↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話完結】  作者: 角乃とうふ
第六章 女帝の帰還

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/61

第三十一陣 君の名は――

 しかし、勝利を確信した尋人たちの前に、石畳を(きし)ませる重厚な足音が響き渡る。宮殿へと続く大通りを立ち塞ぐように現れたのは、黒鉄の巨体に極厚の装甲板を鋲打ちした、武骨な人型重装甲機。背部の排気管から不気味な紫煙を爆音とともに撒き散らしている。外部回線から、その機体に搭乗する敵指揮官の声が響き渡った。


「そこまでだ! この特殊装甲がある限り、貴様らの火力などすべて豆鉄砲に過ぎんわ!」

「――ほざけ! この白龍(ばいろん)が相手だ! ハァァァッ!!」


 氷閃(ひょうせん)が鋭い踏み込みで間合いを詰め、大振りの青龍刀が火を噴くような一閃を放つ。

 しかし。

 ――ギィィィンッ! と鼓膜を裂く硬質な金属音が響くだけで、黒鉄の装甲にはひび一つ入らなかった。


「なっ……刃が通らぬ……!? この硬度、一体……っ!」


 驚愕に白龍の息が詰まった瞬間、敵機は丸太のような重厚な鉄拳を正面から打ち放つ。咄嗟に両腕を交差させて防御態勢をとった氷閃だったが、そのガードごと大通りへと力任せに吹き飛ばされ、激しく石畳を転がった。

 道幅が限られた歴史的建造物の並ぶ大通り。瑛華(えいか)鳳凰(ほうおう)なら力押しで撃破できるかもしれないが、最大出力を解放すれば都そのものが崩壊してしまう。その一瞬の逡巡(しゅんじゅん)を見透かすように、帝国軍は圧倒的な物量で大秦国軍を押し返そうと動いた。


(硬い装甲、限られた空間、前方には後詰の敵軍……。あいつを倒す以外、道は無い。――そうだ、重いものは力で動かすんじゃない。重心の位置を見極めて「バランスを崩す」んだ!)


 尋人はかつて、巨大な物流倉庫で通路を完全に閉塞させた規格外の巨大貨物を、効率よく動かした経験を想起していた。全神経を研ぎ澄ませ、敵の猛攻の合間に訪れる一瞬の排気周期と、大地を削る接地圧の偏りを凝視する。


「みんな、俺の指示に合わせてくれ! 蘭、敵の右足元の石畳をピンポイントで叩き割って地盤を緩ませろ! 凛、敵が重心を崩したら、左膝のシリンダーへ一撃を!」

「了解! どこだってブチ抜いてみせるよ!」

「尋人、承知した!」


 蘭の操る戦斧が敵機足元の地面を派手に陥没させ、体勢を崩した機体の左膝の隙間目掛け、凛の電光石火の抜刀が突き刺さる。その裂け目から、プシューッと紫色の蒸気が噴き出した。

 だが、敵の指揮官も歴戦の猛者だった。


「甘いわぁッ!!」


 敵機は機体各所の蒸気噴気口を逆噴させ、強引に姿勢を制御する。そればかりか、姿勢を崩した反動を乗せた巨大な鉄槌を、蘭と凛に向けて容赦なく振り下ろした。超重量の直撃を受ければ、いかに機巧甲冑を装備しているとはいえ、命は無い。


