月夜
「・・・ここは?」
ふと目が覚めると、
目の前には大きな月がふたつある。
だが少し妙な気がする。
蒼と赤の月があるはずなのに、
浮かんでいるのは白い月がふたつ・・・
「あら、気が付いたのね」
月の裏から女性の顔が現れ・・・るはずもなく、
俺はかまくら●っぱいのお姉さんに、
膝枕されている事に気が付いた。
「驚いちゃった。いきなり鼻血出して倒れるんですもの」
かまくらお姉さんは、
肩を揺らして笑っている。
肩を揺らせば、かまくらの双丘は、
人類がこれまで経験したことが無い震度で揺れている。
鼻血を噴き出し記憶をなくした状況を思い出すと、
再び血を噴き出さんばかりの恥ずかしさに襲われ、
あわてて飛び起き正座する。
次に出血すれば間違いなく致命傷だ。
見渡せば部屋の中心部にあるベットの上だ。
どうやら飾り窓の奥にある、
通称蜂の巣と呼ばれる小部屋のようだ。
時計を見ると、午後5時を回っている。
あれから2時間近く経過している事になるのか。
「すっ、すみません。ご迷惑おかけしちゃって。あの、ちゃんと料金はお支払いしますので・・・」
俺にしては珍しく、
しどろもどろになりながら、
かまくらお姉さんに詫びを入れる。
「ここ殿方を天国に案内するサービスを提供する事で、対価としてお金を貰っているの。でもあなたにはまだ何もサービスを提供してないわ。だからお金はいならなから」
「いっ、いや、そう言われてもご迷惑をお掛けしましたから・・・」
サービス提供されていないといっても、
彼女の時間を無駄に消費させている。
まだ込み合う前の時間帯だと言っても、
俺に構っていなければ、他の客を取る可能性もあったはず。
機会損失を考えれば、迷惑料は正当な支払いだ。
「私はステラ。あなたの名前は?」
「レイと申します」
「レイさん。いい名前ね」
「どうも・・・」
ステラと名乗るかまくらお姉さん。
見た感じでは20歳くらいの風貌だ。
立派すぎる戦闘力は置いとおいて、
化粧も娼婦にありがちな厚塗りではなく薄化粧。
肌の艶がその若さが偽物じゃない事を証明している。
(こんなハイスペックな女性が何故飾り窓なんかに・・・)
ここは比較的年齢が高くなったものや、
子持ちで娼婦となったもの。
高級店舗から訳ありで流されてきたものなど、
言葉は悪いが2線、いや3線級の娼婦がいると言われる格安ゾーン。
そんな飾り窓に似つかわしくない女性の存在に、
今更ながら奇妙な違和感を感じている。
「あなたいい人そうだったからつい声をかけちゃったのよねぇ。まさか気を失うくらい驚かせちゃうとは思ってもみなかったわ。ごめんね、ふふっ」
確かに驚いて血を噴き出したが、
それがあなたの「かまくら」だという事は秘密にしておこう。
「すっ、すみません」
「そんなに謝らないで。下心があったのは私もだから、お互い様よ」
「下心ですか?」
「ええ。優しく相手をしてくれそうな殿方を選んでいたんだからね」
優しく。
いや、あなたのかまくらを生で拝めたら、
優しさの欠片もない獣になる確信はある。
「本当に優しい男はこんなところに来ないんじゃないですかね」
恥ずかしさを紛らわせるため口を動かすのだが、
どうも上手な答えが出で来ない。
「もう随分長い事こういう仕事をしている分るのよ。これも固有能力なのかもしれないわね」
随分長い事。か・・・
うちの爺ちゃんみたいな事を言うものだ。
ローランドでは成人した女性しか客を取ることは出来ない。
どうみても彼女は20歳そこそこだ。
5年のキャリアでそこまでの悟りを開く境地みたいな事を言えるのだろうか。
いや、まて。
それは俺のバーテンダーの物差しだった。
好きな男でもないヤツの相手を、
5年間も休みなしにこの商売を続けていれば、
「たった5年」じゃない。
5年も経っていると考えるべきだった。
「すごい能力ですね。嘘をつけない人は怖いですよ、はははっ」
「誉め言葉とうけとっておくわ。ところでお願いがあるんだけど・・・」
「俺で出来る事であれば、ご迷惑をお掛けしてますので」
「抱いてほしいの」
キターーーーーーー(≧▽≦)ーーーーーーー!!
「おっ、お姉さんと●●●を●●●で●●●するんですかぁ!!」
これ以上の出血は命取りだが、
鼻から一筋の血が滴り落ちていく。
「ごっ、ごめんなさい、そうじゃないの!!」
ああ、やめてくれ。
それ以上俺を憐れんだ目で見ないで欲しい。
あわてる度に激しく揺れるそのかまくらが、
コントローラブルな俺に、
むんずと掴まれませんように。
「私はもうおばさんだから、殿方の相手は卒業しているの」
「・・・はい?」
「私はマネージャーの仕事をしているんだけど、今日から始めてお客さんと相手をする新人の子がいるの。最初は優しくて激しそうじゃない殿方に相手してもらいたいなった声を掛けた訳」
「はぁ」
「ちょっと、中に入っていらっしゃい」
かまくらお姉さんことステラさんに声を掛けられると、
奥の部屋から小柄で緑髪の女性が入ってきた。
美人と言うよりは、可愛いタイプの少女である。
客を取るという事は、少なくとも15歳以上なのだろうが、
体つきが細いせいかそれよりもっと幼く見える。
薄手のドレスでカラダのラインが浮き出ているが、
戦闘力は年相応といったところか。
決して小さい訳じゃないが、
かまくらと比べれば雪うさぎである。
「・・・・」
緑髪の少女を見つめていると、
みるみる顔が赤くなっていくのが分る。
まぁ、布地の少ない服からは、
色々と見えてはいけない所がはみ出している。
服としての機能はダメダメだが、
男心をくすぐるには十分すぎる高性能。
そんな姿を見知らぬ男から見つめられているのだ。
恥ずかしい気持ちは痛いほどわかる。
「ほら、挨拶は基本中の基本でしょ!」
「・・・・」
「この子はミーナ。今日から仕事始めなんだけど、この通りで。それで私が手ほどきをしようとしたの」
「そういう事でしたか」
かまくらを期待させて雪うさぎが登場すれば、
クレームものではなかろうか。
そんな事を考えていると察したのか、
だからそういう事をいえないカモ・・・もとい、
優しい客を見繕っていたらしい。
俺ってそんなにチョロく見えるのだろうか。
「お兄さん、そういう事で、この子と遊んでくださいませんか?」
「いや、俺ももうすぐ仕事の時間なんで、そろそろ帰らないと・・・」
「それは残念ね。この子の初めてを捧げる相手をまた探さなくっちゃいけないわ」
「・・・えっ?初めてって。初めて客を取るって事じゃないんですか!?」
「初めても何も、この子は●女だから。初めての相手からは優しくしてもらいたいじゃない」
キターーーーーーー(≧▽≦)ーーーーーーー!!
「お姉さん、ここに金貨20枚あります。オールナイト10日分、これで間に合いますね」
「毎度ありぃ♪」
俺はの処●の娼婦を買い上げた。




