厄災
「・・・以上が俺からの報告です」
ここは冒険者ギルトのギルドマスター室。
俺の目の前にいるのは、お●ぱい星人・・・もとい、
冒険者ギルドサブマスターのイザベラ・シュロート。
短いタイトスカートで足を組む姿が悩ましい。
そしてその隣には、初老の紳士。
驚くべきはその眼光だ。
眼鏡の奥底にある細い目から、
只者ではないという気配が伝わって来る。
彼の名はトラウゴット・フェラー。
公都リンデンバーグ冒険者ギルドのギルドマスターだ。
初めてお目にかかったのだが、
この街で彼の名を知らぬ者はいないといわれているかつての「英雄」である。
若い頃は、Sランクの冒険者として活躍。
数々の功績により貴族位を叙爵してから、
今では子爵位に陞爵している。
今回の調査報告をしている間、
一切隙がない鋭い眼光には冷や汗ものだった。
お陰で、せっかく美人が俺の目の前で足を組み替えようとしているのに、
デルタゾーンの奥底に隠された秘密の花園を集中して確認することが出来なかった。
まったくもってけしからん。
冒険者ギルドも、一連の事件がそう単純なものではないと考えていたようだが、
魔族が関与しているとは想定外の様子だった。
しかも三十六人衆なんて魔族の幹部らしいのが網にかかったのだ、
予想以上の成果なのだが、同時に新たな厄介ごとか生まれてしまう。
俺への協力依頼は「アラン・マクベウスの情報提供」
魔族との遭遇や麦畑で発見した怪しげな魔法陣は、
直接的にアランの旦那と関係ない。
けれど護衛対象だったギルダー商会のアンネリーネが消失した地点とは、
わりと近い場所であり、一連の事件とまったく関連性がないとは言い難い。
そして俺が収集した情報すべてを報告できるかといえば、
できない事もある。
魔族ダンダリオンを串刺しにした瞬間、
得られた情報にこんなものがあった。
【アラン・マクベウスと戦闘状態になった】
ダンダリオンの魔法障壁が強すぎて、
遭遇するだけでは得られなかった情報が、
マドラーでダンダリオンを貫いた瞬間、記憶の断片を拾うことができた。
数日前、アランの旦那とダンダリオンは刃を交えている。
その場所やアランの旦那がその後どうなったか、
残念だが、詳しい事は分からない。
この情報はまったく証拠がない事と、
アランの旦那に有益になると確定していない以上、
報告すべきではないと考えている。
だが、この調査で得られた点である情報がひとつの線となっていく。
用途がわからなったかった血濡れの魔法陣は、
強制転移用の術式だと理解することが出来た。
タブレット端末で撮影した画像をふたりに見せると、
博識のギルドマスターがそう教えてくれた。
それよりそのタブレットは何かとしつこかったが、
我が家に伝わる魔道具だと必死に胡麻化した。
納得している様子では無かったが、
魔法陣の鮮明な画像は有力な情報提供であり、
ふたりはそれ以上の詮索をすることはなかった。
説明するのが面倒で、ついタブレットを使用してしまったが、
こういうオーバーテクノロジーは、迂闊に使用できないって事を思い知らされる。
強制転移の魔法陣は転移用魔法陣とは違い、
遠隔操作による強制的な人物または物質の転移を可能とするらしい。
俺も使うことが出来る転移の魔法は、
一度言った事のある場所であれば、
その場所をイメージする事で転移が可能となる。
転移魔法を使用できない者でも、転移魔導書を使用すれば、
同じことが出来るのだが、それには入口と出口、ふたつの転移魔法陣が必要となる。
強制転移の魔法陣は、転移したい人物や物質に、
魔法陣などの座標が無くてもロックオンして、
召喚口の魔法陣に強制転移できるという優れものだ。
ただし、これは使い方次第で犯罪に利用される為、
この世界では禁呪としてその術式は厳しく制限されている。
それにこの魔法陣はご丁寧に第三者からの使用を防ぐため、
とびきり複雑かつ面妖な呪印まで施されているという優れものだ。
この強制転移の魔法陣を使用すれば、
