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第五話 黄泉返りの誓い

挿絵(By みてみん)


第五話はこれにて完結、次は第六話の掲載となります。

第六話は近日執筆掲載の予定です。

挿絵(By みてみん)


爆乳酪農家狙撃兵ホルスタイン零-zero-  第五話 黄泉返(よみがえ)りの誓い


挿絵(By みてみん)




ーーーーー特殊面接室の中に捕虜たちが並んでいる。


変声機を通したマイクでホセが語り掛ける。


「結論は出ただろうか? 君達の総意と覚悟を聞かせてほしい。」


捕虜たちの中から例の大尉の階級章を付けた人物がマジックミラーの前に進み出る。


「はい、Mr.ノンケ、我々はあなた方の提案を受け入れたいと思います、これが我々が話し合って決めた総意であります。」


「幽霊となる覚悟はできた、と受け取っていいのかな?」


「はい....我々は軍人です、祖国に忠誠を捧げた身ではあります....ですが、我々が忠誠を捧げ愛した祖国は、こんな腐敗した国では....断じてなかった!!

我々は愛する家族を救いたい、そして本当の意味で忠誠を捧げるに値する、誇り高かったかつてのあの祖国を...取り戻したいのです!!」


大尉はマジックミラー越しにホセにまっすぐ向き合いそう告げた、その目には覚悟と決意の光が宿っている、捕虜全員がそうだった。


     パチンッ!


マジックミラー越しに彼らの表情を鋭く見つめるホセ指令の手元で、金の懐中時計の蓋が音を立てて閉じられる。


「.....結構だ、ではこれで契約成立だ、今日から君達にはボク達反乱軍の一員として協力してもらうことになる。

前にも少し話したが君達の家族が捉えられている収容所の解放作戦時には、申請してくれれば最優先でその作戦に配置することを約束しよう。」


「俺達はたった今から幽霊だ、俺達の忠誠は腐敗した政治家共ではなく、真なる祖国に捧げるんだ!!」


捕虜の一人がそう叫び、自らの襟元に縫い付けてある階級章を引きちぎり、床に叩きつける。


他の捕虜たちもそれに倣い、次々と床にはぎ取った階級章や記章が叩きつけられ、打ち捨てられる。


「その覚悟と言葉が聞きたかった。」


ホセが傍らのクレアに合図すると、目の前のマジックミラーが上がっていき、初めて彼らは直接対面する。


「.....改めて挨拶しておこう、幽霊となる覚悟を決めた君達はもう同志だからね、ボクの名前はホセ・モントゴメリー。

反乱軍の総司令官だ、君達との契約主だね。」


「ホセ司令官殿、我々にチャンスを与えてくれたことに感謝いたします、収容所解放作戦時の優先配備、よろしくお願いします。」


大尉が改めてホセに見事な敬礼をしつつ答え、捕虜たちも一斉に敬礼する。


「その点については信用してほしい、ボクは今まで、ただの一度だって契約を破ったことがないのが自慢なんだ。」


ホセも答礼を返す。


「.....はっ、家族を救い出すまで、我々は死ねません....いや、すでにたった今、幽霊になったのでしたな。」


「はははは、確かにな、申し遅れてすまん、俺はラグランジュ大佐。

お前たちと同じ元政府軍さ、お前たちと違って俺は家族もいなかったし、公然と離反した身なんで幽霊ではないがな。

以後よろしく頼むぞ。」


ラグランジュ大佐も傷だらけの顔に穏やかな笑みを浮かべ、最も年季の入った答礼を返す。


「君達の加入で今までは人手が足りなくて細々とした活動しかできなかった諜報部隊も、独自の作戦行動がとれるようになる規模になったからね。

改めて諜報部隊を独立した部隊にしたいと思っている。」


ホセの手元で金の鎖がシャラシャラと音を立てる。


「反乱軍独立諜報戦部隊(はんらんぐんどくりつちょうほうせんぶたい)、不知火(しらぬい)部隊の設立をここに宣言させてもらうよ。」


「シラヌイ部隊....でありますか。」


大尉の表情に不思議そうな色が浮かぶ。


「うん、シラヌイ、日本の特定の地方に見られる自然現象さ、夜の海の上に、実体の無い火が揺らめき立つ....。

まぁ海上の蜃気楼現象みたいなものだね。」


「なるほど...姿なき幽霊となった我々には、ふさわしいかもしれません...」


「諜報部隊については後程先輩隊員たちの...そうだな、ガブリエル君辺りに詳しく説明させよう。

君達シラヌイの活躍に期待させてもらうよ。」


満足げにホセが言い放つ。


「よし、では全員俺についてきてくれ、まずはこの拠点名物の白金の三日月亭を案内してやる。

そこで、ここにいない奴らにも新しい仲間を紹介するのでな、三日月亭のスペシャルレーション定食はマズいぞぉハハハッ。」


ラグランジュ大佐が彼らを伴い、案内役を買って出る。


大佐の後に続き退室していく不知火達の中から、一人の若い男がふとホセに話しかける。


「あの....ホセ司令官殿。」


「ん? ボクに何か用かい?」


「その....失礼ながら、ホセ司令官殿は、もしや以前企業の重役として名を馳せた、あの『人食いクリオネ』氏ではありませんか?」


「おっと....妙なところで懐かしいあだ名を久しぶりに聞くとは...ボクのことを知っているのかい?」


ホセが面白そうにその男に答える。


「はっ....自分の父が以前貿易関係の仕事をやっておりまして、指令のお名前を何度かお伺いしていた事を思い出したのであります、もしや、と....」


「あはははは、そうだったのか、いや、でもその人食いクリオネって人聞きの悪いあだ名はやめて欲しいなぁ、ボクはただの昼行燈さ。」


少しだけバツが悪そうに頭をかくホセ。


「あ、ホラホラ、ラグランジュ大佐に早くついていかないと、三日月亭で残り物のレーション定食を食わされるハメになっちゃうよ。」


「はっ、では失礼いたします!!」


若い兵士は慌ててラグランジュ大佐の後を追い退室していく。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

高級レストランでいつものように二人は向かい合って座っていた。

目の前にはこの国の平均的な国民の一ヶ月分の給料をつぎ込んでも注文できない、高級料理の大皿が所狭しと並べられている。


ゾルゲがいつものように骨ばった手で白磁のティーポットを傾け、自分のカップにお茶を注ぐ。

続いてオズワルドの目の前にある彼の専用使い捨てカップにもお茶を注ぐ。


動作のたびにゾルゲの指にゴテゴテとハメられたいくつもの宝石が陶器のポットに当たり、カチカチと音を立てる。


自分のカップを持ち上げ、うまそうにお茶を飲むゾルゲを見るオズワルド。

オズワルドは目の前の大皿料理の乗ったターンテーブルをランダムに回転させた後、いつものように自分の手でその料理を小皿に取り分け、ゾルゲの前に置く。



「失態だなゾルゲ....」


エビチリをうまそうに食べるゾルゲを前に、オズワルドが口を開く。


「失態は長官の方もではないのですか?

