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第四話 玉藻の前作戦

挿絵(By みてみん)


南米の戦場に、死神がいる。


対艦狙撃砲を担ぎ、


装甲を貫き、


命を刈り取る。


彼女の名はホルスタイン・ゼロ。


元はただの酪農家だった。


戦場では死神。


平時はヤキソバパンを頬張る、爆乳の女。


次に死神が狙うのは——誰だ。


ゼロが飲む、三日月亭のコーヒー牛乳は甘い。



暇つぶしにやっていた対話型AI達との雑談から発生した企画を小説化した異形の作品です。


とにかくジャンル分けタグが、全部使っても足りないほど全部入りな支離滅裂な内容です。


文章量によりガッツリ胸焼け版と分割版に分けてありますので、読みやすい方でどうぞ、内容は基本的にどちらも同じです。



アルファポリス投稿版はこちら

https://www.alphapolis.co.jp/novel/626811383/219087564


カクヨム投稿版はこちら

https://kakuyomu.jp/my/works/11054822662412926642


内容はどちらも同じなので、ご自分の使用アプリなどによって読みやすいほうでどうぞ。

挿絵(By みてみん)


爆乳酪農家狙撃兵ホルスタイン零-zero- 第四話「玉藻(たまも)の前(まえ)作戦」






御子神 零表情集


挿絵(By みてみん)







夜。



反乱軍拠点では、玉藻の前作戦に参加する部隊が静かに出撃準備を整えていた。



これまでの戦闘とは違い、今回は敵に作戦の存在そのものを察知されることが許されない。



車両は一斉には動かさず、時間差をつけて一台、また一台と拠点を離れていく。



必要最小限の灯火。



抑えられたエンジン音。



短く交わされる無線。



暗闇の中へ溶け込むように、反乱軍主力部隊が渓谷方面へ向けて進撃を開始する。



作戦開始に呼応し、近隣の村々にも数日前から先行分散待機していた車両と兵員も続々と村を出発し、渓谷手前の会合点を目指し移動を開始する。



挿絵(By みてみん)



先行する部隊を指揮するのはラグランジュ大佐。



その側には、ガブリエルの姿もある。




二人とも余計な会話は交わさず、ただ淡々と各車両の位置と周囲の状況を確認している。


やがて車列は夜の闇に完全に紛れ、渓谷へと向かって進んでいく。







――玉藻の前作戦、始動。





◆◆





一方、その頃。



反乱軍司令部・戦略指揮所。



複数の通信端末が並ぶ室内で、ホセ指令とクレアをはじめとするスタッフが各部隊の進行状況を監視している。



現地から短い通信が次々と入る。



「第一車列、予定地点を通過。」



「第二車列、異常なし。」



「敵側に目立った動きはありません。」



報告を受けるホセ。



作戦全体の進行状況を確認しながら、各部隊が予定された位置へ移動していくことを確認する。



クレアらスタッフも通信記録と各部隊の位置情報を照合し、作戦が計画通り進んでいることを確認していく。



ここでは現地の兵士たちとは対照的に、作戦全体が一つの巨大な盤面として扱われている。



まだ何も起きていない。



だからこそ、誰もが緊張している。



さらに時間を前後して。




渓谷から数百キロ離れた狙撃予定地点の高台。



そこにはすでに死神の姿があった。



先行した死神は、すでに所定の狙撃地点へ到着していた。



周囲の地形に身を潜め、微動だにせず待機し、塹壕の中に身を隠す。



その姿は完全に狙撃手としてのもの、右手でそっと傍らのヨルムンガンドの手触りを確かめる。



周囲を慎重に確認しながら、予定された時刻と位置を確認する。



まだ撃つ時ではない。



今はただ、待つ。



闇の中、死神は静かにその鎌の刃を研ぎ澄まし、待ち続ける。



挿絵(By みてみん)




◆◆





『コンキスタドールは黄金郷に向かえり』



オズワルドとゾルゲのもとに、現地から通信が入る。



狙撃地点に死神が現れた、を意味する暗号通信だ。



「死神の到着を確認しました、奴は見事に釣られてくれたようです。」



二人はその報告を聞く。



そして、互いに顔を見合わせる。



作戦は、思惑通りに進んでいる。



オズワルドが薄く笑う。



「当然ですよ長官、我々の立てた欺瞞作戦は完璧です...」



ゾルゲがオズワルドに粘りつくような視線を向け答える。



ゾルゲもまた、その報告を聞いて満足げな表情を浮かべている。



彼らにとっても、零がそこにいることは重要な意味を持っていた。



オズワルドが通信機のマイクを手に取る。



「間違いなく死神なんだな?」



「はい、間違いありません、情報通り化け物じみたデカい狙撃銃も確認しました。」



「それに噂通りの胸のでかい女ですよ、長官の通過予定ルートを狙撃できる、いくつかの狙撃ポイントのうちの一つに陣取ったようです。」




「そうか...まだ撃つなよ、気づかれて逃げられては元も子もないからな。主力部隊の戦闘が始まるまでは泳がせて、そこに釘づけにしておくんだ。」



「それまでは死神の監視だけにとどめておけよ、ところで死神の顔は確認できたのか?」



舌なめずりしながら、オズワルドが答える。



「いえ、残念ながら距離が遠いのと、フードに隠れて顔は拝めませんが...なんせあのスタイルですからな、素顔の方もかなりの上玉を期待したいところですなぁ。」



通信機から下品な笑いが聞こえてくる。



完全に自分たちの確実な勝利に酔いしれているが故の余裕だ。



「ははは、そうだな。あぁ、そうそう...もし死神の素顔の撮影に成功したら、私の所にも画像を送ってくれたまえ。」



オズワルドが応じる。



「はい、わかりました長官、長官もお好きですなぁ。」



「はははは、君だって嫌いじゃないんだろう? 作戦成功の暁には君も私の主催する祝賀パーティーに招待するよ司令官君。」



「ぜひとも伝説の死神のご尊顔を拝みながら、祝杯といこうじゃないか。」



用意周到に練り上げた反乱軍主力と死神の同時殲滅作戦だ、情報をリークし、おびき寄せ、厄介な死神は本体から数百キロ離れた狙撃地点にオズワルド自身をおとりとしておびき寄せた。



愚かなドブネズミどもは差し出されたご馳走に目がくらんで飛びついてきた、すべてはこちらの計画通りだ...。




◆◆






再び、渓谷へ。



闇の中を進み続ける反乱軍主力部隊。



ラグランジュ大佐が各部隊の位置を確認する。



ガブリエルも現地の状況を確認しながら、必要な指示を出す。



無線から司令部の声が入る。



「各部隊、現在位置を確認」



現地から返答。


「了解。」


「異常なし。」


「予定通り進行中。」



その言葉を最後に、通信が一度途切れる。



再び、夜の静寂。



渓谷へ向かう車両。



狙撃地点でその時を待つ死神。



そして、遠くからその動きを見つめるオズワルドとゾルゲ。



それぞれが同じ作戦の中で、それぞれの目的を胸に秘めている。



全ては予定通り。


少なくとも――


今のところは。


玉藻の前作戦は、静かに次の段階へ移行しようとしていた、あたりはすでにサンタァナの暴風が覆い始めていた...。




反乱軍主力部隊は、なおも暗闇の中を進み続けていた。



車列は一定の間隔を保ちながら、渓谷の狭い道をゆっくりと進んでいく。



周囲には切り立った岩壁がそびえ、わずかな月明かり以外に視界を照らすものはない。



ラグランジュ大佐が無線を手に取る。



「司令部、こちらラグランジュ。現在位置を報告する」



しばらくしてホセ指令から返答が入る。



サンタァナの影響下でも通信するために数台の輸送トラックが数キロ程度の距離を開け展開、後続のトラックに積んだ通信機を中継して通信を確保しているのだ。



「こちら司令部。現在位置、予定進行線上。各車列とも異常なし」



「了解。先行部隊も問題ない。」




隣でガブリエルが地図を確認する、ペッと砂交じりの唾を吐くガブリエル、渓谷の上よりはましとはいえ、ここまでサンタァナの砂塵が吹き込んでいるのだ。



「このまま進めば、もうすぐ渓谷の出口です、上に先行させた別動隊も予定通り敷設されたネット回線を首尾よく見つけたそうで、今から接続作業を開始するとのことです。」



ラグランジュ大佐が周囲を見渡す。



「ああ。出口を抜ければ、予定していた展開地点だ」



ガブリエルが無線機を手にする。



「司令部、こちらガブリエル。周辺に敵影は確認できません。」



ホセ指令から即座に返答が入る。



「了解。各部隊は予定通り進行を継続。出口付近を通過後、指定地点へ展開してくれ」


「了解。」


通信が切れる。


再び、夜の静寂。


エンジン音だけが、狭い渓谷の壁面に反響する。


一台、また一台と車両が進んでいく。


やがて先頭車両の前方に、わずかに開けた空間が見えてくる。


渓谷の出口だ。


ラグランジュ大佐が前方を確認する。


「……出口が見えたぞ」


ガブリエルも前方へ視線を向ける。


「ようやくですね」


その時だった。






――ドォォォォンッ!!




突然、背後から凄まじい爆発音が轟いた。


車体が大きく揺れる。


兵士たちが一斉に振り返る。


「な、なんだ!?」


「後方で爆発だ!!」


「何が起きた!?」



ラグランジュ大佐も反射的に後方へ振り返る。



ガブリエルが車両から身を乗り出し、後方を確認する。



「……なんだ、あれは……!?」


爆発によって大量の土砂と岩石が舞い上がり、部隊の背後が完全に崩落している。



だが、それだけではなかった。



――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!