「させるかぁッ!」


 危機一髪のところへ、白龍の氷閃が猛烈な勢いで割り込んだ。青龍刀を両手で掲げるようにして、敵の鉄槌を正面から受け止める。

 ズゥン! と大気を震わせる衝撃音が響き、氷閃の脚部装甲が悲鳴を上げて火花を散らし、膝を付く。


「くっ……なんという馬鹿力だ……!」

「白龍さん、持ちこたえて! 生体霊子、最大出力!!」


 後方から弥生が放つ眩い霊子の光が氷閃を包み込み、限界寸前の駆動系を復活させ、敵の重圧に耐え抜いた。


「凛、蘭、下がって! ……敵機、限界出力を出し過ぎて、術式制御回路が不安定になっているわ! 今なら制御中枢の防壁をブチ抜ける!」


 無線越しにエレナが叫ぶ。彼女の指先が装甲車内の蒸気演算器を猛烈な速度で叩き、敵指揮官機の制御中枢に送り込む妨害術式を組み上げる。


「これで、どうよぉぉッ!!」


 エレナが遠隔転写した術式により、敵機の姿勢制御に重篤な術式不全が走る。動揺した敵機が狂ったように腕を振り回した、その一瞬の隙。


「我が祖国を踏み荒らした罪、その身で償え!」


 女帝・瑛華が駆る鳳凰が、全身の排気口から怒涛の蒸気を噴き上げ、巨躯を弾丸のように加速させた。手にした巨大な三節(こん)が、生き物のように変幻自在の軌道を描いて敵機の胴体を強固に縛り上げる。


「ぬおおおっ! 離せ、離せぇっ!!」

「くっ……この期に及んでこれほどの出力を……! だが、逃がしはせぬ!」


 その時、敵機の胸部装甲が左右へ開き、内部に隠されていたガトリング砲が姿を現した。砲身が狂ったように高速回転を始め、零距離から暴虐的な鉄の嵐が吹き荒れる。


 ガガガガガガガッ!!


 凄まじい着弾衝撃が鳳凰の美しい装甲を爆破するように削り取り、コックピット内は真っ赤な警告灯で染まる。

 しかし、瑛華は怯むどころか不敵な笑みさえ浮かべ、操縦(かん)をへし折らんばかりに押し込んだ。大秦国を統べる女帝の意地と誇りが、鳳凰の出力を限界以上に跳ね上げる。


「我が民の、我が都の血を吸った鉄クズ風情が……ここで朽ち果てよ!」


 激しいせめぎ合いの末、三節棍の怪力が敵の胸部を強引に圧壊させた。ひしゃげた重装甲の隙間から、ついに鈍く光る動力核(コア)が露出する。


 「勝機……っ!!」


 全神経を研ぎ澄ませた尋人のクラウスが、稲妻の如く鋭く疾駆する。

 敵指揮官は致命的な一撃の気配を察知し、自由の効く右足を強引に蹴り出してクラウスを迎撃せんとした。超重量の蹴撃が、尋人の視界に迫る。普通なら恐怖で足が(すく)む一瞬。だが、尋人の脳裏には、死に物狂いで暴れ回る敵を冷静に沈めるための「動線」がはっきりと見えていた。


(当たらなければ、どうということはない……ここだっ!)


 尋人は操縦桿を限界まで引き絞り、クラウスの機体をのけぞるような超低姿勢で滑走させた。頭上をかすめる敵の巨大な踵。その風圧がクラウスの装甲を震わせるが、尋人は紙一重でかわしきった。


 滑り込みながら、両手で構えた大太刀に、尋人の全霊子が一本の閃光へと収束する。


「これで……終わりだァァッ!!」


 下から突き上げるように放たれた青白い光刃が、黒鉄の指揮官機の胸部、剥き出しになった動力核(コア)を、背部まで(つらぬ)いた。


 一瞬の静寂の後、指揮官機の内部から眩い光が漏れ出し、激しい爆発とともにその巨躯が音を立てて崩れ落ちる。最大の障害を排除された都の中心部へ、大秦国軍が濁流のように流れ込んだ。その後、わずか数時間で龍京全域が完全に解放されたのだった。


 * * *


 夜の帳が下りた龍京の宮殿の頂に、再び鮮やかな黄色い国旗が翻る。街の各所からは、都の奪還を喜ぶ大秦国兵の地鳴りのような歓声が響いていた。


「……本当に、勝っちゃったんだな」


 宮殿のテラスから夜景を見下ろす尋人の隣に、鋼鉄の兜を外した蘭が隣にそっと寄り添う。月明かりに照らされた彼女は、少しだけ照れくさそうに微笑む。


「……ありがとね、尋人。あんたがあの時、生きて帰ってこいって言ってくれたから、あたし、死ぬ覚悟じゃなく、生き抜くために戦えた。多分、あの日のことは一生忘れないよ……」

「……蘭」


 それは、仲間としての厚い信頼の中に、ほんのりと淡い温かさが混ざり合った、彼女の本心だった。いつもと違う蘭の様子に、尋人が少し気恥ずかしさに身を硬くしていると、背後から聞き慣れた声が響いた。


