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語り道化師  作者: 星川宙
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壊れた日常

 少年は窓から外の世界を羨ましそうに そして憎そうに見ていた。

 少年の名は アルファード・レスティカル。大企業レスティカル社の社長 --フェリエル・レスティカルの一人息子だ。

その御曹司は ただただ外で遊ぶ自分と同い年ぐらいの子供たちを眺めていた。


「アルファード様。何を見ていらっしゃるんですか!?貴方はレスティカル社の跡取り何ですよ!?あんなくだらない遊びは してはいけませんし 目の毒!!貴方様に必要なのは勉強ですよ!!勉強」


 少年1人の世界に女性の声が割って入って来て 少年が眺めていた《別の世界》を遮断するように カーテンを閉めた。


「何の用 ラーザス?僕が何をやっていようが僕の勝手でしょ。勉強も今日の分はもう終わらせたよ」


 年齢にそぐわないような冷めた瞳で アルファードは冷たく全てを拒絶する言葉を吐き出した。


「アルファード様。勉学の時間はいくらあってもいいんですよ?それに勉学の時間は今から何ですよ。我が儘は--」


 ドンっという音がラーザスの言葉を遮った。


「我が儘じゃない!!何一つ僕は自分のやりたいことがやれないじゃん!!君に何がわかるっていうの!?出てって。早くこの部屋から出ていって」


 ラーザスの言葉を遮った音の正体はアルファードが近くの机をおもいっきり叩いた音だった。


「アルファード様?何ですか その態度は?それが……」

「あはははは。ラーザス もうやめなよ。今のアルに何を言っても時間の無駄だよ」


 頑固者だから。と笑い声とともに 突然第三者の声が降ってきた。

 その声を聞き ラーザスは頭を垂れて アルファードは声の主を睨んだ。

 そこには 金髪の長い髪をうなじのあたりでひとくくりにした 背の高い青年がいた。

 扉は先程から閉まっていて 気配すらも感じさせなかった。

青年は優雅な動きで2人の方に音もなく歩いていく。


「ユーラ様。そうですか。では私はアルファード様が落ち着くまでしばらく退室させて頂きます」


 ラーザスはそのまま青年にのみ一礼して部屋を出ていった。


「なんのつもりなの?ユーラリィーズ・ダルメトス」

「なんだ?怒ってるからって俺に八つ当たりすんなよ。俺はお前を助けてやったんだけどよぉ。あのままじゃ ラーザスの説教長々と聞かされてただろ」


 不機嫌そうなアルファードを無視して青年は一度言葉をきって にこっと笑顔を浮かべた。


「それにさ 今までどーり ユーラ兄でいいんだぞ。ってか フルネームで呼ぶのマジ勘弁。お前も舌噛むぞ?」


 ユーラリィーズは笑顔を少しだけ崩して不機嫌そうな顔をつくった。

 相変わらず変に器用だと思いつつもそれにはふれずアルファードは「何の用?」と呟いた。


「用?ああ ここってかお前の部屋は用件がないときちゃいけなかったっけ?知らなかったよ。用件がないと従兄弟の部屋に訪ねてはいけないとは。不思議だ」

「不思議なのは貴方の思考回路だよ ユーラ」


 ため息をつきながら 手近な本を手にとり 適当に読みはじめることにした。

 関わったらろくな事にならない予感がしたのだ。

 そして 早く出ていって欲しいという不機嫌そうな雰囲気を作り出した。


 しかし ユーラリィーズはその雰囲気に気付きながらも無視をして わざと明るい声を出した。


「まったく。アルは子供の癖に頭が固いよな。冗談だよ 冗談」


 満面な笑みを浮かべ片手をひらひらとふる。


「ユーラは 僕より年上なのに子供っぽいよね」

「そうかもな。でも 急いで大人になる必要はないだろ?大人になったら出来ないこともたくさんあるし……ってあー 話すっげーズレた。元に戻すとさ 俺の用はな」


 そこでいったん言葉をきり さっきラーザスが閉めたカーテンをおもいっきり開けた。

 少し薄暗かった部屋に日の日差しが柔らかく差し込む。