轟音とともに、渓谷の両岸から次々と岩盤が崩れ始める。



巨大な岩塊が斜面を滑り落ち、車列の後を塞ぐように土砂が猛烈な勢いで流れ込んでくる。



「爆破された!! 崩れるぞ!!」


「退避しろ!!」


しかし、もはや遅かった。


渓谷の両岸が大規模な爆破によって崩落し、巨大な岩石と土砂が次々と道を覆い尽くしていく。


先ほどまで通過してきた道が、すべてが巨大な岩壁によって塞がれていく。


ラグランジュ大佐が呆然とその光景を見つめる。


「……まさか……」


ガブリエルが息を呑む。


「……閉じ込められた……?」




挿絵(By みてみん)




無線機から、司令部のホセ指令の声が響く。


「ラグランジュ大佐!? 何があった!? 応答しろ!!」



しかし、現地から返事が返るより早く――


最後の巨大な岩塊が轟音とともに崩れ落ちる。


渓谷の両側を完全に塞ぐ、巨大な岩壁。


反乱軍主力部隊は、退路を失った。


――カルテルの恐るべき奸計が牙をむく。





◆◆



フェルナンド特務上級少佐指揮官は、渓谷の出口付近で起きた爆発と、反乱軍主力部隊の退路が完全に断たれたことを確認すると、満足げに口元を歪めた。


「よし……!」


フェルナンドが無線機を手に取る。


「今だ! スケルトン部隊を展開させろ!!」



部下たちが一斉に動き始める。



「了解!!」


次々とスケルトン部隊が配置につき、渓谷出口へ向けて展開を開始する。


フェルナンドはその様子を満足そうに眺めながら、胸を張る。


「ふふふ……見たか、ドブネズミども!」


「これぞフライングタイガー様の知略よ!!」


得意満面のフェルナンド。


「退路は完全に封鎖した!」


「あとは出口のないこの渓谷で袋のドブネズミどもを、スケルトン部隊で一気に叩き潰してやる!」


「どうだね通信兵? これがフライングタイガーの知略というものだよ、見事なものだろう?」


「はっ!! さすがは特務上級少佐殿であります!!」


と通信兵が追従するが...


(この作戦は全部カルテルが立てたものだろうが...なにを自分の手柄にしようとしてやがる...)



と心中毒づきながらも、それはおくびにも出さない。


フェルナンドが高らかに笑う。



「はーっはっはっはっは!!」



その笑い声が、夜の渓谷へと響き渡る。


「どうだ…完璧な作戦だろう!」


フェルナンドは完全に自分の知略に酔い痴れていた。


反乱軍を渓谷へ誘い込み、後方を爆破して退路を断つ。


そして出口をスケルトン部隊で塞ぎ、逃げ場を失ったところで一網打尽にする。


しかも、目的は敵の殲滅だけではない。


面倒な死神は数百キロ離れた場所で足止めを喰らっているる


邪魔者が入る心配はない、この作戦が終わるころには、死神も待ち構えている別動隊によって包囲殲滅されるはずだ。


居場所が露見し、罠に誘い込まれたスナイパーなど脆弱なものだ。


フェルナンドにとっては、まさに完璧な勝利の方程式だった。



――少なくとも、本人はそう信じていた。



「おい通信兵、足止め部隊に確認しろ、有線なら通信はできるんだろう?」


「はっ...」



通信兵が足止め部隊に問い合わせる。


「......間違いありません特務上級少佐殿、足止め部隊は死神に猛烈な制圧射撃を浴びせかけて、やつは塹壕に身を伏せたまま頭をあげることもできずに震えているそうです。」



「ふふ...そうか、いよいよ大統領の座が見えてきたな...」



通信指揮車の薄暗がりの中で、モニターを見つめるフェルナンドの横顔を冷たいモニターの光が照らしだす。



その目はねっとりとした光を帯び、唇を舐める赤い舌がチロチロと見え隠れする。



「やはり罠か...!! ペイルライダーは前方に展開しろ!! すぐに敵の攻撃が来るぞ!! 兵員はペイルライダーの陰に入れ!!」



ラグランジュ大佐が反射的に指示を出す、マズい....やはり罠だった...



前方に進み出たスーパーペイルライダーが即席のトーチカになり、兵士達はその陰に退避する、後続の何台かのトラックもそれに続く。



前面のみだが圧延鋼板を張りつけた輸送トラックもペイルライダーの側面を固める。


装甲車ほどの防御力はないが、前面だけは追加装甲を張り付けてあるトラックも利用しないと、兵員の全てを匿うだけの面積が稼げないのだ。




ガキン...




ガキン...




ガキン...




前方の渓谷出口から硬質な足音を響かせて、巨大な人型のシルエットが現れる...


黒光りする光沢のある装甲、全高は2.4mはある、モーターの駆動音を微かに鳴り響かせながら、異形の人型が闇夜の中に浮かび上がる。



キュイ...



キュイィッ...



頭部の装甲から赤いカメラレンズが覗き、反乱軍の姿を捉える。




――パワードスケルトン、強化外骨格の一種だ。



カルテルが天文学的な開発費を投じて開発した機械化歩兵、全身を厚さ9mmの複合チタン合金の装甲で覆い、各種アクチュエーターで総重量800kgの巨体を駆動させる。



右手には12.7mm重機関銃を携え、バズーカや対戦車砲などの強力な武器には背部に配置されたスラスターによる高機動で回避する、まさに動くトーチカであり歩兵の天敵といえる。



もっとも、左右を切り立った崖に囲まれたこの渓谷ではスラスター回避を行える空間はないのだが、それでもその重装甲と火力は生身の歩兵にとって十分な脅威である。




挿絵(By みてみん)




「な、なんだあれは...撃て!! 先頭の化け物に火力を集中させろ!!」




ラグランジュ大佐の指揮のもと、ペイルライダーの陰に隠れた兵達が自動小銃を構え火線をスケルトンへと集中させる。



ガガガガガガキキキンッッ!!



火花を散らしながら5.56×45mm NATO弾と7.62×51mm NATO弾がスケルトンへと吸い込まれていくが、厚さ9mmの複合チタン合金製の装甲がそれらを全て空しく弾き返している。



慌てるでもなくゆっくりとスケルトンの右腕が上がり、その手に構えた12.7mm重機関銃が金切り声をあげる。



ドガガガガガガガガガガガガ!!!



「う...うおおおおおお!?」



ペイルライダーの陰に隠れた、ラグランジュ大佐の体にまで伝わるほどの振動がペイルライダーの車体を揺らす。



しかし第一次改装計画で取り付けたペイルライダーの圧延鋼板の傾斜装甲が、辛うじてその12.7mm弾の嵐を食い止めてくれている。



「ぐっ...感謝するぜホセ指令、追加装甲無しだったらハチの巣だ...!!」



運転席のガブリエルが呟く。



しかし隣につけた輸送トラックの運転席のガラスは粉々に破砕される、運転席の兵士が悲鳴を上げて倒れる音がする。



「トラックは運転席の下に身を伏せろ!! 運転席には装甲がない、撃ち抜かれるぞ!! 総員可能な限りペイルライダーの陰に隠れろ!! 確実に安心できるのはそこだけだぞ!!」



スケルトンの放つ吹き荒れる12.7mm重機関銃弾の嵐の中、ラグランジュ大佐の怒号が響く。



後方をちらりと見やったラグランジュ大佐の視界に、すぐそばの壁際に落下した巨大な岩が映る。



「よし、ガブリエル!! そのまま右斜め後方にゆっくりとペイルライダーを後退させろ、右後方に転がっているあの大岩に車体右側を後退してぴったりくっつけろ!!」



ラグランジュ大佐の指示に従い、ペイルライダーがゆっくりと右斜め後方へと動き始める。


「よし、そのままだ。兵員はペイルライダーの陰から出ないように注意しつつペイルライダーと一緒にあの岩の陰まで後退だ!!」



「なんだあの不格好な装甲車両は? スケルトンの12.7mm弾に耐えるだと!?」



ウイスキーの入ったグラスを片手にモニタを見ながら、フェルナンドが声をあげる。



「モニタの画像から確認する限り、アメリカ製の兵員輸送装甲車両M113に追加装甲を取り付けた現地改修型のようですね。」



「本来であれば、12.7mm弾を防げるような装甲ではないはずですが...」



通信機を操りながら通信兵が答える。



「ふんっ!! こしゃくなドブネズミ共が廃品利用のリサイクルガラクタとはな、まぁ良い。」



「どの道やつらの持つ小火器程度ではスケルトンには無力だ、ゆっくりとなぶり殺しにしてやるのも一興よ。」



「なによりそのほうが良い画が撮れてカルテルも喜ぶだろうさ...ほんのわずかに延命できただけにすぎん!!」



安全な後方で装甲に守られ指揮を執るこの男にとっては、モニタ越しの戦場などゲームと同じなのだろう。



「よし、そこでストップだガブリエル。そのまま車体前面を敵の火線に対して30度左に傾けて停車だ!!」



右側側面を大岩に擦り付けるように停車したペイルライダーが、正面方向に対して約30度で車体を斜めに傾けた角度を取る。



こうすることで装甲の見せかけの厚さが敵弾の進入角度に対して厚くなるため、実際の装甲厚以上の防御力を発揮する上に、斜めに配置した装甲の避弾経始効果がさらに高まるのだ。



ペイルライダーが大岩に車体を寄せ、即席の防御陣地を形成した。




挿絵(By みてみん)


「よし、新兵器の出番だ!! 簡易バリケードを展開しろ!! 左側のみでいい!!」



ラグランジュ大佐の声で運転席のガブリエルが操縦装置の脇に増設されたレバーを引く。



敵火線の死角になっているペイルライダーの左側面に取り付けられている追加装甲が、油圧ジャッキにより車体先頭部にある蝶番を支点としてゆっくりと羽を広げるように側面に広げられていく。



それと同時に車体左下部に格納されていたアウトリガーが伸長され、地面に接地、重心の大幅な左への偏りを支える。



第一次改装で取り付けられた側面追加装甲を広げることで物理的な装甲防御範囲を一時的に拡張するスーパーペイルライダーの真骨頂、簡易バリケード機能である。



これを使用することで多数の兵士を守る防御範囲を拡張することができるのだ。


戦力に大規模な補充が期待できない反乱軍において、少しでも損耗率を下げるためラグランジュ大佐の要望に応じて実装された機能だ。



本来は左右同時展開するものだが、今回は右側面を大岩に預けてカバーしているため左側面のみの展開となる。



簡易バリケードシステムを展開したペイルライダーの車体の陰からバラバラと兵士がバリケードの後ろに移動し、銃を構える。



挿絵(By みてみん)




「な....なんだアレは!? ダンボの耳みたいに装甲が広がったぞ!?」



グラスを片手にモニタを見つめるフェルナンドの喉から驚嘆の声が漏れる。



その直後だった。


「撃てぇぇぇぇッ!!」



ラグランジュ大佐の怒号とともに、ペイルライダーとバリケードの陰から反乱軍兵士たちが一斉に射撃を開始する。



ガガガガガガガガガッ!!


