↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話完結】  作者: 角乃とうふ
最終章 招かれざる転生者、戦いのその先へ――

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/61

第五十五陣 漆黒の機巧武者

 地鳴りのような勝鬨(かちどき)が二股口を包み込み、その熱気がクラウスの装甲越しにも伝わってくる。

 極限の緊張から解放された尋人は、操縦(かん)からそっと手を離し、コックピットのシートに深く背を預けて肩で息をした。


「……なんとか、終わったか……」


 尋人が安堵とともに、コックピットの窓からアイアン・クラーケンの燃え盛る残骸を見つめていた、その時だった。


 ゴ……オ……オ……オ……。


 不気味な、地面が幾重にも脈打つような重低音が響き渡る。

 それは確かに蒸気機関の駆動音だった。まるで、世界の底がひび割れるような、おぞましい音。

 炎上し、崩落していく要塞の瓦礫を内側から吹き飛ばし、それは姿を現した。


「ば、バカな!? 機巧武者だと!?」


 驚愕した凛が叫ぶ。

 燃え盛る炎を割って現れたのは、一機の機巧武者。これまでの帝国の無骨な蒸気兵器とは全く異なる、洗練された四肢を持つ人型だった。

 だが、その機体は尋常ならざる気配を纏っていた。装甲の隅々までが、陽光すら吸い尽くすような、禍々しい漆黒。周囲には、クラウスと桔梗の周囲に展開する「光の年輪(オーラ)」と酷似した不気味な刃紋が漂っていた。

 ただし、その色は――どこまでも暗く、深い、底なしの「暗黒」だった。


「フフフ。感謝するよ、佐藤尋人。この刃紋のオーラ。これこそ、私が求めていた最後の鍵だったのだからね」


 外部通信から、冷徹で落ち着いた声が響き渡る。

 帝国の参謀、イワンだった。


「イワン……!? 生きていたのか!?」

「クラウスがアイアン・クラーケンに肉薄した時点で、この結末は想定出来たからね。それより、見たまえ。君たちとお揃いのこのオーラを。君の類まれなる霊子力で顕現させた『光の年輪』のデータを流用させてもらった。これで、この漆黒の機巧武者【ヴェレス】は、君たちのものと同様――あらゆる攻撃を無効化する完全体となったわけだ」


 眼前の機巧武者が、ゆっくりとロングスピアを構える。その滑らかで流麗な挙動を目の当たりにした尋人は、機体性能の高さを本能的に悟り、身構える。


「……さて、佐藤尋人。お前が別の世界から来た人間であることは、これまでの戦いの中で気付いていたよ。――実は、私もなのだよ」

「な、何だと……!?」


 尋人の背中に、冷たい戦慄が走る。転移かあるいは転生か。この男も、自分と同じだというのか。


「もちろん、生まれた国は違うし、時間軸も多少ズレているだろう。だが、この世界よりは少し進んだ世界から来たことは同じだ。……まあ、異常に発達した蒸気機関やら霊子エネルギーやら、こちらの世界の方が優れている要素(ファクター)もあるがね。私は前世の知識を生かし、帝国の世界征服に力を貸してきた」


 イワンの声は、どこまでも淡々としていた。かつての主君である雷帝が死んだことなど、最初から織り込み済みであったかのように。


「しかし、己の武力のみを過信するあの雷帝とは肌が合わなくてね。いつか始末しようかと思っていたら、君が排除してくれた。おかげで私は主殺しの汚名を着ることなく、まんまとインペトラル帝国を引き継ぐことができる。できれば君のような優秀な若者は手駒に欲しいところだが……聞くだけ無駄だろうね?」

「当たり前だ……っ! お前みたいな奴に、誰が手を貸すか!」

「そう言うと思っていたよ。では、せめてものお礼だ。大好きな仲間たちと共に、地獄へエスコートして差し上げよう。このヴェレスには暗黒の年輪(オーラ)の副産物としてこんな能力もある」


