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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話・執筆済】  作者: 角乃とうふ
第三章 大秦国からの刺客

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第十陣 白銀の機巧武者

 さっきまで尋人たちを包んでいた牛鍋の温かさが、一瞬で消え失せた。

 夕凪亭を飛び出した尋人たちの目に飛び込んできたのは、夜の皇都を朱色に染める火の手だった。


「……ひどい」


 弥生が小さく息を呑む。

 攻撃を仕掛けてきたのは、夜陰に乗じて潜入してきた帝国の特殊強襲部隊だった。

 すでに各所に無人機巧兵スチームドールを放ち、皇都を混乱に(おとしい)れている。

 

「嘆いている暇はないにゃ! 全員、地下ドックへ急ぐにゃ!」


 にゃん丸の号令で、尋人たちは路地裏の鉄扉を蹴破ると、階段を駆け下り、薄暗い構内で息を潜めていた軍用地下鉄へと飛び乗った。

 行き先は、特務隊の地下格納庫。そこに、皇國の希望が眠っている。


* * *


 地下格納庫は、地上の喧騒とは別の意味で戦場だった。

 幾多の整備兵が駆け回り、真鍮のパイプからは高圧蒸気が絶え間なく噴き出している。


「ヒロト! クラウスは、ばっちり整備済みよ! 早く乗りなさい!」


 エレナが、巨大なクレーンに吊るされたクラウスの胸部ハッチを指差す。

 尋人は昇降機に飛び乗り、クラウスのコックピットへと滑り込んだ。

 ハッチが閉まり、外部の喧騒が遮断される。密閉された空間に満ちるのは、仄かなラベンダーの香り。エレナが気を利かせてくれたのだろうか。それが、不思議と尋人の心を落ち着かせた。


「佐藤殿、聞こえるか」


 通信機から、機巧甲冑「蒼月(そうげつ)」を纏った凛の声が届いた。


「これより『六花分隊』は前線に参戦する。……だが、不測の事態だ。皇都に侵入してきたのは帝国軍だけではない。……大秦国(だいしんこく)の精鋭が確認された」

「大秦国……?」


 初めて聞く国名に尋人が眉をひそめると、無線に詩織が割り込んできた。


「大陸に版図を広げる大国ですが、現在はインペトラル帝国の軍事力に屈し、従属を強いられているはずです。その大秦国が、帝国の先兵としてこの皇都へ侵攻してきました」

「帝国に操られてるってことか……」


 尋人はクラウスの操縦(かん)を握り締めた。その瞬間、尋人の霊子が機体に流れ込む。クラウスは以前のような荒々しい振動を上げず、まるで深海から目覚める巨大な鯨のように、静かに、そして力強く脈動し始めた。


「クラウス、出ます!」


 格納庫のハッチが開き、加圧された蒸気が一気に放出される。

 尋人たちは夜の皇都へと射出された。


* * *


 六花分隊が到着した商業区は、騒然としていた。

 逃げ惑う人々を、帝国の無人機巧兵が冷酷に追い詰めていく。凛の蒸気刀がその一体を両断し、蘭の戦斧が後続を粉砕するが、いかんせん数が多い。


「くっ、キリがないにゃ! 尋人、あの親玉をやるにゃ!」


 にゃん丸が指し示した先――

 時計塔の屋根の上に、炎に照らされた敵機が街を見下ろしていた。

 それは帝国の無骨な黒鉄色とは対照的な、流麗な曲線を持つ白銀の機巧武者だった。クラウスと同程度の大きさを持つその機体各部には、赤い刺繍のような龍の意匠が施され、三日月の光を浴びて妖しく光っている。


「此処が、倭國の心臓部か。こうも容易く侵入を許すとはな。買いかぶりが過ぎたか……」


 外部回線から聞こえてきたのは、氷のような冷たい響きを持つ青年の声だった。


「……誰だ、お前は! 帝国軍じゃないのか!?」


 尋人が問いかけると、白銀の機体はゆっくりとその顔をこちらへ向けた。


「その深緑の機体、もしや、先の内戦で消失したと伝え聞くクラウス!? 貴様、何者だ!?」

「俺は佐藤尋人だ!」

「佐藤尋人? ……倭王ではないのか。まぁ、良い。その実力、確かめさせてもらう!」


 白銀の機体が、背中の巨大な青龍刀を抜いた。その重厚な刃を流れるように回し構える予備動作――尋人の目には、それが周囲の空気さえも断ち切るような、極めて洗練された「型」として映った。只者じゃない……!


「お前のせいで、せっかくの牛鍋が台無しだよ。夕飯の邪魔をされた俺は機嫌が悪いぜ!」


 クラウスの背面排気筒から白煙が吹き出す。

 大日本皇國、インペトラル帝国、そして大秦国。

 三つの国の思惑が交錯する夜が、今、幕を開けようとしていた。

大秦国からの刺客登場!

次回、機巧武者同士の激しい戦いが始まります。

お楽しみに!


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