5.56mmと7.62mmの銃弾が夜の渓谷を切り裂き、無数の火線がスケルトンへ集中する。



だが――



ガキンッ!!


キィンッ!!



キン、キン、キンッ!!


すべてが黒光りする装甲に弾き返される。


スケルトンは止まらない。


よろめきもしない。


怯みもしない。


ただゆっくりと、こちらへ歩いてくる。


「くそっ!!全然効いてないぞ!!」


「頭部を狙え!!」


「駄目だ、跳ね返される!!」


兵士たちの叫びが飛び交う。




挿絵(By みてみん)




その間にも、スケルトンの右腕がゆっくりと持ち上がる。



12.7mm重機関銃の銃口が、再びペイルライダーへ向けられた。


「伏せろォォォッ!!」


ドガガガガガガガガガガガガガガッ!!


猛烈な銃撃。


ペイルライダーの車体が激しく震える。


ガンッ!!


ガガンッ!!


ガガガガンッッ!!!



厚い追加装甲に12.7mm弾が次々と叩きつけられ、無数の火花が夜空へ散っていく。


「うおおおおおおッ!!」


「持ちこたえろ!!」


「装甲は大丈夫だ!!」


誰かが叫ぶ。


しかし、その声には明らかな動揺が混じっていた。


大丈夫なのではない。


今のところ、『まだ』撃ち抜かれていないだけだ。


ペイルライダーの装甲板が衝撃を受けるたび、車内まで鈍い振動が伝わってくる。


「ラグランジュ大佐!! このままじゃ持ちません!!」


「分かっている!!」


ラグランジュ大佐が歯を食いしばる。


前方にはスケルトン。


後方には崩落した岩壁。


左右には切り立った崖。


逃げ場はない。


しかも敵は一体ではない。


闇の向こう側では、さらに複数のスケルトンが生身の一般歩兵を守るように隊列前面に陣取り、楯となっている。


「……いったい何体いやがるんだ、あのバケモノは……」


ガブリエルが呟く。


「分からん。だが、増えている...RPG7なら破壊できるかもしれんが、数に限りがある、全部は撃破しきれん....!!」


ラグランジュ大佐が答える。


そのとき、無線機からホセ指令の声が飛び込んできた。


『ラグランジュ!! 応答しろ!! 状況を報告してくれ!!』


「こちらラグランジュ!! 後方を爆破され、退路を遮断された!! 前方から敵の機械化歩兵部隊が接近中!!」


『諜報部の報告にあったパワードスケルトンか!?』


「そうだ!!」


『こちらでも映像を確認した、あれは通常の歩兵装備では対処できそうにないな...』


「その通りだ!! 小火器程度では歯が立たん!!」


『ペイルライダーは!?』


「今のところ装甲で耐えている!! だが、いつまで持つか分からん!!」


ホセ指令の声が一瞬途切れる。


『……了解した。各車両は可能な限りペイルライダーの陰へ移動しろ!!』


「すでにやっている!! だが、全員を匿うことはできない!!」


『分かっている……!!』


司令部でも、クレアをはじめとするスタッフが通信端末の前で息を呑む。


各部隊の位置情報。


車両の配置。


敵部隊の接近状況。


それらが刻々と更新されていく。


しかし、盤面をどう動かしても状況は変わらない。


反乱軍は袋の中にいる。


そして、その袋を外側からゆっくりと締め上げているのがスケルトンだった。


『ラグランジュ、何か打開策はあるか!?』


「……考えている!!」


『時間がないぞ!!』


「分かっている!!」


ラグランジュ大佐が前方を睨みつける。


スケルトンがまた一歩、前へ進む。



ガキン……


さらに一歩。


ガキン……


そのたびに、足元の岩石が鈍い音を立てる。


「…あれだけ撃ち込んでも、まったく止まらない…」



ガブリエルが呟く。


ラグランジュ大佐は答えない。


側面に回り込もうとするスケルトンに、反乱軍兵士の構えるRPG7が向けられる、さしものスケルトンも後退する。


本来この手のスケルトンの装甲でも対処しきれない大火力兵器は、スラスター機動で回避するが、狭い渓谷内ではそれは不可能だ、いかにスケルトンといえども、いったん引くしかない。


「RPG7はうかつに撃つなよ!! 数が限られてるからな、全部は仕留めきれん、強引に側面に回り込もうとするやつにだけお見舞いしてやれ!!」


ラグランジュ大佐の怒号が響く。


大佐の視線はペイルライダーの前方に広がる暗闇を見つめている。


「大佐!! 右側面の兵員がもう隠れきれません!!」


「車両を詰めろ!!」


「これ以上は無理です!!」


「何とかしろ!!」


「無理です!!」



その瞬間――


ドガガガガガガガガガガガガッ!!


再び12.7mm弾が降り注ぐ。


ペイルライダーの車体が大きく揺れる。


「ぐっ……!!」


車内の兵士たちが床へ叩きつけられる。


「装甲板の一部が変形してます!!」


「まだ抜かれてはいない!!」


「でも次も同じ場所に当たったら…!!」


誰も、その先を口にしなかった。


ペイルライダーの装甲は、確かに彼らを守っている。


だが、装甲そのものもまた、無限に耐えられるわけではない。


そして敵は、それを知っているかのように同じ場所へ何度も12.7mm弾を叩き込んでくる。


「……まずいな」


ラグランジュ大佐が低く呟く。


その視線の先で、スケルトンが再び銃口を持ち上げる。


「全員、伏せろ!!」


ドガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!


轟音。


火花。


振動。


悲鳴。


そして、少しずつ後退していく反乱軍。


一メートル。


また一メートル。


ペイルライダーは大岩を背にしているため、それ以上後退することすらできない。


逃げることもできない。


反撃することもできない。


ただ、耐えるしかない。


その頃。


通信指揮車の中。


フェルナンド特務上級少佐指揮官は、ウイスキーの入ったグラスを傾けながらモニターを眺めていた。


画面の中では、黒光りするスケルトンが反乱軍を少しずつ追い詰めている。


フェルナンドの口元に、再びねっとりとした笑みが浮かぶ。


「ふふふ……」


「どうだね? 通信兵」


「はい?」


「見えるかね? あの哀れなドブネズミどもの姿が」


通信兵はモニターを見る。


「……はい」


「必死に廃品の装甲車へしがみついている」


フェルナンドが愉快そうに笑う。


「素晴らしい…実に素晴らしい光景だ、まさに名将のみが見ることを許された光景だと思わんかね?」


「もう少しだけ遊ばせてやろう」


空になったグラスに新しい勝利の美酒を注ぐ。


「すぐに殺してしまっては面白くない」


グラスの中で琥珀色の液体が揺れる。


「逃げ場がないと理解した時、人間というものがどんな顔をするのか…どんな悲鳴と絶望のうめきをあげるのか...選ばれし者だけがこの光景を拝める...」


うっとりとグラスを眼前に掲げるフェルナンド。



通信兵は何も答えない。


(変態サディストが...!!悪趣味にもほどがあるぜ...)


ただ黙って端末を操作する。


フェルナンドはモニターの中で震える兵士たちを眺めながら、満足げに舌を舐めた。


「さあ…もっとだ」


「もっと絶望させろ」


「そして最後には――」


フェルナンドがグラスを掲げる。


「さぁ稀代の名将フライングタイガー様の勝利に華を添えろ!! 貴様らのその苦悶の表情、絶望に引き攣った濁った悲鳴!!」


「それこそが私のサクセスロードを飾る花道にふさわしい!!」


「はーっはっはっはっはっは!!」


『ラグランジュ!!』


無線からホセ指令の切迫した声が響く。


「こちらラグランジュ!!」


『敵の数がさらに増えている!!このままでは完全に包囲されるぞ!!』


「分かっている!!」


『何かないのか!?』


「……もう少しだけ耐えてくれラグ、まだ敵の引き込みが十分じゃない、もう少し敵を渓谷内に引き込んでくれ。」


ラグランジュ大佐が答える。


「...分かった、信じてるぞホセ!! だがあまり長くは保たんぞ!!」


その言葉に、通信の向こう側が静まり返る。


「だが、まだ終わってはいない」


ラグランジュ大佐が前方を睨みつける。


その先には、何体ものスケルトン。


その背後には、逃げ道のない暗闇。


そして自分たちの周囲には、逃げることすら許さない切り立った岩壁。


「全員、持ち場を維持しろ!! 牽制だけでいい、バケモノを側面に回り込ませないように牽制だけやれ!! 最優先は自分の身を守り時間を稼ぐことだ、無理な攻撃はせんでいいぞ!!」


「まだだ!!」


「まだ、終わっていない!!」


兵士たちは必死に銃を構える。


だが――


スケルトンは止まらない。


一歩。


また一歩。


ゆっくりと、確実に。


反乱軍との距離を詰めてくる。


そして、再び12.7mm重機関銃が唸りを上げた。


ドガガガガガガガガガガガガガガッ!!


