第二話 レジスタンス・ラプソディ
南米の戦場に、死神がいる。
対艦狙撃砲を担ぎ、
装甲を貫き、
命を刈り取る。
彼女の名はホルスタイン・ゼロ。
元はただの酪農家だった。
戦場では死神。
平時はヤキソバパンを頬張る、爆乳の女。
次に死神が狙うのは——誰だ。
ゼロが飲む、三日月亭のコーヒー牛乳は甘い。
暇つぶしにやっていた対話型AI達との雑談から発生した企画を小説化した異形の作品です。
とにかくジャンル分けタグが、全部使っても足りないほど全部入りな支離滅裂な内容です。
文章量によりガッツリ胸焼け版と分割版に分けてありますので、読みやすい方でどうぞ、内容は基本的にどちらも同じです。
アルファポリス投稿版はこちら
https://www.alphapolis.co.jp/novel/626811383/219087564
カクヨム投稿版はこちら
https://kakuyomu.jp/my/works/11054822662412926642
内容はどちらも同じなので、ご自分の使用アプリなどによって読みやすいほうでどうぞ。
爆乳酪農家狙撃兵ホルスタイン零-zero- 第二話「レジスタンス・ラプソディ」
道行く人々の喧騒がこの寒村にはまだ生きた人間たちの生活が辛うじて残っていることを示している。
決して豊かな村ではないが、往来にはそれなりの活気がある。
一見すると比較的活気があるだけの寒村だが、この村の住民の多くは政府のやり方を快く思っておらず、表向きは政府に従うそぶりだが、その実は反乱軍の隠し拠点となっており、村全体が外からは分からないように各民家や公共の建物の地下には隠し倉庫などが増築され、拠点要塞化されている。
この村だけではない、表向きは政府軍に協力しつつ反乱軍を匿ったりする協力体制にある村々も付近には少なくない...。
村唯一の酒場にして反乱軍の拠点兼食堂として機能しているここは「白金の三日月亭」。
その隅のテーブルに座る女性がほっぺたをハムスターのように膨らませて食事を掻き込んでいる。
「んぐっ....んぐっ...おやっさん!! ウラカン追加でもう一杯!! むぐっ...んぐふぅっ...」
その声に振り向いたカウンターの向こうで作業をしているこの店のオーナー、ガンドロワが振り向く。
「はいよ、つーか口の中のモン飲み込んでからしゃべれよ...」
「まったくだ、もーちょいこう、お淑やかにだな...ヤマトナデシコって言葉があんだろ日本にはよ。」
隣のテーブルに座る偵察兵ザックがあきれたように言うが、どうせいつもの光景だ。
「んぐっ...もがっ...ごくんっ、うっさいわね、花より団子って言葉もあんのよ日本には!!」
ハムスターほっぺの女性はつい数時間前政府軍根拠地の一つ、第13基地で多数の敵兵、重戦車二両、対戦車攻撃ヘリ一機を撃墜する戦果を挙げた狙撃兵、御子神 零、コードネーム、ホルスタイン・ゼロだ。
尋常な戦果では無い、狙撃兵一人による一度の出撃での戦果としてはあまりに異常な戦果と言っていい。
爆乳の死神、ミルタンクデス...それが姿なき襲撃者に対して政府軍の兵士達が送った恐怖と畏怖の称号だった。
彼女はつい先ほど前線での敵戦力漸減を目的とした狙撃ミッションより帰還するなり、戦果報告もそこそこに、いつもの三日月亭に駆け込みいつものメニューを注文し、いつものようにハムスターのようにそれを頬張っていたのだ。
「ねぇガンドロワ、いい加減外のあの店の看板、新しいのに変えたほうが良いんじゃない? もう100年ぐらい変えてないんでしょ? ペンキは剥げてるし聖騎士様の加護の盾だっけ? かすれてほとんど見えなくなってるじゃん。」
一息ついたのか、店の名物テキーラベースの高アルコール度数を誇るエル・ウラカンを全く気にもならないかのようにゴッキュゴッキュと飲み干す零。