政府軍の一般歩兵も全滅と聞いておりますぞ。」


「歩兵共などどうでもいい、補充は人質さえいれば、いくらでもかっさらってこれるからな、問題はこの作戦の失敗により軍内での私の権威も低下することだ!!」


オズワルドが声を荒げる、食事を続けるゾルゲの目の前でも構わず葉巻に火をつける。


「それは大変ですな長官、ですが我がカルテルも大損害です....損害額は数十億ドル、まさか投入したパワードスケルトンで帰還できたものは一名のみ、などという大損害を被るとは予想外でした...我がマスターも大変ご立腹です。」


オズワルドの吐き出す紫煙にわずかに顔をしかめながらも、スプーンを口元に運ぶのはやめない。


「ふんっ! なにが無敵のスケルトンだ、たかが死神一人に....女一人に何の戦果も挙げられず全滅するとは、ガラクタもいいところではないか!!」


ゾルゲの顔色がわずかに曇る。


「少々お言葉が過ぎるのではありませんかな長官?

そもそもあの作戦に承認を出したのはあなたでしょう?

あの盆地にスケルトンの予備兵力を伏せる判断も、貴方の発案だったと聞いております。

あれがなければ、少なくとも水没スケルトンの損害は回避できた。

集積所の物資も奪われずに守りきれたはずですぞ。」


「黙れ!! 私はお前達が完璧な作戦だと言うから承認を出したんだ!! よくも私の顔に泥を塗ってくれたな....

いっておくが、あんなガラクタを国軍に導入する口利きなどしてもらえるとは思わんでもらおう。

損害は全て、貴様らのずさんな作戦に原因があるのだ!!」


オズワルドの手元で火のついた葉巻がペキリと折り潰される。


「お約束が違いますな長官....我らの長年の友情にヒビを入れる気ですかな? 」


ゾルゲの眼がねっとりとした光を帯びる。


「ふんっ...!! 友情だと? 貴様らが欲しいのは私の権力と、そこから得られる金と利権だろう? 」


イライラしながらオズワルドの指が、折れた葉巻の先端でまだくすぶっている火を、料理用の小皿の中に押し付け、もみ消す。


「....例の、いざという時に責任を押し付ける予定の、スケープゴートの特務上級少佐はどうなりました? 」


ゾルゲは目の前のカップからお茶を飲み、ゴクリと喉を鳴らす。


「通信兵ともども作戦を途中で放り出して逃亡しおった....憲兵共に行方を追わせているが....必ず見つけ出して銃殺刑にしてくれる!!

さしあたり今回は、誰か適当な無能なやつを書類の改ざんで指揮官だったことに仕立て上げて、責任を取らせる手筈はできている...」


ゾルゲを見てようやくオズワルドも自分の使い捨ての安物カップのお茶を口にする。


「結構ですな、しかしそうなると我々カルテルだけが損益を被ることになりますな。

これは我々としても甘受いたしかねますぞ長官。」


「そんなことは私の知ったことではないな、それはそちらで何とかしたまえ。

私は貴様らの立てた無能な作戦のとばっちりから、自分の身を守るだけで精一杯だということを忘れんでもらおう、ふん....全くいい迷惑というものだ。」


ゾルゲが、十分に大皿から取り分けた料理を食べるのを見計らったオズワルドも、ようやく料理を口に運ぶ。


「ああ、それとゾルゲ君、君との付き合いも今夜限りだ。

これ以上貴様ら無能な組織に振り回されるのはごめんなのでな。

もう十分にこの国から甘い汁は吸ったのだろう? 」


そう一方的に告げると、オズワルドはナプキンで口をぬぐい席を立つ。


「長いお付き合いでしたが、我々の友情は今夜限りということですかな...大変残念ですよ長官。」


「ふんっ....あとは他の内戦国にでもどこでも、好きな国に寄生してまた血をすすれば良いではないか。

あぁそうそう、最後だからはっきり言っておくよゾルゲ君。

実は私は君のことが嫌いだったんだ、二度と私の前にその貧相で辛気臭いツラを見せないでくれたまえ.....ではな。」


席に着いたままスプーンを口に運ぶゾルゲの横を通り、オズワルドは退席する。


最近は軍内での監査の目も厳しくなってきた、そろそろあのダニ連中とも手を切る潮時だろう....。


店の前まで、黒塗りの防弾高級車が静かに滑り込んでくる。


後部座席の本革シートに、深く身を沈めながら葉巻に火をつける。


まったく、ロクでもない無能な連中ばかりだ、私に迷惑ばかりかけやがる....。


オズワルドは苛立っていた、せわしなく短いスパンでスパスパと紫煙を吸っては吐き出す。


「あぁ、そうそう運転手君、以前言っていた私主催のパーティーだがね、さっそく来月開催することにしたよ、申し付けていたように、君の妻も同席させなさい。」


イライラする、なにか少しぐらいはお楽しみがなくては、やってられない。


オズワルドの言葉を聞いた運転手の肩がビクリと震える。


「は...はい、ですが、前回申し上げました通り、妻は学がありませんので、長官に恥をかかせてしまう....」


「連れてくるんだ!! 君の雇い主である私が連れて来いと言っているのだ!!」


オズワルドの声が車内に響き渡る。



その声に運転手は一言も発することなく、ただうなだれているのが見える。


ふんっ....運転手風情が....妻を差し出せば給料を二倍にして良い思いをさせてやると言っているのだ、黙って私の言う通りにしておればよい....!!


権力に酔いしれることで、少しだけ気分が晴れていく。

オズワルドはダビデフの煙を深く肺に吸い込み吐き出そうとした....。


カハッ...!!


オズワルドの喉から紫煙とともに、呻き声が漏れる....


心臓の辺りに違和感を感じる、肺が焼けるように痛い、目の前が急に暗くなっていく、呼吸ができない.....。


オズワルドは自分の胸をかきむしる、喉から息を吐くことはできるが、吸うことができない....


毒....!?


遅効性の毒を盛られた....!?


誰に....?


あいつしかいない....!!


だが、どうやって....?


いつものように、細心の注意を払っていた。

やつ自身に毒見をさせてからしか、口にしていないのに....!!