朝日が昇りつつある渓谷に、絶望の銃声が響き渡る、展開されたバリケードのわずかな隙間から運悪く抜けた弾丸にまた一人兵士が倒れ伏す。


「負傷者をペイルライダーに収容して手当を!!」


「...くそっ、早くなんとかしてくれよホセ...!! ペイルライダーの装甲とて、この火力相手ではいつまでもは...!!」


負傷した兵に肩を貸すラグランジュ大佐の口から絞り出すような声が漏れる。


反乱軍は、完全に追い詰められていた。



――その時。


数百キロ離れた場所で、「死神」もまた苦境に立たされつつあった。





◆◆




死神は動けないでいた、わずかでも頭をあげれば、たちまち狂ったように頭上を抑えるように火線が集中してくる、塹壕の底でうずくまっているしかない。


「くっ...やはり罠...司令、これじゃ頭をあげることもできない!!」


傍らのヨルムンガンドをしっかりと抱きしめるが、これでは狙撃どころではない。


通信機に状況を報告するが、返ってくるのは相変わらず緊張感のないホセの声だ。


「ああ、分かっている。君一人を抑え込むためにこれだけの火力を投入してくるとは、まさか計算外だったよ。」




挿絵(By みてみん)




「でも君の潜んでいる塹壕は防弾板と防弾ガラスでガチガチに防御を固めてあるから、迫撃砲や空爆でも来ない限り心配はいらないよ。」



「君に陣取らせたその狙撃ポイントは、高台の真下にそこの基地の重要な通信インフラや燃料輸送パイプが走っているからね、敵としても高台ごと吹き飛ばすような荒っぽい方法は取れないはずだよ。」



「最悪の場合は事前の打ち合わせ通り、塹壕の下に用意してあるトンネルから後方に脱出してもらって構わない、無理はしなくていいからね。」



「りょ、了解...本隊の方はどうなってる!? みんなは無事!?」



死神のそばの防弾板に命中した弾丸が、防弾板の角を削り取る。



「...正直芳しい状況とは言えない、だがボクを信じてほしい。」



「司令!! 敵はしびれを切らせて渓谷出口の外で待機していた残りの戦力も渓谷内に侵入させ始めたようです。このままではいくらスーパーペイルライダーでも...」


クレアの悲壮な声が戦略指揮所内に響き渡る。



パチンッ!




その言葉を聞くと同時に、ホセの手元で懐中時計の蓋が、音を立てて閉じられる。




「よし...諜報部隊のネット回線への接続は終わってるんだよね?」



「あ....はい、終わっています、でもいまさら通信回線をジャックしたところで...」



「結構、ではその有線から敵指揮官君の通信機をジャックしてくれたまえ、それと山脈向こうに展開させている工作部隊にオペレーションY.sの発動命令を。」




◆◆




……ブツッ.....通信兵の耳元に微かな異音が響く。


「...ん? あれ...?」


「どうした通信兵?」

 

すでに祝杯気分のフェルナンドが、傍らの通信兵に目を向ける。


「あ...いえ、なにか通信機が...?」



ザッ....ザザッ.....



「あー...あーあー、聞こえるかな指揮官君?」


突然通信機から間の抜けた声が響く。


「....!? し、指揮官殿!! 通信ジャックです!! 通信が乗っ取られています!!」


「なんだと!? 通信は有線のはずだ!! どうやって...!?」


「お、おそらく敵も埋設されたネット回線に接続して、こちらの通信に割り込んできているようです!!」


「マイクを寄こせ!! オイ!! 貴様何者だ!!」



「 これが名将フライングタイガー様専用の通信回線と知っての狼藉か!?」



不機嫌そうに通信兵から機器を奪い取るフェルナンド。


さっきまでの上機嫌な表情は一変している、実に情緒不安定な男である。


「やぁ初めましてフライングタイガー君、素敵な名前だね、ボクは...まぁいわゆる君達が言うところの反乱軍の指揮官だね、初めまして。」


間の抜けたホセの声が聞こえる、もちろん声は加工してある。



「ふん、ドブネズミどもの首魁か...何の用だ?  命乞いなら聞かんぞ。」


「まぁまぁそういきりたたなくても...失礼、申し遅れたがボクのことは...そうだな、Mr.ノンケとでも呼んでもらおうかな、無論偽名だけどね。」



…ブフゥッ!!



挿絵(By みてみん)




ホセの背後から誰かが噴き出す声が聞こえた。



もちろんクレアだ。



「な...なんだ!? 背後で若い女がまるでアイスティーでも噴き出したような音が聞こえたぞ!?」


この男、愚かだが案外ニュータイプの素養でもあるのか?


「はっはっはっ、気にしないでくれたまえMr.クライングアイパ―君、これから派手にステージで踊ってもらう哀れなピエロ役の君に、プロデューサーとして一言ご挨拶を、と思ってね。」


「フライングタイガーだ!! ふざけた男め...ピエロは貴様らだろう? この砂塵の狐と呼ばれた名将フェルナンド・ガルシア様の立てた完璧な作戦にまんまとおびき寄せられ、これから哀れなボロクズと化し殲滅されるのだからな。」


また通称が増えたらしい。


「完璧な作戦ねぇ...少なくともボクはハメられた覚えはないんだけどなぁ...」


ホセののんびりとした声、そしてわざとやっている言い間違いがこの男の神経を逆なでする。


「ふんっ! やせ我慢もその辺にしておくのだな、退路は断たれ出口はパワードスケルトンで封鎖。」



「廃品利用のネズミの巣箱で何とか耐えているようだが、時間の問題よ...貴様らの持つ火器程度ではスケルトンの装甲は撃ち抜けん!! じきに捻り潰してくれる...!!」


「撃ち抜けない...? 本当にそうかい...?」


「お得意の爆乳の死神か? ふん、言っただろう、この名将の策略は完璧だ!! 貴様らの頼みの綱の死神は数百キロも離れた場所で今頃は別動隊の足止めで身動きとれんわ!! おとなしくチェックメイトを認めるんだな!!」


夜明けが近い、気温の上昇とともにサンタァナは小康状態となり風の音が小さくなっていく。


「特務上級少佐殿、サンタァナが収まったおかげで無線通信が回復しています、いまなら予備の無線機を使った足止め部隊との長距離無線通信も可能ですが...」


傍らの通信兵がフェルナンドに告げる。


「ふん...いいだろう、頭の悪い貴様にも解るように絶望を突きつけてやる、オイ、足止め部隊につなげ。」


しばらく通信兵が通信機を操作し、フェルナンドにデバイスを手渡す。


「おい、私だ。死神は間違いなくそこに足止めされているのだろうな?」


「はい、ご指示のとおり徹底的な制圧射撃で釘づけにしてあります。あの化け物銃もこの制圧射撃の火力にさらされては、照準を合わせるヒマすらありはしません、安心して主力部隊の殲滅を。」


足止め部隊からのその報告に、満足げに頷くフェルナンド。


「ふん、聞こえただろうドブネズミの親玉? 死神は身動きとれん、貴様らはこの百戦百勝の名将の知略の前に無様に敗北したのだ!!」


勝ち誇るフェルナンド、酒がうまい、今日は記念すべき日だ。



明日には俺は軍内でその名を知らぬものなど居ない英雄となり、凱旋するのだ。




「死神ねぇ...聞くが、その死神とやらは一発でも攻撃したかい? それは本当に死神かい?」



「そもそも君達は、誰も死神の素顔を知らないんだろう?」


敵司令官のとぼけたセリフが、名将の神経をまたもや逆なでする。


「くだらん負け惜しみを...」


ドズンッッ!!


その時背後の遠くから地響きのような低い音が聞こえ、フェルナンドが乗る装甲通信指揮車両が少し揺れた、がすぐに揺れは収まる


「なんだ...地震か?...まぁいい。」


フェルナンドの耳に男の声が突き刺さる。


「さぁ、そろそろ始めようじゃないか、歴史に残る奇跡の大逆転劇ってやつをさ!!」




「指揮官君も楽しんでくれたまえよ、ボクの演出した最高の舞台のクライマックスをね!!」



「さぁドラムを打ち鳴らせ!! ありったけのスモークをたけ!!」



「すべてのスポットライトを主役に向けろ!!」



「ふん、現実を認めたくなくて狂ったのか貴様...?」


勝利を確信したフェルナンドの表情には侮蔑の色が浮かんでいる。



カッ!! カカカカカカッ!! カカッ!!



通信機の向こうから革靴の踵が床を打ち鳴らすリズミカルな音が聞こえてくる。



タップダンスを踊っているのだ、この男は...



「貴様...さっきから、いったい何を...!!」



フェルナンドが吐き捨てるように言った。



通信兵がモニターを確認する。



戦場には変化がない。


スケルトン部隊は健在。


反乱軍もまだ、不格好な装甲車の陰で縮こまっている。




何も変わっていない。


「チェックメイトだ…」



フェルナンドが満足げにそう呟いた――




その直後。







――ドゴォォォォォォォォォォォォォッ!!






大気そのものが爆ぜたように感じられた。



「――――ッ!?」


轟いた音に驚いて、よろめいたフェルナンドの手から並々と注いだウイスキーがこぼれそうになる。



慌てて手近なパイプにつかまり、辛うじてウイスキーを死守する。



「な、なんだ!?」


「敵の砲撃ですか!?」


「どこからだ!?」


通信兵たちが一斉にモニターへ飛びつく。


だが――


砲撃ではない。


少なくとも、誰にもそうは見えなかった。


モニターの中で。


通信機を操りながらモニタを見ていた通信兵一名にだけは理解できた。



反乱軍の目前にまで迫りつつあったスケルトンが――


二体。


まるで何か見えない巨大な槌で横殴りにされたかのように、同時に吹き飛んでいた。



「…………」



誰も声を出さなかった。


一瞬。


本当に、一瞬だけ。


戦場の時間そのものが止まったようだった。


モニタの向こうで黒光りする800kgの巨体が宙を舞っている様子が、フェルナンドにはまるでスローモーションのように感じられた。



一体のスケルトンが頭部を失い、もう一体は胸部装甲を大きくひしゃげさせながら回転している。



挿絵(By みてみん)



そして――



二体とも、地面へ叩きつけられた。


ガァンッ!!


ガコンッ!!


ガガカガ……


金属の残骸が岩肌を削りながら転がっていく。


「…………え?」


通信兵の口から、間の抜けた声が漏れた。


「な……なんだ……?」


「今……何が……?」



フェルナンドは答えられなかった。



モニターを凝視する。



スケルトンが倒れている。



二体とも。


先ほどまで反乱軍を一方的に追い詰めていた、あの無敵のスケルトンが。


「…………」


フェルナンドの顔から、ゆっくりと血の気が引いていく。


「おい……」


ようやく声を絞り出す。


「おい……今のは、何だ……?」


誰も答えない。


「何が撃った!?」


通信兵が慌てて各種センサーを確認する。


「確認できません!!」


「何だと!?」


「どこから攻撃されたのか、判別できません!!」


「馬鹿な!!」


フェルナンドがモニターへ顔を近づける。


「そんなはずがあるか!! 誰かが撃ったんだろうが!!」




その時――



通信機から、再びあの声が聞こえてきた。



「さぁ皆様万雷の拍手を持ってお迎えください、当劇場の誇る真打、スーパースタァの登場です!!」



フェルナンドの顔が引きつる。


「……貴様……」



「さあ」



ホセの声が響く。



先ほどまでと何も変わらない、のんびりした声だった。


「お待ちかねの幕が上がったようだよ、ヒーロー...もとい、ヒロインは遅れてやってくる。ハリウッドの常識だろう?」



「何を言って――」



――ドゴォォォォォォォォォォッ!!!!