「うるせぇよ、あの看板は俺の爺様の代からある俺のガキの頃からの自慢の看板なんだ、そうそう簡単に変えられるかってんだ、伝統ってもんがあらぁな。」
カウンターでグラスやジョッキを拭き、料理の仕込みをしつつ三日月亭のオーナー、ガンドロワが応じる。
「伝統ったって...「白金の」(しろがね)の部分の文字もかすれて、今じゃ略してただの三日月亭って呼ばれてるじゃん、伝統にこだわるならちゃんと『白金の三日月亭』って正式な名前が読めるほうが良いと思うんだけどなぁ...」
かつてこの村のあたりには、遥か昔から伝えられる英雄譚があった。
恐ろしい邪龍を神の加護を受けた聖なる三日月の紋章があしらわれた盾を携えた一人の英雄、聖騎士がその邪龍を打ち倒し、あたりに平和をもたらした...どこにでもある、よくある英雄伝説だ。
長い間にその伝説も半ば忘れ去られ、聖騎士が邪龍討伐の後立ち寄ったこの村で愛馬を休めた故事に由来する由緒ある白金の三日月亭の名前もまた、伝説の風化とともに誰も正式な名前では呼ばなくなっていった。
なにより長きにわたるこの国の内乱が人々からそのような細かいことを気にする余裕を奪っていた。
「とにかく、俺の目の黒いうちはあの看板は変えさせねぇ、それが俺の誇りと伝統の重みってやつだ。」
零の目の前に新しいジョッキを置き、親父は腕組みをする、見た目にたがわず頑固な親父だ。
「ふーん...まぁ良いけどさ...おっちゃん、サビ鉄鍋のガツ煮込みも追加ね。」
さらに名物のガツ煮込みを追加する零、ガンドロワの異様に広い味覚のストライクゾーンのせいで三日月亭のメニューは異様に美味いか異様に不味いかの両極端だ。
牛や豚のモツをニンニクと村でとれる特産物のハーブ類で一日かけてグツグツと煮込んだこの看板メニューの一つ、『サビ鉄鍋のガツ煮込み』は人気メニュー、つまり前者の方だ。
「やれやれ、いつものことだが馬かお前は、どんだけ食う気だよ...」
「解ってやれよガンドロワ、零の場合喰ったもんの栄養全部あのバストに行くんだからよ、腹が減るんだよ。」
隣のテーブルで昼間っから一杯ひっかけている二人の偵察兵がからかう。
「お巡りさん、こいつらです。」
無遠慮に二人の方をフォークで指刺しながら零が応じる。
「オイ、俺は何も言ってねぇぞゼロ!! 俺まで流れ弾くらったじゃねぇかザック!!」
「そうそう、ボク達何にもしてません、つかボク達二人は荒くれ部隊の中の最後の良心って言われてるぐらいの紳士なのに心外だなぁ。」
ルークの言葉にすかさず先輩偵察兵のザックがボケる、最近入隊したルークはベテラン偵察兵のザックと組んだばかりだが、反乱軍の最強戦力である零に随伴して任務遂行できる兵は多くはない。
ザックの希望で新兵のルークをゆくゆくは自分が零との任務が遂行できない場合に備えての予備のバックアップに育て上げておきたい、との理由で最近はルークを指名しての任務に連れ出すことが多いのだ。
ザックの気さくな人柄のおかげか、もともと馬が合うのか阿吽の呼吸の漫才、なかなか良いコンビだ。
「お巡りさん、そこの変態紳士二人です、早く逮捕してください、犠牲者が出てからじゃ遅いんです。」
特に本気で怒る風でもなく軽口で応じる零、この二人との掛け合い漫才もいつもの風景だ。
カランカランと店の入り口に仕掛けられた来客を知らせるガンドロワお気に入りの鈴の音が響く。
「おーい、補給物資届いたぞ、今回は酒もあるんで酒保(臨時の売店)も開くってよ。」
男の言葉を聞いた零が椅子から飛び上がらんばかりの勢いで反応する。
「ヤキソバパン!! 今度こそ買い占めちゃる!!」
そう絶叫すると彼女は大きな胸をブルンブルンと揺らしながら店のドアを蹴り破らんばかりの勢いで知らせを届けに来た兵を押しのけて飛び出してゆく。
ドドドドドド...
