いあんばかんす②
海岸線に広がる小高い丘となっている防風林。
それを駆けあがるようにワンボックスが頂点を超えると、
目の前に広がる水平線が見えてきた。
「「「わぁぁぁぁ!!」」」
と、娘たちの歓声が車内に響き渡る。
声こそださなかったが、
助手席に座るチロルも、
普段見た事の無いような笑顔である。
これだけでも連れてきてよかったと思うのだが、
俺の楽しみは、まだまだこの先にある。
海水浴場にある駐車場。
季節外れであれば無料止め放題なのだが、
ハイシーズンは驚くような料金を取られる。
【環境維持協力金として】
はっきり駐車場代としてと記載して欲しい。
領収書の但し書きには正直ムッとするが、
こういう矛盾も世の中の仕組みであると、
娘達の手前笑顔で支払いに応じてみる。
アリサに車のキーを渡すと、
俺は荷物を持ちながら、
一足先に砂浜へと向かう。
時刻はAM9:00。
まだ早い時間だというのに、
ビーチにちは大勢の家族連れや、
カップルなどが色とりどりのパラソルの花を咲かせている。
負けじと俺も海の家からビーチパラソルを借りて、
砂浜に3本連ねレジャーシートを広げる。
隣に日除けのシェードテントを張り、
これで本日の拠点は完成だ。
そこに着替えを終えた娘たちがやって来た。
「・・・・」
「そんなにジロジロ見ないでよ!」
サングラスを掛けてはいたが、
思わず見とれてしまったのは否定できない。
とちらかといえば、
青い果実のうちの娘達より、
食べごろに熟したビーチのお姉さんウオッチングを、
心のよりどころとして運転してきたのだが、
水着姿の娘達を見て世にはびこる変態野郎どもの気持ちが少しだけ理解する事が・・・
いや、
それは無い無い。
あれは本当の病気である。
まぁ、それだけうちの娘達のレベルが高すぎるという事なのだろう。
娘達の登場に、ビーチが突如騒めき始める。
「外国の女の子たちだ!」
「うわぁ、なにあの髪の毛の色!?」
「緑色って染めてるんでしょ?」
「見てみて、あの小さな子超ぉ可愛いんだけどぉ!!」
などなど。
日本語がわからないミーナとルナは、
何が起こっているのかまったく理解できない様子なのだが、
チロルとリーネは顔を真っ赤に染め上げている。
ところで、海に行くと決まった時、
俺はチロルの事を心配していた。
興奮すると獣人化してしまうからだ。
突然もふもふの耳や尻尾が現れれば、
日本人は腰を抜かすに違いない。
大き目のフードがついたラッシュガードの奥には、
水色のビキニが見え隠れしている。
白い肌にパステルカラーの青は、
真夏の海によく似合う。
「チロル。レイが気になっているみたいだから、フードをとって見せてやれ」
アリサがチロルのフードを剥ぎ取る様にずらすと、
銀髪の透き通るような長い髪が、お団子に結ばれていた。
「耳や尻尾が出ちゃった時でも堂々としていればいい。そのほうが若い女の子のファッションにしか見えないさ」
そう言って、チロルの背中をバンと叩く。
そして、あらためてチロルと目が合ってしまう。
これまでも風呂上がりでほぼ裸状態のチロルを何度も目にしている。
それに比べれば、水着をまとう姿の方が、
隠された布地面積は圧倒的に多いはずなのに、
恥じらうチロルにかつてないほど俺は動揺してしまう。
「・・・なんかマスターさん、視線がエロいです」
隣ではそんなふたりの様子を見て、
リーネが不満げに腕を組んでいる。
リーネはレモン色のビキニに、
こちらも白のラッシュガードを纏っている。
「いやいや、予想以上にお前たちが成長していたから、驚いただけだよ」
「だからイヤラシイ目つきだったのね」
「ミーナと比べて、改めてふたりには伸びしろが十分だと理解する事が出来た」
ふたりが隣で浮き輪を膨らませているミーナを凝視する。
「・・・えっ!?」
ミーナもラッシュガードを着ているが、
その間からのぞくビキニの谷間。
圧倒的な高低差、しかも理想的なお椀型と推測される丘陵地帯。
チロルとリーネが再び俺に視線を戻すと同時に、
