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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話・執筆済】  作者: 角乃とうふ
第二章 六花の花びらたち

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第九陣 六花分隊の旗揚げ

 突如として皇都に鳴り響いた非常警報は、結果から言えば杞憂に終わった。

 インペトラル帝国の無人機による小規模な威力偵察だったようだが、陸軍の皇都守備隊が即座に出動し、街に被害が出る前にあっさりと鎮圧してしまったのだ。凛たちに出撃の要請が下ることはなく、煉瓦街はすぐに元の喧騒と平穏を取り戻した。


「なんだ、拍子抜けだにゃ。お前らの出番はなしにゃ」


 肩をすくめて、にゃん丸が退屈そうに呟く。

 だが、その直後、特務隊本部へと呼び出された尋人たちを迎えた司令官・大鳥居影虎の表情は、決して楽観的なものではなかった。


 真鍮製のレリーフが施された重厚な扉の奥。大鳥居は木製の執務机に肘を立て、両手を組みながら、尋人たちを見据えていた。

 司令官と聞いて、てっきり壮年の髭面が現れるかと思っていた尋人は、思わず息を呑んだ。そこに佇んでいたのが、自分とそれほど歳の離れていないであろう、二十代の若者だったからだ。

 軍服の上からでも分かる強靭な体躯と、すべてを見透かすような怜悧(れいり)双眸(そうぼう)。その佇まいには、国を背負う青年将校としての底知れない知性と豪胆さが同居していた。


「――先ほどの威力偵察。皇都守備隊が退けたとはいえ、制海権が脅かされている今、インペトラル帝国の侵略が本格化しているのは間違いない。佐藤尋人、貴殿の報告書は凛から受け取った。異界の『型』と、測定不能の霊子力……。何より、あのクラウスの起動に成功したのは、ご維新の帝以来のこと……。皇國が危急存亡の(とき)、貴殿が現れたのは天の配剤と言っても過言ではない」


 大鳥居はそう言うと、机の上に六つの花弁を模した銀の紋章を置いた。


「本日只今をもって、特務隊選抜『六花(りっか)分隊』を正式に結成する。分隊長には四条凛を。そして佐藤尋人、貴殿をその中核戦力として配属する。……異論はあるか?」


 凛が真っ先に一歩前に出、深々と頭を下げる。


「分隊長の大任、謹んでお引き受けいたします。我が剣に懸けて、皇國を護り抜く所存です」


 尋人は少し震える手で、その冷たい銀の紋章を手に取った。

 異論など挟める雰囲気ではない。この瞬間、尋人の肩に、皇國の命運という重荷が乗せられた。


 * * *


「にゃにゃっ!! 今夜はめでたい結成式だにゃ! 影虎の奴から寸志をぶんどってきたにゃ!」


 夕凪亭の広間。にゃん丸が尋人の気も知らないで、円卓の上に飛び乗って、景気のいい声を上げる。

 中央に鎮座するのは、もうもうと湯気を上げ、甘辛い醤油と割り下の香りを漂わせる武骨な黒い鉄鍋だった。


「さあさあ! 佐藤様、召し上がってください。巷ではなかなか出回らない、上質な牛肉ですよ」


 弥生が甲斐甲斐しく尋人の鉢に肉を取り分けてくれる。心底楽し気な彼女の笑顔を見ると、さっきまで抱えていた尋人の不安な気持ちが和らいでく。


「おい新人、遠慮すんなよ! 戦場じゃ食ったもん勝ちだからな!」


 蘭が豪快に牛肉を頬張り、その隣では詩織が霊子演算器を片手に「摂取カロリーと予想消費霊子力の相関関係――」と呟きながら、淡々と箸を動かしている。


(ご飯を食べる時くらい、その演算器は脇に置きましょうね)


 とツッコミを入れたくなる尋人だったが、詩織に冷たい視線を返される未来が脳裏をかすめたため、スルーすることにした。


「ワンダフル……! 皇國の『ギュー・ナベ』は、熱力学の観点からも非常に優れた対流構造ね!」


 頭にゴーグルを乗せたままのエレナが目を輝かせる。彼女も技官として、この六花分隊の一員に加えられていた。しかし、詩織といいエレナといい、牛鍋に相応しくないコメントばかりだな。