地響きが遠ざかっていく、しかしすぐに地響きの原因が戻ってくる。
「おっちゃん!! ガツ煮込みはちゃんとそこ置いといてよ!!」
ドドドドドド...
店の入り口から顔だけを突っ込んでそう告げると、また地響きの主は遠ざかっていく。
「.........ハァ.....」小さくため息だけをつくと何も言わずガンドロワは厨房に入っていく。
「そういやぁよ...」
エールのジョッキを傾けながらルークが口を開く。
「ゼロの...あいつのあのふざけたコードネームは何だ?」
「ああ、やっぱ気になるか?」
「誰でも気になるだろ、ホルスタイン・ゼロってコードネーム、なんでそんなふざけたコードネームに? まぁだいたい由来は想像はつくけどよ。」
ザックもエールを口に運びつつ答える。
「あぁ...なんでもホセ指令が志願兵の面接で一方的に押し付けたコードネームらしいわ。」
ホセ・モントゴメリー、かつては大企業の敏腕重役として名をはせた異色の経歴を持つ男だ、現在はこの村のかつての公民館をひそかに改装した司令部で反乱軍の指揮を執っている。
表向きは商談のためにこの村に長期滞在中のビジネスマンとなっているが、重役時代はその昼行燈のような常に眠たそうな目と腰の低い態度からは想像もつかぬ冷徹な戦略で次々と社内の政敵を失脚に追い込み、数多くのライバル企業への敵対的買収を成功させ「人喰いクリオネ」の異名があったらしい。
「ホセ指令が零と面接した時にな...」
ザックが語り始める、エールは少し温くなっている。
◆◆
ヨルムンガンドを担いだ零が公民館の大会議室に偽装された司令官室に通された時、ホセ指令は椅子を横に向け零の簡単な履歴書に目を落としたまま彼女を迎えた。
「やぁ、よく来てくれたね、履歴書もご丁寧にありがとう。」
「さすが几帳面な日本人だね、まぁうちは正規軍じゃないし履歴に関してはあまり見る必要はないんだけどね、力を貸してくれるなら誰でも大歓迎ってぐらい人手が足りてないんだ...」
「えーと、Missレイ・ミコガミ...ボクも多少は昔のビジネスの関係で日本語ができるんだけど、君の名前、確か零は日本語で数字のゼロって意味だよね?」
そういいながら、くるりと零の方に椅子を向け彼女を見やるホセの表情がギョッとする。
ヨルムンガンドを担いだままその視線に怪訝そうな表情を浮かべる零だが...
しばらく思案顔だったホセは彼女が担いだ巨大な鉄塊と彼女自身の特定部位を交互に見やる。
「うん、良し!! 君のコードネームはホルスタイン・ゼロだ!! ハイ採用。」
何の躊躇もなくそう告げると手元の書類にハンコを押し、あっさりと採用を告げる。
「え...? そんなテキトーでいいの? もっとこう素性について聞いたりとか志願の動機とか...」
「言ったでしょ? 人手が足りないし、君みたいに愛用の武器まで自前で用意してくれる志願者は大歓迎なんだ、ボクらも贅沢言える立場じゃないしね、なにより高潔な理想だけじゃ人間腹は膨れないからね。」
「ボクらが必要としているのは実戦力と貰った給料分はきっちり果たす責任感さ。」
「こう見えてボクは人を見る目はかなり自信があるんだ、君は裏切ったりするタイプじゃないことぐらいは目を見ればわかるよ。」
「理想とか聞いて欲しいなら、一応聞くだけ聞こうか? 聞き流すけど。」
「あ...うん、まぁあたしとしても余計な詮索されるよりは、話が早いほうが助かる。」
それまで司令官のそばで控えていた大男が口を開く。
傷だらけの顔、意思の強そうな角ばった顎、歴戦の兵士といった風貌だ。
「あー、ホセ指令殿、あまりそういう態度は感心できませんな、軍の規律というものが...」
「まぁまぁ良いじゃないかラグランジュ君、本人も堅苦しいのは苦手みたいだよ、ボク以上にね。」
「あ、こちらは前線指揮の最高責任者、ラグランジュ大佐だ。君にとってはボクよりお世話になることは多いはずだよ、よろしくね。」
「う、うん....よろしく大佐...殿。」
零が少し緊張気味に大男に挨拶をする。
「ああ、殿まではいらんよ、ここは正規軍じゃないからな。」
大男なりに目の前のまだ若い女性を怖がらせたくないのだろうか、気を使っているようだ。
無骨だが意外と話せる、兵達からも信頼されるタイプなのかもしれない。
「よし、なら契約成立だ、ああ、申し遅れたね、ボクの名前はホセ・モントゴメリー、一応反乱軍の総司令官をやっているが、気にせず長年の友人のよーにモンモンって親しみを込めて呼んで欲しいな。」
おどけた調子でふざけ気味の提案をする指令、こちらはなかなか食えない人物のようだ。
(こりゃ相当なタヌキ親父みたいね...)
