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フィギュアとマスコットがつなぐ二つの世界 ~S級冒険者、日本へ逆転生~  作者: わんこいん


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第2話 呉家の財宝

「い、今のは……」


そう言うと、女性は飛び込むように敬斗へ近づき、袖を握った。


「な、なんですか!」


顔の近くで響く大声に、思った以上のダメージを負う敬斗。


「落ち着きなさい! さくら」


老人の強めの声が響く。

その声に、『さくら』と呼ばれた女性は我に返る。


「あ、ごめんなさい」


そう言うと手を離し、うつむきながら一歩下がった。


「説明してもらえませんか?」


老人が穏やかに尋ねる。

その問いに敬斗は頷いた。


「これは『魔法』です」


「「魔法?」」


二人の声が重なった。


「ええ。魔力を使って現象を起こす能力です」


恐る恐るといった様子で、さくらが尋ねる。


「それって映画や漫画で見る、あの魔法ですか?」


敬斗は黙って頷いた。

さくらは目を見開き、口元に手を当てる。


「理由を伺っても?」


老人の問いに、敬斗は首を振った。


「石の使用が確約できないのであれば、話すことはできません」


「なるほど……」


老人は敬斗の答えに腕を組み、考え込んだ。

しばらくそのまま考えていたが、やがて腕を解いて敬斗を見る。


「わかりました。交渉に必要になれば開示してもらいますが、それでいいですか?」


敬斗は大きく頷いた。


◇


「これは……」


敬斗の目の前には、黒で統一された大きな門があった。

その両側から長い塀が続いている。


三人は、さくらの運転する車で本家の門前まで来ていた。


「誰かと思ったら、さくらちゃんか」


「源蔵さん、久しぶり。『大ばあば』に会いに来たんだけど」


運転席の窓から、さくらが門番らしき人物と話す。

敬斗は助手席から屋敷の全景を眺めていた。


(これは歴史があるとかってレベルじゃないな)


