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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで  作者: 角乃とうふ
第六章 女帝の帰還

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第三十陣 鳳凰、戦場に舞う

 夜陰に乗じ、武陽(ぶよう)の堅牢な城門が静かに開かれた。

 尋人の発案による物流統制で、一分の無駄もなく再編された大秦国の精鋭部隊は、灯火を消し、蒸気エンジンの排気音すら極限まで抑えながら、塞がれた山道を迂回して真夜中の荒野を突き進んだ。隠密行軍を続けること数時間。夜明けの光が地平線を白ませ始め、朝靄が立ち込める頃――首都龍京(りゅうけい)の目と鼻の先に、突如として大秦国の軍勢が姿を現した。


「ほ、報告! 前方に高エネルギー反応! ――大秦国の軍旗です!」

「馬鹿な、なぜ奴らがここにいる!? 武陽へ敗走したはずではなかったのか!?」


 勝利の美酒に酔い、大秦国軍は去ったと油断しきっていた帝国軍は、不意を突かれて大混乱に陥る。迎撃陣形を整える間すら与えず、敵陣に単騎で飛び込んだのは、女帝・瑛華(えいか)の駆る専用機鳳凰(ほうおう)だった。地下格納庫で長きにわたり牙を研がれていた最終決戦兵器が、ついにその真価を戦場に解き放つ。


「大秦国に巣喰う害虫どもめ。我が鳳凰の羽ばたきに、吹き飛べっ!」


 鳳凰の背部から溢れ出た激しい白い蒸気が、まるで巨大な光の翼となって朝焼けの空を焦がした。極彩色を纏った巨躯が大地を揺るがすほどの踏み込みを見せた瞬間、辺りが激しい爆音と土煙に包まれる。

 鳳凰はその重厚な装甲を軋ませ、関節部から高圧の霊子スチームを噴き出した。刹那、手にした巨大な三節棍を真横に振り抜き、帝国の無人機巧兵(スチームドール)たちを飴細工のように一瞬で粉砕する。――絶対的な出力と武芸の融合。それは数に勝る帝国軍の絶対的有利さえ覆す、まさに「覇王」の降臨そのものだった。


「防衛線の中央が完全に割れた! 白龍(ばいろん)、俺たちも行くぞ!」

「応、佐藤! 氷閃(ひょうせん)、推参っ!!」


 瑛華が強引にこじ開けた巨大な大穴目掛け、尋人のクラウスと白龍の氷閃が猛烈な速度で突入した。


 先の敗走で心に深い傷を負っていた白龍だったが、尋人の言葉と瑛華の背中に救われ、今や完全復活を遂げていた。その白銀の機体からは、以前にも増して鋭く、澄み切った霊子圧が放たれている。


(敵の陣形は崩壊してる。だけど、まだ数の優位は向こうにある。……なら、やることは一つだ!)


 クラウスのコックピットで、尋人は霊子硝子盤上の戦術マップを凝視した。戦場全体の動きを冷静に観察し、敵の注意を引きつける役割と、敵の隙を突く攻撃ルートを瞬時に弾き出す直感が、尋人の中で急速に冴え渡っていく。


「尋人君、右前方から敵の増援が接近中! 各機体の死角となるルートを計算して転送します!」


 通信回線から詩織が、寸分の狂いもない戦術情報を素早く各機へ共有する。


「助かる、詩織さん! ――白龍、十時方向に重装型三機だ! 奴らはこちらに銃口を向ける直前、一瞬だけ動きが止まる。そのタイミングを狙って右から回り込んで、叩いてくれ!」

「なるほど……。見事な眼力だ、佐藤!」


 尋人の的確な先読みの指示に、白龍の卓越した操縦技術が完璧に噛み合う。氷閃は敵の死角から鮮やかに躍り出ると、重装型無人機をまとめて切り伏せた。


「次は二時方向の狙撃隊! クラウスが斬り込んで陣形を乱す、トドメを頼む!」

「フッ、お前となら負ける気がしないなっ!」


 白龍は信頼の滲む声を無線に響かせる。クラウスが大太刀の鋭い踏み込みで敵の射線を掻き乱し、バランスを崩した敵機の隙へ、氷閃が電光石火の突きを叩き込む。二機の圧倒的なコンビネーションは、混乱の極みにあった帝国軍を片っ端から蹂躙していった。