内心そう思いつつも話を合わせる零。
「了解、でも総司令官殿をモンモン呼ばわりするのは気が引けるし、かといってホセ・モントゴメリーは長くて呼びづらいし...」
顎に手を当てて思案顔の零。
「ははっ、君達日本人は本当に生真面目で礼儀正しいなぁ、なんならホセでも...」
「じゃ略してMr.ホモって呼ばせてもらおうかな。」
「....................みすたぁほも? いやいや、せめてゴメりんぐらいにして...」
「ハイ決定、じゃーねMr.ホモ指令。」
有無を言わせぬ口調でそう告げると零は相手のことなどお構いなしに退室する。
その場に残されたホセ指令の引き留めようとする右手がワキワキと空しく空気をつかむ。
「ふう....やれやれ、かなりの女狐みたいだねあの娘、でも面白い人材が加わってくれたな。」
「ああ、あの担いでたバケモノ...あんなもの汗一つかかず平然と担いでる時点で基礎体力はしっかりあるようだしな。ウチはどうしても重火砲の類が足りとらんからな...」
「そうだね、期待のルーキーってところだね、もっとも...」
「ラグ、君の胃痛の種は増えそうだけどね?」
ニヤニヤしながら大佐を見る総司令。
◆◆
「...てなことがあったみたいだぜ、同席してたおしゃべり秘書のクレアからの噂話で聞いたんだけどよ。それ以来零だけは総司令相手でもMr.ホモ呼ばわりだ、まぁコードネームの零らしい意匠返しなんだろうけどな。ラグランジュ大佐もゴリさん呼びだ、こっちは見た目まんまのあだ名だけどよ。」
エールのお代わりを注文しつつザックが笑う。
「み...みすたーほも...ひでぇあだ名だが...でもそういや俺が面接した時も総司令モンモンって呼んでくれって言ってたぞ...意外と本気でそう呼んで欲しいのか? さすがに呼べねぇけどよ...」
新しいエールのジョッキを持ち、困惑するルークに笑いかける。
「ウチの総司令官殿はどこか底の見えん御仁だからなぁ、けど侮るなよ? 見た目は無害な昼行燈だが、とんでもない戦略家だ。」
「ウチみたいな弱小ゲリラ風情が、今まで政府軍相手に何とかやってこられたのは、総司令とラグランジュ大佐、この二人の手腕によるところが大きいんだ。特に指令は油断してると頭っからガブリと捕食されるぜ?」
「ナメてたら、いくつ命があっても足りゃせんぜ。」
「だろうな...いままで反乱軍が潰されることなく政府軍相手に変幻自在、神出鬼没の戦いで翻弄してる噂は俺も聞いてたさ。」
ルークもザックに続きお代わりを頼む、ついでにツマミのタコスも注文する。
ドドドドドドド......