二発目。



今度はフェルナンドもはっきりと目撃した、その瞬間を。




渓谷の前方。



また一体のスケルトンが――



まるで透明な巨人の手に、正面から殴り飛ばされたように弾け飛んだ。



後方にいたもう一体のスケルトンの左腕が装甲ごとちぎれ飛ぶ、内部の兵士の悲鳴が聞こえた。



装甲がひしゃげる。



赤黒い何かが飛び散る。



そしてその巨体が、後方の仲間を巻き込みながら岩壁へ激突した。



「…………な....ぁ....」


フェルナンドの口が開く。


だが、声にはならない。


その時になって初めて。


戦場にいた誰もが気づいた。




何かがいる。




無敵のスケルトンを一撃で屠りさる、恐るべき何かがそこに潜んでいる。




そしてそいつの眼は――



自分たちの想定していた戦場の遥か外側から、こちらをじっと捉えている。



フェルナンドは思わず装甲指揮車から飛び出す。



引き出し式テーブルの上に置かれたグラスに手が触れ床に落ち、耳障りな音を立てて琥珀色の液体とともに割れ飛び散る。



フェルナンドが震える手で双眼鏡を掴む。



「……どこだ……?」


「どこから撃っている…!?」


双眼鏡を上げる。


渓谷


岩壁


朝焼け




そして――



その向こう側



――高台





フェルナンドの眼下で、ペイルライダーの目前まで迫っていたスケルトン二体が、まるで大型トラックに跳ね飛ばされたかのような勢いで吹き飛び、バラバラに粉砕される。



「.........なっ!?」



…ォォオオオオオオオォォン......


その光景からわずかに遅れて、異様な音が渓谷を震わせる。


双眼鏡を目に当てるフェルナンド、反乱軍の背後はるか後方の高台に向けられた双眼鏡が映し出す光景の中...




上り始めた朝日を背に




なにかが立っていた...




朝日の中逆光に浮かび上がるそいつは、巨大な『なにか』を携えているのが分かった。



挿絵(By みてみん)



フード付きのマントがバタバタとサンタァナの残滓に煽られなびいている。



ギリースーツでも隠し切れないその特徴的な胸部のシルエット。



その表情は逆光とフードに隠れてうかがい知れない。



そいつのニヤリと笑う口元から覗く歯の白さだけが、やけに鮮烈にフェルナンドの網膜に焼き付いた。




挿絵(By みてみん)




フェルナンドの呼吸が止まった。


「…………」



そして――




そいつの口元が




さらに大きく吊り上がった。




挿絵(By みてみん)




『.......し.....死神........!?』



フェルナンドの喉から、本能が紡ぎ出すかすれた声が漏れる。



ありえない



奴は遥か離れた戦線で、足止めされているはず...




だが、本能が叫ぶ



「あれは本物だ」と。




ドゴォォォォォッッ!!



再び辺りの大気を震わせる異様な獣声とともに、前列で生身の歩兵の盾となっていたパワードスケルトン二体と歩兵一名がまとめて串刺しにされたように吹き飛び、粉砕される。



吹き飛んだスケルトン上半身の残骸に巻き込まれた歩兵が下敷きとなり、数百kgの重量に悲鳴が上がる。



黒光りする巨体が空中で砕け、鋼鉄と肉片が朝焼けの空のもと、撒き散らされ、地面に赤黒いものと一緒にブチ撒けられる。




挿絵(By みてみん)




「し、死神がどうしてここに...バカな...死神は遥か彼方で...」



うわ言のようにつぶやくフェルナンドの耳にホセの声が響く。


「驚いてもらえたかな指揮官君? 君達が死神だと思い込んでいたのは、ウチの優秀なる偵察兵君さ。」



「胸にタオルやらなんやらギュウギュウ詰めにして、メイクまでして爆乳美女に仕立て上げたんだ。」



「あぁ、『彼』の名誉のために言っておくけど、彼本当はなかなかのイケメンなんだよ?」



「 なんせメイクをしたら、ウチの兵士達までたぶらかされたぐらいだからね。...」



「彼に持たせた死神の鎌もなかなか良くできているだろう? 貴重なドルをつぎ込んで作らせた精巧な実物大の鎌にうまく騙されてくれたようで、ボクも嬉しいよ。」



零は最初から主力部隊の後方より少数の随伴歩兵とともに、送り狼のごとく身をひそめ、主力をカバーできる後方から本隊を追尾していたのだ。




「バカな...バカな...こんな...こんなこと...」



声が震える。



「死神は……あそこにいるはずがない……」



その言葉を聞いたホセが、楽しそうに笑った。



「そうだね。」


その響きには、明らかに嘲笑が含まれていた。



「でも現実にその死神は、今まさに君達の眼前に舞い降り、確実にそこに存在している。」



「君達は――死神が、あそこにいると思い込んでいたんだ」




「さぁ、派手なパーティの始まりと行こうじゃないか、ウチの――」




「九尾の『女狐』はちょいと獰猛だけどね。」




挿絵(By みてみん)




その意味を理解するより早く



朝焼けの高台で



もう一度



巨大な砲身のシルエットが――



ゆっくりと、その鎌首を持ち上げるのが見えた



その長大な砲身が、再び渓谷を睨みつける




まるで本物の死神が持つ鎌が、その鋭い鎌首をもたげて




ようやく仕事を始めたかのように。






ワナワナと唇を震わせるフェルナンド、双眼鏡を持つ右手は震えている。



その目の前で今度はスケルトン三体が吹き飛び、血と肉と鋼鉄の入り交じった赤黒く濡れたスクラップと化す。



兵達の悲鳴が、朝焼けに染まるあたりを引き裂く。




◆◆




戦略指揮室ではクレアがルークに指示を伝える。



「ルークさん、作戦は成功です、もう敵の目を引き付ける必要はありませんので、予定通り塹壕の下のトンネルを使って後方へ離脱してください。危険な囮任務ご苦労様でした。」



「りょ、了解した、撤退する!! あとは頼んだぞゼロ...!!」



「塹壕の底で泥にまみれて爆乳カカシやってる息子のこんな姿見られた日にゃ、親に泣かれるぜまったく...!!」



挿絵(By みてみん)



◆◆





渓谷は、悲鳴と血飛沫と肉片にまみれた地獄と化していた。


ヨルムンガンドから放たれる35mm砲弾はスケルトンの9mmチタン装甲を濡れたティッシュのようにたやすく撃ち抜き、ボロ切れのように引き裂いていく。



最前列で生身の一般歩兵の盾となっていたスケルトン達はその役割を放棄し、我先に後退し、渓谷の狭い出口へと殺到する。



想像してみてほしい、我々がサファリパークで猛獣たちを至近距離で安心して観察できるのは、絶対に襲われる心配がないからだ。



だがそのバスの壁や強化ガラスが突然消える、いや、猛獣達の爪や牙を防げるだけの強度を持ってない段ボール製だと気づいたら...?



スケルトン達はまさにその状態だ、一般歩兵の盾となれていたのは、その装甲に絶対の自信があったからだ。



だがいまやその装甲は死神の鎌の前には何の役にも立たないことを、目の前で次々と吹き飛びバラバラに解体されていく仲間が証明してしまった。



こうなればスケルトンは、ただのデカい的でしかない。



自慢の重装甲は、鈍重さにしかならない。



無理なスラスター機動を使い回避を試みたスケルトンの何機かが、渓谷の壁に激突した。



仲間と衝突し、倒れて動きが止まったところをペイルライダーの陰から反乱軍兵士の放つRPG7に撃ち抜かれて沈黙する。



「撃て撃てぇ!! 生身の歩兵が相手なら、こちらの銃火器でも倒せる!! 戦意を失わずこちらに銃口を向けてくる奴から優先的に仕留めるんだ!!」



「もう弾薬を惜しむ必要はないぞ、ありったけ撃ち尽くせ!! この先にはいくらでも食料弾薬が貯蔵されているからな!!」



ラグランジュ大佐の指揮のもと、反乱軍兵士がペイルライダーを盾としつつ猛烈な弾幕を浴びせかけ、反撃に転ずる。



完全なる恐慌状態。



今や戦局の盤面は、完全にひっくり返ったのだ。



スケルトン達は楯役を放棄し、我先に狭い出口を目指して殺到する。



出口の渋滞で将棋倒しになった戦友の背中を、スケルトンの鋼鉄の踵が踏み砕きながら出口を目指す。



もはや、誰一人として他人の身を案じている余裕などない。



完全に戦意を喪失している。



勝利を確信し、ただ目の前の無力な獲物をしとめることしか頭になかった彼らは、いまや自分たちの方こそが逃げ場のないエサ箱の中で、ただ死神の鎌に刈り取られるだけの哀れな獲物になってしまったことを理解してしまった。



安全確実な勝利を確信していた人間ほど、それが逆転した時には、容易に戦意は砕かれるものなのだ。



だが出口付近に到達したスケルトンから順に巨大蛇の毒牙が撃ち抜いてゆく。



零は前線の盾となっていたスケルトン、ペイルライダーに迫る最大の脅威を排除した後は、狙撃の優先順位を脱出しようと出口付近に到達したスケルトンに切り替えていた。



ただでさえ狭い出口に殺到し、次々と赤黒いスクラップに変わってゆくスケルトンの全高2.4mにも達する巨体が、狭い出口付近に折り重なってゆく。



その残骸がバリケードを形成し、さらに迅速な脱出を困難にしていた。



「へぇ...こりゃ良いや、狭い通路上に敵が直線状にひしめき合ってる...

