黒幕
一連の失踪事件の黒幕は誰なのか。
魔族ダンダリオンは戦闘能力こそ高かったが、
これほどの事件のシナリオを作れる知性は感じなかった。
その答えはアリサが簡単に教えてくれた。
「いやぁ、私も参っちゃうほどの化け物だったよ・・・」
彼女から語られた黒幕の存在。
俺はそいつを知っていた。
実のところ、直接会った事は無い。
能力で知り得た情報に、
それらしき存在がいたって事だ。
それは、魔法陣を発見した作業小屋で、
若い男を惨殺していた若い女の事だ。
肝心の顔こそノイズで隠されていたが、
見かけによらないプリプリの戦闘力は忘れるはずもない。
完璧なお椀型だった。
「確かに化け物と呼ばれるような酷い事はしていたけど、そんなに怖がるほどの魔力なんて無かったんじゃないか?」
「何言ってんの。私が出会った中じゃ1・2を争う魔力量よ。それにその能力も・・・」
異世界エルカンダルで召喚者は神落子と呼ばれているらしい。
この世界の人類に比べ、圧倒的に魔力量が多い召喚者は脅威の存在であり、
尊敬や畏怖といった特別な存在なのだろう。
そんなアリサもこの世界の人類種に比べれば、
圧倒的な魔量をもって無双していたのだとか。
まぁ、アリサの昔話は別の機会があれば。
「それでそいつの名前はなんて言うんだ」
「魔族の間では『リリス』って呼ばれてた。けど本名じゃないだろうね。私も『ラハブ』って呼ばれていたから」
黒幕はリリスと呼ばれている魔族の女。
彼女は退魔障壁が何重にも張り巡らされている、
公都リンデンバームに侵入するべく、
何百人もの贄をもって、
転移魔法陣を作り上げていた。
それがあの血濡れの魔法陣という訳だ。
「そこまでしてリンデンバームに侵入したかったのは、アンネリーネの存在か?」
「まあね。それだけアンネリーネの能力は魔族にとって魅力的だったのよ」
魔族ダンダリオンとは、
リリスがアンネリーネの能力を使い生み出した合成魔族だったらしい。
元は一介の冒険者を素体としているようだが、
アランの旦那を始め、高ランクの冒険者の魔力を注ぎ込み、
合成魔族を作り上げたのだとか。
仕上げは三十六人衆と呼ばれたかつての魔族の精神体を入魂。
この方法で、公都リンデンバーク三十万人の魂を贄として、
多くの魔族を復活させる事を計画していたのだとか。
まったくもって、とんでもない計画だ。
アンネリーネの存在は、ギルダー商会でも商会長はじめ、
限られた関係者しか知られていなかったが、
リリスによって悪魔憑きとされた間者の中に、
ギルダー商会の隊商メンバーがいたらしい。
だが、アンネリーネの存在は、商会内部でも情報管理が厳しく、
商会内部でも「AN」とコードネームで呼ばれ、
公都リンデクバーグのどこに隠まれているのか秘匿されていた。
アンネリーネの存在が知られた故に、
「AN」から始まる人物狩りが始まり、
アンネリーネを巣穴からいぶりだすとともに、
魏税者の多くは魔法陣の贄となっていったのだろう。
ギルダー商会の関係施設は、
リンデンバーグ城壁に施されているものより、
数段高度な退魔障壁があった。
リリスでもその所在を探知することは難しく、
そこで「AN」から始まる人物の失踪事件を作り上げたのだ。
いずれ追い込まれたギルダー商会から、
アンネリーネがいぶり出されるとの見立てだ。
つまり一連の失踪事件の被害者は、
「AN」からはじまる名前ゆえになんの落ち度もなく犠牲となった。
これが事件の真相だった。
ギルダー商会の商会長は、
アンネリーネを公都リンデンバーグから脱出させて間もなく、
屋敷内の悪魔憑きの使用人に惨殺されていた。
魔力耐性の強い人間は、悪魔憑きに利用できないからな。
ギルダー商会の中枢にいる人間は、
このタイミングでほぼ全て粛清されていたらしい。
アンネリーネがリンデンバーグ近郊で拉致された後は、
リリスの支配下となったギルダー商会長邸で幽閉されていたという事だった。
アリサから語られたのは衝撃の内容だった。
とてもじゃないが、俺の能力をもっても、
ここまでの情報は得る事が出来なかっただろう。
リリスの精神支配の影響で、逆らえなかったとはいえ、
一連の事件で片棒を担がされたアリサ。
彼女の身の上を聞く限り、
責められる事じゃないように思えた。
「どうする。私の事を断罪しても、私はあなたを恨まないわ・・・」
「俺は場末の酒場のバーテンだからな。そんな役回りは真っ平ごめんだ」
「そう・・・」
「それより今後の身の振り方はどうするんだ。日本に帰ってきたといっても、時代は30年以上ズレちまってる」
「・・・それならひとつ頼みがあるんだけど。私をここで雇ってよ」
上目づかいで俺に顔を近づけて来るアリサ。
潤んだ瞳にはグッとくるものがあるが、
騙されるな。コイツは100歳のお婆ちゃん。
「・・・ダメ。この店にはアタシがいる」
チロルが猛烈な殺気を放つ。
コクリコクリと船を漕いでいたアンネリーネも、
はっとして目を見開くほどだ。
居場所の無かったチロルにすれば、
ついさっきまで魔族だった得体のしれない相手が、
一緒に働く事になるとは受け入れがたい事だ。
といっても、このまま放りだすのも忍びない。
それに、アンネリーネの処遇もあるのだ。
「おい、アンネリーネはどうしたい」
「あっ、はい。私はずっとお屋敷でひとりでしたので、出来ればもう少し外の世界を見てみたいという気持ちが強いです」
実の父親を含めた家族全員が、
魔族たちの姦計で惨殺されたと聞いても、
アンネリーネは動揺する素振りが無かった。
実のところ、実父である商会長とすら記憶にある限り、
片手で数えるほど、しかも5分から10分程度の面談しか記憶にないとのこと。
実母に至っては、顔すら知らないという。
家族の愛というものを知らずに育っているのは間違いない。
「クラリッサはどうする?」
「アラン次第ね。アリサのお陰で死んではいないみたいだから」
風の護り手のメンバーは、
アンネリーネから魔力を吸い取られた後、
回復をまって再度魔力を搾取するというアリサの命らよって、
死なない程度で辛うじて生き永らえていた。
クラリッサとアリサの関係が良好だったのは、
風の護り手のメンバーの保護が約束されていた為だった。
まぁ、魔族をどの種族より嫌っているエルフが、
マッサージするほど仲良しだったのはこれが理由だった。
「チロル、まぁそう言うな。今回のチロルの働きは誰よりも大きい。だから今夜は豪勢なディナーだぞ」
「・・・び●くり●ンキー?」
「おっ、おう。はんばーぐでもステーキでもなんでも好きなもの食わせてやる」
「ええっ!びっ●りド●キーって今もあるの!?」
アリサが興奮気味に食いついてきた。
チロルはそんなアリサに今すぐ噛みつきそうな勢いで威嚇する。
「そうだな。ここ30年の変化って言えは、ダイ●ーが潰れてジャ●コが●オンに名称が変わった」
「えええっっ!!それじゃ、ば●どう太郎の味●煮込●どんはぁ!?」
「・・・なにそれ?」
須崎アリサは茨木県民だった。




