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異世界BAR 月に吠える  作者: しゅーる君


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料理教室

とある安息日、酒場(バー)月に吠えるの厨房では、

エプロン姿のナータンが不器用ながら蒸かしたジャガイモを丸めていた。


「こんら、そだに強く握ったらコロッケが芋もちになっちまうべ!!」

「・・・自分、不器用ですから」


日本からウメ子さんがコロッケの作り方を教えにやってきた。

異世界エルカンダルには、実に30年ぶりの来訪らしい。

前日、俺とナータンは日がな一日上遠野家の畑でジャガイモ堀り。

おかげで朝から全身が筋肉痛である。

ウチの田舎では、4月の連休に植えたジャガイモは、

7月下旬から収穫が始まる。

といっても、異世界の時間では2年以上前に植えているのだが、

時間を停止している日本時間では、ようやく3か月が経過し、

ジャガイモの収穫期を迎えたという訳だ。


上遠野家で植えたジャガイモは3種類。

まずは男爵。

加熱するとほくほくとした軽い触感となる。

次はキタアカリ。

鮮やかな黄色が特徴で、強い甘みが特徴である。

そしてメークイン。

しっとりとした食感で煮崩れしないのが強み。

芽が出にくいので長期保存に適している。

まぁ、基本の3種は自家用にと毎年作付けしている。


ミーナの屋台では、現在冷凍コロッケを使用しているが、

上遠野家周辺で、仕入が大変になってきている都合もあり、

こっちの世界でもコロッケを作れるか試してみたかった。

ただし、いくらレシピ本を見ても、

料理の達人から手ほどきを受けた方が旨いに決まっている。


今回はウチの畑のジャガイモが収穫できたので、

それを口実にウメ子さんにコロッケ作りの指導を頼んだが、

最終的にすべての食材は、公都で手に入る食材で作りたい。

こちらのジャガイモの適正やパン粉の質なんかも、

ウメ子さんから吟味してほしい所である。


「ありゃ、チロルちゃん。そのカタチは『おはぎ』みたいたべな」

「・・・おはぎ?」

「んだ、ぼたもちとも言うべ」

「・・・ぼたもち?」


チロルは簡単な日本語がわかる。

スタジオジ●(ぴー)リのDVDをディスクに穴が開くほど見ていたおかげで、

日本語を学ぼうとする意欲が旺盛だった。

少しの手ほどきで、簡単な日常会話はほぼ理解すことが出来きている。


リーネも、アリサの家庭教師時代、

ふたりの秘密の言葉として日本語を学んでいたおかげで、

簡単な会話は理解できる。


だが、ウメ子さんが話す言葉は東北弁。

俺でさえも全て理解できるかと言えばちょっと怪しい。

話の前後の文脈でこうなんだろうと理解している場合も多い。

日本語がわかるアリサでさえも、

時折不思議そうな顔をしている。

チロルとリーネにはウメ子節は難しいのだ。


ナータンとミーナはアリサが同時通訳してくれるおかげで、

なんとかコロッケの作り方を覚えようとしてくれているが、

ルナは粘土細工が如く、自由奔放にいろんな形のコロッケを作っている。


「おはぎと言えば、ウチの爺様は半殺(はんごろ)しにしてくれと五月蠅(うるさ)いんだべ」

「「 ・・・半殺(はんごろ)し!? 」」

「わたしゃ、半殺(はんごろ)しよりも皆殺(みなごろ)しの方が好みなんだげんど」

「「 ・・・皆殺(みなごろ)し!? 」」

「今度のお彼岸のときでもおはぎ作ってきてやんべから、レイちゃん。娘っ子たちは『半殺(はんごろ)し』と『皆殺(みなごろ)し』はどっちがよかんべかね?」


チロルとリーネが勘違いしてるぞ、ウメ子さん。

それとアリサ。いまのくだりは通訳しなくていい。


「おはぎは餅米を使った和菓子だ。半殺しと皆殺しは、餅米を半分つぶすか、全部潰すかって事だよ」

「「・・・なーんだぁ。 」」


ほっと一安心のふたり。


「ああ、ごめんごめん勘違いさせちまったべか。この婆(ばぁ)は虫も殺せん小心者だべ。安心してくれっちゃ。どーれ、昼の賄用(まかないよう)に、鶏(にわとり)一匹締めてくんべか」

「「 ・・・・・ 」」


・・・虫は殺せず鶏(にわとり)は瞬殺かよ。



熱したフライパンで、細かく刻んだタマネギと、

牛挽肉(ぎゅうひきにく)を牛脂(ヘット)で炒める。

軽く塩コショウで下味をつけて砂糖と醤油で仕上げる。

蒸かして皮を剥いたジャガイモを潰し、

上記を混ぜるとコロッケのタネが出来る。

今回使用したジャガイモは男爵。

これに近い品種は公都でも手にはいるから都合がいい。

タネの粗熱がとれたら冷蔵庫で休ませる。

コロッケのカタチにするには、

タネを冷やした方がまとまるのだ。

コロッケのカタチに成型したものに、

バッター液を潜らせ中目(なかめ)のパン粉を纏わせる。

あとは180℃の油で揚げればウメ子さん特製のコロッケが完成だ。


「ほーれ、コロッケは我慢たべ。最低1分は触れては駄目だんべ」

「なぜ触っちゃだめなの?」

「衣が固くな前に突っつくと、コロッケが身割れしてしまうべ」

「・・・身割れ?」

「んだ。小学校の時のレイちゃんがウンコ漏らして泣きながら帰ってきた時みたいになるべ」


・・・ちょっと待て婆ぁ。

アリサ、通訳しなくていい。


「ほーれ、表面がキツネ色になってきたっぺ」

「・・・キツネってDVDで見た化(ばか)し合い合戦(かっせん)の?」

「それはタヌキだっぺ。ムジナとも言うけんど」


・・・婆ぁ、よく知ってたな。


「そんしたら裏がえしにするんだべ。レイちゃんにも裏の顔があるげんども」


・・・余計なお世話だ。


「そしたらあと1分。はい、出来上がりだべ」


フライヤーから、次々と黄金色(こがねいろ)のコロッケが揚がる。

娘たちの目はコロッケに釘付けとなる。


「ほんれ、熱いから気ぃつけて召し上がれ」


しっかりと下味のついたウメ子さんのコロッケ。

ソースをつけなくても十分に旨い。

ミーナも冷凍コロッケとの違いに驚いている様子だ。

ミーナひとりで仕込みから販売は大変だが、

全員で仕込みを手伝うことが可能であれば、

自家製コロッケも十分に販売可能だという事がわかった。


「いやウメ子さん、すごくおいしいコロッケだったよ」

「レイちゃんの役に立ったならオラもうれしいべよ。草葉の陰で富次郎さんも喜んでいるべ」


だから死んでいない・・・と思うんだけど。


「そんじゃ、次はさっき締めてきた鶏(にわとり)揚げてみんべか」


虫も殺せないウメ子さんの料理教室は、

こうして定期的に「月に吠える」で開催されることになった。








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