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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話・執筆済】  作者: 角乃とうふ
第三章 大秦国からの刺客

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第十一陣 一瞬の隙を撃て!

 白銀の機巧武者が跳び上がった瞬間、時計塔の屋根が崩れ落ちた。

 瞬きをする間に十数メートルの距離を一気に詰めた機体が、巨大な青龍刀を閃かせ、クラウスの首を刈り取りにくる。常人の目には、ただの一筋の光にしか見えない速度だった。


 だが、クラウスと同期することで、視界が鮮明になっている今の尋人には見えていた。


(……一連の動作の繋ぎ目。刃を振り下ろすまでの、ほんのわずかな隙……!)


 暇つぶしにやり込んでいた格闘ゲームの経験が、極限状態の今、彼に敵の予備動作を冷静に分析させていた。肩の入り方、重心の移動。決め技には、必ず予兆がある。

 超高速の斬撃。だが、そこには明確な癖があった。重心の沈み込み、蒸気の噴出パターン――尋人はタイミングを見計らい、操縦(かん)を素早くはたいた。クラウスが構えた大太刀の刀身が、絶妙な角度で割り込み、振り下ろされた青龍刀の側面を軽く弾く。


 ――キィィィンッ!


 火花を散らし、白銀の刃がクラウスの装甲を滑る。

 完璧な「いなし」だった。


「……なっ、紙一重でかわしただと!?」


 外部回線越しに、さっきまで冷徹だった青年の驚愕が伝わってくる。


「初見で見切れるはずがない! 偶然か……?」

「偶然じゃない。……クラウスが、俺の思った通りに動いてくれたんだ!」


 尋人自身、この全能感に驚いていた。これまでの重機のような重い操作感は微塵もない。エレナが調整したクラウスは、フルモデルチェンジしたかのように、意のままに動いた。


「ヒロト! 現在の霊子同調(シンクロ)率、九十パーセントを超えたわ! 機体負荷は未知数だけど……今のあなたならイケる!」


 通信機から聞こえるエレナの叫びに、尋人は頷く。


「――たかが倭國の雑兵に、随分と手こずっているようだな」


 突如、外部回線に激しいノイズと共に新しい声が割り込んできた。

 棘のある鋭さと、絶対的な覇気を孕んだ女の声だった。


「誰だ……!?」

「控えろ下郎! 朕は大秦国女帝、瑛華(えいか)である。……白龍(ばいろん)、さっさとその鉄屑を排除し、任務を果たせ」

「……ハッ。申し訳ありません、瑛華様」


 女帝・瑛華。その尊大かつ傲慢な言葉に、尋人は芝居がかったような、奇妙な違和感を覚えた。

 だが、思考を巡らせる余裕はなかった。瑛華の言葉を受け、敵機の動きがさらに加速する。


「……遊びは終わりだ。クラウスよ、散れ!」


 超高速の連撃。上段からの斬撃、鋭い刺突、固定観念を覆すような円月を描く横薙ぎ。大秦国の機体は、まるで熟練の武術家のように滑らかに立ち回ってきた。


「くっ……!」


 防戦一方に追い込まれ、クラウスの装甲が火花を散らして削られていく。

 だが、コックピットに漂う仄かなラベンダーの香りが、不思議と彼の意識を研ぎ澄ませていた。


(どんなに流れるような神速の連撃でも、人が操る以上、次の動作へ移る瞬間に必ず『タメ』が生じる……そこが、絶対に誤魔化せない一瞬の隙だ!)


「これで、終わりだッ!」


 青龍刀が天に掲げられ、最大出力の一撃が振り下ろされようとした、その瞬間。

 尋人の目には、その動作が「止まった」かのように鮮明に映った。


「――ここだッ!!」


 右腕に構えた大太刀で青龍刀を受け流すと同時に、クラウスの左拳が、敵機の胸部装甲を真っ向から撃ち抜いた。


 ドゴォォォォォォンッ!!


「が……あぁぁぁっ!?」


 圧倒的な質量と霊子の爆発。

 白銀の機体はくの字に折れ曲がり、十数メートル先へ吹き飛んでいった。


「やったにゃ!」

「さすがだぜ、佐藤!!」


 下から見守っていたにゃん丸と蘭の歓声が上がる。

 辛うじて体勢を立て直した敵機だったが、胸部が大きく陥没し、もはや戦闘継続は不可能であることは一目瞭然だった。


「……馬鹿な。この『氷閃(ひょうせん)』が力負けしただと。倭國の機巧武者、侮り難し……」


 尋人がクラウスの拳を握り直すと、敵機は忌々しげに距離を取った。


「……インペトラル帝国軍、全機に告ぐ! 想定被害を超えたため、我が大秦国部隊はこれより一時撤退する!」


 その宣言を受けて、帝国の無人機巧兵たちも潮が引くように去っていく。

 皇都の危機が、ようやく峠を越えようとしていた。


* * *


 戦闘終了後、格納庫に戻った尋人を待っていたのは、満足げに腕組みするエレナだった。尋人はクラウスから降りるなり、彼女に声をかけた。


「エレナ、最高の調整だったよ。あんなに動くなんて正直驚いた。ありがとう」


 尋人が率直に礼を言うと、エレナは腰に手を当て、鼻をこすって得意げに笑った。


「当然でしょ! ブリタニアのトゥールビヨンと(うた)われる私が手を入れたのよ? 半端ない出来に決まってるじゃない!」

「……誰も謳っていないと思います」

「きょっ、極東までは、まだこの名声が届いてないみたいね!」


 詩織の冷静なツッコミに、エレナは口笛を吹いてそっぽを向く。そんな彼女に、尋人はもう一言付け加えた。


「本当に助かったよ。……あと、ラベンダーの香り。あれのおかげで最後まで冷静でいられた。あんな気遣いまでしてくれるなんて思わなかった。ありがとう」

「え……っ」


 エレナの動きが止まった。視線を泳がせながら、両手を横にブンブンと振る。


「な、なによそれ! べ、別にそんな、あなたのための気遣いとかじゃないわよ! 整備中のリラックスのために使っただけ! ……まぁ、ヒロトが気に入ったなら、また用意してあげてもいいわ!」


 腕組みをしながら、顔を赤らめて横を向くエレナ。その様子に、傍らで見守っていた凛や弥生がくすくすと温かい笑い声を上げた。


 六花分隊の初陣は終わった。

 差し込み始めた夜明けの光を受け、クラウスの深緑の装甲が眩く輝いていた。

機巧武者同士の一騎打ち、いかがだったでしょうか?

次回は、帝国軍の残党掃討作戦開始!

六花分隊が挑む、初めての組織戦にご期待ください!


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