ギルダー商会のアンネリーネが忽然と消えたからくりが見えてくる。
責任感の強いアランの旦那が、消失点付近を捜索していたと仮定すれば、
ダンダリオンが遭遇して戦闘になった事もつながっていく。
分からないのは、
風の護り手のメンバーがこの状況を知っていたのか。
また彼らも身を隠す他の理由があったのか。
そしていちばん分からないのが、
このタイトスカートの奥底に隠されたものが、
いったい何色であるのかという事だ。
むむぅ。
よく考えれば俺は今タブレットを持っている。
カメラ機能には動画の撮影も出来るではないか。
しかも、正面でローアングルのレンズの前には、
あの危険極まりないデルタゾーン。
その三角州の暗闇に日が差し込む瞬間は、
すらり伸びた御足を組み替えるその一瞬がシャッターチャンス。
写真などという概念がないこの世界。
堂々と撮影しても気がつかれることは無いだろう。
―――おおっ、神よ。
「・・・その報告を受け入れられると思っているのかね」
どきっ。
ギルドマスターが口を開いたのは、
撮影ボタンをタッチしようとした瞬間だった。
「なっ、なんのことでしょうか・・・」
まずい。
邪な考えを読み取られたのだろうか。
俺の視線は一切デルタゾーンを捉えていない。
そう言えばサブマスターは俺の能力を知っている様子だった。
鑑定の上位互換能力だろうか。
俺のようにステータスを隠蔽する能力を有していても、
それを超えて能力を探り出せるとすれば、恐ろしい能力である。
ギルドマスターがその能力者で、サブマスターに伝えていた可能性を失念していた。
さすがに盗撮まがいの行為はやりすぎたか?
まぁ、完全に盗撮だが・・・
「瀕死の状態で帰還したと聞いたが、魔族との遭遇で生きているとは考えられん」
「あっ、瀕死の状態になったのは他に理由がありまして・・・」
この場にチロルを連れてこなかったのは、
サブマスターに刃を向けた以上、
殺人未遂などと蒸し返させない用心の為だった。
しかし、子供はデザイン性より機能性を重視すべきと、
しまむ●の子供パンツを勧めたのはマズかった。
せめてニ●センの中学●用にすべきだったと猛省している。
まぁ、俺がチロルにボコられたなんて言ったら、
より一層警戒されるやもしれない。
「魔族、それも三十六人衆という厄災が現れたのであれば、この街、いや国家存続の危機的状況なのだ。速やかに冒険者ギルドと公爵家すべての戦力を結集して討伐に向かわなくてならん。国中の戦力を集結させたいが、事は一刻を争う事態。話を大げさにしているのであれば今すぐ訂正願おう」
「いっ、話はまったく盛っていないんですが・・・」
「他にやましい事でもあるのか?」
「・・・うっ」
この瞬間に、●っぱい美人の足が組みなおされる。
わざとか?
わざとじゃないか!?
心にやましい事があるのはズバリ的中だが、
罪悪感を感じる以上に、今すぐ画像を再生したい欲求が勝るぅぅぅぅ!!!
「マスター、お客様がいらっしゃいました。その方からも話を伺ってみてはいかがでしょうか」
イザベラ・シュロートが指を軽く鳴らすと、
俺の隣で俯いたチロルが立っている。
「チロル。なんでここに!」
目の前に二人に気を取られ、
気配を消したチロルの存在に気がつかなかった。
「・・・ほぅ」
不意の訪問者に、表情こそ変わらないものの、
ギルドマスターが小さく感嘆の声を上げる。
「魔族の事は本当。私も一緒に戦った。吹き飛ばさたけれど・・・」
チロルは小さな声ながら、
力強く魔族との遭遇を話始めた。
「・・・これがその証拠です」
ドスンっ。
「「 !!!! 」」
チロルが右手を上げると、
ギルドマスター室にアイテムボックスが開き、
すごい音とともに氷漬けのダンダリオンが落下した。
「やっつけたのは主です。これで魔族の話は信じてもらえますか?」
魔族の話は信じてもらえそうだが、
国中の戦力を集結させて討伐する厄災を、
一介のバーテンダーが討伐したという、
新たな問題が生まれてしまった。




