ブービートラップ
「いてててっ・・・」
魔力を最大限使いながら無理して情報収集に努めたが、
相棒から尻を刺されるとは思ってもみなかった。
まぁ、発育は順調でなによりだが、
あのレースの紐パンだけはけしからん。
12歳ならまだ子供パンツで十分だ。
「・・・主、死ねばいいのに」
おっと、まだ女の勘は発動中か。
なんとも厄介な能力だな。
「まぁ、そう言うなって。お陰で色々気になる事が分かった」
「見つけたの?」
「決定打になるか分からんが、とにかくそこまで行ってみよう」
それはデキャンターに溢れんばかりの情報から、
ひとつの澱が浮き上がり、水面からすっと頭の中に広がっていく。
ーーー南西の方角1キロ地点。
公都リンデンバームに少しだけ戻る方角だが、
公都からは南西1.5キロといったところか。
秋桜の連なる丘を越えた先には、
黄金色に染まった小麦畑が広がっている。
そこにある作業小屋に強い魔素の反応がある。
「あれが目的の場所だ」
街道を外れると、そこには地平線まで続く麦畑があった。
深い轍のある農道から畦道をしばらく歩いていくと、
古びた作業小屋が見える。
扉には鍵さえないその中には、
貴重なものなど無いように思える。
「・・・気配はないな」
チロルは小屋の中に誰かがいる様子はないと思ってるのが、
俺の脳裏にはとんでもない情報が入っている。
「扉を開けるが血をみる事になるぞ」
「・・・血?」
「ああ、チロルの想像以上に悲惨な状態かも知れん」
【作業小屋:悪魔召喚の儀式】(6日前に実行済)
【転移門の魔法陣:状態(停止)】
【血濡れの魔法陣:状態(作動中)】
【・・・・・】
デキャンタの底に沈む魔素の澱が、
ひとつ浮かび上がるごとに不気味な情報がもたらせられる。
血濡れの魔法陣ってなにを目的にしたものか。
さらに記憶のひとつを掘り下げる。
(・・・これは)
この小屋の中の映像だろうか。
おぼろげだが、若い男女が扉を開けて入ってきた。
男は20代前半、女は10代半ばといったところか。
男よりずっと若く見えるが、着ている服や化粧気のないところをみると、
この農村部で暮らす農家の娘って感じだな。
顔は・・・肝心な所にモザイクの様なノイズが走る。
なに!?
小屋の扉が閉まると、男が急に女を押し倒す。
妄想の世界では俺もよくやる行為であるが、
これを現実世界でやれる人間がいるとは、
まさに鬼畜、いや悪魔の所業だ。
男は女の衣服を強引にはぎ取っていく。
引き裂かれた衣服から、見た目より放漫な戦闘力が露になる。
けしからん。まったくもってけしからん。
だが、本当にけしからんのは、
押し倒されれ衣服をはぎ取られた女が、
すでに光悦の表情を浮かべている事だ。
これはノイズがあっても間違う訳がない。
けしからん!まったくもってけしからんぞぉ!!
「・・・主、なに怒ってるの?」
「チロルぅ、いま重要なところだから暫し待てぇいぃぃ!」
「・・・・」
女の腕が、男を絡め取る様に首に伸びる。
顔を合わせながらも男は片手でベルトを緩めているが、
慌てているのかなかなかズボンを下ろす事が出来ない。
むむぅ。
なにやってるんだと隣にいれば蹴り倒し、
「選手交代!」と叫びたい。
だが、その瞬間は、
ズボンを下す事無く唐突にやってきた。
女の絡みついた腕が男の首筋をぎゅっと締め付ける。
悩ましく首を動かしていた男が、
急激にバタバタともがきだした。
(・・・なんだ?)
次の瞬間、
男のカラダから血しぶきが上がる。
ボトリと転げ落ちたのは、男の首だった。
「うっ・・・っ!!」
思考より早く、
俺の胃の中のものが全て吐き出された。
この女、男の首を切り落としたのか!?