オズワルドの思考とともに、視界が暗くなっていく。

自分の体温が急速に低下していくのが感じられる。


「....ぅ....ごっ....げはっ....!!」


オズワルドの巨体が、豪華な本革シートの上でのたうち、喉と胸をかきむしる。


背後の異変に気付いた運転手も、声をかける。


「どうなさいましたオズワルド様!? オズワルド様!? しっかりしてください!!」


運転手は慌てて高級車を路肩に停車させ、後部座席のドアを開け、主の肩を揺さぶる。


オズワルドの手が運転手のネクタイをつかみ、シャツのボタンをブチブチと引きちぎりながら痙攣している。


「オズワルド様!! オズワルド様!! きゅ...救急車...!!」


だが、ほどなくして運転手のネクタイをつかんでいたオズワルドの手から力が抜け、ドサリとシートの上に落ちる。


白目をむき、口の端からはまだ泡を吹いている。

額には太い血管が浮き上がり、その巨体と同じくビクビクと痙攣している。

顔色はすでに土気色に変色しつつあった。


それを見た運転手は救急車を呼び、その場にへたり込む。


救急車は呼んだが、もうどう見ても手遅れだ。


呆然とまだ痙攣している主の姿を眺めながら、運転手の右手が無意識にオズワルドに引っ張られていたネクタイに触れる。


ネクタイの下、はだけたシャツの内側に指先に当たる固い感触。

彼がいつも身に着けている銀のロザリオだ、彼の誕生日に、愛する妻がプレゼントしてくれたものだ。


主はもういない。

何が起きたのかは分からない。

とにかく、もう彼の妻を奪おうとした、おぞましい男は死んだのだ。


目の前で痙攣しながらも、全身が土気色に変色しつつあるオズワルドの前で地面にへたり込んだまま、彼は妻の顔を思い浮かべながらロザリオを握り締める。




あぁ.....神様....感謝します....。







店内で一人食事を終えたゾルゲは、ナプキンで口元を拭き終え、傍らに置いてあるティーポットを撫でまわす。


暗殺者のティーポット、二重底になっており、手元の持ち手の辺りに装飾に紛れて目立たないように配置された二つの空気穴が開いている。

この二つの穴をお茶を注ぐ際に親指で塞ぐことで、気圧差を利用して一段目に入っている無毒のお茶と、隠し底に入っている毒入りのお茶を自在に注ぎ分けることができる。

古来より使われてきた暗殺用具だ。


中に入っているのはカルテル謹製の暗殺用の遅効性毒、司法解剖をしたところでまず検出されることはない。

今まで通り急性心不全か脳溢血で処理されるはずだ。


「長く続いた友情だというのに、大変残念ですよオズワルド長官....ですがご安心を。

あなた以上に無能で強欲で、カルテルに忠実な優秀な操り人形が、あなたの後釜として次期長官の椅子に座る手筈は整っておりますのでな。

何の心配もなく、ゆっくりとお休みください....永遠にね。」


そう呟き終えたゾルゲは、傍らの店員にティーポットの始末を任せ、いつものように裏口から外へ、影のように滑り出る。


遠くから聞こえてくる救急車のサイレンの音を背に、その背虫男のようなシルエットは足音も立てず、闇の中に溶けるように消えていった....。







反乱軍拠点の寒村の地下、第三倉庫内ではここ連日整備兵達が総動員されての解体、改修作業が行われていた。


スーパーペイルライダーからは第一次改装計画で取り付けられた追加装甲の圧延鋼板が取り外されている。


「つい先月取り付けたばかりなのに、すまないね整備長。」


ホセ指令がペイルライダーを見上げながらコーヒーカップ片手に労をねぎらう。


「なぁに、取り外した圧延鋼板は他にも使い道がありますし、なにより俺達が手塩にかけて改装したペイルライダーがさらに強化されるってんだ。

やり甲斐もあろうってモンでさぁ。」


油まみれの軍手を付けた手で、額の汗をぬぐいながら、整備長もペイルライダーを見上げる。


第二次改装計画。

第一次改装計画で取り付けられた追加装甲の圧延鋼板を、鹵獲したパワードスケルトンから取り外した軽量高硬度のチタン装甲と置き換えるのだ。


これにより追加装甲の防御力を維持したまま約40パーセントもの劇的な軽量化が可能となる。


スケルトンのチタン装甲は9mm厚であり、これだけでは圧延鋼板の防御力の代替にはならないため、9mmチタン装甲を二枚重ね、合計18mmの積層傾斜追加装甲とする計画だ。


これにより、第一次改装計画で11トンから13トンへと増加してしまった総重量は12.2トンとなる。

第一次改装では失われていた渡河能力の復活、およびM2ブローニング重機関銃の再度搭載が可能となる。


「おまけに、この意外なお土産まで手に入ったからな、まさに玉藻(たまも)の前(まえ)作戦様々だな。」


ホセ指令の傍らで紅茶のカップ片手にラグランジュ大佐が見上げているのは、先の玉藻の前作戦で鹵獲したM2ブラッドレイ歩兵戦闘車(IFV) だ。


フェルナンドが指揮車両として使用していたものを鹵獲したのだ。

貧乏ゲリラ屋では、中古であってもとても手が出ない高価な車両だけに、まさに思ってもいなかった大金星のお土産といえる。


25mmチェーンガン(機関砲)とTOW対戦車ミサイル発射機 を搭載。

軽戦車並みの火力を備えているうえ、搭載量も多い。

さらにフェルナンドが指揮車として使用していたため、高価な高性能通信機も搭載されていたのを、無傷で手に入れられたのだ。


「ブラッドレイの相場は中古でも200万ドル〜330万ドル(日本円で約3億円〜5億円前後) あたりだ。

ウチの財務状況じゃ、どう逆立ちしても買えるシロモノじゃないからな。」


ラグランジュ大佐もホクホク顔で新戦力を見上げる。


このブラッドレイも、ペイルライダー同様にチタン装甲による積層傾斜追加装甲化される予定だ。


ただしブラッドレイは初期型や後期型の違いにもよるが、今回鹵獲した後期型ならば、同クラスのIFVが持つ20mm〜25mm機関砲(徹甲弾)の直撃に耐えられる厚みと傾斜を持っている。

さらに素の装甲自体が空間装甲構造となっているため、HEAT(成形炸薬)弾にも強い。


正面装甲の防御力は十分であるとして、追加装甲は側面のみに限定。

かわりにスーパーペイルライダー御自慢の機能である簡易バリケード展開機能を持たせる計画だ。


これにより、総重量は27.8トンから、およそ29トンへと増加する計算だが、素の総重量の10%未満の増加である。

機動性などに、悪影響は出ないものと思われる。


「先の作戦では、零が来てくれるまでは俺達は手も足も出なかったが、こいつに搭載されている25mmチェーンガンならスケルトンもブチ抜ける、頼りになる戦力だ。」


手元の紅茶のカップをフーフーと吹き冷ましながら大佐は目を細める。


「整備長、これどこ置いたらいいの?」


零が搬入口から、巨大な資材を両肩に担いで入ってくる。


「あぁ、すまんな零、そこ置いといてくれ....あ、違う、その棚の横だ。」


整備長に指示された棚の横に、ドスンッと音を立てて資材を置く。


「悪いな手伝ってもらって、整備班だけじゃ人手が足りなくてな。」


「いいって、整備班のみんなが改装してくれたスーパーペーちゃんのお陰で、あの作戦でもみんな助かったんだから。

感謝してるんだ、あたし。」


ニッと笑う零。


「今度三日月亭でウラカン一杯奢ってやるよ、こっちのスケルトンも改修するから、楽しみに待ってな。」


背後にあるスケルトンの装甲を、スパナでコンコンと叩きながら整備長が笑う。


「うん、カッチョいいやつに改装してよね、楽しみ!!」


「おーら、どいたどいたぁ!!」


再び資材を両肩に担いで倉庫の外に出ていく零。


「全く...もう見慣れた光景だけどよ、あいつの体力どうなってんだ?

あんな重量、男の俺でも無理だぞ...」


スケルトンの隣で作業していたガブリエルが呟く。


「普段から50kg以上あるヨルムンガンド担いで走り回っとるからなあいつ、弾薬も考えたら60kg以上の重りを常につけて動いてるようなもんだ。」


大佐がガブリエルにレンチを手渡しながら答える。


「前に聞いたことあるんだけどね、何かスポーツでもやってたの? って。

そしたら、なんでも....おばあちゃんに教わった、唱えると不思議な力が湧いてくるおまじないのお陰だ、って言ってたよ。」


ホセが手元の電卓を叩きながら答える。

うん、今回は十分収支が合う....。


「おまじないねぇ....一流スポーツ選手がやるメンタルコントロールのルーティーンみたいなもんか?