「佐藤、蘭。瑛華様が謁見の間でお呼びだ。此度の勝利の最大の功労者として、直々に褒賞を授与したいとのことだぞ」


 近衛兵の礼装に身を包んだ白龍の姿は、いつにも増して凛々しい。蘭が照れ隠しのように大袈裟に笑い、「よっしゃ、ご馳走が楽しみだな!」と先に歩き出す。白龍は尋人の目をまっすぐに見て告げた。


「佐藤。……君には感謝してもしきれない程の大恩ができた。この借りは必ず返す。いざという時は、私が君のもう一振りの(つるぎ)となろう。共に戦えたことを、心から誇りに思う」

「ありがとう。俺も君と出会えて良かったよ」


 そう尋人が答えた時だった。白龍がそっと耳元に唇を寄せた。間近に感じる吐息に尋人がドギマギしていると、白龍はわずかに頬を朱に染めながら、ささやくような低い声で言葉を(つむ)いだ。


「……これは、今では瑛華様しか知らぬ私の「真名(まな)」だ。だが、お前には預けておきたい。私の真名は、――」


 尋人の耳元で、少女の小さな唇が、かすかな吐息とともに「その名」を形作った。

 それは、戦場を舞う大秦国の勇敢な戦士とは程遠い――あまりにも優しく、たおやかな響きをもつ名前だった。

 それだけを告げると、彼女は屈託のない、少女らしいはにかんだ笑みを浮かべて身を翻した。尋人は白龍がそこまで自分を信頼してくれたことに、確かな胸の高鳴りを感じながら、その背中を追って歩き出すのだった。


 * * *


 一方、歓喜に沸く龍京から遠く離れた北方。

 漆黒の煙を上げて撤退を続ける装甲指揮車の薄暗い車内で、インペトラル帝国軍の参謀イワンは、一人冷徹な目で戦闘記録を分析していた。


「大秦国の女狐め、とんだ隠し玉を用意していたものだ。いや、女狐というより、妖狐というべきか。どちらにせよ、兎狩りのつもりが、眠れる獅子を目覚めさせてしまったか……」


 イワンは口ひげを触りながら、一人呟く。


「――だが。それよりも信じ難きは、大秦国の撤退と反転攻勢における完璧なタイムライン。そして、あの超重装甲機の重心の弱点を即座に看破した戦闘指揮。……佐藤尋人。霊子力が規格外なだけの兵士ではない」


 イワンの頭脳が、戦場の裏側で機能していた「何か」を鋭く捉えていた。この世界のどこにも存在しないはずの、異質の論理。


「……よもや、彼も? ふふっ、これは面白くなってきた」


 集約されたデータの中から浮かび上がった少年の名を見つめ、イワンは不気味に口角を上げた。敗戦の悔しさなどそこにはない。ただ、己の知性を脅かす異端を見出した歓喜が、その眼鏡の奥の瞳に執着と狂気の光を宿していた。


 薄暗い車内でイワンはチェスの盤面を見つめる。大秦国侵攻作戦は失敗に終わった。だが、彼は冷たい微笑を浮かべながら、次なる一手を見据えていた。


(第六章 完)

第六章「女帝の帰還」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

まるで最終回のような盛り上がりでしたが、まだ全体の中盤です(笑)


そして、大反撃のカタルシスを打ち消すような、イワンの不気味な独白で幕を閉じた本章。

続く第七章「新興大国と新たなる剣」では、未知の工業立国「合衆国」が登場!

各国の利害が交錯する中、皇國にクラウスに次ぐ蒸気兵器が誕生!?

新たな局面を迎える尋人たちの戦いをお見逃しなく!


「第六章お疲れ様!」「大逆転劇が最高に熱かった!」「白龍の真名告白はチート!」と思ってくださった方は、ページ下部から【ブックマーク登録】や、評価の【星(★★★★★)】をぽちっと押して応援していただけると、毎日の執筆の大きな励みになります!


クセ強な新キャラも登場する第七章も、どうぞよろしくお願いいたします!


【投稿予定のお知らせ】

明日、8月24日は投稿をお休みし、8月25日(火)から投稿を再開します。

8/25以降は、毎日4時20分に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。