第十二陣 歯車が噛み合う時
機巧武者同士の激闘から一夜明けた皇都。
大秦国の白龍が敗れたことで、帝国軍の大半は撤退していったものの、戦いの火種は未だ燻っていた。指揮系統を失い、皇都内に取り残された帝国の無人機巧兵たちが、市街地のあちこちで局地的な暴走状態に陥っていたのだ。皇都守備隊と共に、六花分隊もその鎮圧任務にあたる。
「これより、六花分隊による残敵掃討作戦を開始する!」
分隊長の凛が鋭い檄を飛ばす。
尋人たち六花分隊に命じられたのは、南西の駅前広場に陣取る四本の鉄脚を持つ多脚自走砲、計五機の排除。その無人機群は、分厚い装甲と砲門を外側に向けて、「方円」の陣を敷いていた。
「厄介ですね。奴ら、完全に防御に徹しています。しかも、広場への侵入路が狭く、クラウスの運用が難しい……」
通信機から聞こえる詩織の声と共に、コックピット正面に据えられた「霊子硝子盤」に、赤い凸記号で敵機を示した街路図が転写されてくる。尋人は望遠レンズで目視しながら、その図面と現況を見比べた。
「蘭の『金剛』なら敵機の重装甲も粉砕可能ですが、迂闊に接近すれば一斉射撃の的になります」
「女は度胸! 当たって砕けろだ!」
「いや、砕けちゃ駄目ですよ蘭さん! 正面突破はリスクが高すぎます!」
血気に逸る蘭を尋人はたしなめながら、クラウスのコックピットで、投影硝子のなかに示された敵機の配置と、味方の戦闘特性を照らし合わせていた。レンズ越しの実景と手元の戦略図……。なんだか、戦略シミュレーションゲームみたいだな、と彼は思う。ならば――
「……佐藤殿。何か策があるのか?」
凛の問いに、尋人は短く頷いて答えた。
「あります。みんなの特性を活かした、『ヘイトコントロール』と『コンボ』を併用した殲滅作戦です」
「へいと……こんぼ? また妙な言葉を。だが、殲滅とは景気がいいにゃ!」
尋人の横にいるにゃん丸が身を乗り出す。尋人は手短に説明した。
進入路手前でクラウスが注目を一身に集める隙に、敵機の一体に狙いを定める。詩織が状況分析とタイミングを計って指示を出し、蘭がその装甲を剥ぎ取り、凛が急所を突いて仕留める。次の攻撃に備え、弥生が二人に霊子補充を行う。これを断絶のない波のように繰り返し、敵に反撃の間を与えず全ての機体を沈黙させる、六花分隊が一丸となる波状攻撃。
「それぞれの役割を繋いで、一つの巨大な生き物として動くんです。……いけますか?」
しばしの沈黙。やがて通信機から、ふふっ、と凛が小さく笑う声が聞こえた。
「……面白い。武士の一騎打ちとは異なるが、極めて合理的だ。六花分隊、佐藤殿の策に乗る!」
――作戦開始。
尋人はクラウスの操縦桿を押し出し、広場に続く隘路手前に躍り出た。
「こっちだ、ポンコツども!」
多脚自走砲の五機が、一斉に砲口をこちらへ向ける。轟音と共に放たれた無数の砲弾。だが、指揮系統から切り離された敵機の攻撃は極めて単調で、軌道の予測は彼にとって容易かった。
クラウスは踊るように弾幕をかわす。五機は、完全に尋人という囮に釘付けになった。
「敵が次弾装填準備に入るまで残り三秒……二……一……今です!」
詩織の完璧なタイミングでのカウントダウン。その瞬間、尋人が叫んだ。
「蘭さん、凛さん! 連携開始! まずは右の一機から!」
「オラァァァァッ! くらえ!!」
尋人の指示と同時に、死角から蘭が飛び出した。巨大な戦斧が、自走砲の分厚い前面装甲を無残に叩き割る。
剥き出しになった機体の隙間へ、「蒼月」を纏った凛が滑るように肉薄した。
「――六花が剣、四条凛。推して参る!」
閃刃。蘭がこじ開けたわずかな「道」を通り、凛の蒸気刀が動力部を一刀両断する。
「よし、一機撃破! そのまま次へ連携を繋げます!」
敵が尋人から標的を切り替えるよりも早く、蘭の斧が二機目の装甲を砕き、間髪入れず、凛の刀が貫く。後方に控える弥生が、的確に霊子補充を行い、二人の機巧甲冑の出力を維持する。
陽動、情報分析、装甲破壊と撃破、そして完璧な後方支援。
彼らが「一人の武人」と化した連携は、無人機の陣形を紙細工のように切り裂いていく。
五機の多脚自走砲は、ものの数分で完全に沈黙した。
「……信じられん」
敵機の残骸を見下ろしながら、凛が呆れたように呟いた。
「無傷、しかも周囲の建物への被害も軽微……。佐藤殿、これが貴殿の戦の『術』なのか」
「みんなの腕が良かったからです。俺一人じゃ、ただ砲撃を避けることしかできなかった」
尋人が謙遜すると、蘭が大笑いしながら通信を入れてきた。
「はっはは! 最高じゃねえか新人! いつもなら息が上がるはずなのに、今日はあっという間に終わっちまったぜ!」
「ええ、驚異的な効率です。佐藤さんの戦術眼……私の戦術演算を根本から書き換える必要がありますね!」
詩織も、興奮冷めやらぬ様子で早口にまくしたてる。
「後方の霊子補充も、すごく安定して行えました! みんなの動きに無駄がないから、いつもみたいにカツカツにならなくて本当に助かりました! さすが佐藤様です!!」
弥生もまた、安堵と喜びの混じる弾んだ声を響かせた。
朝日に照らされた広場で、尋人たち六花分隊は肩を並べた。
戦いの緊張から解き放たれた尋人は、ふーっと長い溜息を吐いた。
「……なんとか無事に終わって良かったです」
「ふぁ~、徹夜明けになったにゃ。夕凪亭に帰って、ゆっくりお茶漬けでも食べるにゃ」
にゃん丸が呑気に前足で顔を洗う。こうして、六花分隊の長い緒戦が、静かに幕を下ろしたのだった。
はじめての六花分隊のチーム戦、いかがだったでしょうか?
次回、尋人たちが異国へ旅立つ予感……?
どうぞお楽しみに!
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