適当に照準合わせてぶっ放すだけで、シュラスコみたいにまとめて串刺しにできる...」



「狩り放題あぶり放題の焼肉パーティね!!」



零の照準の中で、またスケルトンが一体粉砕される。



零の隣に随伴していた偵察兵が、予備の35mm砲弾を傍らに置く。



「持ってきた砲弾だけで足りるかなぁ...今日だけで三か月分ぐらいのキルスコア稼げちゃいそう♥」




挿絵(By みてみん)




「指揮官殿!! 指示をお願いします、このままでは部隊が全滅します!!

指揮官殿!!」



フェルナンドの耳に通信兵の悲鳴が響く、だがフェルナンドの思考はうまく回らない。



何も考えがまとまらない。



思考がフリーズしている。



ただ目の前で起きている惨劇を前に、うわ言をつぶやくことしかできない。



「こんなバカな...俺の完璧な作戦が...大統領の椅子が...」



「そうだ!! 後詰のスケルトン部隊を呼び戻せ!! 撤退は許さん!! 」



「後詰の部隊が到着するまで、その場を死守せよ!!」



大声で喚き散らす最後列の勇者。



後詰の部隊は万が一にも渓谷を突破された場合に備えて、この先の物資貯蔵所の背後にある盆地に伏せておいた予備戦力だ。



渓谷を突破した反乱軍が、ボロボロになってたどり着いたところを襲撃して、確実にとどめを刺すためのものだ。



「ああ、後詰のスケルトンって、あの盆地に伏せてある奴だよね? 気の毒だけど、彼らは今頃深い水底で溺死してると思うよ。」



通信機からホセののんびりした口調で、最悪の事実が告げられる。



「で、溺死だと!?」



フェルナンドの眼が絶望に見開かれ、その口から驚愕の声が漏れる。



「うん、ごめんね。知らなかったかな? サンタァナがこちら側で起きてるってことは、山の向こうは大雨になってるんだよ。」



「それがフェーン現象のメカニズムだからね。」



「それにスケルトンを伏せてある盆地は度々水没してる地形なのさ。手柄を渡すのを惜しんで、軍内でも極秘にこの作戦を進めたのがアダになったね。」



「この付近に配備されている部隊の誰かに意見を求めてれば、あんな危険な盆地に予備兵力を配置するのは、自殺行為だと教えてもらえただろうにねぇ。」



「そんな...おい!! 後詰部隊に連絡を取れ!! 今すぐだ!急げ!!」



「そ、それが...先ほどから通信を試みてはいるのですが...後詰部隊の応答がありません!!」



数日前から山向こうに偵察兵を派遣していたホセは、山向こうが連日の豪雨で大量の雨水を天然のダムにため込んでいるのを把握していた。



工作部隊の爆破によりその天然のダムは決壊し、ため込まれた膨大な水量は谷を走り、集積所後方に位置する盆地へと、猛烈な鉄砲水となってなだれ込んだのだ。



その水は渓谷にも流れ込んではいたが、距離が遠いこともあり、くるぶし程度の水深までで敵味方ともに支障はない。



しかし盆地に配置されていた、スケルトン部隊10機はたまったものではない。



地鳴りとともに押し寄せてきた膨大な鉄砲水が瞬時になだれ込み、ものの数分で盆地を湖に変え、彼らを水底へと押し流し、飲み込んだのだ。





スケルトンはあくまで陸戦兵器である、自然の豪雨程度なら問題ないが、完全な水没などは想定していない。



鉄砲水に飲み込まれ瞬時に完全に水没したスケルトンの中にも泥水が流れ込み、スケルトンのハイテク装備の数々を制御するための精密電子部品は次々とショート。



彼らの生命線ともいえるパワーアシスト機能は、またたくまに沈黙した。



こうなれば、とても人力で動かせるような重量ではない。



水没したスケルトンは泥濘と化した水底の軟らかい地盤に足を取られ、立ち尽くしたまま水中で重さ800kgのチタン製の棺桶と化した。



ロックした機体は、もはや人力では指一本動かすこともできないのだ。



この場合、内部の兵士の手動操作による自力脱出には10分はかかる。



不幸にも、彼らの中にそれだけの肺活量を持つ兵士は一人もいなかった。



彼らは立ったままの姿勢で、チタンの棺桶の中に流れ込んでくる泥水に沈み、一発も撃つことなく溺死全滅していた――



挿絵(By みてみん)




「指揮官殿!! 撤退の許可を!! このままでは全滅します!! 撤退命令を!!」



挿絵(By みてみん)




フェルナンドのそばの通信機が、けたたましい悲鳴を上げている。



「...ダメだ!! 撤退は許さん!! ふざけたことを言うんじゃないこの腰抜けどもが!! 俺の大統領の椅子はどうなる!? 撤退など許さん!!」



「あの高台だ、あの死神に反撃しろ!! 奴を殺せ!!  死神さえ仕留めればまだ十分勝機はある!!」



高台を指さしながら喚くフェルナンド。



「無理です!! 距離があり過ぎます!! 我々にはあの高台に陣取る死神を狙撃できるような長射程の武器はありません!!」



「一方的に狙い撃ちされています!! 撤退許可を!! せめて、今からでも空軍に空爆要請を!!」



通信機からは、悲鳴交じりの返答しか返ってこない。



もっとも撤退許可など得るまでもなく、もはや留まって戦おうとする意思のあるものは、ほとんど残っていない。



「空軍の馬鹿どもに手柄をくれてやれというのか!? ふざけるな無能ども!! 」



「私の大統領の夢を邪魔するつもりか!! 上官侮辱罪と敵前逃亡罪で軍法会議にかけてやる!!」



「いや、この場で特務上級権限で、私の手で殺してやる!!」



眼下の遠く離れた戦場の部下達に向けて、腰のホルスターから引き抜いたピストルを乱射するフェルナンド。



完全に正気を失っている。



通信機から、ホセの小馬鹿にしきった声が聞こえる。



「おやおや、大損害だねぇ...カルテルの損益はざっと数億ドル...いや、下手したら十数億ドルってところかな? さらに一般歩兵もほぼ全滅...。」



「どうするつもりなんだろうね?」



「ボクが経営者なら、責任者はただでは済まさないけどねぇ...」



「おやぁ?」



「そういえばそこに、全ての責任をひっかぶせて、口封じも兼ねられる生贄の羊には、もってこいの便利な人材が一人いるようだけど...」



「大丈夫かい、フライドバーガー君?」



「指揮官殿!? 空軍に援軍を要請しますか? もうメンツにこだわっている場合ではありません!! せめて部隊が壊滅する前に...」


「......特務上級指揮官殿...?」



通信兵が背後の気配の異変に気付き、振り向いた時にはすでに彼の上官の姿はなかった。



ウイスキーのボトルを片手に、ジャングルの中へと消えていくフェルナンドの後姿が、最後にちらりと見えた。



ヨルムンガンドの照準が、ヨタヨタとジャングルの方に走っていく小太りの男の背中に合わせられる。




しかし...その照準は、スッと男の背中から外される。



「...まぁいいか、あんな小物指揮官...弾、もったいないや。」



興味を失ったようなつぶやきとともに、零の照準は再び残ったスケルトンと、まだ戦意を喪失していない歩兵に向けられる。




挿絵(By みてみん)




敵ならば、殺せばそれで片が付く。



しかし味方であれば、そう簡単に殺して排除するわけにもいかない。



古今東西言われている言葉だ。


「無能な味方は、優秀な敵より始末に負えない」と。



あれほどの無能な逸材、むしろ生き残らせて、敵の中枢で今後も政府軍の足を内部から引っ張ってもらったほうが良い...



零は、そう判断した。



専用弾薬故に補充が望めず、数が限られているヨルムンガンドの専用弾薬は戦場に持ち込める数も限られている。



一発たりとも無駄弾を浪費できる余裕はない。



戦術的プライオリティーの問題だ。



零が最優先で狙撃するべきは、スケルトンなどの反乱軍の標準火器では対処しきれない脅威度の高い標的の排除が最優先。


他の兵士達の標準火器で対処可能な目標の狙撃優先順位は、低いのだ。


もっとも、責任を取らされることを恐れて部下も指揮も見捨てて放り出し、逃亡したフェルナンド・ガルシア特務上級少佐が軍に戻ることはなく、そのまま敵前逃亡で行方不明の逃亡兵となるのだが....。