拳が鳩尾に深々とめり込んでいた。
「「 死ねばいいのに! 」」
ビーチに響き渡る怒号。
幸いに異世界語だったから意味は分からなかったようだが、
なにかやらかしたなアイツという雰囲気だけは、
ビーチに広く共有されてしまった。
燦燦と降り注ぐ夏の日差し。
そして黄色い声が砂浜に響き渡る。
ビーチパラソルの日陰にビーチベット。
クーラーボックスから冷えたビールを取り出して、
ぷしゅっと噴き出す爽快な泡立ち。
ビールはのど越しであると実感するには、
もってこいのシチュエーションだ。
「あーーーーーーっ、染み渡るぅぅ♪」
アリサが全身を振るわせて、
真夏のビールを満喫している。
ドライバーの俺はノンアルコールのビール缶。
遠慮なしに楽しむアリサに、なんだかひとり虚しくなる。
あとはかき氷でも食ってみようと、
遠浅の海に浸かっている娘たちを眺めている。
遠巻きにしていた大学生たちが、
じわり距離を詰めてきたので、
娘たちに届かないように、
これでもかという殺気を放ったら、
幾人かが泡を吹いて海中に沈んでいった。
今日のライフセーバーの人たちは、
相当に忙しい思いをしている事だろう。
そんな努力の甲斐があり、
今のところ変な虫は寄り付いてはいない。
「・・・ところでアリサ。お前の水着はどうなっているんだ?」
「ああ?まさか私に欲情しているのかぁ」
「いや、俺。バ・・・年上には興味ないし・・・」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない。私も久々の海水浴で興奮してるわ。なんなら今夜はサービスしちゃおうかしら♪」
アリサの選んだビキニは、メイド服を模したデザインだ。
まぁ、ふだん飲食店の制服も、
似たようなものだから、あまり違和感は無いのだけれど、
こんなエロい格好のメイドがいたら、
月に代わってお仕置きしてしまうだろう。
「そんなことより、ありがとうなアリサ」
「・・・どうしたの、あらたまって。けど、いま私のサービスを「そんなことより」って酷い事言わなかったかしら」
「真面目に言ってんだ。チロルやリーネの事。もちろんミーナとルナの事もだ。異世界人だって先入観が、こっちの世界では爺ちゃん家に閉じ込めるような生活させちゃってたなって反省してたんだ。堂々としてろって言われたときはどうなるかと思ったけど、チロルたちが、あんな楽しそうな表情できるって知らなかったよ・・・」
「・・・何かと思えばそんな事なの」
「いやいや、実際アリサがいなかったら、俺一人じゃ何もできなかった。水着だってどうしていいか分からなかったよ」
「分からなかったら聞けばいいの。聞くは一時の恥。知らぬは一生の恥だって言うじゃない」
「ふふっ、さすが年の功だな」
「・・・ところで、私もひとつ聞いてもいいかしら?」
「ああ、なんでも聞いてくれ」
「そのサングラス。日差しが強いって理由でかけてるんじゃないわよね」
「ドキっ。そっ、そりゃビーチに来たんだ。ウチの娘だけじゃなくて、ビーチの若い女の子を目の保養して堪能したいってのは男の性だろう。視線を隠すのはエチケットみたいなものだ」
「なるほど。だからさっきから顔は動かないのに、眼球だけは異常に幅広く動き回っているという事ね」
「アリサだから白状したんだ。娘たちには黙っていてくれよ」
「黙ってるのは構わないけど、バレてるんじゃ私に責任はないわよ」
「・・・おい、どういう事だ?」
「わざとかなと思って言わなかったんだけど、あなたのサングラス。頭に上げたままになってるの」
「・・・へっ?」
とっさにサングラスに手を掛けると、
かけていたはずのサングラスは、
額の上にずらされたままベットに寝そべっていた。
「・・・いやぁねぇ、あの男。前を通るたびにねっとりと視線を絡めてくるのぉ!」
「そうそう、視線だけで犯されそうになったわ!」
「警察に通報してみる?」
「ああいう変態っているのねぇ・・・」
・・・ビーチは取り返しのつかない状態となっていた。