そのうちアイツ、髪の毛がブロンドになって逆立って、空とか飛び始めるんじゃねぇだろうな....」


ザックがスケルトンから取り外した装甲を壁に立てかける。


「指令、スケルトンの復元の方はちょっと時間がかかりそうです。

あとおそらく、ですが....

スラスター周りの機能復元は、ちょっと難しいかもしれません。」


整備兵がホセに報告する。


「仕方がないね、腐ってもカルテルの最新鋭機だ、本来ボク達ゲリラ屋の技術では手に負えるシロモノじゃないからね。

それに鹵獲した物資の中にも、スラスター用の推進剤なんて特殊なものはなかったし。

どのみちスラスターは、すぐ燃料不足で使用不可能になりそうだし、復元できる部分だけで構わないさ。」


「すいません、その代わりと言っちゃなんですけど、整備班会心のアイデアを盛り込みますんで。」


整備兵が見上げる視線の先に、組み上げ途中のパワードスケルトンが降着姿勢で佇んでいる。


零のヨルムンガンドに撃ち抜かれた機体の中の、破砕孔から外れた位置の生きている部品、水没した機体の中からサルベージした部品。


それらをいわゆるニコイチ修復で組み上げているのだ。


塗装はカルテルのオリジナルのメタリックブラックから再塗装され、白を基調としたカラーリングに変更されている。

これは戦場の乱戦状態における誤認で友軍から誤射されないようにするためだ。


しかし水没によりショートした精密部品などは復元が難しく、反乱軍の技術では代替部品の製造も難しかったため、高度な電子制御を必要とするスラスター周りは復元できそうにない。


「塗装はあらかた終わりましたけど、指令の注文の手首と足首周りの塗装は....」


「あぁ、それは一番最後で構わないよ、本体の復元と組み上げを最優先にやってほしい。

塗装は別に急ぐものじゃないし、ただのボクの趣味の注文だから後回しで構わないよ。」


「そういえばスーパーペイルライダーの簡易バリケードシステムだが、味気ないからな。

もっと兵士の士気向上に役立つ、勇ましい名前を考えておいた。」


ラグランジュ大佐がニヤリと笑う。


「.......そういえばスーパーペーちゃんのあれ、あたしも初めて見た時、名前思いついたんだぁ....」


ふいに背後から聞こえた不吉な声に、大佐がビクッと後ろを振り返る。


いつの間にか戻ってきていた零が背後に立っている。


手には三日月亭のロゴマークが入ったテイクアウトのサンドイッチを持ち、それをハムスターほっぺで頬張っている。


「....最初見た時アレ思い出したんだぁ、ほら、あの....」


モッキュモッキュとサンドイッチを頬張りながら零が改装作業中のペイルライダーを見やる。


「待て零!! 言わんでいい、もうあの機能の名前は俺が考えてあるんだ!!」


大佐が慌てて制止する。


「ほらアレさ、なんていうの?

ウーパールーパーの顔の周りについてるビラビラ(外鰓)みたいなやつ.....」


「言わんでいいぃぃぃ!! あの機能は兵士達を守護する聖なる加護の翼!! セラフィックウイングだ!! 俺がそう決めた!! ハイ決まり!!」


サンドイッチを頬張る零の両肩をつかんだ大佐が、鬼の形相で零の体をガクンガクンと揺さぶる。


「.......んごっくん.....

『ウーパールーパーのアレ』で決まりじゃね?

カワイイしさ。」


ハムサンドを飲み込みつつ、零が能面のような表情でそう告げる。



挿絵(By みてみん)



「そんなふざけたネーミングがあるかぁぁぁ!!!戦場で『ウーパールーパーのアレを展開しろ!!』とか俺に号令させる気かぁぁぁ!!」


「なによぅゴリさん、あたしのネーミングに文句でもある訳?

じゃあいまいち可愛くない響きだけど、譲歩して『アホロートルのアレ』、で手を打とうじゃない。」


「生物学的に正しい名称にすりゃ良いってもんじゃねぇんだよ!!

兵士の士気向上もクソもないだろうがぁ!!」


しかも『アホ』という響きのせいで、さらに間抜けさが悪化している。


「とにかくこの機能の名称はセラフィックウイングなの!!

もう書類にも登録しちゃったもんねーだ!!

データベースにも今そう登録した!!

ハイ決まり、これは上官命令なの!!

決定事項変更不可!!」


大佐がホセ指令の隣にいたクレアからノートパソコンをひったくり、必死の形相でデータベースに打ち込む。


大佐権限でロックをかけ、大人げなく変更不可のマークをつける。


「まぁ分捕ってきた物資の中には医薬品もたっぷりあったしね....クレア、あとで胃腸薬取ってきてあげてくれるかな。」


笑いをこらえるホセはそう告げ、戦友の身体を案ずるのだった。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





目の前のモニターを睨みながら、背もたれに背中を預け伸びをする。

右わき腹がまだ少し疼くが、支障がでるほどではない。


コーヒーカップから一口コーヒーを飲む。


ミゲルは友軍基地にたどり着いた後、軍病院に入院し、軍上層部からの事情徴収を受けた。


もっとも彼には死神が現れた直後からの記憶が無いので、大した報告はできなかった。


ミゲルは二週間ほどのちに退院し、原隊復帰を望んでいたが、復帰するべき部隊はすでに壊滅しており、解体されていた。


作戦に参加しなかった他の戦友達も、ちりぢりになって別部隊に編入済みらしい。


そのため、彼には国境近くの小規模な収容所の警備につくよう、異動命令が下った。




初日から、ここでは主にデスクワークが中心だ。


病み上がりということで、基地の責任者が配慮してくれたらしい。


どちらかといえばミゲル自身も、デスク仕事のほうが向いていると思っている。


「よぉミゲル、仕事のほうはもう慣れたか?」


ラウル・メンドーサ中尉 が傍に立っていた、この基地におけるミゲルの現場レベルでの、新たな直属の上司となった人物だ。


椅子から立ち上がり、直立不動で敬礼するミゲル。


「はっ、お気遣いありがとうございますメンドーサ中尉殿。」


「あぁ、いい、いい。」

「お前は堅っ苦しくていかんな、もっとテキトーでいいんだよ、テキトーで。」


手をヒラヒラと振りながら、椅子につくように促す中尉。



自分も手近にあった椅子を、足で引っ掛け引き寄せ、背もたれの上に両腕と顎を乗せるだらしない体勢で座る。


気崩した制服、緩めた襟元、無精ひげ。

お世辞にも、あまりまじめな軍人とはいえない。


「そういえばお前、噂の渓谷からの生き残りらしいな?

