異変
やがてカラヴィンカの番が来て、パートナーであるルーナも自動的に出番となった。
「がんばろうね、ルーナ」
「うん」
ステージに上がると、龍と見紛う巨大な蛇が立ちはだかった。コブラの頸部に似た皮膜を広げ、鎌首を擡げながら威嚇している。鋭い牙もだが、尾先にも棘がある。どちらが飛んできても相当のダメージを負うことは必至。
「ぼくから行くよ! 《アンヘルグロリア》!」
宣言と共に、カラヴィンカの背に白い翼が生えた。
やはり、彼女の構築能力は群を抜いている。候補生の段階で自分から大きく外れた姿をあれほど正確に想像維持出来るなど。ルーナは確かに最速だったが、それは本人が言う通りリアルの容姿を忠実に再現しているからだ。そしてその姿も限りなくシンプルにし、工数を減らしているがゆえ。
スキル名が示す通り天使のような姿になったカラヴィンカは、続けて宣言する。
「《ミレニアソング》《ウィンドブレード》!」
カラヴィンカが翼を大きくはためかせたかと思うと、大蛇に向かって鋭い風が甲高い音を伴って飛んで行った。視覚化出来るほどの風の刃は、大蛇を切り裂く度に悲鳴のような音を放つ。
『ギィィィイイイイ!!』
攻撃を受けた大蛇がのたうち回りながら太い尾を振り回した。ステージを破壊し、勢いのままに振り上げた尾が横薙ぎにルーナを襲う。
「うわ!?」
「危ないっ!」
すんでのところでカラヴィンカがルーナ諸共倒れ込み、直撃は免れることが出来た。が、大蛇は代わらずルーナたちを叩き潰そうと暴れ狂っている。尾で薙ぎ払い、頭を突き出して噛みつこうとする。尾先にある棘を突き刺し、また薙ぎ払う。
カラヴィンカは難なく交わしているが、ルーナは尾の薙ぎ払いを一度まともに食らってしまい、危うく場外まで飛ばされるところだった。ルールに場外アウトはないとはいえ、吹き飛ばされれば復帰に時間が掛かってしまう。そうなればカラヴィンカに迷惑をかけるばかりか、彼女まで危険な目に遭わせてしまうことになる。
「面倒臭いなあ、もう! ルーナ、ぼくが動きを止めるからその隙にぶっ飛ばしてくれる?」
「う、うん……!」
カラヴィンカが先制し、敵の攻撃からも守ってもらった。これでは、彼女一人で戦っているのとなにも変わらないと気を引き締め、ルーナは半歩引いた左足に力を込めて大蛇を睨んだ。
「こっちだよ、のろま! 《バインドフレア》!」
ルーナが跳び上がり、大蛇の目の前を横切って気を引きながら熱風の渦を浴びせかけた。空気の圧に閉じ込められた大蛇の動きが鈍り、辺り構わず振り回していた尾が地に落ちた。
「いまだ! 《雷霆脚》《紫電一閃》!」
力を込めていた左足を踏み込み、思い切り振り抜く。
霹靂が目の前で落ちたかのような轟音が響いて閃光が走ったかと思うと、爆発音を立てて大蛇の体が四散した。
「ぁ……勝っ……た?」
「……うん、終わったみたい……」
大蛇がいたところに、メダルが二枚落ちている。
深く息を吐き、ルーナはカラヴィンカと顔を見合わせて微笑むと、飛びつくように抱き合った。手も足も出ない――出すことが出来ない脅威だったものが、いまこのとき僅かなりとも対処可能な脅威へと近付いたのだ。
「お疲れさま。二人とも合格だよ」
「ありがとうございます」
フレイから渡されたメダルをそれぞれ握り締め、お辞儀をする。二人がステージから降りると、次にコロンビーナが呼ばれた。
彼女も危なげなく試験をクリアし、それからも数名の脱落者を出しながら試験が進んで行く。
「ロノウェ」
そして、最後に件の男子候補生の順番が来た。
ロノウェはステージに上がり、中央まで進むと腰に片手を当てて立った。
フレイによる試験開始の合図が出され、異影がステージに出現する。ロノウェは戦闘態勢を取ることなく異影を見上げたかと思うと、右手に半透明の球体を生成した。薄水色の球体に白い文字が這い回るデザインのそれは、ルーナを初めとして候補生たちも見たことがないものだ。
他の候補生が不思議そうに見守る中、フレイが目を見開いた。
「皆、すぐログアウトするんだ!」
フレイが叫ぶのと同時に、ロノウェは手の中の球体を握り潰す。
瞬間、球体の表面を這い回っていた無数の文字が解き放たれ、ステージの外へと溢れ出した。
「ヒッ……ぎ、あが!?……があああぁぁ!!?」
真っ先に触れた候補生が、文字に表面を蝕まれたかと思うとガクガクと痙攣し、破壊した異影がそうなるように、断片化の果てに崩壊した。
異常事態を目撃した候補生たちが、我先にと逃げ出してログインポイントへと駆け出していく。しかし、それより先に宙を這う白い文字列が候補生たちを絡め取り、次々に破壊していった。扉に間に合ったのは足の速い男子二人だけ。それ以外は全員謎の文字列に喰われる形で消失した。
場に残ったのは、偶然フレイの傍にいたルーナとカラヴィンカ。そして逃げようとした候補生に突き飛ばされてフレイの背後に飛び込んだコロンビーナのみ。だがコロンビーナは、太腿から下が間に合わず、切り落とされたかのように消えてしまっていた。




