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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話・執筆済】  作者: 角乃とうふ
第三章 大秦国からの刺客

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第十三陣 戦火の後の香り、新たなる針路

 穏やかな朝の光が、傷ついた皇都を優しく照らし出していた。

 一部の区画では、いまだ(くすぶ)る煙が上がっていたものの、帝国の奇襲という緊迫した時間は終わりを告げ、街には疲労と安堵が入り交じった静寂が訪れていた。

 そんな中、尋人たちの憩いの場である夕凪亭には、既視感を感じさせる、甘辛く香ばしい醤油と極上の肉の香りが満ちていた。


「おかわり! どんぶりてんこ盛りで頼むよ!」


 食欲旺盛な蘭が、空になった器を勢いよく突き出す。

 昨夜、出撃のせいで残してしまった牛鍋を使い、お千代が腕によりをかけて作ってくれた特製の牛丼だった。

 牛肉や野菜の旨味が凝縮された割り下を吸い込んだ炊き込みご飯。その上に、味がしみしみの牛肉やネギといった具材が贅沢に敷き詰められている。しかも、その傍らの深皿には、ホクホクに仕上がった肉じゃがまで添えられていた。


「はいはい、ご飯も具もまだたっぷりありますからね。お疲れ様でした、蘭ちゃん」


 割烹着姿のお千代が、にこやかに微笑みながら熱々のどんぶりを山盛りにする。


「蘭、あまりがっつくのは武人としてはしたないぞ。……お千代殿、私にもおかわりを。少し多めで頼む」

「凛、言ってることとやってることが矛盾してますよ」


 すかさず詩織が冷静なツッコミを入れつつ、自身の器から上品に肉じゃがを口に運ぶ。


「尋人様も、たくさん召し上がってくださいね! 本当にお疲れ様でした!!」


 隣に座る弥生が、牛丼のどんぶりをそっと手元に寄せると、食べやすいように箸を添えて尋人の前に置いてくれた。


「あ、ありがとう弥生ちゃん」

「いえ、尋人様はこの戦い、一番の功労者ですから!」


 弥生の献身的な振る舞いに、尋人は少し背中がむず痒くなるような気恥ずかしさを覚えた。

 また、にゃん丸に冷やかされるかと思いきや、その黒猫は、自分用の丸皿に盛られた焼き魚を、夢中でつまんでいるところだった。


「ふにゃ〜、生き返るにゃ。やっぱり戦いの後はお千代のご飯に限るにゃん」

「マジで旨いっす! お千代さんは天才です!!」

「やだっ! 尋人君ったら! お上手ねー!」


 お千代が手をひらひらさせながら笑うが、それは尋人の偽らざる本心だった。濃厚なコクがある牛丼はいわずもがな、出汁がしっかり染みた肉じゃがの味も、アレンジ料理の域を超えている。空腹という最大の調味料もあるせいか、下手したら昨日の牛鍋より上を行くかもしれない。舌の幸福を感じながら、尋人はこの世界に来てからの怒涛の日々を思い起こしていた。

 異世界に連れ込まれ、訳も分からずクラウスに乗り込み、気がつけば前線で戦っていた。息つく暇もなかったが、やっと束の間の休息が訪れたのだ。そう思うと、張り詰めていた緊張の糸が解け、どっと疲労感が押し寄せてくる。


「佐藤殿……いや、尋人」


 ふと、凛が箸を置き、居住まいを正して尋人の顔をまっすぐに見つめた。


「昨夜の戦いぶり、そしてあの的確な戦術。見事だった。尋人のおかげで、何とか街の被害も最小限に抑えることができた。尋人……。我らの都合でこの(いくさ)に巻き込んでしまって申し訳ないと思っている。――それでも、許されるなら……これからも共に戦ってくれないだろうか?」

「えっ!? 今更~?」

「あっ、いや! 本当にすまないと……!」

「あはは! 冗談ですよ、冗談っ!! まぁ、異世界で無双するのは男の夢ッスから別に――」

「ひ、尋人! 謀ったな! そこに直れー!!」

「いや、凛さん! 話せば分かる! ごめんなさーい!!」


 逃げ惑う尋人を、拳を振り上げて追い回す凛。その姿を見て大笑いする六花分隊の面々。夕凪亭に大きな笑い声が響いていた。


 バンッ!


「ちょっと!! 何か盛り上がってるけど、私も六花のメンバーなんですけど!」


 その愉快な空気をぶち破るように、食堂の扉が勢いよく開いた。

 現れたのは、格納庫での整備作業を終え、顔もつなぎも汚れたままのエレナだった。彼女はプンスカと怒った様子で、尋人の隣にドカッと腰を下ろした。


「お疲れ様、エレナ。ほら、お茶」

「ありがと。……じゃなくて! ヒロト、あなたクラウスで無茶しすぎよ!」


 エレナは出されたお茶を一気に飲み干すと、バンバンと机を叩いた。


「90%超の同調(シンクロ)なんて想定外もいいとこよ! 昨夜の決闘(デュエル)で限界だったのに、今朝も派手に動き回って……。さっきドックで内部点検してみたら案の定――右腕の霊子シリンダーは焼き付くわ、関節部の真鍮ギアはボロボロになるわ……。このままじゃ、次は戦えないわよ!」

「えっ……ご、ごめん。直せるのか?」


 尋人が焦って尋ねると、エレナは腕を組み、ふんと鼻を鳴らした。


「誰にものを言ってるのよ、直せるに決まってるでしょ! ……ただ皇都にある予備の部品じゃ、今のクラウスの出力に耐えきれないの。高純度の霊子結晶と、強化合金のパーツが必要ね」

「つまり、貴重物資の入手が不可欠というわけですね」


 詩織が箸を置き、卓上の霊子演算器を操作する。


「皇國の正規ルートでは手に入らない品……となれば、中立商業都市『海市かいし』の裏市場に向かうしかありません」

「海市……」


 新たな地名に、尋人は息を呑んだ。


「決まりだね! ちょうど街の守りも落ち着いたところだし、『金剛』の強化パーツも探したいと思ってたんだ!」


 蘭がドンッと胸を叩く。凛も力強く頷いた。


「うむ。クラウスは我らの(かなめ)。万全の態勢を整える必要がある。……尋人、みんな。食事を終えたらすぐに出発の準備だ」


 やれやれ、これが本当の束の間の休息というやつか。

 皇都を離れ、次なる目的地を目指す。どうやら尋人の異世界生活は、のんびりする間は与えてくれないらしい。


(ま、乗り掛かった舟だ。とことん付き合いますか)


 尋人は残りの牛丼を勢いよくかき込みながら、新たな冒険の予感に、自然と口角が上がるのを感じていた。


【第三章 完】

第三章「大秦国からの刺客」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました! お千代さんの牛丼、最高に美味しそうでしたね。


さて、第四章「不夜の海市、偽りの仮面」からは舞台を混沌の商業都市「海市」へ移し、物語が大きく動き出します! 異国情緒溢れる街で波乱の予感です……。


もし「バトルシーンに痺れた!」「白龍、敵だけどカッコイイ!」「続きが気になる!」と少しでも思っていただけましたら、ぜひ尋人たちの戦いを応援してくださると嬉しいです!


ページ上部にある**【ブックマーク追加】や、下部の【評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に)】**をポチッと押していただけますと、本作がより多くの読者様に届く大きなチャンスに繋がります。


それでは、新たな展開が始まる第四章でまたお会いしましょう!

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