「帰ってきたな...」
2人が同時に呟く。
「よっしゃぁぁぁ!!ヤキソバパン全部買い占めたったwww資本主義の豚バンザイ!!ハーラショー!!」
国籍不明な奇声をあげながら、店のドアに地響きの主が近づいてくる気配がする。
すぐに満面の笑みを浮かべた零が、マルクスの横っ面を全力で助走付きグーパンで殴りつけるが如き勝利宣言の雄叫びを上げながら入店してくる。
口にはすでにヤキソバパン一個を咥え、両手にまで山のようなヤキソバパンを抱え込んでいる。
それでも抱えきれなかったのか、豊かな胸の谷間に押し込まれたヤキソバパンが縦列駐車でいくつかサンドイッチホールドされている。
零の帰還と同時にタイミング良く、ガンドロワが厨房よりサビ鉄鍋のガツ煮込みを持ってくる。
そのまま元の席に着き、大事そうにヤキソバパンをテーブルの脇に寄せ、ヤキソバパンをおかずにガツ煮込みを頬張り始める零。
「あぁ、そういえばよ零、お前政府軍のやつらから『爆乳の死神』ってあだ名を頂戴してるらしいぜ、ヨルムンガンドにいたっては死神の鎌だってよ。」
エールのジョッキをあおりながらザックが言う。
「…….んぐっ!? ぐが...ぐっぐっ...!!!!」
ガツ煮込みを喉に詰まらせた零が慌ててウラカンを喉に流し込む。
「なんだよオイ!? そりゃマズくねぇか? どっから情報が漏れたんだ!?」
慌ててルークがザックに詰め寄る。
「いや、それがよ...ほら、いつぞやの作戦の後、零が帰り道で立ち寄った村の子供から花を買ってやったことがあったろ?」
「あ...三か月くらい前のやつか?」
「そうそう、それだ、あのあと政府軍の監察兵が来て、あの時の子供に事情を聴いてたらしくてよ、子供がうっかり答えちまったんだとさ。」
「『ママよりずっとおっぱいが大っきいきれーなお姉ちゃんだった、なんかでっかい鉄砲も担いでた!!』ってよ。」
「ちなみにその子供が『ずっと大っきい』の時両手を広げて表現したらしいんだが、自分の頭より大きく両手を広げてたらしいぞ。」
「あー...まぁしょうがねぇか...そりゃ見たやつは絶対忘れられんビジュアルだろうしな、ましてや子供じゃなぁ...」
ふと気づくと隣のテーブルで零が顎に手をあてて真剣な表情で何やら考え込んでいる。
(まさか、反乱軍内にスパイが...? いや、それならあたしの名前も人相もばれてなきゃおかしい....爆乳の死神...ヨルムンガンドの牛柄からの連想....?まさか、実家が酪農農家なのがバレた!?)
(だとしたらあたしの個人情報が...となると、ここからの情報流出より本国ルートからの流出を疑うべき...?)
(はっ!? まさかペンタゴン(米国国防総省)にまでスパイが!? あるいはCIA(中央情報局)ルートという可能性も...)
「オイ...ゼロの奴、なんか考え込んでんぞ...」
「多分、とんでもない斜め上のこと考えてる顔だなアレは...」
「表情で分かるのか? さすがに付き合い長ぇだけのことはあるな...」
ヒソヒソと言葉を交わすザックとルーク。
親指の爪を噛みながら眉間にしわを寄せていた零が、突然立ち上がり叫ぶ。
「シャドウガバメント...いや、300人委員会の陰謀だ!! ぅおのれぃ! イルミナティィィィィ!!!」
何やら絶叫しながら、拳をプルプルと震わせている。
「なんか良く解らん陰謀論に落ち着いたみたいだぞ。」
「シャドウガバメントってなんスかゼロさん?」
ルークが笑いをかみ殺しながら尋ねる。
「シャドウなガバメントに決まってるでしょうが!! 影の政府よ!! 知らないのルーク? アトランティスでも特集組まれるぐらい有名なんだから!! 宇宙人と取引してんのよ!!」
「あたし達は今こうしてる間にも奴らの掌の上で転がされてるのよ!!奴らは自分達だけで火星に移住しようとしてんのよ!!」
「世界を牛耳る影の政府...」
「またの名を...ディープ・スロート!!」
零の絶叫とともに、店内にいた事態を静観していた何人かの兵士が鼻や口からドリンクと食べ物を一斉に噴霧する。
ディープ・ステートと言いたいのだろうが、うろ覚えで年頃の娘がとんでもない単語を口走っている。
(作者注※ホルゼロは健全なコンテンツを目指しています。)
一字違いで大・惨・事である。
「一体何がどうなってそんな場末のピンサロみたいな名前の組織にたどり着いた...?」
笑い転げるザックとルーク。
顔面蒼白のガンドロワが、包丁片手に厨房からすごい勢いで飛び出してくる。
