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温泉卓ゲ部の奇妙な日常  作者: 宵宮祀花
STORYⅠ◆沼への入口
11/23

初めての分身

「心技体知が終わったら五感も決めるんだけど、そっちは六点のフリーポイントをさっきみたいに振り分けていくんだ。但し、初期作成では最大二点までしか振れないから、極振りは出来ないよ」

「五感ってことは、この《異》は零でいいんですか?」

「ええ、その通りです。ノイズ関連は、誰も最初は見習いとなりますので」


 風月は視覚、聴覚、嗅覚、触覚、感覚のうち、視覚に二点を振り分けた。


「あの……属性は振らなくてもいいんですか?」

「うん。属性は五感に対応してるから、慣れない内は対応表を見るといいよ」

「あ、本当だ。ありがとうございます」


 五属性は視覚が炎、聴覚が風、嗅覚が木、触覚が土、感覚が水に対応している。珍しいことに、五感のうちの一つが味覚から感覚に置き換わっており、直感や第六感が存在する代わりに消された味覚は嗅覚と一つに纏められているようだ。


「五感に第六感が入ってるのは面白いですね。でも、味覚と嗅覚が一緒なのは何故でしょう?」

「何となくだけど、鼻が利かなくなると味もしなくなるからってことだと思ってるよ」

「なるほど……」


 技能を全て振り終え、風月は改めて数字の間違いがないかを見直しながら自分のキャラクターがどんな人物かを思い浮かべてみた。

 心技体のうち技が一番強く、頭を使うことが少し苦手。演技や共感などイメージしやすいものに振り分け、恫喝や虚言や格闘など、普段でもあまりしないようなことには振らずにおいた。事前に羽月から、最初は自分に近いタイプを作ると遊びやすいと言われていたためだ。


「スキルは戦闘を意識して取ることをお勧めするよ」

「継続して使うことになるかも知れませんし、調査スキルも無駄にはならないと思いますが、まあ今回はほどほどがいいでしょうね」

「わかりました」


 次いでDiver専用スキルを五つ選択する。これが西洋風のRPGでいうところの魔法などに当たるもので、電脳世界専用と現実世界で使えるものがある。

 戦闘スキルは五属性を持っていて、一般スキルは五感に分類されている。


「風月、大丈夫? 選べそう?」

「うん。迷ったけどこの五つにしたよ」


 風月が選んだのは一般スキルの《鷹の目》、専用スキルの《クイックダイブ》と《イマジナリーフレンド》、戦闘スキルの《雷霆脚》と《紫電一閃》だ。

 鷹の目は、電脳世界でも現実世界でも周囲を俯瞰視点で見ることが出来るスキル。地図を見れば立体画像でイメージ出来る能力でもある。

 クイックダイブは、電脳世界に潜る際、自己再構築ログイン精度と速度を上げるスキル。

 イマジナリーフレンドは、電脳世界にログインすると自動的にサポートペットAIがついてくるスキル。このイマジナリーフレンドを現実世界で持ち歩くには、別のスキルが必要になる。

 雷霆脚は、分解コードを纏った脚で異影を蹴りつけるスキル。命中時に雷鳴に似た鋭い音がすることから名付けられた。

 紫電一閃は素早く切り込むスキルで、攻撃スキルと組み合わせて威力を底上げするものだ。

 最後に体力であるヒットポイントと、技能を使うときに使用するスキルポイント、ノイズ関連の諸々で消費するエラーポイントを計算し、キャラクターの名前であるコードをつけて完成となる。名付けが苦手な人のためにランダム命名表もあり、風月は其処から選んだ。


「出来ました」

「それじゃあ、確認するから見せてくれる?」

「はい。お願いします」


 キャラクターシートを手渡し、千景のチェックを待つ。そのあいだ風月は何とも言えない高揚と緊張を覚え、思わず背筋を伸ばし正座で待機してしまった。


「……うん、問題なさそうだ。おめでとう。風月ちゃん初めての分身が出来たね」


 目を通し終えた千景が、スッとキャラクターシートを風月に返しながら微笑む。一気に緊張から解かれ、風月は肩の力を抜いて安堵の息を吐いた。


「細かい設定なんかは遊んでいるうちに生えてくるから、思いつかなかったらふわっとでいいよ。大まかな見た目と身長くらいはわかってたほうがやりやすいとは思うけど」

「そういうものですか?」


 演劇では最初にどういう人物でどういう思考をして、と全て決まっていて、それに沿った演技が求められるものだが、TRPGでは違うという。ある程度の骨組みさえ出来ていれば、ゲーム中にキャラクターが勝手に動いて自己を確立していく。

 不思議なことに、プレイヤー自体にダイスの性格が表れるが、別のキャラクターを使うと出目がそのキャラクターを表現しようとすることもあるのだとか。


「風月ちゃんのダイスはどんな子なのか、楽しみだね」

「はいっ」

「お、完成したか」


 風月のキャラクターが出来上がると、見守っていた三人もそれぞれ自分のシートを持って座卓に集まってきた。


「お待たせしてすみません」

「いいえ。この時間が楽しいんですから、いいんですよ」


 座卓の縁をキャラクターシートが取り囲み、中央にダイストレーが置かれる。


「今日の指揮官マスターは誰だっけ?」

「僕ですよ」

「げっ、マジか」


 広縁の近くに座った静の前に、プラスチックで出来た塔の模型のようなものが置かれた。更に、模型を取り囲む形で三つ折りの厚紙が立てて置かれる。ファミリーレストランのメニューにも似たそれには、CODE:eの世界観説明や扉絵などが描かれている。


「おや、僕では不服ですか?」

「そういうわけじゃねえけどよぉ……初心者卓だろ? 大丈夫なのかよ」

「ええと……静くん、お手柔らかにね」

「出目ばかりはどうしようもありませんが……まあ、善処しますよ」


 彼らの言葉の意味がわからない風月は首を傾げるばかりだが、メンバーのあいだにえも言われぬ緊張感が走ったことは確かで。その理由は、ゲームが始まってわりとすぐに、実感で以て理解することとなるのだった。

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