何があったんだ?」


コーラの缶を片手にそう問う。


「申し訳ありません中尉殿、上からも箝口令が敷かれておりますので....」


「そもそも自分は戦闘中に意識を失っていたので、どのみちあまり詳しい事情は把握していないのです、情けないことですが....」


「ふーん....ま、そういうことにしておくさ。」


実際はさして興味も無いのだろう、そう告げてそれ以上の事は聞かなかった。


「ところでメンドーサ中尉殿、データベースの更新作業をしていて気づいたのでありますが、この収容所は、かなり人員の流動性が激しいようですね。」


「あぁ、もともとが規模が小さい収容所だからな、ココは。」


「他の大規模収容所はとっくに収容キャパを超えてて、あぶれた収監者がよく、多少は余裕のあるこの収容所に移送されてくるんだわ。」


「警備兵も同じさ、国境に近いからな、ここは。」


「最近は特に隣国軍との小競り合いのドンパチが頻発している。

それなりに犠牲も出てるってんで、ここからも補充や戦力増強のための兵が、良く異動していったりな。

それで抜けた兵力の補充で、よく新しい奴らが他の部隊から入ってきてるんだ、お前みたいにな。」


あくびをしながら答える。


「自分としては原隊復帰を望んでいたのですが、部隊はもう....」


「そうか、お前も午前中のニュースで見たろ、オズワルド中央情報統括庁長官の急死事件。」


「あれの後任への急な交代とかで、上もだいぶ混乱してるらしくてよ....」


つまらなさそうにコーラを飲む。


「まぁはっきりいえば、お前がここに配属されたのは、その混乱もあってのテキトーな人事の結果だと思うぜ。」


ミゲルも何となく気づいてはいた。


入院中、次の配属先を聞かされていたのだが、退院間際になってそれが二転三転したのだ。


退院予定日前日になって、ようやく最終的に確定した配属先がここだった。


「ここは、はっきり言えば僻地の閑職だ。

お前が配属されたのには『安全な後方の閑職に回してやるから、余計なことは話すな』って上の意向もあるんじゃないのか?」


なるほど、それなら合点がいく。


復帰を報告した時、軍上層部の反応は喜ぶでもなく、妙な雰囲気だったことを思い出すミゲル。


カルテルの意向が特に強いのだろうが、自慢のパワードスケルトンは全滅。

指揮官と通信兵は逃亡、反乱軍の殲滅には失敗。

集積所にあった膨大な補給物資も全て奪われたようだ。


作戦は完全な失敗。


政府にとっても、カルテルにとっても、蓋をしたい臭い案件なのだ、これは。


そこへ、唯一といっていい生き残りのミゲルが帰還しても、歓迎されるわけがない。


むしろ意識を失っていたせいで、詳しいことは分からない、と答えて正解だったのかもしれない。


ただの事実ではあるが、下手に状況を理解していたら、口封じで軍法会議にかけられていたのかも知れないのだ。


「ああ、それとな、そろそろお前にも夜間歩哨の任務もやってもらうぞ。

人手が足りてないんでな。」


「了解であります中尉殿、脇腹のケガももう支障がない程度には回復しておりますので、問題はありません。」


「その時にはまた声をかけるわ、めんどくせぇが俺も出るよ。」


「全く最近は愛用のタバコの値段も、また上がって俺みたいな小市民の生活は苦しくなる一方だ。

政府のお偉方も、少しは考えてもらいたいもんだぜ....」


ボヤきながら背中越しに掌をヒラヒラと振りつつ、中尉は事務所を出ていく。


メンドーサ中尉はあまり部下からも人望があるとは言えない。


しかし、与えられた仕事は最低限はやるため、それなりに現場では頼りにはされている。


噂では、物資の横流しや賄賂にも手を染めているようだが、小遣い稼ぎ程度のようだ。


無論、褒められた事ではないが、今の政府軍内では特別珍しい光景ではないのも事実だ。


みんな多かれ少なかれやっている。



その一方で、収監者達への理不尽な扱いや虐待などには加担していない。


むしろ、しばしば苦言を呈することもあった。


もっとも、上司に睨まれるとすぐ引き下がっていたので、自分の立場を危うくしてまで、収監者をかばう気もないようだったが。





まぁ、俺は自分の仕事をしっかりやるだけだ.....




コーヒーカップを片手に、また端末と向き合うミゲル。


ふと、その視線が止まる。


収監者のファミリーネームと、同じファミリーネームを持つ警備兵がいる。

どちらも、かなり珍しいファミリーネームだ。


なんとなくその名前で検索してみると、どちらも同じ出身地、同じ村の出身だ。


「....? まさかこの警備兵と収監者、家族か親戚なのか.....?

いや、そんなはずはないな....だけどかなり珍しい名前だ....」


そんなはずはない、家族が人質として収容されている収容所の警備に、その兵士が配属されることなどは無いはずだ。


そんなミスマッチ配属が起きれば、兵士が自分の家族を脱走させたりする不祥事に繋がりかねないからだ。


なにより、自分の家族に自分で銃口を突きつけ監視する任務など、誰がやりたがるものか。


兵士達が暴動を起こしかねない。



ふと空腹を覚えたミゲルが時計を見ると、ちょうど夕食の時間だった。


ミゲルは作業をキリのいいところで切り上げ食堂に向かい、メニューを注文する。


トレーを持ち席に着き、食事をしていると、食堂の端っこで同じく食事をしている兵士が目に入った。


彼はデザートについていたスニッカーズのチョコバーと小さなゼリーを、周りを気にしながらポケットにそっとしまっていた。


そういう兵士は良くいる。


食事やレーションについてくる高カロリーの甘味を、いざという時の保存食として取っておくのだ。


過酷な戦場では、甘いものは士気と気力を回復させてくれる効果がある。


ミゲルも何本か、チョコバーを個人的にストックしてある。






翌日、ミゲルは書類を受け取りに行くため、渡り廊下を歩いていた。


外では収監者達が監視付きで運動所に出て、軽い運動や散歩などをしている、自由時間らしい。


辺りにはその収監者達の脱走を防ぐため、銃を持った監視の兵達が何人かいる。


そのうちの一人が、一組の女性と子供の方を見やる。


母親らしき女性と、その隣にいる男の子に声をかける、昨晩食堂で見かけた兵士だ。


「おい、そこのガキ、ちょっとこっちに来い。」


と、手招きをしている。


男の子は言われるがままに、その兵士に近づく。


男の子の眼には、何とも言えない色が浮かんでいる。


だが、それは少なくとも恐怖ではないようにミゲルには見えた。


「ボクお腹すいたよ、お父....」


「しっ!! 俺はお前のパパじゃない、いいな? これを持っていけ....」


兵士が鋭く口元に人差し指を当て、子供の言葉を遮る。


一瞬周りを見渡してから、子供の前にしゃがみこんで、男の子の小さな手に何かを握らせて渡す。


昨晩ポケットにしまっていた、スニッカーズとゼリーのカップだ。


それを受け取ると、子供は嬉しそうに母親のもとに走っていく。


母親は兵士の方に視線を送る、だがその目に宿っている感情は怒りでも、恐れでも、敵意でもなかった。


ただ、悲しそうだった。


母親に視線を向けられた兵士は、すぐに視線を逸らす、その横顔で彼が唇をかんでいるのがミゲルには分かった。



やはり彼らは家族ではないのか....? いや、そんなミスマッチ配属はありえないはず....



ミゲルは廊下を進み、事務所に足を踏み入れる。


連絡のあった書類を受け取る。


退室しようとする時、背後から兵士達のやり取りが聞こえてきた。


「第三室のあの女、第一室へ移動させろ。」


第一室は最も古い部屋で、設備は老朽化し、水漏れで湿気が多く、ネズミがうろついている不衛生な部屋だ。


とても人を収監できるような環境では無く、現在はほぼ使われていない。


ガラクタ置き場になっているような部屋のはずだ...


だが、命令された兵士が答える。


「第一室は無理です!! あそこは人が住めるような環境ではありません、万が一にも人質が体調を崩しでもしたら、人質として役に立たなくなります!!」


だが、上官と思わしき男は応じない。


「ならば、第十一室はどうでしょうか?