「オイてめぇ零!! ウチは健全な店なんだぞ!! 公共良俗に反するとんでもねぇ単語大声で叫んでんじゃ...」
「ここここうしちゃいられない!! ゴリさーーーーん!!!!」
ガンドロワの言葉を最後まで聞くことなく、三日月亭を飛び出して偽装された司令部の方角に激走していく零。
すぐに店内に駆け戻ってきて、ヤキソバパンを抱え胸の谷間にありったけ押し込むと、また飛び出していく。
「CIAじゃなくても、あいつ見りゃ誰でも真っ先に爆乳とかホルスタインとかって単語連想するよな...」
タコスをパクつきながらザックが呟く。
「...あとで大佐に差し入れ届けてやってくれや、胃腸薬な。」
二人の前にルーク用のタコスと胃薬を置きながら、ガンドロワは憐みの眼を司令部の方に向けるのだった。
◆◆
「たたたた大変だよぅゴリさん!! ついに影の政府があたしたちに牙をむいたんだよ!! 人類洗脳計画だよ!! ピラミッドパワーでゴンドワナ大陸が浮上するのよ!! あたしのこのスマホの個人情報もダダ漏れになるぅぅぅぅぅ!!!!!」
「アルミホイルはどこ!? 皆もあれで帽子を作って洗脳電波を遮断しないと....!!! HAARPだよ!! 三沢基地からガメラレーダーに狙われるぅぅぅ!!!!」
司令官室に入室するなり、頭を抱えて何やら喚く零。
「.......とりあえず落ち着け。そして我々地球人にも理解できるように説明するんだ零。」
紅茶のカップを片手にラグランジュ大佐は右手で胃の辺りを抑える。
「あたしの情報が政府軍に漏れてる!! 死神のオカマがどうたらとか!! ハリウッド女優よりもずっと美人で可愛いかっただとか!! とにかくヤバいのよ!! ダダ漏れなのよ!!」
多少改ざんした情報を早口でまくし立てるが、ホセ指令が割って入る。
「ああ、爆乳の死神の源氏名なら、ウチの諜報部隊のほうでも把握しているよ、心配いらないよ。」
「流出したのは『バケモノみたいな銃を担いだ爆乳の女』ってだけで、人相や国籍はおろかコードネームもまだ掴まれてないからね。」
「特定されるところまではたどり着けないと思うよ。」
「そんなのんきなこと言ってる場合じゃないのよホモ指令!! このままだとあたし達は生体エネルギーユニットとして人間乾電池にされるかもしれないんだよ!?」
「早急に情報漏洩ルートを突き止める必要があるわ!!」
バンバンと司令部にあるホワイトボードを叩きながら
「ピラミッドパワー」
「モアイ像が共振」
「バシャールの愛の波動」
「レプティリアンの地球農場化計画」
「アセンションによる次元上昇」
「ホワイトハウスはすでにウンモ星人の巣窟」
などのキテレツなワードを書き込み、必死で熱弁を振るう零。
「そうか、うん...分かった、すぐに調査させよう。だから今日はもう帰って温かくして寝るんだ零、いいな?」
そう告げて最後の錠剤をボリボリとかみ砕き、紅茶で流し込むラグランジュ大佐。
「胃薬代はあとで領収書回してくれれば、経費で落とせるからね。」
ニヤニヤと笑いながら優しく告げるホセ指令だった。
◆◆
翌日の夕方、零は指令室の秘書クレアのアパートに招かれていた。
零がクレアのアパート前を通りかかった時宅配便が届き、クレアが受け取りに出てきたのだが、段ボール二つは重かろうと零と配達員で手分けして部屋まで運んだお礼に、クレアからお茶とクッキーでも...と招かれたのだ。
「部屋まで運んでもらっちゃって、有難うございます零さん、重かったでしょう?」
「なんのなんの、ヨルムンガンドの弾薬箱と比べりゃ軽いモンよ。」
ぐっと右腕に力こぶを作る零。
「ンでもさ、これ中身何か聞いて良い? 日本から取り寄せたってのが気になっちゃってさ。」
お茶うけに出されたクッキーをモグつきながら尋ね、紅茶を飲みながら部屋の隅に重ねておいた二つの段ボール箱を見やる。
「えーと...うん、まぁ零さんにならいいか、本なんですけどね。」
段ボールを開け、中から一冊の妙に薄い本を取り出し零に手渡すクレア、段ボールの中は同じような本がぎっしり詰まっている、重いわけだ。
「ふーん...わざわざ日本から取り寄せてまで読みたい本なの? マンガ?」
表紙にはなぜか上半身裸の男性二人が、ベッドの上で並んで抱き合っている。
一人は黒髪短髪の筋肉質、もう一人は胸の膨らみからして間違いなくこれも男性なのだが、顔立ちも体つきも妙に線が細く、顔だけ見ると中性的で目の前にはうっとうしそうに前髪の毛がかかっている。
視界の邪魔ではないのか?
