↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界BAR 月に吠える  作者: しゅーる君


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/61

デキャンタージュ

夜間外出禁止令が公布されたのは、

その日の正午頃だった。

予定通りではあるのだけれど、

これで酒場(バー)の営業が出来なくなった。

人通りが無くなれば店を開けてもやって来る客は皆無である。

まぁ、お上(かみ)の命令には従わねばならない。

それより、この禁止令に期間か明示されていない所に不安がよぎる。

どうせ営業が出来ないのであれば、

たまにはゆっくり休んで旅行など楽しみたいところであるが、

飲食店(バール)の仕込みは続けなくてはいけない。

日の出とともに開店する飲食店(バール)の仕込みは、

酒場(バー)の閉店時間から始めているのだ。

酒場(バー)が営業できなくても、

仕事がなくなるわけじゃない。

外出禁止期間が明記されなかったことで、

食料品などの備蓄需要が高まる可能性がある。

いざとなれば日本から食材調達できるが、

こちらではしばらく市場が混乱する可能性がある。

様子をみながらとなるが、

ライ麦パンのサンドウィッチやドーナツの在庫は、

普段の倍程度準備しておくか・・・


カラン・・・


来客を知らせるドアベルの乾いた音が響く。

夜間外出禁止令を知らない客がやって来たのだろうか。


「すみません、今夜は臨時休業なんですよ」


カウンター越しに不用心な客に話しかける。

それでも客は歩みを止めない。


―――女か?


殺気などの気配は発していない。

物盗りの類ではなさそうだが、

見覚えのない客人である。

商売柄、客の顔の覚えは良い。

この店は会員制ではないのだが、

そのほとんどが誰かの紹介でやってくる。

つまり一見の客は珍しい事なのだ。


(それにこの俺がこの戦闘力(バスト)を見忘れるなんてあり得ない)


しなやかに伸びた黒髪をなびかせながら、

服の上からでも猛烈に自己主張している双丘(ツインピークス)。

胸元に刻まれる深い渓谷が、その山塊の大きさを物語っている。

齢の候は脂の乗り切った30代前半といったところか。

その気高い山頂に鎮座しているトップオブ●●●(ぴぴぴー)は、

重力に反し、未だに天を仰ぎ見ていることは容易に想像することが出来る。


まったくもってけしからん。


はて、そのようなおっぱ●美人が、

何か用事でもあるのだろうか。


「はじめまして、でよろしいかしら?」

「ええ。あなたみたいな美人なら忘れる訳無いですからね」

「ふふっ、1杯もらえるかしら」

「生憎と今夜は・・・」


と言いかけるが、

外出を禁じられてはいるが、

営業を禁じられたわけではない。

あくまでも自主的な休業だ。

まぁ、あからさまに開店していれば、

行政府に盾突く反社会的勢力と、

レッテルを張られるかもしれないが、

営業を知らせる外灯は灯してはいない。


「・・・簡単なつまみしか出せませんが」

「結構よ。それじゃ葡萄酒(ワイン)を頂けるかしら。おすすめの赤(ルージュ)がいいわね」


貸し切り状態の店で、

謎めいたおっ●い美人とふたりきり。


妄想の世界ではよく思い描く光景なのだが、

ここは「BAR月に吠える」。

爺ちゃんが残した異世界酒場である。


「貴賤を問わず。酒を飲みたい奴が客だ」


それが爺さんの口癖だった。


「・・・特別なワインがありますよ」


厨房の奥にあるパントリー。

ここには人目につかないように、

冷蔵庫や電子レンジといった家電回りが配置されている。

もちろんこの世界に電気は無い。

けれど、なぜかこのパントリーにはコンセントが設置されている。

コンセントがある壁は、裏口と同じ方向を向いているので、

日本の爺ちゃんの家から電気を引いているのは間違いないが、

いったいどうやって配線工事をは何処しているのか。

そこらヘンはまったくもって謎である。

まぁ、東●電力から毎月結構な電気代が請求されているところを見ると、

供給元はあちら側だという事だけは確信しているのだが・・・


業務用のワインセラーには、

100本以上のワインが寝かされている。

大半は爺ちゃんが仕入れたもので、

日本産をはじめ、フランス産やスペイン産など、

あらゆる国のワインが揃えられている。


「よし、これにするか」


先日仕入れた赤ワインのボトルを手に取る。

さて、問題は酒の肴なのだが、

ナッツやプリッツェルだけじゃ、

きっとあの客は喜ばないだろう。

今夜は営業の予定は無かったので、

足の速い食材は従業員の賄いで食いつくしてしまった。

サンドウィッチの材料で使えそうなものと言えば、

チーズやレタスに塩漬け肉くらいなものだ。


「・・・仕方がない、これでいくか」


豚バラ肉を塩麹に漬込みバルサミコ酢と、

すりおろしたりんごを使ったソースで煮込んだ、

豚の角煮風バルサミコソース。

ワインの好みは人それぞれだ。

このお●ぱい・・・もとい、

謎の美人が誰であるのか、

はっきりした事は分からないが、

少なくとも外出禁止令でも外出できる者なのだ。

それなりに地位のある貴族家か、行政府関係者、

または冒険者ギルドや商業ギルドの幹部などがそれにあたる。

いずれにしても外出禁止令下で、

プライベートで酒場(バー)に飲みに来るはずがない。

酒を注文してはいるが、それも仕事である可能性が高い。

ワインを好むのであれば、渋みの効いたフルボディを出したいところだが、

勤務中の1杯であれば、ミディアムボディの方がいいだろう。


「おまたせいたしました。当店おすすめの赤ワインでございます」


グラスを大きく回しながら、

深く深く刻まれたおっぱ●谷間の前・・・もとい、

謎めいた客の前にそっと置く。

ボルドーやポートワインのような長期熟成をしているものや、

長期間寝かせいているボトルなどはデキャンタに移し、

空気と馴染ませることで、閉じてしまった本来持ちうる香りを呼び覚まし、

口に含む瞬間の苦味を軽減する事があ出来る。


だが、このワインの葡萄はピノ・ノワール。

デキャンタージュすることにで香りが飛んでしまったり、

繊細なストラクチャーが崩れてしまったりすることもある。

こういったワインで還元臭が気になった場合は、

デキャンタージュではなく、

グラスに注いだ後にスワリングする方が良い。


「・・・チェリーやラズベリーのフレッシュな果実味と、なめらかな口当たりがいい感じね」

「チェリー・・・ですか」


むぅ。


まさかこの女。

俺が素人童貞男(チェリー)だと見抜いたのだろうか。

やはりタダモノではない。

女の出方次第では俺がケダモノになりそうだ・・・


「それにこのお肉、なんて柔らかいの。ついワインを飲み干したくなるわ!」


むむぅ。


まさかまさかこの女、

「俺の肉を食べて飲み尽くしたい」

と、回りくどく言ってるのだろうか。

こうなったらケダモノになるしかない。

おもわずバーテンダーの制服である、

カマ―ベストのボタンを外そうと手を動かそうとすると、

それよりも早く、謎の●っぱい美人が口を開く。


「申し遅れましたが、冒険者ギルトのサブマスター、イザベラ・シュロートと申します。本日は冒険者チーム風の護り手の事で伺い事があって参りました」

「・・・風の護り手、ですか」


思いがけない名に不覚にも取り乱してしまう。


サブマスターに出したつまみは、

俺の晩酌用に取っておいた缶詰の

「缶つまMAXシリーズ豚の角煮」という事と、

おすすめのワインが日本の激安酒店から購入した、

チ●産赤ワイン498円だという事がバレたのかと思った・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。