 そんなことを思いながら、尋人は見事なサシの入った牛肉を口に運ぶ。たちまち、柔らかな弾力が口内を満たし、噛むたびに上質な脂の旨味がじゅわりと溢れ出す。


「美味い! これで生卵があったらご飯三杯はいけちゃうよ!!」


 テンション高く発した尋人の何気ない一言に、賑やかだった食卓がピタリと止まった。

 さっきまで傍らでニコニコしていた弥生が箸を持ったまま、きょとんとした顔で尋人を見る。


「……な、生卵、ですか? 佐藤様、卵といえば病気のお見舞いや滋養強壮のため、薬代わりにいただく高級品ですよ。それを……この濃い味付けの牛鍋に合わせるのですか?」

「えっ!? ああ、そっか……」


 尋人はそこでようやく、この牛鍋なるものが、自分の知っている料理とは少し違うのだと気が付いた。


「いや、俺の世界ではすき焼き……牛鍋には生卵を絡めて食べるのが定番なんだよ。肉の熱さがちょうどよく冷めるし、味がまろやかになってすごく美味しいんだ」

「生卵をタレや緩衝材として使用する……?」


 詩織が猛烈な勢いで演算器を叩き始めた。


「贅沢なだけでなく、皇國の料理法にはない未知の発想です。コスト面を無視すれば、濃厚な割り下と卵黄の脂質は確かに理論上、相性が良いかもしれませんが……私には少し抵抗があります……」

「へえ! 滋養強壮の高級品をそんな風に使うなんて、異界の食い方は豪快で面白そうじゃねえか!」


 蘭が興味深そうに目を輝かせる中、ふと隣を見ると、凛が少し頬を赤らめて尋人を見つめていた。お酒でも飲んでいるのかと思いきや、その手にあるのは熱いお茶だった。


「……佐藤殿。貴殿の助太刀がなければ、私は今頃クラウスと共に散っていたかもしれない。……改めて、礼を言わせてくれ。ありがとう」

「礼だなんて。あの時は、無我夢中で必死だっただけですよ」


 二人は小さく笑い合い、コツンと湯呑みを合わせた。


「それにしても、佐藤殿の世界の食べ方は興味深いな……。生卵は、高級品とはいえ、手に入らないわけではない。よし……」


 凛は小さく微笑むと、六花分隊の皆を見渡して宣言した。


「この次は生卵を手に入れて、その贅沢な食べ方を、全員で試してみよう。……皆、必ず生きて戻るという、約束だ」

「いよっ! 分隊長!!」


 蘭が調子よく合いの手を挟み、みんなの笑い声が響く。


(なんか、いいな……)


 この雰囲気が尋人には愛おしく、かけがえのない宝物に感じられた。


(……この人達の力になりたい)


 尋人がそう決意を固めた、その時だった。


 ――グオォォォォォォォォォンッ!!


 腹に響くような、重厚で巨大な「音」が、皇都の夜を震わせた。

 昼間の威力偵察の時とは、音の「厚み」がまるで違う。大地を揺らし、窓ガラスを悲鳴のように鳴らす、明らかに緊急度の違う非常警報だった。


「きゃっ……!?」


 弥生が箸を落とし、詩織が演算器を弾いて立ち上がる。


「……皇都全域に非常警報発令! 複数の巨大霊子反応が防衛線内側に出現……これは、偵察なんてレベルじゃありません。帝国軍の奇襲です!」


 さっきまでの温かな空気は、一瞬にして凍りつく。

 凛がすぐさま軍刀を手に取り、鋭い眼光を放つ。先ほどまで未知の食文化に目を輝かせていた少女の面影は、もうどこにもない。


「全員、装備を整えろ! 佐藤殿、準備はいいか!?」


 尋人は「六花」の紋章を強く握りしめ、力強く頷いた。


「……はい!」


 宴は終わった。

 交わしたばかりの約束を胸に、尋人は仲間たちと共に、漆黒の闇に包まれた戦場へと駆け出した。


【第二章 完】

第二章「六花の花びらたち」、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

個性豊かなヒロイン達の今後の活躍にご期待ください。


次回から、第三章「大秦国からの刺客」編がスタートします。六花分隊として初めて臨む、皇都防衛戦。機巧武者同士の対決や、仲間の特性を生かしたチーム戦術など、バトルシーンもたっぷりお届けしますので、お楽しみに!


もし「牛鍋、美味しそう!」「ヒロインたちが魅力的!」「続きが気になる!」と少しでも思っていただけましたら、ぜひ尋人たちの戦いを応援してくださると嬉しいです!


ページ上部にある**【ブックマーク追加】や、下部の【評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に)】**をポチッと押していただけますと、本作がより多くの読者様に届く大きなチャンスに繋がります。


それでは、皇都攻防戦の火蓋が切られる第三章でまたお会いしましょう!

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