『長らく続く由緒ある屋敷』


そう表現するのがしっくりくるような屋敷だった。


「大奥様は、今は会える状態じゃないんだよ。もう……」


さくらの表情から笑みが消えた。


「源蔵さん」


後ろの席から老人が源蔵に話しかける。


「幸雄さん……か」


「大奥様の状態は、そんなに悪いのかい?」


源蔵はゆっくりと頷いた。


「急がないと……」


幸雄と呼ばれた老人は、小さく呟く。


「なんとか会えるようにできないか」


「無理だと思うぞ」


源蔵は肩をすくめた。


「それなら、伝言をお願いしてもいいかい?」


「まあ、それくらいなら……」


「ならば、こう伝えてくれ」


幸雄は一度言葉を切った。


「――『待ち人現る』」


その言葉を聞いた源蔵は、一瞬目を見開いた。


「わ、わ、わかった」


そう言い残し、慌てるように奥へ引っ込んでいった。


◇


迷路のような廊下を、さくらがスタスタと歩いていく。

その後ろを敬斗と幸雄がついていく。

やがて奥まった部屋の障子の前で立ち止まり、さくらが声をかけた。


「大ばあば、さくらです」


「……入りなさい」


障子の奥から、消え入りそうな声が聞こえた。

その声を合図に、さくらが障子を開ける。


部屋には品の良い調度品が並び、落ち着いた雰囲気が漂っていた。

その中央には布団が敷かれ、老婆が横たわっている。


「大ばあば、どうして知らせてくれなかったの?」


さくらは老婆のすぐ横まで行き、顔を覗き込んだ。


「もう十分生きた。呉家もワシで終わりでええ」

「それに、下手に騒ぐと門前がうるさいじゃろ?」


そう言うと、老婆は力なく笑った。


「また佐久間なの?」


さくらは露骨に顔をしかめる。

老婆はさくらから視線を外し、幸雄を見た。


「幸雄か。久しいの」


「ご無沙汰しています。大奥様」


幸雄は深々と頭を下げた。


「して、その方がそうか?」


そう言って、老婆は敬斗へ視線を移す。

敬斗は幸雄に促され、布団の近くまで進んだ。


「あなたは、あの石のことをどこまで知っている?」


近寄った敬斗に、老婆が尋ねる。


「私はあの石を『魔石』と呼んでいます」


その言葉を聞いた老婆は、これでもかと目を見開き、絶句した。


その瞬間――


「ゴホゴホゴホ!」


老婆が苦しそうに咳き込み始めた。

さくらや近くにいた介助の者たちが慌てる。

老婆は片手を上げ、それを制した。


「慌てるでない」


そして敬斗を見て問う。


「見せてはくれぬだろうか」


敬斗は大きく頷いた。

老婆はそれを見て満足そうに頷くと、


「あれを持てい」


と声をかけた。

奥から、豪華な漆塗りの箱を持った女性が近づいてくる。

老婆へ渡そうとするが、一瞬戸惑った。


「私が預かります」


そう言って、幸雄が立ち上がる。


「あなたもお願いします」


敬斗を見て幸雄が言った。

敬斗は頷き、その後についていく。

幸雄は壁に設けられた金庫の前まで行き、箱を受け取った。


箱を開ける。


中から出てきたのは一本の鍵だった。

その鍵で金庫を開け、幸雄が場所を譲る。

敬斗は金庫の中を覗き込んだ。


「魔石だ……」


ゆっくり確かめるように、いくつか取り出す。

幸雄を見て頷くと、老婆の前まで引き返した。


「早速やってくれるか?」


金庫を開けている間も、老婆は小さく咳き込んでいた。

心配そうなさくらの姿も見える。

敬斗は老婆の言葉に頷くと、魔石を吟味し始めた。


(この状況なら、これしかないな)


一つを取り出し、老婆の近くに座る。

目を閉じ、低い声で軽く呟いた。


「ハイヒール」


その声とともに光が老婆を包み、体のあちこちが輝き始めた。

さくらに幸雄、介助の者たち。

それどころか老婆本人さえ、目を見開いたまま固まっている。


やがて光はゆっくりと消えた。


「終わりました」


敬斗が声をかける。

口を開けて驚いていた人々は、その言葉で我に返った。


「大ばあば?」


さくらが老婆へ問いかける。


「お、おお……」


老婆はさくらの声に我に返り、そして自分の体に驚いた。


「なんじゃ。体が軽いぞ」


ガバッ!


