廓
ほどなくしてチロルが戻ってきた。
緑髪の少女の居所を把握してきたのだが、
大まかな場所しか特定する事が出来なかった。
チロルが尾行に失敗したという訳じゃない。
少女の行く先が、俺がチロルの立入を厳しく制限しているエリアに入ったのが理由である。
場所は店から2キロ程離れた地区。
その地区は、周囲を取り囲むように高い塀がめぐらされている。
塀というより、もはや城壁レベルの堅牢さだ。
公都リンデンバーグ唯一の遊郭街。
ローランドと言われる特殊地区だった。
ローランドに入城するには通行料が必要となる。
銀貨1枚とそれなりに値が張るのだが、
この料金は公都リンデンバーグの公的な収入源である。
またこの地区の治安維持は公爵家が直属に行っている。
まぁ、領主が公に風俗店を経営していると説明すれば、
聞こえが悪いかも知れないが、
ここが無ければ生活に窮する者がいるという事も事実である。
むしろ行政が風俗街を規制地区として保護する事で、
マフィアなどの介入を防ぐことができる。
こういった行政主導の遊郭街管理は、
かつての吉原遊郭などにも見られる。
「・・・久しぶりだな」
遊郭街ローランド。
城壁に囲まれた閉鎖空間に、100近い娼館が立ち並ぶ。
斯く言う俺も若かりし時、女性を知ったのはこの花街である。
まぁ、最近ではすっかりご無沙汰している訳だが・・・
ここに立ち入るには、通行料に加え身分証明書の提示が必須だ。
ギルドカードや行政府発行の滞在許可証を持たない者は、
決して立ち入れない秘密の園。
また娼館で働く者も、許可なく外出が出来ない訳で、
「篭の中の鳥」状態となる。
その唯一の出入口となる「廓門」には、
魔石による強力な結界魔法が張り巡らされており、
武器の持ち込みの禁止や魔法の使用などが、
廓内で厳しく制限されている。
ローランドの開門時間は午後3時。
そして閉門は午前9時。
この街で支払いは現金のみ。
ツケは一切認められない。
よってこの街の情事は一晩限りで精算される。
支払いのトラブル防止と治安維持は、
こういった厳しいルールで守られている。
入城料金が高額なのは、
支払い能力の確認という事なのだろう。
「あらぁ、そこのお兄さん。ちょっと遊んでいかない♪」
街を歩くと飾り窓と呼ばれる全面ガラス張りの小部屋から、
きわどい衣装・・・というか、
布地面積的には衣装の機能を果たしていないと思われる、
スケスケの衣をまとった娼婦・・・もとい、
お姉さまから声を掛けられる。
初めてこの街を訪れたのは、
店の常連である冒険者に強引に連れてこられた時だ。
正直恥ずかしさのあまり、あの時の記憶は定かではない。
だが、このお誘いの声だけで気絶しそうになった事だけは覚えている。
下衆な話になってしまうが、この大通り沿いにある飾り窓。
個室は両側に100室ある。
これは娼婦が利用料を負担してその個室で待機する。
客が利用する場合、娼婦との交渉により値段が決まる。
まぁ、相場はあるものの、客が娼婦を選べるように、
娼婦も客を選ぶことが出来る。
その点において、飾り窓の娼婦は個人事業主であり、
娼婦の年齢層も高い傾向にある。
だが飾り窓の利用料は、
店舗型の高級娼館に比べて格安であり、
遊び慣れた強者にとっては「天国の入口」と呼ばれている。
通りの入り口側が指名される可能性が高い為、
利用料金は高く、奥に行くほど値段は安くなる。
当然ながら、お姉さんの年齢は奥に行けば行くほど高くなる為、
通りの終わり付近は「奥の院」と呼ばれている。
「はははっ・・・」
今ではお姉さんの呼び込みにも、
ヒラヒラと手を振り返す余裕が・・・
すみません。
そのような余裕は今もって持ち合わせていない。
実のところ、出来る限りこの街に来ることは避けていた。
俺には覗き見覗き見の能力がある。
欲望を吐き出した後、相手をしてくれた女性や、
この街に蠢く快楽や憎悪といった、
見てはいけない人間模様が見えてしまう。
ここで働く女性が悪いのではない。
ここを利用する客が悪いのではない。
理屈では分かっているのだが、
俺はそれが耐えがたいものに感じてしまう。
だが、それでも女性には興味がある。
一時はどっぷりとこの街に入り浸ってしまったが、
最近ではすっかりご無沙汰していたという訳だった。
(それに、こんなところに来ているってチロル達に知られたらな・・・)
クレア魔法学園の授業が終わる午後4時。
それまでに緑髪の少女についてなにか情報を掴みたい。
バレると俺の腸がチロル達に素手で掴まれる。
緑髪の少女は、門番の衛士から、
身分証の提示求められず素通りしたらしい。
という事は、顔を知られた廓の住人という事になる。
あの年齢で客を取るという事はあり得ないので、
娼婦の身内か小物と呼ばれる奴隷の可能性がある。
酒はお母さんからの使いと言ってたから、
奴隷の子供って線もある。
衛士にそれとなく聞いても良かったのだが、
幼女を目的とした変態野郎変態野郎という目で見られるかもしれない。
幼女に手を出す愚か者は「極刑」というのが王国法だ。
あまりにもリスクが高すぎる。
「ちょっとそこのお兄さぁ〜ん!」
「暇なら私と遊んでいかない?」
「あらぁ、いまならたっぷりかわいがってあ・げ・る♪」
窓越しに幾人ものお姉さんから声を掛けられるが、
それよりも今はやるべきことがある。
むむぅ、集中力。
心頭滅却すれば火もむまた涼し。
煩悩退散。
煩悩退散。
煩悩退散。
「サービスでぱ●●●●ふしちゃおうかなぁ〜♪」
なにぃ。
伝説の●●ふぱ●●だとぉ!
けしからん。
まったくもってけしからん。
俺を満足できるサービスとは、
どんだけ高性能で高品質な戦闘力が必要だと思っているのか。
思い上がりも甚だしい。
ここまでどれだけ自分を押し殺して、
目的遂行を果たそうとしているのか。
今俺は無性に腹立たしい。
その忌々しい戦闘力をとくと拝見しようではないか!
NGワードを投げかけた淫売を成敗しようと我が眼を向けてみる。
「こっ、これわぁ・・・!!」
そこにあったのは、冬の秋田県を思わせる光景だった。
真っ白い透き通る雪原の様な肌に、突如盛り上がる双丘は、
真っすぐ突き上りながらも重力の法則を完全無視しているではないか。
まさにそれはツインかまくら。
ロケットおっぱ●●を超える人類の至宝。
だが、この場所は飾り窓でも最奥にある「奥の院」
このようなレベルの戦闘力が存在しているはずがない。
いったいなんなんだ、この場違いな怪物は。
ああぁ。
魅惑のかまくらおっ●●い。
俺の思考が解けていく・・・
ぶぶぶっっっ。
「・・・お兄さん!?」
鼻から大量の血飛沫を噴き上げながら、
俺の記憶は途切れる事となる。




