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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで  作者: 角乃とうふ
最終章 招かれざる転生者、戦いのその先へ――

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第五十九陣 絆と魂の六花一閃

「なっ……! 私の黒蝕領域(アビス・フィールド)が消失していくだと……!?」


 イワンの動揺した叫びが、外部通信から生々しく響く。

 漆黒の機巧武者【ヴェレス】のコックピットの中で、彼は狂ったように真鍮の操作盤を叩いていた。しかし、どれだけレバーを引こうとも、硝子盤に表示されるのは「展開不能」の赤文字だけだった。


 完璧だったはずの計算。勝利を約束していたはずのデータ。

 そのすべてが、皇都から届けられた弥生の祈りと、詩織の術式によって、跡形もなく塗り替えられていく。想定外の事態に、イワンの心は激しい焦燥に駆られていた。


「馬鹿な……私の計算ではあり得ん! こんな泥縄式な戦術が、私の最適解を凌駕するなど、あってはならないはずだ……っ!」


 プライドを激しくへし折られた孤高の転生者が叫ぶ。

 尋人は七色の霊子を全身から噴き上げるクラウスのコックピットから、怒りに震えるイワンのヴェレスを真っ直ぐに見据えた。操縦桿(かん)を握る手に、これまでにない確かな温もりと、背中を支えてくれる仲間たちの気配を感じる。


「イワン! 計算を超えるのは、いつだって人の想いだ! お前に、俺たちの魂は折れない!!」

「まだだっ……! 弱体化(デバフ)波動が消失したとはいえ、まだ暗黒の年輪(オーラ)が残っている! 貴様らの攻撃など通用せんぞ!!」


 尋人の咆哮に、イワンが絶叫で応える。

 その瞬間、クラウスの動きに合わせるように、凛の桔梗(ききょう)、白龍(ばいろん)の氷閃(ひょうせん)、瑛華(えいか)の鳳凰(ほうおう)が、まるで一つの生き物であるかのように同時に動いた。


「尋人、今こそ勝機!」

「決めるぞ、佐藤!」

「我らの未来、この一撃に懸けろ!」


 三機が残された全エネルギーを爆発させ、イワンの退路を完全に断つように包囲陣を形成する。

 氷閃の青龍刀と鳳凰の三節棍が、ヴェレスが放とうとしたロングスピアの刺突を完璧に封じ込め、背後に回り込んだ桔梗が漆黒の機体を羽交い絞めにした。


「ぐ、おおおっ!? 離せっ!! なんという霊子出力だ! ――ば、ばかな!? 暗黒の年輪が消えていく……!!」

「……いや、計算通りだ。隕鉄の年輪は、お互いを中和するといったのは貴様だ!!」


 イワンに組み付きながら、凛が吠えた。接触している桔梗の光の年輪が、身動きできないヴェレスの暗黒の年輪と溶け合い、共に消失していく。

 その頭上へ向けて、尋人のクラウスが天を突くような七色の光の軌跡を描きながら、高く、高く跳躍した。


「――これが、俺たちの絆だァァァァァッッ!! 面ェェェェェェェェェェェェッッン!!!!」


 コックピットが割れんばかりに響き渡った尋人の絶叫。それと同時に、クラウスが大上段から一切の迷いなき斬撃を放つ。

 それは、六花分隊とその仲間たちの全ての想いを結集した、魂の一閃だった。


 キィィィィィィィィン――ッ!!!!


 世界からすべての音が消え去ったかのような、澄んだ高音が響き渡る。

 七色に輝く大太刀の刃は、ヴェレスを脳天から股下まで、文字通り真っ二つに一刀両断し、刃から放たれた凄まじい霊子圧の衝撃波は、漆黒機直下の大地まで走った。


 ズガガガガガガガガゴォォォォンッ!!!!


 轟音と共に地割れが走り、底深い竪穴が刻み込まれた。それを潮(しお)に、イワンを取り囲んでいた凛たちが、漆黒の機巧武者から離れていく。


「私は……私の夢は……この世界でも、叶わぬのか……っ!」


 イワンの最後の呪詛を飲み込むように、真っ二つに割れたヴェレスから刺すような白光が溢れ出し――次の瞬間、大爆発を起こして四散した。


 ドガァァァァァンッ!!!!


 立ち上る黒煙と爆風が、二股口街道を吹き抜けていく。

 その中央で、尋人のクラウスは静かに大太刀を引いた。機体を包んでいた七色の輝きが粒子となって消え去り、コックピットの計器はすべて正常値に針を戻していく。


「はぁ……、はぁ……、やった、のか……?」


 操縦桿からそっと手を離すと、尋人の全身から一気に緊張の糸が解け、心地よい疲労感が押し寄せてきた。


「敵主力機の完全消滅を確認……! 残存の無人機巧武者(スチームナイト)も沈黙。本当にお疲れ様、尋人君!」

「尋人様! 弥生は信じていました!!」


 通信機から聞こえてきたのは、涙を堪えながら微笑む詩織と弥生の声だった。


「やったぁぁぁ! 大勝利よー!!」

「ふぅ、一時はどうなることかと思ったが……。お千代、蘭。お前たちの生身の突撃がなければ、今頃どうなっていたか分からんな」


 エレナの歓声に続き、大鳥居が街道の脇で白馬に跨(またが)る二人へと視線を送る。

 馬の背から降りた蘭は、腕組みして不敵に笑うと、親指を立ててみせた。


「へへん、アタシらの底力を見くびってもらっちゃ困るよ!」

「あら、蘭は馬を操ってただけでしょう?」

「おっ、お千代さんっ!? そりゃ、ないっすよ!」


 額に手を当てて天を仰ぐ蘭を、


「冗談よ! よく頑張ったわ蘭ちゃん!!」


 とお千代が蘭の肩を叩いて朗らかに笑った。


 激戦の舞台となった街道に、雲の隙間から柔らかな陽光が差し込み、新しく刻まれた深い竪穴の底までを白日の下に照らし出す。

 尋人はコックピットのハッチを開け、夕暮れの心地よい風を全身に受けながら、守り抜いた皇都の方角の空を見つめた。


「今度こそ、本当に終わったんだな……」


 ここに帝国の、イワンの野望は潰えた。尋人と仲間たちの絆が紡ぎ出した一閃は、皇國の未来を確かに繋いだのだ。尋人は肩の力を抜いて天を仰ぎ見る。そこには、平和な時代の訪れを予感させる美しい茜色の空が広がっていた。

ついに、宿敵イワンとの戦いが決着!

完結まで、残すところ後二話です。


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