その二人が物憂げな表情で描かれていた、二人共アゴが昔の軍艦の艦首についている衝角のごとく細く尖っている。
「......?」
何ページかめくり中を確認する零の手がピタリと止まり、大きな目がさらに大きく見開かれる。
「.............んえっ!?.......ぬぉっ!?.......こここここ、これなにクレアさん!?なんで男の子同士で......うっわー.....えっ?えぇっ!?......はうぁっ......!!」
食い入るように本を見る零、時々変な声が漏れる。
「ええ、まぁそういうジャンルの本なので。日本ではLGBTQなんて言葉ができるはるか以前から、市民権を得ていると聞いています。」
そう、クレアは腐っていた。
零が幼いころ知っていた日本とは何かが違うような気がする...。
「零さんには、こっちの作家さんの絵柄のほうが合うかもしれませんね。」
と、再び段ボールの中から一冊取り出し渡す。
今度の本では何かのアニメキャラが描かれている、たしか三年ほど前に日本で話題になったアニメのキャラだったはず、零にも見覚えのあるキャラ達だった。
だがなぜかそのキャラがふんどし一丁で兄弟船と書かれた小さな船の上で仁王立ちしているが、生足には一本もスネ毛はない。
筋肉質な上半身は素肌の上に革ジャンを羽織り、隣にいるドレスのようなものを身に着けたキャラの細い腰に手を回し、伝説の聖剣を握った反対側の手で抱き寄せている。
零の記憶が確かならば、このキャラは長髪の美形男性で、仁王立ちしている主人公のライバル的な立ち位置のイケメンキャラだったはずだが...
タイトルは「漢汁祭り・風雪暴れ太鼓」
「うをっ...えぇっ!? す、スゴ...!! ひえぇ......んほぉっ!?」
零はクッキーをつまむのも忘れて本を顔の前まで持ち上げ、うなり声をあげる。
「え...ちょっ!? なにこれどういうコト!? や、ヤオイ穴!? なにそれヤオイ...んえぇっ!? ちょッッッ!? ククククククレアさんナニコレやおい穴ってナニ!?」
「やおい穴というのはですね...」
厳かで優雅な手つきで紅茶のカップをソーサーの上に置き、クレアが零の耳元に口を近づけてなにやらゴニョゴニョと囁く。
「二人の男性がですね...愛があれば...実在しない器官...それを使ってですね
....ために心が通じ合って最高潮に...出現する、神聖なモノなんですよ。」
零の視線は本に釘付けになったまま、耳だけがダンボのように大きくなる。
『お前...良く見るとまつげ長ぇな...』
『腰細っせぇな...』
『お、おい...なんか当たってるってば!!』
『わざと当ててんだよ♥』
などのパワーワードが、凄まじい瘴気を放ちながら零の視界を埋め尽くしている。
「うん、やはりこのサークルさんはストーリーの作り方が上手ですね。注目のサークルさんですね...」
呟きながら読んでいるクレアの本の表紙には、満員電車内で機関車ト〇マスがゴ〇ドンを背後から抱きかかえ、のしかかり気味に壁に押し付けている。
二人共アヘ顔だ。
タイトルは「痴漢者トー〇ス」
『あぁ...こんなところでだめだよぅ〇ーマス...れ、連結器が...連結器が連結されちゃうぅ...』
ブツブツと小声でクレアがセリフを口に出している。
満員電車の中に機関車がいる構図だけでも相当な破壊力だが、痴漢する側もされる側ももはや人間ですらない。
ラストのベッドシーンでは
「おん! おん! おん!」
という、よく分からないセリフと共に
チカッ!
