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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話・執筆済】  作者: 角乃とうふ
第八章 戦地に紡がれる鋼鉄の絆

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第三十九陣 無人機の連動、人の連携

 眼前の無人機巧兵(スチームドール)たちの胸部で明滅する、不気味な赤錆色の光。これまでの無人機であれば、不測の事態に、少なからず索敵の遅れや陣形の乱れが生じていたはずだ。しかし、眼前の敵機にはそれがない。尋人たちの位置を完全に捕捉したまま、まるでひとつの巨大な知性であるかのように包囲を狭めてくる。


「新型か!? 我らの出現にも即座に対応し、連動した動きを見せている……!」


 桔梗(ききょう)のコックピットの中で、凛は窓越しに鉄の軍勢を睨みつけ、その美しい眉をひそめた。


「――凛、尋人君、気を付けて! 目の前の無人機巧兵、今までとは行動パターンがまるで違うわ!」


 尋人たちの頭上で滞空する合衆国の巨大飛行船。その演算室から、通信機を通じて詩織の緊迫した声が響いた。それに合わせて、彼女が船内で操作する蒸気演算機の激しい打鍵音が漏れ聞こえる。


「詩織さん! この不気味な連動は何なんだ!? まるで全員の頭が一本の鋼線で繋がっているみたいだ!」

「まだ解析の途中ですが――今回の新型は、一機が捉えたこちらの位置情報を、周囲の全機が共有しているような挙動を見せています。恐らく、相互に断続的な霊子転送を行い、情報の共有化を図っている……!」


 尋人は息を呑んだ。一機が動けば、その死角を別の機体が埋める、網の目のように隙のない一丸となった鉄の軍勢。


「このまま力押しで戦っても、こちらの疲弊を見切られ、効率的に追い詰められます。対抗するには……こちらも全軍の情報や戦術を同時即応で制御する「集団戦術統括陣」の構築が必要です。敵の連動を上回る、新たな術式が……!」

「そんなもの、どうやって……」

「私に研究中の原案があります! ですが、この合衆国の蒸気演算機をフル稼働させても、術式を組み上げるための論理構築の仕上げに、どうしても時間が必要です。せめて……明日の朝まで時が稼げれば……!」


 明日の朝。それは、今にも決壊しそうな最終防衛線にとって、容易には稼ぎ難い時間だった。

 だが、その厳しい見通しを聞いても、凛は泰然とした様子で口元に笑みを浮かべた。彼女は操縦(かん)を強く握り直すと、詩織に応えた。


「承知した! 詩織さんが新たな術式を書き上げるまで、何としてもこの地の戦線を維持する! 尋人、行くぞ!!」

「了解だ、凛!」


 尋人が応じ、クラウスのボイラーが咆哮を上げる。

 二機の機巧武者は唸るような汽笛を上げて、眼前の敵陣へと突入した。


 地を穿つような勢いで肉薄する二機に対し、無人機巧兵の集団が機械的な正確さで一斉に迎撃の銃口を向ける。だが、無数の銃弾が激しく空間を切り裂くよりも早く、先頭を駆ける桔梗が鋭い踏み込みとともに打刀(うちがたな)(ひらめ)かせ、敵の最前列の一機へと斬り込んだ。


 ズバァッ!!


 高圧の蒸気と火花を激しく吹き上げ、一瞬にして無人機が両断される。しかし、その穴を埋めるように、即座に後続の三機が接近戦用の鉄槌を構えて立ち塞がった。敵の新型無人機巧兵は、一糸乱れぬ動きで尋人たちの死角を的確に突いてくる。


 だが、尋人と凛の連携は、その機械の計算すら凌駕していた。


「尋人、私が道を切り開く! その間隙を突け!」

「任せろ!」


 凛の桔梗が鮮やかな剣技で敵の打撃をことごとく受け流し、できた一瞬の隙へ、尋人のクラウスが愚直な「型」の踏み込みで突入する。

 言葉を交わさずとも、互いの呼吸が、視線が、臨機応変な間合いの補正が、完璧に噛み合っていた。尋人が動けば凛がその死角を補い、凛が打刀を振るえば尋人が大太刀でその残敵を叩き斬る。高度に連動する新型の波に手こずりつつも、二人の阿吽の呼吸は無人機の決定的な反撃を許さず、敵を確実に足止めしていく。


 飛行船の演算室。望遠レンズを通してその光景を凝視していた詩織の手が、ふと止まる。


「……機械の冷徹な計算にはない、人と人との……繋がり……?」


 互いの不完全さを補い、信頼によって結ばれた二人の戦闘軌跡。それは数字では表せない、しかし確かに戦場を支配している「絆」の力だった。


(無人機の完璧な連動に、尋人君と凛の連携は負けていない……!)


 一進一退の攻防。やがて、燃えるような夕日が山間に溶け込こもうとしていた。

 無人機巧兵団の後方に控える装甲指揮車内で、イワンは、夕焼けに染まる前線を霊子望遠鏡で見つめ、チェス盤の駒からそっと手を離した。


「ふむ、日没か。レーダーも暗視鏡もないこの世界の暗闇では、機械達のワルツも鈍るというもの。無理に盤面を進めるのは得策ではないな。全機、一時撤退。明日、夜明けとともに、往生際の悪い騎士(ナイト)たちをチェックメイトしよう」


 イワンの命令を受け、帝国軍の黒い津波は、平原の彼方へと静かに退き始めた。


「敵機、後退していきます……!」


 詩織が安堵の声を漏らす。帝国軍の猛攻を何とか凌ぎ、尋人たちは深い息を吐いた。張り詰めていた空気が緩む。からくも最終防衛線を守りぬいた二機の機巧武者は、静かに得物を引いた。


 日没がもたらした、翌朝までの限られた猶予。

 皇國の命運は、この静寂の一夜の中、未来を書き上げる才女の頭脳へと託された。

明日までの限られた時間で、無人機の連動を上回る術式は完成するのか!?

次回、詩織の真価、そして六花分隊の絆が試されます!


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