「おや、通信兵君、君の上官殿はなかなか危機管理能力がしっかりしている優秀な上官じゃないか、我が身に危険が迫るとなれば、あっという間に現場から逃亡する....」



「えてしてああいう輩は保身にだけは目ざといものだけど...君達はどうするんだい?」



「そのまま上官殿の代わりにスケープゴート役を引き受けるのかい? 悪いことは言わないよ、これは老婆心からの忠告ってやつだけどね。」



「君も身の振り方を考えたほうが良い。忠義だてするほどの上官とも思えないけど...?」



通信機から聞こえるホセのその言葉を、聞くべき者はすでにいなかった。



通信兵達もまた、彼の上官の後を追ってジャングルへと消えていたからだ。



渓谷ではすでに勝敗は決していた、岩から離れ、左右に大きく簡易バリケードを展開したペイルライダーが前進する。



それに合わせて随伴歩兵達も前進しつつ、銃撃を浴びせる。


破壊されたスケルトンの残骸に身を伏せて、未だ戦意を失わず抵抗を続ける兵もいるが、すでにほとんどの政府軍兵士は戦意を喪失し、次々と武器を捨てて投降し始めていた。



撤退要請を無視し、無謀な徹底抗戦を指示していた指揮官は逃亡。



通信兵も逃亡したらしく、先ほどから通信も沈黙している。



楯となるスケルトンは、すでに全機破壊されたか、逃げ出している。


もはや抵抗は無意味だ。


抵抗を続けていた兵士の遮蔽物となっていたスケルトンの残骸に、反乱軍兵士の放ったRPG7が命中し、チタン装甲を撃ち抜く。



スケルトン背部にマウントされていた高機動スラスター用の推進剤タンクが誘爆し、残骸の陰に隠れていた兵士が吹き飛ぶ。



それを見た残りの抵抗を続けていた政府軍兵士も、勝機がないことを悟り武器を捨て、次々と投降の意志を示した。








朝日が完全に上ったころ、渓谷は静けさを取り戻していた。


だがまた少し、サンタァナが暴れ始めているようだ。




「さて、危なかったけれど、なんとか玉藻の前作戦は成功裏に終了ってとこだね。みんなお疲れ様、よくやってくれたよ、感謝している。」



ペイルライダーの通信機からホセの言葉がラグランジュ大佐の耳に届く。



「今回ばかりは寿命が縮んだぞホセ。もちろんお前のことは信じていたが、さすがに本当にあの状況をひっくり返せるのかと、ヒヤヒヤした...」



一息ついたラグランジュ大佐が、タバコに火を付ける。



「こいつもよくしのぎ切ってくれた、改装されていなければ、俺達は零が来る前に全滅していたな...」



ペイルライダーの運転席から顔を出したガブリエルが、傷だらけになったペイルライダーの車体を片手でなでる。



「まったくだね、ボクの晩ご飯のおかずを一品減らしてまで、予算を捻出した甲斐があったというものだよ。」



「渓谷の入り口で待機させていた輸送トラック部隊は、すでにそちらに向けて移動を開始させてあるよ。」



「サンタァナもこの程度なら問題ないから、上のルートを進ませているよ。渓谷は政府軍による爆破工作で通行止めだしね。」



「君達は渓谷出口から地上に出て集積所を抑え、そのまま物資集積所で周囲の警戒に当たりつつ、輸送部隊への物資の積み込みを手伝ってくれ。」



「分かった、苦労しただけの甲斐のある物資量だ。これでしばらくは燃料弾薬、資材食糧に悩まなくて済むぞホセ。」



「お土産の内容に期待しているよ大佐。あぁそれと物資の積み込みが終わったら、忘れずに破壊されたスケルトンの残骸と、盆地で水中オブジェになってる水没スケルトンの引き上げと回収も頼むよ。」



「クレーン付きの大型ユニック車も手配しておいたからね、サンタァナの機嫌がまたぞろ悪くならないうちに、積み込みを終え帰投してくれ。」



「スケルトンもか? それはまぁトラックの積載量には十分余裕があるから構わんが...」



背後から近づいてくる輸送トラック部隊の音を聞きながら、タバコを深く吸い込む、ニコチンが大佐の肺に染みわたる。



「ああ、スケルトンもだよ。カルテルにとっては商品価値を失った、ただのガラクタだろうが、ボク達貧乏ゲリラにとってはあれも貴重な資材だからね。」



「特に水没した方は、電装系はもう駄目だろうけど、それ以外は傷一つついてない上物だよ。」



「分かった、すべて回収しておく。あとは...生き残った奴らはどうする?」



「生き残った一般の生身の歩兵はもう戦意を失って投降しているが、捕虜に取るとなるとメシも食わさにゃならんし、監視の兵もつけにゃならん。」



「強制労働させるにしても、やはり監視の兵が必要だ。正直俺としては少々惜しいが、捕虜には取らずに放免するしかないかと思っている。」



「捕虜交換の取引材料にしようにも、政府軍のやつらが応じないのは、もう経験済みだからな。」



「投降兵なぞ奴らにしてみればトカゲのしっぽ切りの対象でしかない...俺達にとっちゃ多すぎる捕虜はホセ、お前流に言えば不良債権ってやつだ...」



運転席から降りてきたガブリエルがくわえているタバコに、自分の火のついたタバコを近づけ、火を移しつけてやる大佐。



「いや、彼らも投降を希望する者は全員回収してほしい。捕虜については、ボクにちょっとしたアイデアがあるんだ。」



「ふむ、分かった。ではまた後でな。」



タバコの火を踏み消すと、大佐はペイルライダーに乗り込み、指揮を再開する。




◆◆




「はぁ...はぁ...こ、これは敵前逃亡ではない!! 私ほどの名将を失うのは国家的な大損失なのだ...」


「あんなたやすく戦意を喪失するような無能な部下共と違って、このフライングタイガーの代わりはいないのだ...軍にとって、いや!!  国家にとっての大損失なのだ...」



「ハァ...ハァ...だ、だから私は何としてでも生き延びねばならんのだ...それが名将に課せられた責任であり、義務なのだ。」



「そうだ、私は無能な部下どもの失態を最小限の損害で抑えるため、適切なダメージコントロールとして、一時的に戦線からの戦略的離脱をしているにすぎん...!!」



フェルナンドは、必死でそう呟きながら片手に握ったジャックダニエルを煽り、ジャングルの奥へと消えていった。




◆◆




ミゲルは目を覚ました。



辺りはすでに動く者はなく、惨劇の残骸があちこちに転がっている。



粉砕されたスケルトンの装甲の一部、機体の部品、ちぎれ飛んだ人体の一部、あちこちにできている血だまりは、すでに乾いている。



ミゲルの体を、辛うじて数百kgからの圧死から救ってくれたのは愛銃だった。



偶然銃身がつっかえ棒となり、スケルトンの巨体をギリギリで支え衝撃を緩和してくれていた。



ミゲルは傍らに落ちた、無残にひん曲がった愛銃を見やる。



「俺...生きてるのか...?」



意識を失う前まで、彼の体にのしかかっていた破壊され、引きちぎられたスケルトン上半身の残骸はすでになかった。



立ち上がろうとする彼の脇腹に、激痛が走る。


「...ぐっ!?...アバラにヒビが入った...?」


よろよろと立ち上がるミゲル。



彼は、フェルナンド特務上級少佐を指揮官とした、反乱軍殲滅作戦に従事していた。



反乱軍の装甲車両をスケルトン部隊が追い詰め、作戦は成功直前だったはず...



だが突然ミゲルの前面に展開し、楯となってくれていたスケルトン兵士が異様な轟音とともに紙屑のように吹き飛び、粉砕された。



その数百kgの巨体の残骸が、彼の上に崩れ落ちてきた。



正直何が起こったのかは、今でも正確には分からない。


思い出せない。



押しつぶされ、遠のいていく意識の中で、先ほどまで余裕に満ちていたはずの戦友たちの、悲鳴と怒号が聞こえていたことだけは覚えている。



すでに友軍はおろか、反乱軍の姿もない。



生きているのは、自分だけのようだ。



しかし、散らばったスケルトンの残骸と思われる装甲片や部品。



そして息絶えた戦友達の遺体と、地面を染めるどす黒い血の跡が、作戦の結末を物語っていた。



事情は分からないが、俺達の作戦は失敗したのだ、と。



死神の降臨直後に粉砕されたスケルトンの下敷きとなり、身動き取れないまま意識を失ったミゲルは、脅威度判定の最下位に置かれ、早々に零の狙撃のターゲットから外されたおかげで、生き延びた。



作戦終了時に、彼の体を押さえつけていたスケルトンの残骸は反乱軍によって回収取り除かれていたが、その際にもミゲルはすでに圧死した兵とみなされ、捕虜に取られることもなく、戦場跡に取り残されていたのだ。




カーゴパンツのポケットから支給された救急キットを取り出し、中に入っている鎮痛剤を水筒の水で喉に流し込む。



5分ほどで効果が表れ、脇腹の激痛が少しだけ和らぐ。



脇腹を抑えつつ近隣の友軍基地を目指して、ミゲルはおぼつかない足取りで移動を開始した。




挿絵(By みてみん)





地獄の渓谷より生還できたパワードスケルトン兵は、一人だけだった。



左腕を失い、命からがら友軍基地へたどり着いた兵士は、大量の出血で危険な状態ではあったものの、辛うじて命だけはとりとめた。



スケルトンは燃料バッテリー切れで、途中で投棄したらしい。



基地にたどり着いた時には兵士は生身で、左腕に真っ赤に染まった止血帯を巻いた姿だったのだ。



手当の後、彼に軍による聞き取り調査も行われたが、作戦の後半部分、特に死神と思われる狙撃兵が現れて以降の状況については、何も聞き出せなかった。



基地にたどり着いた時、兵士は疲労と出血と恐怖で歯をがちがちと鳴らしながら倒れ込んだらしい。



「ヤツだ...死神だ...スケルトンの装甲なんぞ、あいつには関係ない...」



「俺以外はみんな死んだ...死神の鎌に狩り殺された...」



ただ、うわ言のように、そう繰り返していたという。



彼は重度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、さらに閉所恐怖症も発症していたため、スケルトンのパイロットとしても、もはや復帰不能となった。





挿絵(By みてみん)





作戦指揮官に任ぜられていたフェルナンド特務上級少佐は行方が分からなくなっており、状況から責任の追及を恐れ逃亡したと判断され、逃亡兵として手配される事となった。



彼のお付きの通信兵何名かも同様であり、ゆえにこの作戦の全貌を俯瞰し、報告できる責任者が不在であり、軍の初動調査でも何が起きたのかは不明のままであった。



あの戦場に、情報のブラックホールが発生していたのだ。 



この作戦自体が、一部の高級官位にある者にしか知らされていなかった極秘作戦であった事と、スケルトンの商品価値の失墜を恐れたカルテルの意向もあり、この作戦は顛末も含めて一切の調査が禁じられ蓋がされ、真相は闇へと葬り去られた...




