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異世界BAR 月に吠える  作者: しゅーる君


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切り札

異世界エルカンダル。


地球とよく似た世界ではあるが、

エルカンダルにあって地球にないもののひとつが、

魔法の根源となっている魔素(マナ)である。

魔素(マナ)とはこの惑星(ほし)の星体エネルギーと言われているが、

それを証明したものは誰もいない。


爺ちゃんが言うには、地球にも魔素(マナ)は存在するが、

エルカンダルに比べれば極めて薄いらしい。

エルカンダルでも地球でも全ての生きる者にとって、

惑星(ほし)の源である魔素は生きる為に必要なもの。

魔素(マナ)は血液とともに体内を循環して、

生きる者の糧(かて)となる。


地球人とエルカンダル人。

そのどちらにも魔素(マナ)は必要であるのだが、

魔素を取り込む能力には大きな違いがあった。

地球人は少ない魔素を効率よくエネルギー変換できる。

つまり、地球人が魔素が豊富なエルカンダルにやってくると、

純粋なエルカンダル人に比べ、圧倒的な魔素変換能力を発揮する。

絶対的なチート能力が得られる地球人は、

エルカンダル人にとって畏怖(いふ)の存在である。

ゆえに地球人をエルカンダルに召喚する事は、

法的にも厳しく制限されており、

その召喚術式は禁呪中の禁呪とされている。


爺ちゃん家の8畳の茶の間。

12月の東北では炬燵(こたつ)が必需品である。

初めて見る畳の部屋に炬燵と座布団。

クラリッサとアンネリーネが戸惑っているのを他所(よそ)に、

女魔族は炬燵のスイッチを入れ我先にと炬燵(こたつ)に足を解き放つ。

それにクラリッサたちも続いて炬燵に足を延ばすが、

なんともいえない表情を浮かべるところを見ると、

日本の炬燵(こたつ)は異世界でも十分通用するようだ。

クラリッサは炬燵(こたつ)の上のミカンに興味津々の様子である。


「・・・80年だ」


女魔族が小さい声でそう言った。

俺は何の事なのかすぐに理解する事が出来なかった。


「私が日本に帰る方法を探してた歳月だよ」


・・・ん?

