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異世界BAR 月に吠える  作者: しゅーる君


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散歩

大声を出してしまったゆえに、

ギルマス達が個室に押しかけてしまった。

これは俺の凡ミスだが、あんなの驚くなと言われても絶対に無理だ。


まぁ、これで爺ちゃんの生存が確認できたわけだが、

新たな悩みの種がわんさか生まれてしまう。


ギルマスへの報告はそれはもう大変だった。

そう言えば、クロウ・エンフォートは、

バスタを注文する際、トマトはやめてくれと言ってたっけ。

記憶が封印されていても、あれだけの血を目にしていたのだ。

トマトの赤は夥(おびただ)しい鮮血を連想していたのかもしれない。

うちの酒場(バー)にやってきたのは、

爺ちゃんがイザベラさんの能力(スキル)の指令(ミッション)を上書きした為だろう。

実際、公都に転移させたのは爺ちゃんの転移魔法(トランスポート)だった。

閉門時間との時差はこの為であり、城壁都市ポマレの惨劇は、

クロウ・エンフォートが酒場(バー)にやってくる少し前に起こった事だった。


彼の記憶は、体力が戻るまで時間をかけて覚醒することになった。

まぁ、一連の記憶は俺が読み取り伝えているので、

クロウ・エンフォートの記憶を呼び起こしたとしても、

それ以上の情報は得られないだろう。


問題だったのは爺ちゃんの存在だ。

クロウ・エンフォートが助かった経緯や、

街を壊滅させた魔族の事などを説明する上で、

爺ちゃんの事を説明しない訳にはいかなかった。

そして、チロルの婆ちゃんの事も。

それを伝えた時のギルマスの表情といえば・・・


・・・言えば殺されそうなのでやめておく。


兎にも角にも、ポジェク王国の城壁都市ポマレは、

数万の住民全てが虐殺された。

その元凶は、人型の何か。

あるいはダンダリオンと同一の存在か。


そいつの骸(むくろ)を直接触れた訳じゃないので詳細まではわからないが、

ダンダリオンがリーネの能力で効率的に魔力を吸い取った事に対し、

人を喰らい続けるという非効率な魔力接種を行っていたという事だろう。


クロウ・エンフォートをナータンとアリサに任せ、

ギルマスとイザベラさんには店のカウンター越しに報告したのだが、

これがしつこいのなんの・・・

同じことを繰り返し質問される事数時間。

ペペロンチーノを作らされる方がよっぽどマシだった。

イザベラさんがどんな鑑定能力を有しているのかは不明だが、

ギルマスに報告したことは全て事実である。

爺ちゃんが俺宛に残したメッセージの事は、

ギルマスには報告していないけれど。

これはクロウ・エンフォートも知らない事実。

後日、クロウ・エンフォートから聴取する事が出来ても、

彼の記憶には残っていない。


ようやくギルマスから解放されたのは、

日がすっかり落ちてからだった。

ギルドが所有する荘厳な馬車が店に横付けされ、

クロウ・エンフォートはギルドの治療院へ移送されていった。


こうして、予想外の情報で溢れたクロウ・エンフォートの件は、

一応の区切りがついた・・・ついたと言い切りたいが、

まぁ、無理だろうな。ギルマスしつこいから。


とてもじゃないが今夜の酒場(バー)は開店する事が出来ない。

しばらくギルマスからの呼び出しが予想されるから、

明日以降だっい営業できるかどうかも怪しいところ。

そういう時は、ナータンとふたりでコロッケのストックでも作りながら、

ほとぼりが冷めるまで式を待つしかないだろう。


・・・厨房で男ふりたでコロッケ作り。

考えただけで背筋が冷える。


そしてチロルだ。

彼女の婆ちゃんの事はどう伝えればいいのか。

伝え方を間違えれば、チロルも月に吠えるを飛び出してしまうかもしれない。

メッセージの最後には「店とロミーの孫を頼む」とあった。

爺ちゃんは婆ちゃんの始末の助っ人を頼んでいない。

店とチロルを守れというのが爺ちゃんの願いだ。


まぁ、婆ちゃんがリリスっていうのは、

それ以上考えるのは止めにした。

いくら考えても答えが出ることは無いからだ。

だったら、爺ちゃん達が帰ってきたとき、

店とチロルが立派に成長しているところを見てもらった方がいいだろう。


・・・戦闘力(バスト)が成長するかは神のみぞ知るだが。


飲食店(バール)は通常営業しているが、

キッカとアリサがいるから仕込以外で俺は出番はない。

客に交じって日がな一日コーヒーを飲んでいてもいいんだが、

どちらがハシビロコウか区別できなくなるくらい呆けてしまうのは嫌だ。

といっても、酒場(バー)や自室で昼間から酒を飲むなんてもっと嫌だ。

そういう酒もあるのだろうが、客に飲ませるのは好きであっても、

自分で酒に逃げるのはなんか違うような気がする。

という事で、こんな時は何も考えず、

公都リンデンバームの街をぶらっと歩いてみよう。


昼の公都をぶらり歩くのは久しぶりだ。

出歩くことと言えば、商業ギルドの寄り合いや、

朝市(マルシェ)の仕入、そして教会への喜捨くらい。

外食だって、屋台でランプレドットのような軽食をつまむ程度。

俺の異世界生活ってヤツは、そのほとんどが酒場(バー)と飲食店(バール)で完結する。

それが嫌だと思うことは無いのだけれど、

今みたいに行き詰るときは、気分転換してみたくもある。

街の大通りには、石造り3階建ての住居が立ち並ぶ。

大抵は1階部分が店舗であり、2階以上が居宅となっている。

大通りに面している物件の多くは賃貸物件だ。

立地が良い物件ほど価格は跳ね上がるのはどこの世界でも同じだ。

よほどの大店(おおだな)でもないと、自前の物件を手にすることは出来ない。

裏路地にはいると、それなりの価格にはなるが、

広告宣伝の手法が発展していないこの世界では、

とにかく路面店舗で目立つ事は商売の基本である。


(こんなところに酒問屋があったのか・・・)


ゆっくり歩けば、普段目にはいらなかった事が映し出される。

するともやもやとするこの気持ちも、少しは紛れるような気がしてくる。

一気にこのもやもやが晴れてくれたらいいのに。



・・・ローランドにでこのもやもやを放出してくるか。


途中から「もやもや」が「むらむら」に変わったことは内緒だ。








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