チカッ!
ガキン!
ガキン!
ブシュウゥ!
シュコォォォッッ!
という一般的なベッドシーンではまずお目にかかれない擬音が踊っている。
どう見てもロボットアニメの熱血合体シーン用の擬音である。
「じゃ、じゃあさクレアさん? こういうのってさ、周りの人間とかでも妄想してたりすんの? た、例えば、ザックとルークとかさ...」
「そうですね、その二人だとやはりザックさんが攻めの、ルークさんは誘い受けでしょうか。」
「じゃ、じゃあホモ指令とかも!? せ、攻めかな? 受けかな?」
「いえ、指令はあの性格ですし、ルークさんを指令室に呼び出して色々と罠にハメてザックさんの目の前でNTRする展開でないと違和感がありますね。」
「『ザック君の前でそんな顔を見せるのは初めてだろう? 彼の目の前でボクの色に染め上げてあげるよルーク君...ふふ、さぁ最高のステージの幕開けだ!!』」
「とか、あぁ...エア息子がフル起っきしちゃいますね。」
普段通りのクールビューティーな表情を全く崩さずに、とんでもないオリジナル展開で即興のセリフを述べるクレア。
「じゃあさ!! じゃあさ!! 例えばガブリエルが敵に捕虜にされちゃってさ、こんな拷問とかで...ごにょごにょ...中華鍋片手に救出しに来たガンドロワがその姿に興奮して、そのまま...ごにょごにょ...」
耳元でささやく零の言葉に、クレアの鼻からツッゥ...と一筋鼻血が流れる。
「そ、それはいくら何でも過激すぎますよ零さん!!」
「あ、でもこのトーマ〇本のサークルさん、その設定で来年の夏に新刊出してもらえないかファンレター送ってみようかなぁ...。」
鼻にティッシュを詰めながら、キャアキャアと声をあげるクレアと零。
……一方その時、クレアの隣室に住むフリーター青年、パトラッシュ・ペプシチューハイは薄い壁を通して聞こえてくるそのかしましい二人の声に両耳をふさぎのたうち回っていた。
「うぅ...チクショウ...あの隣の腐れヲタ女!! 今夜は友達まで引っ張り込んでやがるのか...」
「毎晩毎晩『脚立受けタワシ攻め』とか『コロスケに分からせられるブタゴリラは割とイケるけど、汁の描写がちょっと甘い』だの訳の分からねぇことをデカい声でブツブツ独り言言いやがって...」
「いい加減にしてくれぇ!!」
薄い本を片手に歓談し合うその二人の女達の黒ミサは、結局明け方まで続いた。
翌朝、早朝筋トレでジョギング中だったルークは、目の下にクマを作ってフラフラと自宅方面に歩いてゆく零を見つけ、声をかけた。
「おぉ? なんだゼロ珍しいなこんな早朝に。」
「作戦時以外はいつも昼近くまで寝てるニート気質が...ぶはははははは、なんだその目の下のクマは!! ひっでぇ顔!!」
大声で笑うルークに、しんどそうにジロリと淀んだ目で一瞥をくれる零。
「.......昨日は『ダメぇ指令!! ボク女の子にされちゃうよぉ!!』とかさんざん啼いて、爆乳カカシのコスプレさせられてたくせに...」
そう呟くと、フラフラとおぼつかない足取りで自宅方面へと消えていく零。
その後姿を眺めながら、その場に固まるルークを昇り始めたさわやかな朝日の光が照らすのだった。
爆乳酪農家狙撃兵ホルスタイン零-zero- 第二話・「レジスタンス・ラプソディ」完




