第五十四陣 もう一振りの流星剣
ドゴォォォォォォンッッ!!
二股口街道の大気を、稲妻のような黄金の閃光が引き裂いた。
【アイアン・クラーケン】の超巨砲から放たれようとする、すべてを蒸発させる灼熱の巨弾。しかし、尋人と凛の放った「黄金の矢」はその発射寸前に、砲台の撃針まで突き刺していた。
「何ぃぃぃッ!?」
アレクセイが驚愕の声を上げた刹那、光輝く二機の機巧武者の大太刀と打刀が、要塞の心臓部である主ボイラーを✕の字に一閃した。
「ばっ、ばかなっ!! このアイアン・クラーケンが沈むだと……!! あり得っ……!」
アレクセイの口惜し気な台詞をかき消すように、移動要塞は誘爆を繰り返しながら、ゆっくりと瓦解していく。それと共に、戦場に展開していた全ての無人機巧兵たちの動きが完全に停止し、ただの動かぬ鉄塊となってその場に崩れ落ちた。
「やったのか……? 尋人、凛、良くやった! やってくれた!! 我々の勝利だァァァッ!!!!」
無線から大鳥居の歓喜の絶叫が響き渡り、二股口街道の皇國軍の将兵たちから、地鳴りのような勝鬨が上がった。
一本木関門では、蘭が戦斧を地面に突き立てて「あはは、やったぜ……!」とへたり込み、お千代が面頬を外して、遠くに見える黄金の残光に向かって優しく微笑んでいた。
* * *
だが、皇國軍が奇跡の勝利に沸き返り、歓喜の涙を流すその裏で。
炎上し、崩壊していくアイアン・クラーケンのブリッジ。
「う、おぉ……おのれ……儂が、このような場所で……っ!」
爆発の衝撃で瓦礫に下半身を押し潰され、血を吐きながら這いつくばるアレクセイ。雷帝と呼ばれた男の、それが無惨な末路だった。
だが、その背後に立つイワンは、黒煙が噴き漏れる中で、冷酷な目でかつての主君を見下ろしていた。
「こうなっては、雷帝も哀れなものだ。巨砲の直撃にあの光の年輪が耐えられたかは、興味があったのだが……」
「イ、イワン……!? 何をボサッとしている、早く儂を助け――」
「雷帝、あなたの時代は終わりだ。後は私が引き継ぎます。あの世で帝国の繁栄を見物されるが良いでしょう」
イワンは命乞いをするアレクセイに一瞥もくれず、手元の霊子演算器の操作に没頭していた。その画面には、先ほどクラウスと桔梗の周囲に展開されていた、光の年輪の解析情報が表示されている。
「流星剣は我がインペトラル帝国にもある。むしろ、オリジナルが。女戦士の大薙刀と佐藤尋人のそれは、レプリカに過ぎない。流星剣の恐るべき潜在能力は把握していたものの、どうしても起動のためのピースが揃わなかったのだが……」
画面に映し出されるのは、幾重にも重なる光の年輪の三次元波形。
「皇國の霊脈でもなく、我々の蒸気機関でもなく……。異界の調律者である佐藤尋人が、その底知れぬ霊子力で顕現させた、この光の年輪……。これこそが、探し求めていた最後の鍵だ」
端末が情報解析を終えると、イワンの口元に、ぞっとするほど不気味な微笑が浮かび上がった。
「この光の年輪を、帝国の流星剣へ逆転写すれば……。霊子の輝きをすべて喰らい尽くし、世界の理すら反転させる、絶対的な『暗黒の年輪』が完成する。世界のすべてを、私の手で書き換えるためのね……」
崩落する天井から激しい炎が降り注ぐ。イワンはゆっくりと身を翻し、炎の中に消えゆくアレクセイの絶叫を背中で聞きながら、ブリッジから立ち去った。
「佐藤尋人よ、感謝する。さあ、異世界に降り立った者同士、共にラストワルツを踊ろう。グランド・フィナーレだ!」
狂気と知性を孕んだ蠢く影が、黒煙の彼方へと静かに消えていく。皇國が勝ち取った歓喜の裏で、世界を漆黒に染め上げる真の絶望が胎動を始めていた。
【第十章 完】
第十章「暗闇の中で神剣を掴め」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
冒頭、若干鬱展開で恐縮でしたが、その分、尋人たちの大反撃のカタルシスをご堪能いただけたのではないでしょうか?
さて、最大の強敵を撃破したと思いきや、イワンの不気味な台詞で幕を閉じた第十章。
最終章「招かれざる転生者、戦いのその先へ――」では、最後にして最恐の敵、イワンとの全面対決が幕を上げます。暗黒の年輪の力とは? 尋人たちの死力を尽くした総力戦が始まります!
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いよいよ始まる最終決戦。尋人たちの戦いの結末を、ぜひ最後まで見届けてください!