◆◆




物資を搭載したトラックとペイルライダーが次々と拠点に帰投してくる。


いくつかのトラックは協力関係にある近隣の村や、隠蔽された隠し倉庫などにも分散され、夜間の目立たない時間を使って運び込まれる。


予想以上の大量の物資だったため、この措置が取られたのだ。



じきに第二陣の輸送トラック部隊も戻ってくるはずだ。



手配してあったトラックだけではとても追いつかないため、ホセ指令の指示でさらに追加の輸送部隊が投入されたのだ。



サンタァナの影響で到着が遅れている政府軍の防衛部隊が集積所に到着するまでに、すべて回収しなければならない。



一度に運び込むと目立つため、時間をかけて何日かに分けて搬入作業を行い、軽量な物資は行商人に偽装して人力で運び込む。



指令室の窓からその様を見下ろしながら、手に入れたばかりのエメラルドマウンテンを楽しむホセ。



「俺の紅茶も手に入ったぞ、もう10日も切らせていたからなぁ。」



傍らでは、ラグランジュ大佐がうまそうに紅茶を飲んでいる。



テーブルの上に載っているアッサムの袋は、とっておきのミルクティー用だ。



「ホセ司令、捕虜の第二面接ルームへの移動完了しました。」



傍のデスクで作業をしていたクレアが、ホセに告げる。



「やぁ、ありがとうクレア。君用のアイスティーもしばらくは心配いらないな。」



「はい、お陰様で。ガンドロワさんも店の食材がタダで補充出来てホクホク顔でしたよ。」



クレアとラグランジュ大佐を伴い、第二面接室へと移動する。



これは特殊な面接相手用に用意させている部屋だ、壁一面がマジックミラーになっている。


面接相手からはこちらの顔などは見えないようになっているのだ、仕掛けられた変声機を通して会話する。



マジックミラーで仕切られた隣の部屋には、30人を超える捕虜たちが集められていた。



ドアのすぐそばには、銃を構えた警備兵二名が油断なく彼らに銃口を向けている。



みんな不安そうな表情だ。



彼らは先の玉藻の前作戦で戦意を喪失し投降、捕虜となった政府軍の兵達だ。



全員目隠しがされている。



やがて鏡の向こうから、マイクを通して話しかけられた。



「やぁ、政府軍の諸君、とりあえずその目隠しはもう取ってもらって結構だよ。」



「初めまして、ボクは反乱軍の幹部の一人でね。」



「とりあえず、Mr.ノンケと名乗っておこうかな。」





グッ....




今度は隣に立つクレアも、奥歯をかみしめてこらえた。



腐闘士に一度見た技は通じないのだ。





挿絵(By みてみん)





挿絵(By みてみん)





そんなクレアに、なぜか少しだけ残念そうな表情を浮かべながら、ホセ司令がミラー越しの捕虜たちに話しかける。



捕虜たちの目隠しを、警備の兵が取り外していく。



「さて、君達は言うまでもなくボク達反乱軍の捕虜となってもらったわけだが、まずは保証をさせてもらう。」



「君達の身柄は国際的な捕虜規定に従って最低限の正当な権利と身柄の取り扱いが保証される。それだけはまず伝えておきたい。」



捕虜たちは顔を見合わせるが、その表情からはまだ完全に不安の影は消えていない。



「ただ、言うまでもないがボク達は貧乏ゲリラでね、高級ホテルのような待遇は期待しないで欲しい。」



「分捕ってきた物資はあるけど、君達に回せる食事はダブついている特製レーション定食がメインになるだろうからね。」



「ボクが言うのもなんだが、不味いよ?」



「おい、ますます兵が不安になるようなことは...」



ラグランジュ大佐がたしなめる。



「あははは、ごめんごめん。さて、ここからが本題だ、ボクは腹の探り合いってやつが苦手なんだ、だから単刀直入に言おう。」



「君たち政府軍の徴収兵の多くは、家族や恋人を強制収容所に人質に取られて無理やり政府軍に忠誠を強いられていることは知っているよ、そこで取引といこうじゃないか。」



捕虜たちは困惑の表情でお互いの顔を見合わせる。



やがて一人の捕虜が前に進み出る。



階級章は大尉だ。



おそらく捕虜たちの中で一番階級が高いため、代表者を買って出たのだろう。



ミラーに向かって敬礼をする。


「Mr.ノンケ殿、まずは我々の待遇に関しての保証をして頂いたことに感謝いたします。そちらの言われる人質の件も確かに事実でありますが...取引とは具体的に何でありましょうか?」



「うん、君達、これから『幽霊』になるつもりはないかい?」



捕虜たちの顔に、困惑の色が広がっていく。



「その...ミスター...幽霊とは、どういう意味でありましょうか?」



当然の質問だ。



「うん、実は君達のあの作戦での行方に関しては、すでにこちらで欺瞞情報を流してあってね、君達はすでに公式には全員戦死したことになってるんだ。」



捕虜たちの間に、動揺とどよめきが広がっていく。



「つまり今の君達の身分は、すでに死んでこの世にはいない事になっている幽霊、という訳だ。ハハッ。」



愉快そうにホセが笑う。



「幽霊ならば、人質にされている家族に危害が及ぶことは無いはずだよ。」



「なんなら、もう人質としての利用価値が無くなったと判断されれば、解放される者もいるかもしれない。」



「正直我々としてもこれだけの大量の捕虜を抱えるのは負担でしかなくてね、ボクとしてはその不良債権の処理をうまくやりたいわけだ。」



「そこでだ、君達に今後我々の協力者として仲間になって欲しいと考えている。君達の持つ政府軍の内情や、配属されていた基地の機密情報を提供してもらいたいんだ。」



「我々に...軍を裏切れ、と?」



大尉が苦しそうに返事をする。



「家族を人質に取るような軍に、君達が本当の意味で忠誠心を感じているとは思えないけど?」



「それとも、このまま君達を捨て駒のように死地に送り込み、安全な後方でふんぞり返っているだけの腐った連中の駒として生きていくかい?」



「裏切るも何も、人質を取って君達に忠誠を強要する、先に裏切っているのは軍や政府の方じゃないのかね?」



ホセの言葉に、捕虜たちの表情が徐々に変化していくのが、ミラー越しでも分かった。



「もしこの取引に応じてもらえるのなら、すでに君達も知っていると思うが、人質が収監されている強制収容所の解放作戦も我々の重要な戦略目標だ...」



「君達の家族が収容されている施設への解放作戦時には、申告してもらえれば君達を最優先でその作戦に配置することを約束させてもらうよ。」



ホセがゆっくりと続ける。



「さあ、このまま腐敗した奴らの下で家族を人質にされたまま犬死にさせられるか、幽霊となってボクたちとともに家族を救い出すか、選んで欲しい。」



大尉と周りの兵士たちが、議論を始めたようだ。



「悪くない条件だ、このまま軍に戻ったところで、腐った軍のやつらの手柄と保身のためにいずれ俺達は戦場ですりつぶされ、殺されるだけだ...」



「だが、俺達は兵士なんだ...軍と祖国に忠誠を誓った身なんだぞ...!!」



「だがそれでは人質はどうなる? 俺達が生きている限り人質が解放されることはない。解放されるのは、俺達が戦死して人質としての利用価値が無くなった時だけだ...」



「俺達を先に裏切ったのは、ミスターの言う通り軍の方じゃないか!!」



「...色々と君達にも考えがあることと思う。ボクは別室で待機しているから、よく議論して、総意が得られたら声をかけて欲しい。」




「簡単に決められるような決断じゃないことは、分かっているからね。」



そういうとホセ司令は、クレアと大佐を伴い司令官室へと戻る。





バタン。



ドアが閉められると同時に、大佐がホセ指令を見やる。


「ホセ...お前って男は、とんでもない取り引きを考え付いたものだな...」



その表情は驚愕と共に、半ば呆れているようにも見える。



「ボク達貧乏ゲリラにとって、多すぎる捕虜の管理コストは不良債権でしかない。ってのは、君も言っていた通りだよラグ。」



「すでに政府軍に捕虜にされた、ボク達の仲間との捕虜交換提案にも政府は応じないのだから、取引のカードにもならないしね...」



「ならば彼らの持つ情報と土地勘を、こちらの資産にしたい。」



「特に収容所解放作戦の時には、彼らの知識は大きな武器になってくれるはずだよ。」



「なんなら、軍内の暗号プロトコルに関する知識を持っている者もいるだろう、味方にできれば一気に有利になる...。」



闇に包まれた窓の外を眺めながら、ホセはすっかり冷たくなった飲み残しのブルーマウンテンを飲み干した。



◆◆




拠点地下に設置された第三倉庫内は、異様な緊張感に包まれていた。



そこには日中運び込まれた、破壊されたスケルトンと水没ショートしたスケルトンが積み上げられている。



破壊されたスケルトンを分解している整備兵が、悲鳴を上げる。



彼の足元には、血まみれの人間の指や耳が転がり落ちている。



零の狙撃で撃ち抜かれたスケルトンの内部の隙間には、かつて人間だったものの残骸がまだ残っている。



事前にある程度の清掃はしてあるが、完全には取り除けていないのだ。



整備長が、水没したスケルトンの山を見上げる。



「さて...いよいよ問題の水没機体の方だが...」



周りを取り囲む部下の整備兵達を見回す。



全員、緊張した面持ちで黙っている。



スパナ片手に、腕組みをした整備長が口を開く。



「もちろん俺が率先して解体するが、一人じゃいつまでたっても終わるような数じゃないからな、複数人数で同時に解体作業を進めなきゃならんが...」



水没したスケルトンの中には、カルテル私兵の溺死体が入っているはずだ。



解体すれば、当然『彼』らと対面することになる。



整備兵達がしり込みするのも当然だ。



トラウマになりかねない。



彼らの表情を見ながらため息をついた整備長が、右手を差し出す。



「仕方がない、解体に当たる者は公平にクジ引きで決めよう、もちろん俺は確定だ。」



整備長の右手から、次々とクジの紐を祈りながら引き抜いていく整備兵達。



「よし、残念だがクジを引き当てちまった者は、さっそく解体作業にかかってくれ。」



「使えそうなパーツはこっち、使用不能だが復元の見込みがありそうなパーツはこっち、復元も無理そうなら、ジャンクボックスだ。」



「今夜中にパーツの選別と装甲の分離ぐらいは済ませておきたい。」



「徹夜になるが心配するな、分捕ってきた物資の中には、上物の眠気覚まし用コーヒーもたっぷりあったようだからな...」



「では、作業を始めてくれ。」




赤い印が付けられたクジを恨めしそうに見ながら、それでも彼らは覚悟を決め、スケルトンの解体作業に取り掛かった。



挿絵(By みてみん)




爆乳酪農家狙撃兵ホルスタイン零-zero-  第四話「玉藻の前作戦」・ 完


次回予告扉絵



挿絵(By みてみん)




男の尊厳をかなぐり捨てて、玉藻の前作戦を成功に導いた立ち役者の一人、ルーク君の作戦時の姿です。


挿絵(By みてみん)



なお、本来のルーク君の姿はこちら。


挿絵(By みてみん)


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