 イワンがそう言った途端、ヴェレスから、どす黒い瘴気が爆発的に拡散した。

 たちまち、クラウスと桔梗が闇の(とばり)に包まれる。その瞬間、コックピット内の計器が一斉に警告を発し始めた。


「な、何だこれ……!? 出力が、どんどん下がっていく……!?」

「尋人! 霊子圧が急速に減退している! ボイラーの火が消えそうだ……っ!」


 凛の悲鳴。イワンが諭すように告げる。


「せっかく再起動したところ、悪いがね。この黒蝕領域(アビス・フィールド)は、周囲の蒸気機関の出力を強制低下させる『弱体化(デバフ)波動』なのだよ。君たちは私の前ではただの木偶(でく)だ」

「くっ! まだ、動けるうちに、叩くッ!! 凛、もう一度あの技だ!」

「承知……っ!」


 尋人と凛は、歯を食いしばって操縦桿を押し込んだ。

 クラウスと桔梗が再び完全に同調(シンクロ)し、残る全出力を振り絞って、アイアン・クラーケンを貫いた「黄金の矢」を放つ。流星のごとき黄金の輝きが、漆黒の機巧武者へと一直線に突き進む。


 勝負を決める、渾身の一撃。

 しかし――。


 シュウウウウゥゥゥ……。


 黄金の流星は、ヴェレスの周囲に展開する暗黒の年輪に接触した瞬間、まるで融解するようにその輝きを吸い尽くされ、不気味なほど静かに霧散してしまった。


「……嘘、だろ……」


 尋人の口から、茫然(ぼうぜん)とした声が漏れる。接触すら、できない。


「ははは。隕鉄の年輪同士では、お互いの攻撃を中和してしまうのだよ。そう焦らずとも、メインディッシュは最後にとっておこう。まぁ、前菜が片付いた時、最後に立っているのは、私と君たち二人になっているだろうがね」


 得意気に語るイワンの機巧武者が、その左手を天へと掲げた。

 地響きと共に、崩れ落ちたアイアン・クラーケンの巨体の奥――二股口街道の遥か後方から、黒煙を割って次々と姿を現す影があった。


 それは、ヴェレスを一回り小型化したような、禍々しい漆黒の機体群。片手剣とカイトシールドを構え、一切の揺らぎなく整列している。その数、二十機近く。


「機巧武者がこんなに……!?」

「驚いたかね。これらは『無人機巧武者(スチームナイト)』だ。さすがに君たちのそれには及ばないが、単機で無人機巧兵(スチームドール)一個小隊を凌駕する個体。これまでの戦闘データを基に改良した『断続的連動演算術式』も実装させている」


 無人機巧武者たちが、一斉に高圧蒸気を吹き上げながら駆動を開始する。


「さあ、君たちに(なら)って、私もチーム戦を開始しよう。私がここで君たちの相手をする間に、この無人機たちが皇都を殲滅する。ああ、一本木関門の突破には拘らないよ。あの女戦士たちはなかなか手強いからね。足止めのため二機ほど向かわせて、他の機体は手薄な関門から侵攻させるとしよう。なに、多少遠回りにはなるが、それこそ、時間の問題だ」


 あくまで淡々と、しかし絶対の自信を漂わせながら、イワンは絶望の未来を告げる。

 皇都を守るためには、眼前のヴェレスを倒すほかない。しかし、クラウスと桔梗は弱体化波動で力を奪われ、その攻撃はすべて暗黒の年輪で中和されてしまう。打つ手なしの状況だった。


「佐藤尋人。これで、本当にチェックメイトだ。楽しかったよ、とてもとても」


 心底愉快そうに、高笑いするイワン。

 次の瞬間、漆黒の無人機巧武者が、煤煙を吹き上げながら、一斉に放射状に散っていく。そこに残ったのは、イワンの後ろに整然と控える、護衛の六機のみだった。


 すべての力を奪う暗黒の災厄と、解き放たれた皇都を襲う無情の歯車。

 皇國が勝ち取ったはずの歓喜の時は、一瞬にして、絶望の色へと塗り替えられていった。

クラウスと桔梗が力を奪われるなか、背後の皇都に絶体絶命の危機が迫る!

次回、尋人たちに反撃の糸口は見つかるのか!?


「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださったら、画面下の**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして応援していただけると、尋人たちの戦いと執筆の励みになります!


画面上の**ブックマークに追加**もぜひよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。