隣人
●●県のんびり市。
元は町だった・・・といっても、限りなく村に近い、
人口5千人程度の牛追町が、
平成の大合併に際し、周辺市町村が統合され、
人口5万人の「のんびり市」が誕生した。
爺ちゃんの家は、旧牛追町でも、
山間部に近い世帯数30軒ほどが集う風祭集落。
集落といっても、隣の家とはいずれも100~200mは離れており、
住民より案山子と乳牛の方が圧倒的に多い、
所謂限界集落である。
築うん百年の爺ちゃん家。
見た目は古いが、中は近代的にリフォームされており、
住む事に関しては、特段の不満はない。
特に風呂場は一般の住宅が1坪タイプのユニットバスに対し、
その倍はあろうかという広さがあるし、
湯舟はヒノキ製である。
ゆっくり湯舟につかりたいときは最高に気持ちがいい。
まぁ、今は時間の関係で、そう何度も使用する事が出来ないのだが・・・
おかげさまで、ミーナのコロッケ屋台は順調なスタートを切る事が出来た。
これは喜ばしい事なのだが、新たな悩みの種が生まれることとなる。
それが冷凍コロッケの仕入問題だ。
仕入れは日本で行うのだが、
車で片道1時間以内の業務用食材の販売店は、
片っ端からコロッケを買い占めてしまった。
こちらの世界の時間は出来るだけ節約したい。
酒場と飲食店の仕入を計算し、
効率的に時間を進行させてはいるのだが、
コロッケの仕入先が限られている為、
どうしても時間を進行せざるを得なかった。
爺ちゃんがいなくなって1年半の間、
日本の時間を進行させたのは約2か月。
コロッケ屋台を始めて3か月で、
日本の時間は2か月近く進行させてしまった。
このペースが続くてしまえば、いろいろと不味い事が生じる。
やはり、コロッケは異世界で調達する方法を考えるべきか。
そんな事を考えながら、この日も冷凍コロッケの仕入の為、
愛車チャッピーを走らせていると、
爺ちゃん家に隣接する畑の中で、
大きく手を振っている人がいる事に気が付いた。
「レイちゃん、これもってけ!」
バケツいっぱいに入った真っ赤なトマト。
隣に住んでいるウメ子(75歳)さんは爺ちゃんの従妹になる。
同じ上遠野姓を名乗り、爺ちゃんとは分家筋の親戚だ。
子供たちはみんな都会で独立しており、
今はお婿さんである夫の貞次さん(77歳)とふたりで暮らしている。
「ウメ子さん、いつもすみません。店でも助かってます」
「あとでキュウリももってくるから。って、あらそちらの方は・・・」
ちゃっぴーの助手席に座っていたのはアリサだった。
チロルが学園に通う時間帯の仕入は、アリサを伴う事が多い。
「はじめまして、アリサです」
恥じらいながらそうこたえるアリサは珍しい。
「あらあら、ついにレイちゃんにも嫁っ子が出来たんかぇ!」
「ウメ子さん、コイツは・・「はいそうなんです!!ふつつかものですがどうぞよろしくお願いいたします!」
運転席に身を乗り出してウメ子さんにアビールしやがった。
何てことを言い出すのかと即否定したいところなのだが、
俺を覆いかぶさったアリサから感じる戦闘力の感触。
むむぅ。
100歳のば●ぁとは思えない柔軟性。
押せば返すこの弾力感
なるほど、作用反作用の法則か。
これはこれで・・・まぁ良しとしよう。
「コイツはウチの従業員ですよ」
ウメ子さんは、上遠野家の秘密を知る数少ない日本人のひとりだ。
若い頃、爺ちゃんと婆ちゃんにつれられて、
公都リンデンバームに行った事があるらしい。
婆ちゃんがはじめた飲食店の開店も手伝った事があるのだとか・・・
「ナルさんが生きてたらどんなに喜んだことかぁ。きっと富次郎さんと一緒に草葉の陰でよろこんでいるべさ!」
いや、爺ちゃんはまだ死んでないと思う。
ちなみに死んだ婆ちゃんの名前は上遠野ナル。
「この間、銀髪のかわいい娘っ子連れてきたときもぶったまげたべさ」
「それはチロル。うちの従業員だって」
「まだあんなに小さい娘っ子だべ。しかも外国人の幼女だっぺ。金で買ったとしてもだ、じっくり育つまでレイちゃん我慢できんだべかと気が気でながったべ。オラなんかは懐が広いべから育ててからならまだ許せるけんど、ウチの爺さまなんか『レイなら果実は青いうちが美味いって言うタイプだ』なんて言うもんだから、富次郎さんと雁首揃えて説教すんべかと思ってたところだ」
あんたたち夫婦にとって、俺はどんだけ鬼畜なんだ・・・
「そっ、それじゃアリサ。トマトを受け取って荷台に置いてくれ」
何を言っても無駄である事を悟った俺は、
トマトを受け取って、とっとと異世界に帰ることにする。
ちゃっぴーを降りたアリサを、
全身くまなく見渡すウメ子さん。
「ひゃっ!!」
「うん、安産タイプの尻だべ。合格!」
アリサの尻をパンパンと叩いて品定めしている。
スイカじゃないんだから。
「アリサちゃん、レイは何かと問題児だけんども、長い目でみてやってくださいね。寝小便で地図を描いて泣いていたのは小学校3年生頃までだったのよ。ふふっ、秘密だげんども」
「はいっ、承りました♪」
・・・何を承っているのだ。
「あとでキュウリもってくど。玄関先に置いておぐがら」
「ああ、いつもありがとう。助かってるよ」
「嫁っ子に間違った使い方したらダメだからの。そん時はアリサちゃん。このババに言いつけやりぃな」
「やさしくしてって伝えますね♪」
・・・どんな使い方を話している。
「そん時は、レイちゃんの枕元に、ナスで作った精霊馬たくさん置いておぐがら」
「それじゃ私は、キュウリの精霊馬を供えますね♪」
・・・ババぁ達が謎の意気投合を始めた。
「そっ、そういえば、ウチの畑のジャガイモっていつ収穫できますかね」
「もう白い花が咲いてっから小さいイモは実っているべさ。あと2週間から3週間ってとこか。イモ堀り手伝ってやるべか?」
「イモ堀りの人手は足りているけど、確かウメ子さん、コロッケ作るの上手だったよね」
「コロッケは十八番だべさ。イモ掘ったら作ってやんべ」
「ウメ子さんのコロッケは絶品だからな。ところで、作り方をアリサに教えてほしいんだ」
「えっ、私が!?」
「お安い御用だべさ。アリサちゃん、花嫁修業は獣道。若い娘っ子には大変かもしれねぇけんど、花嫁に近道無し。厳しい道だんべげんど、手取り足取り教えんから、頑張りんしょ!」
「・・・はっ、はい」
こうして自家製コロッケ六次産業化プロジェクトが開始される。