 そして それを目を細めて見ているアルファードに向き直った。

 それに気付いたアルファードは瞬時にユーラリィーズに向き直ると 真剣な表情になった。


「用は?」


 そこで アルファードは気付いた。

 そうだった。僕は何でユーラリィーズがここにいるのかを尋ねたんだ。と今更思って 心の中で舌打ちした。

 だから この人は苦手なんだ。無意識に周りを自分のペースに巻き込んでくる。

 そして 相手を糸も簡単に操って踊らせる。なのに自分は絶対に躍らさせない。

 しかも その事に本人はまったくといっていいほど気付いていない。


「おーい。何ボーとしてるんだ?ちゃんと話聞けるー?」

「……うん 大丈夫。で僕にちゃんと用はあったんだね」

「疑ってたのか!?うぅ 俺 信用ない」


 両手を目元にもっていき泣いてる真似をしたかと思った次の瞬間 アルファードは驚愕した。


「退屈なお前の世界を変えてやるよ。この家から出る。外に行かないか?」

「は?……えっ!?」


 ユーラリィーズはいつもの笑顔ではなく 真剣な瞳でアルファードを見ていた。

 それは先程までの性格からは想像出来ないほどの変わりようだった。

 アルファードはユーラリィーズが言ってることがわからず固まった。

 何を言ってるんだ?この人は……。

 あまりの突拍子のない言葉に 従兄弟として心配になってきた。

 自分が外に この家から出るだって?そんなの--。


「そんなの父が許す筈ないよ。どうゆうつもりなの!?」

「お前がひねくれた原因はこの家から1度も出たことがないからだと思ってさ。いくらお前が病弱だからって 10年以上も生きて この家から1度も出たことがないとかは 普通はありえないだろ?」

「わっ わかってるよ!!でも父に逆らうなんて……」


 あきらかにアルファードは怯えていた。

 言葉も弱々しく 体は小刻みに震えていた。


「わかってない。わかってなんかいないんだよ アルファード」


 まるで そんなアルファードに追い打ちをかけるように この部屋に来て初めて顔から完璧に笑顔が消えた。


「それに お前はフェリエル様に逆らうのが怖いんじゃない。この家から出るのが怖いんだ。自分の知らないことがあることを………。だからさ お前にとってはいい経験になるよ」

「……」


 正論だった。図星という言葉がぴったりなほどに。

 何も言い返せない。

 アルファードはそれが悔しかった。

 それから 長い沈黙がおきた。

 実際はほんの数秒だったのだろうが アルファードには数時間に感じた。

 額には冷や汗をかき 体が先程よりも震えていた。

 目の前にいるのは自分のよく知っている人間なのに まったく違う人のように感じた。

 そして 口調はいつも通りに話すことにさらに恐怖を感じた。


(やべっ。思った以上にアルの奴怯えてる。ちょって……ここまでとは。うぅ ここを抜け出したら目を離さない様に気をつけないと)


 そう思いながら ユーラリィーズは人を落ち着かせる笑顔と声色をつくった。


「っさてと アル。外に行くつもりがあるならこの服に着替えろ。その恰好じゃ目立つからさ。着替え終わり次第行くよ。怖いとは思ってるけど 興味はあるんだろ?子供なら好奇心に従わないとそんだぞー」


 着替えの入った紙袋をアルファードの方に差し出しながら言うと アルファードは紙袋を見てしばらく黙った。


(簡単に言われても……。そもそもここの厳重な警備からどうやって抜け出すの!?ユーラの事だから何も考えてなさそうなんだよ)


 しかし 心の奥底では好奇心や興味心がうずうずと沸き上がってくる。

 アルファードはしばらく悩んでから 差し出されていた紙袋を受け取った。


「そうする。籠の中の鳥はもう嫌だから」


 その言葉を聞き ユーラリィーズは満足そうに頷いた。


「そうそう。子供は素直がよろしい」


 そして 少年は初めて 家という名の籠の世界から外の世界へ抜け出した。

 運命を変える出会いが待っているとは知らずに……。

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