あそこならまだ二名分ほど、収監人数に余裕がありますし....」


「第十一室は監視カメラの死角になっているからな、できればあまり使いたくないのだ。」


上官はそっけなくそう答える。


だが部下の兵士は引き下がらない。


「ならば、今夜から自分が第十一室の立哨に立って監視します。

第一室で人質が亡くなりでもしたら、貴方も管理責任を問われるのではありませんか?」


上官はしばらく考えていたが、管理責任という言葉が効いたのか、第十一室への収監者の移動の許可を出したようだ。


もちろん部下の兵士には、今夜から彼自身が立哨に立つという約束に念を押して、だ。


部下の兵士はその言葉を聞いた時、ミゲルには心底ホッとしていたように見えた。







場面は変わり、反乱軍総司令部。


ラグランジュ大佐が、ティーカップ片手に新聞紙を広げている。


「しかし昨日は驚いたぞホセ、あのオズワルドが急死とはな。

玉藻の前作戦の成功と言い、最近俺達はツイてるな。」


たっぷりと砂糖を入れた特製のミルクティーを飲む、外は雨だ。


「ハハ、そうだねラグ、このまま長くこのツキの女神様にご逗留頂きたいものだね。」


「まったくだ、ただ贅沢を言えばオズワルドの豚野郎は、俺達の手で仕留めたかったなぁ。

零の狙撃ミッションは実際派遣したのはルークだったから、やむを得ないのは分かっちゃいるんだが....」


「まぁあまり欲張りすぎると、女神様にも嫌われちまうかな?」


大佐は上機嫌だ、お気に入りのミルクティーには分捕ってきた、取って置きの上物のアッサム茶葉を使っている。


ミルクの味に負けていない、実に濃厚な味わいだ。


「まぁ女神様はともかく、あの狙撃ミッションはどのみち、オズワルドを仕留められるチャンスなんか無かったよ。

派遣したのが本物の零君だったとしても、ね。」


「ああ、まぁルークの報告だと、すさまじい制圧射撃で頭をあげる余裕すらなかったらしいからな。

零でもちょっと狙撃は無理だったかも知れんな....」


「いや、そういう意味じゃないよ。」


ホセ指令が金の懐中時計を目の前で鎖で吊るす、吊るされた懐中時計が蛍光灯をキラキラと反射しながら、くるくると回る。


「あの狙撃ミッションは、あくまで零君を主力本隊から引き離して足止めすることが目的だったんだよ?

ならば、そんな危険な囮役をあのオズワルドに、自らやる度胸なんかあると思うかい?」


「.....じゃあ....」


「あの囮のオズワルドは偽物だろうね。

おおかた収容所の収監者の中から自分に似た背格好の人間でも見つけて、収容所からの解放辺りを餌に、高価なオベベを着せて仕立て上げた、影武者だったはずだよ。」


「.....なるほど、確かにあの豚野郎にそんな度胸は無いな....」


「つまりあの時、政府軍もボク達も、お互いに影武者を仕立てていたわけだね。」


「.....だがホセ、お前はオズワルドの影武者を見破り、その罠を喝破した。

そして政府軍のやつらは、こちらの仕立てた死神の影武者を本物と誤認したまま、狭い渓谷にスケルトンを全機突入させ、死神の鎌の餌食となった....」


大佐は作戦を思い出しているのか、思案顔でうなる。


「そういうことだね、考えてもみてよ、作戦実行直前になって入ってきた、オズワルドの狙撃チャンス。

もう作戦の変更は効かないタイミング。

しかも、並みの狙撃兵では実行不可能な超長距離狙撃の移動ルート....」


「ここまで綺麗にお膳立てしてれば、普通の狙撃兵ではなく、死神をご指名で寄こせ、と言っているのも同然だよ。

招待状の文面が親切すぎたのさ。」


「なるほどな.....お前があの時、何かに気づいていたのは俺にも分かったが、お前そこまで読んでいたのか.....」


大佐はミルクティーを飲みながら、あらためて戦友の底知れなさを感じていた。


「あの時はラグや兵士達もヒヤヒヤさせてしまって申し訳なかったね。

でも、どうしても全てのスケルトンを渓谷内に引き釣り込んでから、死神に仕事を始めてもらう必要があったんだ。」


「スケルトンの3分の1ぐらいは、最初渓谷出口の外で待機していたからな。」


「うん、そいつらが残ったまま渓谷の外に出るとなると、ちょっと厄介だったからね。

渓谷の外は障害物の少ない開けた地形だ。

そうなると、例のスラスター機動で動き回られては、いかに零君でも狙撃しきれなかったんだ、一機や二機ならともかくね。」


「確かに....いかに零でも全機狙撃しきる前に、俺達はペイルライダーの側面に回り込まれて全滅していたな....」


「うん、盆地に伏せてあった方は、オペレーションY.sで対処できた。

でも、あの場にいたスケルトンは、何としてでもスラスターが使えない狭い渓谷内におびき出して、全滅させておく必要があったんだ。」


「それまで本当にみんなよく耐えて時間を稼いでくれたよ。

お陰でしびれを切らせたあの愚かな指揮官君.....なんていったっけ?」


「 えーと.....クライング.....ダンパー君....? いや、ちょっと違うな....赤い狐がどうとか....」


「 確か本名もご丁寧に名乗ってくれていたような.....まぁどうでもいいか。」


「ともかく、彼の判断ミスのお陰で、全てのスケルトンを誘い込むことができたわけだ。」


ホセ指令はあの時の通信のやり取りを思い出しているのか、クスクスと笑う。


「古来より、大軍にとって隘路は死地なり、と言われているのにね。

彼は桶狭間の今川義元と同じ愚を犯したわけだ、ハハッ。」


「良く解らんが、また日本の歴史か?

お前の知識と見識の深さにはあきれるよ。」


PCを叩いていたクレアが口をはさむ。


「せめて彼の名前ぐらい覚えておいてあげないと、かわいそうですよ指令?

