナもカラヴィンカも、彼のあまりの異質な姿に言葉を失った。

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