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異世界BAR 月に吠える  作者: しゅーる君


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澱

風の護り手が護衛対象のアンネリーネを見失ったのは、

公都リンデンバームの東門から約2キロ付近。

王都ロレンシアまで続く主要道路であるイーサン街道は、

交通量は多く魔獣除けの結界も施されている。

近年、護衛任務とは魔獣より野盗から身を護る事を目的としている。


「いい天気だな・・・」


街道沿いには秋桜のような花々が生い茂り、

幾重にも重なる丘の稜線を薄紅色に染め上げている。

風と共に波打つその景色はまるで絵画のようだ。

これが調査目的じゃなければ、

異世界をトレッキングしているようで心躍るところなのだが、

時折思い出すイザベラ・シュロートの何か企んでいる様な笑みが、

ささやかな幸せをぶち壊す様に現実世界に連れ戻す。


「・・・よし。この辺でいいだろう。チロル、魔力隠蔽(シークレット)は解除してくれ」

「ん、わかった」


リンデンバームの城郭を抜けると、

チロルに気配を消してくれるよう頼んでいた。

まぁ、バーテンダーとその従業員一行がどこに向かおうとも、

真犯人にとってはどうでもいい事なのだろうが

念には念をいれておきたい。


なぜなら、俺は超絶ビビリだからだ。


移動中に魔獣に襲われたり山賊に出くわしたら、

チロルが怖い思いをするだろう。


じゃなくて俺が・・・


この世界では異世界人である俺。

異世界に来た途端、とんでもない能力に目覚める・・・的なことにはならなかった。

けれど、この世界には魔法や固定能力(スキル)が存在している。

生まれながらに与えられた能力の場合と、

ある程度の努力によって得られる能力である。


俺の場合は、物心ついたころからこの世界にやってきている。

特定の師匠というものはいなかったけれど、

酒場(バー)や飲食店(バール)にくるお客が、

俺の師匠であり先生であり、

いろんなことを教えられた。

結局俺が覚えた能力は、

氷系の魔法と土系の魔法が少しばかり。

だが、これが結構役に立つ。


氷魔法は何も無い掌から、

グラスに氷をカランと入れられるし、

土魔法では何も無いところから、

金属の六角柱のマドラーを取り出せる。

うーん。まさにバーテンダーの為の能力だ。


あともう少し能力を授かっっているのだが、

いずれも異世界にいけば「勇者」や「英雄」や「賢者」といった、

スーパーヒーローになれるようなものでは無い。

どちらかと言えば、顔をしかめてしまう様な系統ゆえに、

この能力についての詳細は俺と爺さんだけの秘密である。


イザベラ・シュロートにはなにやら感づかれている気がしないでもないが、

それは彼女が人の能力を探り当てるとか、

それに近い能力を有しているという事なのだろう。

あのたわわに実っているふたつの果実は魔乳・・・もとい、

魔王級であることは間違いはない。


チロルの能力を解除させた場所は、

ギルダー商会の馬車が王都へ向かっていた途中。

馬車の中にいるはずのアンネリーネが姿を消したとされる地点である。


護衛任務の冒険者チーム風の護り手は、

斥候(スカウト)の猫人族(ケット)レオナと、

魔術師(ウィザード)のリリーの2人が同時に、

魔力探知(ソナー)からアンネリーネの所在を見失った。

ギルドの報告書にはそう記されていた。

Aランクの冒険者ともなれば、

常時魔力探知(ソナー)による警戒は怠らないだろう。


イザベラ・シュロートの話では、

二人の能力なら半径200m以内の気配を見逃すことは無いらしい。

アンネリーネだけではなく、

連れ去った人物の気配さえ探知できなかったとすれば、

索敵範囲の以上の距離から強制転移させたという事になる。


まぁ、アンネリーネ自ら転移したという可能性は残るが、

王都な向けて護衛を雇っている車列から、

抜け出すメリットは思い浮かばない。

だが、アランの旦那の躓きはすべてここから始まったのだ。

原点を知らなくては解決の糸口は見えない気がしてならない。


「チロル、ちょっとピリっとするかもしれないが暫くは我慢していてくれ」

「・・・ん。わかった」


さて、始めますか。

俺のとっておきの固定能力(スキル)。

「・・・覗き見(ピーピング)」

カラダからピンク色の怪しげな魔素(マナ)が、

渦を巻きあげながら立ち上ると、四方八方に霧散していく。