 一方、共に前線に立つ凛へ、後方のエレナからの指示が飛ぶ。


「凛、敵機の関節部、装甲の接合が甘くなっているわ! 駆動系の隙間を狙って!」

「さすが、エレナ! 的確な解析だ!」


 後方の作戦室からエレナが送る鋭い観察眼からの報告を受け、凛の機巧甲冑「蒼月(そうげつ)」が鋭い剣閃で敵の反撃をことごとく受け流し、的確に急所を斬り裂いていく。


「オラァッ! 敵の右翼はあたしが片付けるよ!」


 「金剛」を纏った蘭もまた、巨大な戦斧を大車輪のように振り回して突撃する。尋人が「本当に体は大丈夫か? 無茶はするなよ」と無線越しに気遣うと、


「ハッ、心配ご無用! 尋人が完璧に敵の裏をかいてくれてんだ、前衛のあたしが日和ってられるかっての!」


 と、底抜けに快活な笑い声が返ってきた。

 だが、いくら奇襲が成功したとはいえ、数に勝る帝国軍が態勢を整え反撃に転じると、夜を徹した強行軍から戦闘に移った尋人たちは、次第に疲労の色が濃くなっていた。

 その時だった。後方の装甲指揮車に設置された急造ギミック――「広域霊子投射機」が、キィィィンと高周波の音を立てて純白の蒸気を噴き上げた。それは、武陽の地下格納庫に眠っていた通信機を転用してエレナが組み上げた、霊子波動の広域拡散システムだった。


「弥生、照射範囲設定完了! 戦場すべてにその祈りを届けて!」

「はい、エレナさん! ――戦う皆さんに、届け……!」


 弥生は、投射機の核となる霊子結晶へ向かって深く息を吸い込み、両手を力強く掲げた。


(あまね)く照らせ――『霊光普照(れいごうふしょう)』!!」


 彼女から放たれた清らかな治癒の霊子が、投射機を通じて増幅され、六花分隊はおろか、大秦国軍全体に圧倒的な光の豪雨となって降り注いだ。

 朝靄を銀色に染めて戦場を満たした聖なる輝きは、傷つき、疲弊していた大秦国の将兵たちの肉体疲労を瞬時に霧散させ、すり減っていた霊子力を急速に補給していく。


「おお……身体が軽い! 疲れが吹き飛んでいくぞ!」

「この、温かくて清らかな光は……間違いない、武陽で俺たちを救ってくれた、あの東方の巫女の力だ!」

「巫女が、あの天女が後ろから俺たちを護ってくださっているぞ!!」


 光の出所が、あの武陽要塞で身を粉にして自分たちを治療してくれた「巫女」の祈りだと気づいた瞬間、大秦国軍の士気は爆発的に跳ね上がった。絶望を希望へと変えてくれた恩人の加護を受け、将兵たちの胸に猛烈な闘志が燃え上がる。地鳴りのような鬨の声が戦場に響き渡り、大秦国軍の進撃速度が劇的に加速した。


「すごいな……。みんなの息が完全に吹き返した。――よし、俺たちも一気に畳み掛けるぞ!」


 尋人もまた、万全の状態へと回復したクラウスの手応えに目を見張る。


「おうよ! 仕上げと行こうぜ!」


 蘭が戦斧を担ぎ直し、疲労を忘れた万全の動きで再び敵陣へと切り込んでいく。回復した六花分隊の猛攻と、怒濤の勢いで攻め立てる大秦国軍の本隊。勝利の天秤は、尋人たちの側に傾き始めていた。

ついに始まった、龍京奪還戦!

次回、帝国軍司令官との決戦に臨みます。

お楽しみに!


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