たった今整備班より連絡です、復元したスケルトンが組みあがったそうですよ。」


「分かった、すぐに第三倉庫に向かおう。」


三人は連れ立って第三倉庫を訪れる。





そこにはーーーー


復元されたパワードスケルトン一機が


ライトの光を反射して


降着姿勢で、ただ静かに佇んでいた


メタリックブラックのカルテルオリジナルから、友軍からの誤射を避けるために、白を基調とした塗装にリペイントされている。


シルエットもそっけない直線を基調とした、箱型を組み合わせたような角ばった印象を与えるオリジナルとは、ずいぶん印象が変わっている。


大量に鹵獲した破損した機体や、水没機体からはぎ取った9mm厚複合チタン装甲を重ねた、積層複合チタン装甲へと作り変えてある。


一次装甲と二次装甲の間にはアラミド繊維の層をサンドイッチすることで、空間装甲と耐衝撃緩和性能を持たせた。


そしてすべての装甲は傾斜装甲とすることで、避弾経始の効果が最大化されるように計算配置されている。


そのせいでオリジナルに比べて、ソリッドで鋭角的なシルエットへと、随分と印象が変化しているのだ。


そして整備班の提言でオリジナルにはない、いくつかの装備機能も組み込んである。



パワードスケルトンRC(Resistance Custom)改・ミブロである。


降着状態で頭部を取り外せば全高は1.5m程度となり、輸送車両に積み込んでの迅速な輸送も可能だ。


ただし、スラスター周りの制御用の精密機器は、反乱軍の技術と生産設備では手に負えず、再現は断念されたため、オミットされている。


スラスターとその推進剤のタンクを降ろしたことで、浮いた重量リソースとスペースを活用し、追加傾斜装甲化したのだ。


しかし、改装によりオリジナルの重量約800kgに対して、最終的なミブロの重量はやや増加して840kgとなっている。


恐るべき力を秘めたその白銀の機体は、ホセ指令達の目の前で、静かにまだ眠りについている。


これらの変化は、カルテル製オリジナルとはその運用思想が異なった結果が、形になったものであるといえる。


カルテルは、兵器の運用者であると同時に、スケルトンという商品を製造販売するデベロッパーでもある。


そのため、製造工程数が増加する傾斜装甲のデザインは採用されなかった。


傾斜装甲を採用すれば、製造工程の増加や歩留まりの低下を招き、それらは販売価格に反映されてしまう。


あるいは価格はそのままで、販売時の利ザヤを減らすしかなくなる。


それをカルテルは嫌ったのだ。


もともと9mm装甲で対応できない大火力に対しては、スラスターで高機動回避して照準を振り切る設計思想であり、そこらは問題とはならなかった。


歩兵に携行可能な自動小銃クラスの口径にまで対応できれば十分である、との経営判断が下されたのだ。


対して反乱軍にとってのスケルトンは、タダで鹵獲した兵器だ。


これまたタダで手に入れた資材を活用し、改修したものだ。


販売価格だの歩留まりだの、大量生産性などは意識する必要がない。


考慮すべきは、せいぜい運用コストぐらいなのだ。


貴重な戦力を長く活用するために、ワンオフの一品物の機体に傾斜装甲を採用するコストや手間は、大して問題にならない。


デベロッパーとエンドユーザーの視点の違いが生んだ差異ともいえる。


ミブロに求められる役割もまた、オリジナルとは異なっている。


オリジナルは歩兵の天敵として戦場を蹂躙、塹壕を突破して後方に回り込む、戦車相手に高機動で撹乱する。

個人では運用不可能な大型対空兵器なども運用できる、汎用性を求められる陸戦兵器である。


これは、あまり局地戦のために特化しすぎた商品は割高感があり、顧客のウケが悪いからだ。


これに対し、ミブロに求められる役割は明確である。


収容所解放作戦の際、サイズ的に屋内への侵入ができないスーパーペイルライダーに代わって歩兵達に随伴し、共に突入。


屋内で遭遇が予想される、歩兵の天敵たるカルテルのスケルトンの放つ12.7mm重機関銃弾の嵐から、反乱軍兵士を守る、歩く楯となることだ。


スラスターと汎用性を捨て、屋内などの閉所での対スケルトン殺しに特化した機体といえる。



「整備班の自信作ですよ指令、スラスターが復元できなかったことだけが残念ですが、代わりとなる新機能も載せておきましたんで!!」


徹夜明けの整備兵が油で真っ黒になった顔で、コーヒー片手にミブロを見やる。


「本当にお疲れ様、頼もしい新戦力をありがとう、良くやってくれたよ。

パイロットの選定はどうなってるかなラグランジュ大佐?」


ホセ司令も満足げに頷く。


スケルトンの運用には、専門的な知識と特殊な訓練が必要である。

ゆえに玉藻の前作戦に投入されたスケルトン部隊の兵士は、ほぼ全員がカルテルから派遣された私兵だった。


しかし、今回吸収した元政府軍兵士、不知火達の中には、スケルトンの運用に関する知識や訓練を受けていた者もいる。


彼らを教官として、適正のありそうな兵士を選別しているのだ。


「ああ、そっちは選別は大体できてる、さっそく明日から訓練を始めてもらうつもりだ」


大佐も、ミブロを頼もしそうに見つめながら答える。


「指令に言われとった塗装な、すまんが、まだできとらんのだ。」


整備長が真っ黒になった軍手を脱ぎ、屑籠に放り込む。

軍手を脱いだ素手も真っ黒だ。


「あぁ、前にも言ったけど、そっちは単なるボクの趣味からの注文だから、手が空いた時の片手間で構わないよ。

本当にお疲れ様、整備班のみんなは塗装はまた今度でいいから、今日はこのままゆっくり休んで欲しい。」


整備兵達は大きなあくびをしながら、ぞろぞろと自分達の自宅へと帰っていく。










数日後ーーーミゲルは予定されていた夜間歩哨の任務に就いていた。


脇腹の痛みはもうほとんどない、久しぶりの歩哨任務だ。


ミゲルが任された担当区域は、収容所の監視カメラの死角となっているエリアだった、それ故に、どうしても人間による警備が必要だったのだ。


ザッ....ーーー


「こちらミゲル、異常ありません。」


定時連絡を入れる、時折目の前の雑木林から獣や虫の声が聞こえる以外、平和なものだ。


先ほどの夕食の、不味い期限切れのレーションの味を思い出す。


最近は補給も滞っており、明らかに兵士に支給される食事の質も落ちている。


申請している装備や備品も、いつまでたっても届かない。


噂では人質を取られていない職業軍人の中にも、離反者や脱走兵が出始めているらしい。


軍上層部では職業軍人もその家族を人質にとる案も出ているらしいが、すでに収容所の収監率はどこも160パーセントを超えており、もうこれ以上人質を取る余裕はないだろう。


なにより、職業軍人に対してまで人質を取らねばその忠誠を維持できない、そんな状態が長くつづく訳がない、もうすでに末期状態なのだ。



この国の政府軍も、もう長く無いのかもしれない.....



そんな思考がミゲルの脳裏をよぎる。




だが、俺は与えられた任務を精いっぱい遂行するだけだ。




そう思いなおして、肩にかけた自動小銃のベルトをかけなおし、再び前方の闇を睨む。



そんなミゲルの様子を、闇の中から伺ういくつかの影があった。



ミゲル.....!?



双眼鏡を片手にした影の一人が呟く。


「顔見知りか、ガブリエル?」


「あぁ....俺の幼馴染だ、すまん、あいつは殺さないでやってくれ、俺が説得してみる。」


「できるのか?」


「ああ、あいつも両親が人質に取られてる、好きで政府軍やってるわけじゃないはずだ。」


「分かった、任せる、だがもし説得に失敗した場合は...悪いが覚悟はしておいてもらうぞ、その時は俺たちに任せろ、幼馴染を手にかけたくはないだろうからな。」


「いや.....その時は俺の手で始末をつける、幼馴染だからこそ、万一の時は、せめて俺の手で.....」


「....分かった、そこまでの覚悟があるのなら止めん...成功を祈っている。」



「.....すまん、行ってくる。」



短く言い残すと、ガブリエルは闇の中へ身を滑り込ませていく。







ーーーーーーーーーー背後に何かの気配を感じた。


振り向こうとするミゲルの口元を、突然何かが塞いだ。


同時に喉笛に何かの硬いものが押し当てられる。





侵入者!?油断していた....!!



とっさに肩にかけられた小銃のグリップを握ろうとするが、口に押し当てられた手と、喉元の冷たい感触がそれを許さない。


ミゲルの全身からドッと脂汗が噴き出す。


瞬間、脳裏に浮かんだのは、収容所にいる両親の顔だった。



こんな所で....




