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異世界BAR 月に吠える  作者: しゅーる君


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再起動

ギルダー商会事件から数日が経った。


あれから変わった事は無かった・・・と言いたいところだが、

色々ありすぎて何から説明すべきか迷うくらいだ。


まず、最も会いたくなかったギルドマスターと面会したのは、

事件後3日たった早朝だった。

久々に飲食店(バール)を開店しようと扉を開けると、

そこに鬼の様な形相のトラウゴット・フェラーが立っていた。


まぁ、こんな禍々しい魔素をまき散らしていれば、

そこにいる事は明白だったのだが、

昨日もそうやって立ち尽くしていたから、

思わず開店させる事をやめてしまった。


さすがに二日連続となれば、

乗り込まれそうな殺気を感じて観念したって訳だ。

まぁ、ギルドマスターもおっかなかったけど、

チロルのヤツも負けないくらいの殺気を出して威嚇してたっけ。


ギルダー商会の商会長邸宅に踏み込んだ際、

中にいた全員が気絶していた事。

地下牢から商会長とその家族と使用人と思われる、

多数の亡骸が発見された事。

チロルから連絡を受けた時、

俺がどこに行ってたのかを問い詰められたけど、

結局証拠は何も無い。

そんな押し問答が続いていると・・・


「おい、トラ男。いい加減にしないか!」


と、アリサが厨房から現れる。

アリサの顔を見ると、ギルドマスターの顔色が一気に青ざめていた。


「男がいちいち細かい事気にしない。ほら、さっさと帰った帰った」


舌打ちをしながらではあるが、

ギルドマスターはそれ以上の詮索を諦め店を後にした。

ふたりの間に何があるのか、

聞いたところでどうにもならないので、

あえて聞かないことにした。

俺にとってプラスになることなど何もないのは、

能力(スキル)を使わなくたって理解することができる。


帰り際に「情報料だ」と革袋をカウンターに投げ捨てられる。

ずっしりと入っている革袋。

まさか銅貨や銀貨ではないだろう。


「お釣りですよ」


そう言って、酒瓶を1本差し出した。

馬のエンブレムが特徴的なそのボトルはブラントン。

冷凍保存されていたものより安いランクだが、

この世界じゃ手に入らないバーボンである。


「・・・ふん」


不満気にではあるが、

彼の右手はしっかりと酒瓶を握りしめた。

納得はしていない様子だが、

面倒なヤツからは、なんとかこれで解放された。


さて、問題はまだある。

というより山積みだ。

まずクラリッサだ。

幼女のカラダとなっていたが、

アリサの能力で元に戻す・・・といきたかったのだが、

急激な成長は負担が大きいという事で、

2〜3ヵ月をかけて成長させることとなった。

風の護り手のメンバーは、

リリスに魔素を吸いつくされ、

搾りカス状態で発見されたが、

残念ながら冒険者復帰は難しそうだった。

長命種であるエルフのクラリッサ以外は、

これを機に冒険者家業は引退し、新たな人生を歩む事となるだろう。

猫人族(ケット)のレオナは間もなく田舎に戻るらしい。

魔術師(ウィザード)のリリーは、王都にある魔法学園で教師となる予定だ。

随分前から引退後の身の振り方を考えていたのだとか。

一番重症を負っていた盾戦士(タンク)のナータン・クライムは、

再就職先を探すといっているが、冒険者家業以外何のとりえもない不器用者。

どこか就職先を決めて、カラダの傷と心の傷も癒してほしい。

そしてアランの旦那なのだが、Aランクの剣士という職歴が認められ、

ギルド所属の剣術師範に採用された。


「クラリッサを食わせねばならん。安定職というば冒険者ギルドだ」


と後にアランの旦那が俺にそう語ったのだが、

クラリッサと恋仲だったという事実を知って、

俺のお●ぱい・・・もとい、

淡い恋心は見事打ち砕かれるのであった。


そして、アンネリーネだ。

物心付いたころには、商会長邸宅の一室で監禁状態であったらしい。

実父である商会長やその家族が亡くなったと知らされても、

その事実を受け入れるだけで、

悲しいというようなそぶりは見せなかった。

その反応は、人の死というものがどういうものなのか、

そもそも理解しているのか疑問に思えた。


唯一アンネリーネが心配していたのは、

身の回りを世話してくれていたメイドのカトリーナだ。

生きていれば、30代前半だったと思われるが、

半年ほど前から、急に彼女が冷淡になっていったのだとか。

リリスの精神支配を受けていたか、

リリスそのものが変化していたのかもしれない。

カトリーナから能力の使用を強要されたとき、

目の前のカトリーナに見えるメイドは、

カトリーナではない事に気が付いていたそうだが、

唯一の心寄せる人からの命令では、

贖(あがな)うことは出来なかったようだ。


地下牢から、カトリーナの遺品が回収された時、

アンネリーネは俺の前で初めて泣いた。

実の父や家族が亡くなったと伝え聞いても、

感情かまったく揺さぶられなかったのに、

メイドの死に涙を流すのだ。

俺には関係の無い他人事なのだけれども、

なんともやるせない気持ちが溢れてくる。


「という事で、アンネリーネは学校に行くんだ」

「・・・えっ?」

「アンネリーネだと「AN」事件後で悪目立ちするから、今日からお前は「リーネ」だ」

「・・・はっ?」


今まで学校に行ったことの無かったアンネリーネ。

いや、リーネか。

詳しい説明が苦手な俺は、

ど直球に学校に行けと命じたのだが、

これはこれで悪い考えではないはず・・・だ。

俺達との出会いは最高のカタチでは無かったけれど、

出会ってしまったのは何かの縁。

成人するまでは、俺が責任をもって面倒を見ようと思っている。

それに俺の傍であれば、あのとんでもない能力ごと、

リーネを魔族や第三者から守れる事が出来る。


「それと、チロル。お前もリーネと一緒に学校だ」

「・・・えっ?」

「リーネの護衛を頼むぞ」

「・・・はっ?」


予想外の事が起きると、

どうやら同じリアクションとなるらしい。

護衛というのは建前であり、同世代のチロルにも、

もっと世の中を見て欲しいと思っていたところだ。

以前にも学校に行きたいかと聞いたことがあるが、

「イヤ」とけんもほろろに断られていた。

さすがのチロルも、護衛任務だという俺の命には逆らえないらしい。

頬を膨らませながらも、はしゃぐリーネと手を取り合っていた。


「という事で、飲食店(バール)の店番はアリサ。キミに頼みたいんだけど」

「あら、雇ってくれる気になったのね。でも私の時給はちょっとお高くってよ」

「そりゃ残念。それじゃ雇用契約は直ぐ解除しなくちゃいけないな」

「ちぇっ、人の弱みに付け込んで!」


日本に家りたいと願っていたアリサだが、

30年の時間差を考え、しばらくは異世界に拠点を置いたまま、

日本の文化に馴染む事を選んでくれた。

どちらの世界からも異端とされたアリサの気持ちはわからなくもない。

俺も10代の頃からひとり悩み続けているのだから。


「ところでアリサ。ギルドマスターとはどんな関係があるんだ?」

「んあ?それは・・・言わぬが花というものね」


なにか企んでいるような顔のアリサ。

秘密をずっと守っていられそうもないタイプに見えるので、

まぁ、そのうちきっと何か分るだろう。

こうして本日から「月に吠える」グループは再起動する。


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