勢いよく上半身を起こす。

そのまま布団から立ち上がった。


「うそ……」


介助の女性の声が響く。


「大ばあば?」


立ち上がり、自分の体を確かめる老婆に、さくらが声をかける。


「おお、さくら。体が軽いぞ」


そう言いながら、老婆はその場でラジオ体操を始めた。


「杖なしで立った大ばあば、初めて見たのに……ラジオ体操って」


さくらはその場で固まっていた。


◇


ガツガツ。


目の前の老婆は、すごい勢いで食事をかき込んでいた。


「いやー、元気になると腹が減っての」


ニコニコしながら、おかわりをする。

それを、箸を持ったまま固まって見ているさくら。

敬斗は黙々と食事を取っていた。


敬斗の魔法で元気になった老婆の「腹が減った」の一言で、全員で食事をすることになったのだ。


それで、この状況である。


先ほどまでは、元気になった老婆を見た源蔵が泣いていた。

今は柱の隣で固まっている。


満足するまで食事を取った老婆は、お茶をすすりながら本題に入った。


「さて、これで矢野殿が『待ち人』であることは間違いないわけじゃが――」


「敬斗でいいですよ」


老婆の言葉を遮るように、敬斗が口を挟む。

その様子に、源蔵を含めた屋敷の数人が敬斗を睨んだ。

老婆はまったく気にせず続ける。


「うむ。では敬斗殿。呉家について、どれほど知っておる?」


その問いに敬斗は首を振った。


「いえ、まったく」


「なるほどのう」


老婆は少し考え込む。


「当主のみに伝わる伝承に、『魔石を管理する貴族、事故によりこの地へ降りる』とある」


その言葉に、さくらが尋ねた。


「ねぇ、大ばあば。みんないるけど大丈夫なの?」


老婆は腕を組み、頷く。


「さらに、『魔石を求める者。その者が魔石を正しく使う時、呉家が繁栄を手に入れる』とある」


「敬斗殿が待ち人ならば、もはや隠す必要もない」


そんな会話を聞いていた敬斗が口を挟んだ。


「あ、もしかして……」


「何か心当たりがあるのか?」


「呉家……くれが……くれ……が……」


そこまで口にすると、敬斗は急に顔を上げた。


「クレーガー家だ!」


記憶の中にある貴族の名が浮かんだ。


「何か思い当たることがあるのじゃな?」


老婆の問いに敬斗は頷く。


「私の知る歴史に、よく似た貴族の話があります」

「異界の国で、国内一の魔石鉱山を管理していた大貴族です」


敬斗は一度言葉を切った。


「クレーガーという貴族が、ある日突然鉱山ごと消え失せたという話です」


それを聞いた老婆は頷いた。


「まさしくそれじゃな。伝承とも一致する」


その会話を聞いていたさくらが口を挟む。


「でも、どうして敬斗さんがそれを?」


その問いに、敬斗はちらりと辺りを見渡した。

その様子を老婆は見逃さなかった。


「その話は後でいいじゃろ。まずは報酬じゃ」


急な切り返しに、さくらも意図を察した。


「そ、そうね。それが先だと思うわ」


「ゴホン」


老婆は軽く口元へ手を当て、場を仕切り直す。


「まずは、こちらから提示する報酬じゃ」

「この呉家が管理する魔(・)石(・)を提供する。それで良いかの?」


敬斗は深く頷いた。


「あいわかった。ただし、条件も付けさせてもらう」


そう言うと、老婆は敬斗の目を見る。

そして指を折りながら、条件を提示し始めた。


「一つ。受け渡しには、必ず呉家の者を挟むこと」

「二つ。異常と判断される量の提供は、こちらの判断で拒むことができる」


老婆は少し間を置いた。

敬斗は了承の返事代わりに、大きく頷く。

それに満足した老婆は話を続けた。


「三つ。伝承にある『呉家の繁栄』を目指すこと」


この提示に、敬斗は一瞬戸惑った表情を見せる。

その様子を見た老婆は、笑いながら話しかけた。


「なーに、難しいことではない。さっき、その一つを示したではないか」


少し前まで寝たきりだった老婆が、今では食事のおかわりまでしている。


「確かに、呉家にとっては大きな利益ですね」


老婆の言葉に納得した幸雄が、思わず口を挟んだ。

それに同意するように、さくらも頷いている。


「難しいことではない。敬斗殿ができる範囲でかまわない」

「呉家にとって悪くない結果につながるなら、何でも構わぬ」

「どうじゃ? 約束してくれるか?」


覗き込むように尋ねる老婆へ、敬斗は力強く答えた。


「わかりました。できる範囲で努力します」


その言葉に納得した老婆は、深く頷く。


「うむ。それで構わない。契約成立じゃ」


そう言って右手を差し出した。

敬斗はその手を取り、握手をする。

手を離した老婆は辺りを見渡すと、全員に聞こえるように声を上げた。


「みなの衆。ここに伝承の契約が相成った」

「これは呉家の総意である。心してかかるように」


「「「ハッ!」」」


複数の声が重なった。


「これで公式な話は終わりじゃ。ここからは私的な話になる」


「場を空けよ」


その一言で、人の気配が一気に引いていく。

老婆は改めて敬斗へ向き直った。


「それでは、敬斗殿のことも聞かせてもらえるかの」


敬斗は大きく頷くと、自分のことを話し始めた。


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