喉元に当てられたナイフの冷たい感触、侵入者のわずかな手元の動き一つで、喉笛が切り裂かれ、自分は叫び声をあげることもできず死ぬ。


思わず目を固く閉じたミゲルの耳元で、小さく声が聞こえた。


「おいミゲル、俺だ。」


どこかで聞いた声だ、この侵入者はなぜ俺の名前を知っている....?


「俺だミゲル、ガブリエルだ。」


再び耳元で声がささやく。


ガブ.....?


懐かしい幼馴染の顔が浮かぶ、だが彼は半年以上前に.....


「いいかミゲル、手を放すぞ、声をあげるな、いいな?」


訳も分からず、ただコクコクと首を縦に振る。


ミゲルの口元から、押さえていた掌とナイフの冷たい感触がゆっくりと離れる。



      ヒュゥッッ.....


解放されたミゲルの口から、夜の冷たく新鮮な空気が流れ込んでくる。


慌てて後ろを振り向く。


そこには、懐かしい幼馴染の顔が薄暗がりの中で微笑んでいた。


「...ガブ....!?どうして....お前は半年以上も前に、反乱軍の襲撃で戦死したって....」


死んだはずの幼馴染は、闇の中でニヤリと笑っている。




「時間がねぇからな、手短に話すが、今の俺は幽霊さ。」



幽霊....?



ガブリエルの姿を頭からつま先まで見るが、別に姿は透けていない。


何より、先ほどまで自分の口を塞いでいたあの手には、確かに体温の温もりが感じられていたはずだ。


目を見開いたまま固まるミゲルに、ガブリエルが告げる。


「俺はあの戦いで表向きは戦死したことにして、今は反乱軍の一員さ。」


反乱軍....死んだと思っていたガブは反政府ゲリラの一員となってた....


「いいか、手短に言うぞミゲル、お前も幽霊になれ、俺達とともにご両親を救うんだ。」


幽霊になる.....死人となって自分に反乱軍に加担しろというのか....?


反政府ゲリラの仲間になれ、と.....?


ミゲルの迷いと困惑を見透かすようにガブリエルは続ける。



「そうだ、お前も幽霊になるんだ、このままご両親を人質に取られたまま、望まない戦いを続けて、使い潰されるつもりか?」


もちろん、そんなのはごめんだ。


政府への忠誠心も、とうに尽きているのも事実だ、だが.....


「だけど.....だけど俺は....兵士なんだ....。」



ミゲルの口から弱々しく声が絞り出される。



ガブリエルの表情が薄暗がりの中でふっと微笑むのが見えた。


子供の頃から何度も見てきた、懐かしいガキ大将がイタズラにミゲルを誘う時の、いつものあの顔だ。


「相変わらず杓子定規で生真面目な、お前らしい答えだ、子供の頃から変わんないなぁお前は。」


ガブの方こそ、そのイタズラっぽく笑う表情は子供の頃から変わっていない。


ガキの頃のまんまじゃないかーーーー


ふと、この場に似つかわしくない、そんな言葉がミゲルの脳裏に浮かぶ。





「だけどな、お前のその忠誠は、一体誰に捧げるものだ?」


ガブリエルの表情が一転し、声のトーンが変わる。


「家族か? 恋人か? それとも俺たちの苦しみなんぞ興味もなく、毎日贅沢なパーティーにうつつを抜かしている、軍上層部の連中にか?」


「この腐りきった国で、俺達の生き血と賄賂で肥え太った醜い政治家共か?」


ミゲルは答えない。


いや、答えられない。


彼はその答えを持っていないのだ。




「お前も幽霊になるんだミゲル、俺達と一緒に両親を救い出して、この国を変えるんだよ...!!」



ミゲルは答えない。


その時ミゲルの通信機が音を立てる、呼び出し音だ。


「はい....こちらミゲル....」


ミゲルが応答する、ガブリエルの表情に緊張が走る。





「はい...いえ、異常なし、何も問題は起きていません....」


そう告げて通信機を切る。





「ミゲル.....」


「俺の両親の救出、手を貸してもらえるんだなガブ....?」


「あぁ、もちろんだ、おじさんとおばさんには、俺もガキの頃から世話になってる、お前と同じ幽霊が、反乱軍にもたくさんいるからな。」


「....分かった、協力する、さしあたりどうすれば良い?」


答えるミゲルの瞳には決意の色が浮かんでいたが、生真面目な彼の性格を反映してか、まだ少しのためらいの色もあった。


「今夜の所はこれで終わりだ、お前しばらくはここで立哨なのか?」


「ああ、昼間午前中は事務仕事だが、夜間はしばらくはここで明け方まで立哨任務の予定だ。」


「分かった、ならば明日以降もここで落ち合おう、なにか情報があるなら....

そうだな、そこのデカい木の傍の茂みに、通信筒か何かに入れて隠しておいてくれ、近いうちにここの収容所も、解放作戦が実施されるんだ。」


「分かった、警備状況やその他の必要情報はデータベースで調べてまとめておくよ....これで今夜からオレも幽霊ってわけか....」


「いや、お前の場合は幽霊では無くて、生霊と呼ばれる形になるな。」


『生霊』、幽霊とはなってもすぐには反乱軍には合流せず、何食わぬ顔で政府軍の中で勤務を続け、内情や機密をリークし続ける常設潜入型工作員を指す符丁だ。


玉藻の前作戦で大量の不知火隊員を確保した反乱軍だが、いくつかの問題が発生したのだ。


一つは急激に増えたシラヌイ隊員により、拠点の人口が不自然に増えすぎたため、政府軍監察兵の注意をひきやすくなってしまった問題だ。


時折拠点に訪れている監察兵に対しては、政府軍が非協力的として見せしめに焼き払った、いくつかの近隣の村からの難民が流れ込んできているのだ、との説明はしているものの、やはりそれだけでは限界がある。


すでに新規入隊の不知火の何割かは、協力関係にある近隣の村々に事情を説明して、それらの村に分散配置されている。

付近の監視や情報収集に当たらせてはいるが、彼らの食費や活動費用はそれらの村に負担をかけるわけにもいかないため、反乱軍持ちなのだ。


「だから、彼らをすぐにこちらに引き入れるのではなく、そのまま政府軍内部に残らせて、彼らの食費や活動費は政府に面倒を見てもらおうと思ってね。」


ホセ指令はコーヒーを片手にラグ大佐に、あっけらかんとそう告げたものだ。


生霊が内部に居残ることで、政府側の内情や軍の機密、政府軍の動きがほぼリアルタイムで手に入る、おまけに彼らの活動費は政府持ちで、メシまで食わせて養ってもらえる。


彼らの肉体は政府軍として何食わぬ顔でその場に残り続けるが、すでにその魂と忠誠は政府軍の下からは離れている....まさに生霊とは、よくぞ名付けたりである。


ガブリエルとの再会を誓い、歩哨に戻るミゲル。


明日からデータベースをいろいろと調べる必要がある....両親の収容されている収容所についてのデータも探しておく必要があるな.....


もうすぐ交代の時間だ。


「だけど、きっと今夜は眠れないのだろうな....」


己に待ち受けるであろう、数奇な運命に思いを馳せながら、ミゲルは肩にかけた小銃をしっかりと握り締めた。




第五話 黄泉返りの誓い 完 




次回予告扉絵



挿絵(By みてみん)

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