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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話・執筆済】  作者: 角乃とうふ
第二章 六花の花びらたち

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第六陣 赤髪の女傑

「弥生、無事か! 一体何をやらかした!」


 勢いよく踏み込んできた二人の女性は、その場に固まった。

 真鍮製のタンクから漏れ出す蒸気が部屋を白く染める中、座り込む尋人の胸元に顔を埋めるようにして、もたれかかる弥生。

 ……客観的に見て、非常に誤解を招きやすい絵面だった。


「……弥生。職務中に殿方と不純な――不適切な接触は禁じられているはずですが?」


 冷ややかな声が、部屋の温度を数度下げたように尋人は感じた。

 声の主は、丸い銀縁眼鏡を掛けた大人びた女性だった。きっちりと端正な三つ編みに結われた黒茶の髪。立襟たちえりに金ボタンが光る深緑の軍服を隙無く着こなし、小型のタイプライターみたいな機械を片手に抱え、尋人を検分するような目で見つめている。


「ち、違います詩織さん! 測定しようとしたら、佐藤様の霊子が逆流して、私の計器が……!」

「測定不能、ですか。あなたの霊子測定器を焼き切るとは、理論上あり得ない数値ですが……」


 詩織と呼ばれた女性の冷静な分析を遮るように、ポニーテールの少女――四条凛が、尋人の前に膝を突いた。彼女は彼の顔をじっと見つめると、気遣うように声を掛けた。


「佐藤殿、怪我はないか? 昨日の今日だ、弥生が無理をさせたのなら私から謝罪しよう」

「あ、いえ。……大丈夫です」

「凛。見たところ外傷はなさそうです。それよりも、彼の『資質』を確認しなければ。昨夜の戦果が、機体の性能か、あるいは操縦者の技量か……」


 詩織の言葉に、凛は小さく頷いた。


「わかっています。佐藤殿、改めて貴殿の力を……その『武』の片鱗を、我々に見せてはもらえないだろうか?」


* * *


 凛に促され、尋人は皇國特務隊の練兵場へと向かうことになった。

 練兵場に足を踏み入れると、凄まじい熱気と金属音が辺りに響く。そこで一際異彩を放っていたのは、周囲より頭一つ抜けた大柄な女性だった。無造作に跳ねた短い赤髪に、腕まくりをして着崩した厚手の道着が、彼女の野性的な気性を端的に表しているように見えた。


「おらぁッ!」


 ドォォォン! と、大地を揺らすような衝撃音が響く。

 機巧甲冑を纏った彼女が、身の丈を超えるほどに巨大な戦斧を振り下ろし、練習用の標的を一撃で粉砕していた。砕け散った木片が舞う中、彼女は額の汗を拭い、尋人たちに気づくと豪快に笑った。


「お、凛! 連れてきたのか、例の『適合者』を。……なんだ、随分とひょろい奴じゃないか。私は蘭。よろしくな!」

「蘭、無礼だぞ。……だが、彼の力を確かめる必要があるのも事実だ」

「いいぜ。だが、流石にこの『金剛』を装備したままじゃ、不公平だからな」


 蘭は手際よく重装甲のパーツを外し身軽になると、立てかけてあった竹刀を取り出して、その一本を尋人に投げて寄越した。


「さあ、始めようぜ! ルールは簡単、一本取った方の勝ちだ!」


 手渡された竹刀は、ずっしりと重かった。よく見ると、柄の周辺には微細な真鍮の線が、幾何学的な模様を描くように緻密に埋め込まれている。


「佐藤殿。その竹刀は『霊子同調型訓練具』だ。手にした者の霊子力に反応し、一時的に肉体を強化する機能がある。貴殿の力を見せて欲しい」


 尋人は昨夜の感覚を思い出し、竹刀に意識を集中した。

 ――その瞬間。

 腕から全身へ、熱い奔流が駆け抜けた。身体が軽くなり、視界が異常に鮮明になるのを感じる。


「いくよッ!」


 蘭の体が、弾丸のように弾けた。

 ――速い!


「ふんっ!」


 蘭の鋭い横薙ぎが襲う。本来なら反応すらできない速度。だが、強化された尋人の足は、反射的に後ろに跳躍していた。

 空を切る竹刀の風圧を肌で感じながら、最小限の動きで回避する。


「ほほう、避けるねぇ!」


 蘭の猛攻が始まった。脚力と腕力は常人の域を遥かに超えている。上段、中段、あるいは力任せの突き。凌ぐだけで精一杯だったが、尋人の身体はその動きに即座に適応していた。

 蘭が力強く竹刀を振り下ろす瞬間の、重心の移動。

 攻撃を放つ直前の、微かな肩の揺れ。

 それらを冷静に観察し、彼は死に物狂いの足さばきで回避し続けた。


「そこまで!」


 凛の鋭い声が響き、蘭の竹刀が尋人の胸元寸前で止まった。


「……蘭。それ以上は訓練の域を超える」

「はぁ、はぁ……。畜生、最後まで一発もまともに当たらなかった……。何なんだよ、お前のその動き。ひょろひょろのくせに、捉えきれないじゃないか」


 蘭は呆れたように竹刀を肩に担ぐと、苦笑いしながら尋人の背中をバシバシと叩いた。緊張から解き放たれた尋人は、がっくりと膝を突き、激しく肩で息を吐く。


「……無駄な動きが、削ぎ落とされている」


 凛がゆっくりと近づき、尋人の手にある竹刀をじっと見つめた。その瞳には、一人の武芸者としての深い敬意が宿っているようだった。


「派手な力も、特殊な術理もない。だが、佐藤殿。貴殿の『基本』には、我ら皇國の武が忘れてしまった真理があるのかもしれない」

「……データ上も異常です。攻撃回避率、九十八パーセント。身体強化の補助があったとはいえ、初見の訓練具をこれほどの高効率で運用するとは……」


 詩織の驚きを背に、尋人はやっとの思いで立ち上がった。

 必死に逃げ回っていただけだったが……どうやらこの強化竹刀のおかげで、剣道七級の実力が何倍にも増幅されたみたいだなと、尋人は一人納得していた。


「面白くなってきたにゃあ」


 にゃん丸が、いつの間にか蘭の肩の上に乗り、満足そうに喉を鳴らしていた。

というわけで、今回は頭脳派の詩織と男勝りの蘭の登場回でした!

今後、戦闘での二人の連携にもご期待ください。

次回は、尋人がちょっとした現代知識を披露することになりそうです。


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