風の護り手の魔力探知は約半径200m。

それじゃ200m以上の先には何があったのか。

または何も無かったのか。

俺はそれを調べに来た。

俺から発せられた魔素(マナ)が、

街道を駆け巡り、咲き誇る花々や木々を揺らしていく。

するとその魔素(マナ)から覗き見た情報が頭の中に飛び込んで来る。

といってもあまりにも膨大な情報量。

全てを読み解くのは不可能だ。

読み取った情報は、デキャンタに入れられた、

ワインの澱(おり)のようなもの。

静かにデキャンタの中に沈んで蓄積される。

その中で必要なものだけを自動的に拾い上げる。

例えば、ここから20m先にあるヒーリング草。

低級ポーションの材料となるその薬草は、

この世界で最も簡単に手に入るものだ。

この薬草の場所とか効能が解析できる能力または魔法といえば、

「分析(アナライズ)」や「鑑定(かんてい)」といったところだが、

俺の能力はそれにとは少し違っている。


このヒーリング草。

いっけん普通の薬草に見えるが、

今朝早くDランクの魔獣である、グラスウルフにお●っこひっかけられている。

知ってしまった以上、これを薬草として摘みたいとは思わない。

これを知らずに摘み取られたヒーリング草が、

だれかのポーションになるのかと思えば悲劇である。

知らぬが仏という言葉があるが、

知ったら神くらいの幸福感を感じてしまう。

まぁ、この能力が凄いのはそんなところではない。

例えばそうだな・・・むむっ。

覗き見(ピーピング)の調査領域(テリトリー)に、チロルの情報が入ってきた。


【氏名:チロル・シャウアー】

【年齢:12歳】


なにぃ、12歳だと!?

確かにろくに確認をせず自称「もう大人」という申告を鵜呑みにしていたが、

未成年を働かせているなんて、あきらかに・・・あぁ、そうだった。

こちらの世界では成人は15歳だが、

義務教育は12歳まで。

そして強制しない限り労働は12歳から認められるんだった。

なんだか腑に落ちないが、まぁいいだろう。


【種族:白狼族】

【職業:暗殺者(アサシン)】

【性別:女】

【固定能力:魔力隠蔽(まりょくいんぺい)】(5分前まで使用)

【固定能力:思考加速(クロックアップ)】(現在使用中)



むむぅ。


いつも無表情でなに考えているかわからんチロルだが、

思考加速(クロックアップ)の能力までもってたのか。

なに考えているのかわからないじゃなくて、

思考速度に表情がついていけない状態だった可能性がある。

それにこんな能力まであったのか・・・


【固定能力:女の勘(シックスセンス)】


チロルに悟られないように、

いい女性客が店にいる時は、

眼球の動きを超加速(クロックアップ)して、

視線は常に一定ですよと残像を残していたつもりだった。

一瞬だけ止まる視線の先には、

顔より戦闘力(バスト)だけ記憶していたことがバレていたのだろうか!?


いや、そんなはずがない。

俺の超加速(自称)は完璧だった。

あれほど血のにじむ努力をしてきたのだ。

自分自身を信じろ、俺。


まぁ、まあそれはよしとして、

次々情報が入ってくる。

チロルの情報はここまでと・・・何ぃ!


これはチロルのカラダの3D情報かぁ!!


いやいや、まてまて。

何が悲しくて12歳の童女のデータで興奮しているんだ俺は。

まったくもってけしからん。


どうかしている。


とはいっても、意外にウエストのラインはくびれて、

ヒップのラインはいい曲線を描いている。

将来が楽しみな逸材といったところか。

まぁ、顔は街ですれ違えれば二度見したくなるほど可愛いもんな。

ははっ、しかしながら上半身から平原が続いている。

ここがA地区ならもうすこし上にはB地区が乗っているまず・・・


むむぅ。


見た目では永遠の平原だと思われるところに、

2つのツインピークスがぁ。

まだ完全に山とは言えないが、

ゆるやかな丘くらいには育っているじゃないかぁ。

そういえば、エベレスト初登頂の偉業を遂げた、

エドモント・ヒラリー卿はこう言っていた。


「山は大きくならないが、人は大きく成長することが出来る」


そうか、チロル。お前は山を目指して成長しようとしていたのかぁ♪



ぐさっ。



「・・・なんかムカつく」


固定能力:女の勘(シックスセンス)が発動し、

俺の尻には刺突剣が見事に突き刺さっている。


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