続・ロミオ
リーネに怪しげな手紙が届いた日から、
警戒しながら学園に通わせていたのだが、
それらしき人物からの接触は無かった。
だが、ギルダー商会事件との関連性が否定できない以上、
用心するに越したことはない。
通学はチロルの警護、ウチに帰ってからは、
リーネが自分の部屋にいるときでも、
アリサに店周辺にかけての警戒を強化している。
さすがに学園内部に侵入する事は控えたのだが、
これだけ警戒している中、同じような手紙が届くような事があれば、
学園関係者の内部犯行と断定できるだろう。
そしてその日はやって来た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
親愛なるリーネ嬢へ
僕の心はくらうでぃー。
キミからの返事をずっとまってるけれど、
朝霧がどんどん濃くなって雨雲になった。
そう、まっているのはれいにーぶるー。
だってきみは心のサンシャイン。
いつか僕の霧を腫らしてくれるんだと信じているよ、
マイハニー。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
帰宅したリーネから差し出された2通目の手紙。
いつも笑顔のリーネであるが、
さすがに目の奥は笑っていない。
それもそのはず。
今回も前回に増してぶっとんだ内容だ。
読みだしてすぐ猛烈な頭痛に襲われる。
「・・・今回もぶっ飛んだ内容だな」
「誰なのか分かったら、お手紙は遠慮しますと伝えたいです・・・」
世間知らずのリーネだが、
この手の手紙で相手に嫌悪を感じている様子。
チロルは血管を浮かべてイラついているし。
犯人を捕まえられなかった事が、
よほど悔しかったらしい。
今回も机の中に手紙が入っていたが、
朝一番では入っておらず、
昼食を食べた後に気が付いたらしい。
警戒しているチロルの目を盗み、
再度手紙を机に忍ばすなんてことはあり得るのだろうか。
そして手紙はまだ続いている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
空を見上げてごらん。
あの満天の星々を。
キミは青い月の様に輝いている。
僕はそんな月を見守る影の様な存在。
それはダークマターと呼んでいい。
だから僕はいつでも空からキミの事を見てるんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
・・・どこのどこつか知らないが。
俺はコイツの事を「暗黒男」と呼ぶことにする。
それが不満なら「あいらびゅ〜」だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
恋に恋い焦がれ恋をすると、
目の前は真っ暗になってしまう。
もしかして僕の事がわからないのだろうか。
それはそれで無理もない。
もう随分時間と言う残酷な調べがぼとくキミの間に立ち塞いでいる。
あの日僕はキミの元を飛び立った。
だがその時気づく事の出来なかった罪。
罪は罰を受けなくてはいけない。
僕の翼は片翼を失ってしまった。
キミという翼を。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いま俺はコイツにどのような罰を与えるのか。
煮えたぎる腸で自家製もつ煮込みが出来てしまう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
キミも僕と言う翼を失った片翼の天使。
いまこそふたりが一緒になり、
両翼をあわせ星降る夜空に飛び立とう。
おっけぇぇぇぇいな返事待ってるぜ!
PS 両翼をあわせるという事は、大人の階段をのぼるって事だよ♪
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ビリっ。
思わず手紙を引き裂いてしまった。
「レイ、そんなに興奮しないで。顔が悪いわよ・・・」
「おい。顔色だろう。どさくさに紛れて酷いこといってないか」
アリサがやれやれといった目で俺を見つめるが、
そんな事で俺の怒りは収まらない。
なにが「大人の階段を上る」だ。
コイツには「地獄の門」を潜ってもらう。
年頃の娘をもつ父親の気持ちが良くわかるぞ、まったく。
いまならリーネに「臭い親父はあっちに行って」とか、
チロルに「汚いオジサン、タヒねばいいのに」と言われても、
素直に受け入れる事が出来ると確信している。
「ところでマスターさん。「大人の階段」って何の事ですの?」
「・・・それはアリサに聞いてくれ」
「それは・・・あなたの専門分野でしょ!」
アリサには白い目で見られたが、
チロルは頬を一気に赤らめて俯いている。
なるほど。
こういう知識はチロルの方がお姉さんだったか。
「それより、今回の手紙もダメだったの?」
アリサが俺に手紙の解析結果を促すが、
答えは前回と同じである。
「ダメだ。記憶のかけらもない。これほど念入りに消去されているのは珍しい」
「そんなに珍しいの?」
「まぁ、情報だけ消すのは簡単だ。例えば結界の魔石あるだろう。あれなんかに近づければいい。魔素の情報は磁気情報と似ている。より強力な魔素反応で上書きすればいいんだけど、この手紙には上書きされた形跡がない。身割れしたくない理由でここまでの徹底ぶりには違和感がある」
文章の内容だけ見れば、頭の悪い輩であるが、
他の意図を隠しているのであれば、よほどの知能犯だ。
そうなればたちが悪い。
「チロル、悪いが手紙が机に入れられる瞬間じゃなくてもいい。時間を絞り込めるよう見張ってくれ」
「・・・わかった」
「それとリーネ。この手紙の内容は出鱈目だとは思うが、過去に変な男に言い寄られた事はないよな。よく思い出してくれ」
「心当たりはありません。私はずっとお屋敷の中で暮らしていたし、男の人との接点なんてありませんでした。メイドはみんな女性で、家庭教師の先生も女性でしたから」
「やれやれ、この文章から犯人像を絞るのは難しいな」
袋小路のこの状況。
喉の渇きを潤す為、アリサが煎れてくれた紅茶を一気に飲み干した。
【あいらびゅ〜】
「ぶっふぅっっっ!!」
「きゃゃゃゃゃゃぁ!!」
一面俺が吐き出した紅茶が飛び散り、とてつもなく悲惨な状況となった。
一番の被害者は、俺の正面にいたリーネだ。
全身を紅茶まみれとなり涙目である。
「突然どうしたの?」
咳き込む俺の背中をアリサが擦ってくれる。
チロルはタオルを取りに洗面所に向かってくれた。
「悪いリーネ、突然・・・」
ここで言葉を詰まらせる。
まさか笑いの神が降臨したとは言いだせない。
「・・・とにかくごめん」
「いっ、いいのよマスターさん。それより大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ・・・」
暗黒男。
いや【あいらびゅ〜】
絶対に●っころす!!!
俺に絶対的な殺意が芽生えた。




