異質
ズカズカと近寄ってきた男子候補生は、ルーナを睨みながら指をさした。
「お前ら随分早かったようだが、どうせ八百長したんだろ。試験官に枕でもしたのか? 試験官が男だと色目使うだけで点数稼げるからいいよな。女ってだけで楽勝じゃないか」
「え……?」
突然身に覚えのない言いがかりをつけられ、ルーナは困惑して相手を見つめた。男子候補生は、ルーナが通っているところとは別の専門学校の制服を着た青年のアバターで、真面目そうな見目に反して目元だけが異様に暗く鋭い。
「いきなりなに? 君とは話してないんだから、割り込んでこないでよ」
「ふん。反論しないってことは図星なんだな。腐れま○このビッチが」
「馬鹿を相手にするほど暇じゃないって言ってんの。行こ、ルーナ」
「論破されたからってキレんなよ。これだから女は」
終始話が通じない相手にいい加減嫌気が差したカラヴィンカが、ルーナの手を引いて歩き出す。男子候補生は立ち去る背に未だ何事か呟いていたが、聞かないようにして距離を取った。
「あれが意識調査と精神鑑定抜けてるって嘘でしょ? 信じらんない」
「うん……」
楔になるには、筆記試験と意識調査、そして精神鑑定をクリアしなければならない。当然ながらどれか一つでも欠点があれば実技試験に挑むことは出来ず、点数如何によっては向こう数年試験を受けることすら出来なくなることもある。
先ほど絡んできた男子候補生もそれらの試験をパスしてきたはずだが、どうも様子がおかしい。嫉妬に駆られて嫌な考えに囚われたり、あらぬことを言う程度なら誰にでもある。
しかし彼の場合、妄執といってもいいほど話にならなかった。
「あの……大丈夫でしたか? 災難でしたね……」
不機嫌なカラヴィンカをルーナが宥めていると、横から声がした。
声の主は二つの三つ編みを肩に乗せ、大きな眼鏡をかけたセーラー服姿の少女だった。一昔前の少女漫画にでもいそうな、優等生やら委員長やらの記号をそのまま形にしたような姿をしている。
濃紺色のセーラーは長袖で、スカートは脹脛まであり、ソックスはワンポイントすらない純白。足元は良く磨かれたローファーと、シンプルながらも洗練されたアバターだ。
「君は?」
「私はコロンビーナといいます。実は彼、ついさっきまで私に絡んでたんです。離れて行ったから安心したのに、他の人に絡みに行ってたなんて……」
「え、マジで? なんて?」
「女が男の世界に割り込んでくるな……とか」
「なにそれ、意味わかんない」
ルーナもほぼカラヴィンカと同意見だった。
楔は男女問わず資格が取れるものであり、年齢制限こそあれど性別に制限はなかったはずだ。
コロンビーナはログインポイントを出るなり詰め寄られ、女はこんなところに来るなと言われた挙げ句、出て行けと言いながら壁に突き飛ばされたという。
その出来事を近くで目撃した候補生たちが、彼女の言い分を肯定するように頷いた。うち二人の男子が声を潜めて、遠くで一人爪を噛んでいる件の男子候補生を見ながら囁く。
「アイツと俺、クラスは別だけど同じ専門でさ……聞いた話、自分より成績が良かった女子生徒をいびり倒して退学させたとか」
「なんでか知らないけど、女子にばかり絡むんだよ。しかも自分より成績がいいとかなにかしらで上に立たれたと思ったら攻撃しないと気が済まないみたいで」
「裏じゃミソジニーカス野郎略してミソカスとか言われてたな」
ルーナは最早言葉もない様子で、カラヴィンカの「うわあ」という短い感嘆の声に、全てが集約されていた。
「おや、皆速いね。お待たせ」
其処へ、Dive前にも聞いたやわらかな声がホールに響いた。
円形ステージ中央に、童話の王子様をそのままアバター化したような姿の美青年が立っている。流れるような金髪、翡翠の瞳に、白い衣装。金の肩章や胸に輝く勲章、腰に下げたサーベルなど、全てに細かい装飾が刻まれていて、どれを取っても高コストだ。