という事は召喚された時の年齢+80年。

コイツも死んだ婆ちゃんよりも年上だったか・・・・


「なんだ、同情してくれてんのか?」


まさかこんな張りのあるロケット●(ピー)っぱいが、

80歳を超えたお婆ちゃんの戦闘力(バスト)だったのかと、

絶望しているとは口が裂けても言えない。


「いっ、いや。お前の苦労は計り知れないなってさ・・・」


世が世であれば、

すでに垂れ下がっていただろう戦闘力(バスト)に複雑な思いを巡らせる。


「ありがとよ、私が日本に帰りたかったのは故郷に帰りたいって言う気持ちじゃないんだ。正直、もう故郷や家族の事なんかどうでもいい。それよりこの世界は何年だ!?」

「令和8年・・・西暦2026年の12月だ」

「令和?2026年だって!」

「お前が日本を離れたのは何時なんだよ」

「・・・平成6年。西暦1994年だ」


約30年前か。

コイツは80年以上この世界にいるという事は、

召喚魔術というのは、こちらとあちらで時間軸にズレが生じている事になる。


「それはそうと、アンネリーネ。お願いがあるんだ」

「・・・はっ、はい。私にできる事ならば」

「アンネリーネにしか頼めない。だから私は監視役を買って出たんだ。今すぐ私の魔素を吸ってくれ」


魔素の無いこちら側で、魔素を吸い出すというのは、

生命活動に大きな支障を来す可能性がある。

魔素は魂に蓄積されるからだ。

監視役だったとは言え女魔族は敵側の存在だ。

発見した時も感じたが、

アンネリーネと女魔族の間には、

監視者と対象者にみられる緊張感がない。

それにクラリッサもコイツに協力的だ。

まぁ、ここはコイツの言う通りやらせてみよう。

何かあればその時はその時である。


「うーん、でもこの世界には魔素が無いんでしょ。力加減間違えちゃうと・・・」

「構わない。日本に戻ってこれても、この姿のままじゃ誰も私の事分かんねぇだろう。この姿のままだったら死んだ方がました!」


確かに変わり果てた姿では、

家族どころか、誰にも会う事は出来ない。


「なぁ、アンネリーネの能力は、魔素を吸い取ったら魔族が人間の姿に戻るのか?」

「ないない。大体魔族が人間になるってどういうこと?」


アンネリーネが大きく手を振ってそれを否定する。

しまった。

女魔族が日本人「須崎アリサ」だという事は、

コイツと日本語で話していたっけ。

どう説明しようかと言葉を詰まらせる。


「アンネリーネ。それは心配しなくてもいい。とにかく私がいいと言うまで思いっ切り魔素を吸い出してくれ。頼む!」

「・・・それじゃ、限界値がわからないからストップって合図してね」

「ありがとう、アンネリーネ」


黑い山羊のような角を生やし、

全身を鎧の様な褐色の表皮で覆われている姿。

紛れもない人外の存在。

だが、ありがとうと笑顔を見せるその姿は、

人間が感謝を伝えるそれと同じだった。

これがどっぷり炬燵を囲んで、

みかんを食べながらという光景じゃなければ、

涙物の光景生だが・・・


「それじゃいくね」


軽く手を握る。

アンネリーネが魔素を吸収するのは、

たったそれだけで事足りるそうだ。


「・・・魔素吸収(ドレイン)」


僅かにふたりの握られた手が光を放つ。

ゆっくりと髪の毛が逆立つように重力から解放されていく。

初めて目撃する魔素を吸収する能力。

これが吸い上げるだけではなく、

与える事が出来るというのは恐ろしい。


「すっ、ストップ!」


魔素を吸い上げられて1分ほど経過していた。

女魔族からストップオーダーが入る。

俺の能力を使えば、詳細な情報が入るのだが、

アンネリーネの能力に干渉してしまう恐れがある。

肌感覚ではあるが、女魔族の残存魔素量は、

1/10程度まで減少しているように見える。

魔素のない地球で、魔素の回復は難しい。

まして魔族のような膨大な魔力もちは絶望的な状況だ。

それに、見た目は全く変化がない。

女魔族の目論見は外れてしまったという事だろうか。


「・・・よし、魔素は回復していないようね」


上下に肩を揺らしながら、

女魔族はそう答える。

魔素量がこれだけ減少しているのだ。

その疲労感は凄まじいはずだ。


・・・上下に肩が揺れる度に、中央に寄せて弾ける●(ピー)っぱい。


魔族の姿なのに思わず興奮してしまう。

まったくもってけしからん。


「見た目は殆ど変わって無いように見えるが・・・」

「あのねぇ、これをエルカンデルでやったらどうなると思う?」

「同じじゃないのか。魔素が吸われて減る」

「エルカンデル人ならそうね。でも私は地球人。吸われた傍から魔素を取り込んじゃう」

「・・・あっ」

 

「ご納得かしら。つまりエルカンデルじゃ、こんなに激しい魔素消費はあり得ないって事。死にそうなくらい肉体と魂にダメージ受けてれば別でしょうけど。それじゃ意味無いの。まぁ、見てなさい。ここからが私の真の目的よ」


炬燵から立ち上がると、

女魔族は残りの魔素を凝縮させる。

光の粒が女魔族の全身から溢れ出す。

これは聖属性の魔素の反応だ。

魔族が聖属性ってありえるのか?

咄嗟にアンネリーネとリラリッサを引き寄せ結界魔法を展開する。

攻撃系の魔法は得手(とくい)じゃないが、

こういったビビリ系魔法は得意とする。

何が始まったのか驚くばかりだが、

強引に引っ張っても、

咥えたミカンを手放さなかったクラリッサには更に驚いた。


「極大回復(リザレクション)!」


爺ちゃん家の床の間が光に包まれると、

真っ白い空から無数の鐘の音が響き渡る。

だが、僅かに打ち鳴らされる鐘らしきものが目に入ったが、

目を開けられないほどの閃光に、

この部屋がどうなっているのか分からない。

もちろん女魔族がどうなっているのか、

状況はまったくわからない。


(・・・くそっ)


結界魔法発動中、覗き見見切るは使えない。

女魔族を信じるには早すぎたか。

不安が頭の中を駆け巡る。

何分経過したのかわからない。

強い光で視界は白っぼくぼんやりとしかわからない。

後ろにいるアンネリーネとクラリッサが無事な事は確かなようだ。


・・・クラリッサが口をモゴモゴ動かしているのはあとでお仕置き確定だ。


「・・・やった」


女魔族の声がした。


「おい、どうなっている!?」


たまらず声を上げると、

鳩尾に強い衝撃を受ける。

誰かにタックルを受けたような感触だ。


「見てくれ、元の姿に戻れたんだ!!」


見てくれと言われても、

まだぼんやりとしか視覚はもどっていない。

が、なぜか俺の腹のあたりに、

とてつもなく柔らかいものが押し付けられている様な感触が・・・


「主(マスター)、大丈夫!?」


酒場(バー)月に吠えるの扉から、

チロルが慌てて飛び込んできた。

そこには、俺にしがみつく女子高校生風の少女。

誤算があるとすれば、その少女は服を一切身に着けていなかった事なのだが・・・


「・・・主(マスター)、死ねばいいのに」


チロルの刺突剣は、

俺の太腿を見事に貫いている。


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