女に覆いかぶさりながら動かなくなったカラダを、
無造作に払いのけると、拾い上げた首を高々と掲げてみせる。
滴り落ちる血を全身に浴びる様は、
暫く飯を受け付けなるには十分すぎた。
「主、二日酔い?」
心配してくれるのはありがたいが、
普段の生活態度を少し改めようと心に誓う。
それにしても、この女は何者だ?
「・・・いっ、いや、なに。ちょっと中がスプラッタ―な惨状らしくてな」
「ふーん・・・」
チロルはそう呟くと小屋の扉を開き、すたすたと中に入ってしまう。
「こっ、こら。まだ調査中だってのに!」
小屋の中に怪しげな魔法陣が2つ。
ひとつは転移用だとわかったが、
もうひとつは「血濡れの魔法陣」
どのような目的のものか判明していない。
罠だという可能性は、否定できないどころか高確率だろう。
探りに来た者を始末するのには、
典型的なブービートラップ。
あわてて俺もチロルのあとに続くが、
魔法陣が発動する気配はない。
「おい、その魔法陣には絶対に触れるな。それと魔素に反応する可能性があるから、魔法も禁止だ」
「・・・」
魔法陣をよけながら、
スタスタと小屋の中を歩くチロル。
「・・・人間ひとり分の血の量じゃない」
「ひとりじゃない・・・だと?」
デキャンタ―に澱が沈狩り浮かんでいく。
「なるほど、あの女に殺されたのは7名か」
いずれも首を締め上げら果てた者は、
農夫や旅人や商人、いずれも男性というだけで、
他に気になる統一性がない。
「まぁ、欲望を抱いて死んではいるがな・・・」
「よくぼう?」
「チロルにはまだ早い話だ」
そういうと、少しだけ頬を膨らませるチロル。
まぁ、そういう所が年相応で可愛いものなのだが・・・
「関係がありそう?」
「どうだろうな。ここの犯人は何故か顔が判別できないが、女性であることは間違いがない。女を使った犯行・・・とだけ言っておこう」
いくら子供と言えど、チロルは俺の相棒だ。
遠回しながら殺しの手口を説明する。
「それじゃ、主もすぐ殺られちゃう」
「・・・・」
まったく反論することが出来ない。
「大丈夫、弱い主は私が守る」
「おいおい、俺が弱いだって?こう見えても1発殴られれば3日間は気絶できる自信はあるぞ」
幼女に自慢するわけではないが、
俺の能力はおどろくほど戦闘向きでは無い。
まぁ、職業はこの世界で2人しかいない、「バーテンダー」。
使い方によっては便利な能力を身につけてはいるが、
冒険者ギルドから目を付けられるくらいのレア職業だからな。
ゆえに危険な事は極力さけたいというのが本音である。
チロルは月に吠えるの頼もしい看板娘兼用心棒なのだ。
「・・・チロル!」
「主、魔法陣から離れて!!」
停止状態だった転移用の魔法陣が、
ゆっくりと時計回りに回転を始める。
状態は「停止」から「稼働」へと変っていく。
光の粒子がひとつの大きな塊へと変貌していくと、
中から2本の赤黒い角を生やした筋骨隆々の大男が現れた。
「なんだ貴様ら・・・」
大男が喋り出すと同時に、
チロルは両手の刺突剣を構え、
大男に切りかかっていく。
「チロル!」
チロルの繰り出す刺突剣は、一撃必殺の暗殺剣。
正攻法の切り合いには向いていないが、
相手の不意を突き急所を狙えば、
大抵のターゲットは刺された事を知る術無く果てていく。
チロルの刺突剣は確実に大男の心臓を捉え放たれた。
ギンっ・・
鈍い音とともに、刺突剣は弧を描いて跳ね返された。
(おいおい、なんて硬さだ)
大男は、ボリボリと胸のあたりを掻きむしっているが、
ダメ―ジを受けている様子は全くない。
「・・・死にたいらしいな」
どうやったら自殺願望は無いと、
この強面の大男に伝えることが出来るのだろうか。
無信仰者だが、必死に神と仏に祈ってみる。




