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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話完結】  作者: 角乃とうふ
第五章 大秦国炎上

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第二十五陣 龍京の落日、雌伏の時

 爆炎と焦げた鉄の臭いが立ち込める戦場に、沈黙が訪れた。

 周囲には、追撃を仕掛けた無人機巧兵スチームドールの残骸が無数に転がっている。


 白煙を吹き上げるクラウスのコックピットで、尋人は大きく肩で息をした。霊子硝子盤に点滅していた「制限解除」の警告が消え、機体は強制冷却状態へと移行する。共に前線で戦っていた凛も、蒸気刀を収めながら息を吐く。


「やった……のか……?」


 尋人が呟いたその時、復旧した通信回線から、詩織の声が響いた。緊迫した状況にあってもなお理知的であろうとする、彼女らしい落ち着いた声音(こわね)。しかし、その奥には隠しきれない焦りと、奥歯を噛み締めるような口惜しさが確かに滲んでいた。


「凛、尋人君。至急伝達です。ただちにこの戦域から撤退してください」

「詩織? どういうことだ、目前の敵は蹴散らした。今ならまだ、背後の本隊を追って――」

「いいえ……もう、間に合わないわ!」


 詩織の、僅かに震える声が凛の言葉を遮る。冷静な彼女が、明確に動揺を覗かせていた。


「先刻、帝国軍の本隊が圧倒的な物量をもって、龍京(りゅうけい)の第一、第二防衛線を完全に突破したの。……大秦国の防衛網は事実上、瓦解よ。……悔しいけれど、これ以上の戦闘は戦術的な意味を成さないわ。私達も一刻も早くここを離脱しないと!」

「そんな……」


 尋人は言葉を失った。自分たちがここで死力を尽くし奮戦している間に、大局的には、このチェスはすでに詰んでいたのだ。イワンの冷徹な策謀は、尋人たちの「個の奇跡」すら、織り込み済みだった。


「……嘘だ」


 隣に立つ氷閃(ひょうせん)の無線から、白龍(ばいろん)の震える声が漏れた。

 ガシャリ、と音を立てて、白銀の機体がその場に膝をつく。


「龍京が――瑛華(えいか)様がいらっしゃる、私たちの故郷がっ……!」


 遠く地平線の向こう、大秦国の首都がある方角の空が、不気味なほど赤く染まっていた。夕焼けではない。街を、歴史を、人々の営みを焼き尽くそうとする、帝国の侵略の炎だ。

 その光景を前にして、国を守るために必死になっていた白龍の心が、ついに折れようとしていた。

 尋人は居ても立ってもいらず、ハッチを蹴破るように開け、クラウスから飛び降りた。

 地面を蹴り、膝をついた氷閃のコックピットへと駆け上がる。非常用レバーを引いてハッチを開けると、そこにはパイロットスーツのまま、両手で顔を覆って震える白龍の姿があった。


「白龍!」

「来るな……佐藤。見ないでくれ……。私は、大秦国の(つるぎ)だ。泣くことなど、許されるはずがない……!」


 頑なに顔を上げようとしない彼女の手を、尋人はそっと握り、涙で濡れるその瞳を覗いた。白龍が驚いた表情で尋人を見返すと、彼は白龍の華奢な両肩を掴んで力強く語り掛けた。


「悔しかったら泣いたっていい。だけど、諦めるな! 最後まで抗うんだ!!」

「佐藤……」

「まだ終わってない。奪われたらなら、また取り返せばいい。俺たちが生きている。クラウスも氷閃もまだ動く。俺たちが諦めない限り、絶対に機会はある! ……だから、一緒に来い。白龍! 俺を信じろ!!」


 真っ直ぐな、一点の曇りもない尋人の瞳が、白龍の凍てついた心を溶かしていく。


(あぁ、何という男だ……。この絶望的な状況下で微塵も希望を失っていない。それに比べ私は……)


 白龍は尋人の胸に額を預け、きつく唇を噛み締めて涙を(こら)えると、小さく、だが絶望を拒絶する強い意志を込めて、力強く頷いた。


「……ああ。お前を信じる、信じるとも! ……必ず、龍京を奪還するぞ」


 白龍の胸の鼓動は激しく高鳴っていた。


* * *


 無人機巧兵団の足音が近づく龍京の宮殿。

 大秦国の女帝・瑛華は、避難を促す側近たちの声を片手で制し、一人バルコニーから遠くの戦場を見つめていた。その手にある霊子望遠鏡のレンズには、敗走の混乱の中にありながらも、互いに肩を並べ、しっかりと前を見据えて後退してくる深緑と白銀の二機の姿が映っていた。

 その姿を認めた瑛華は厳しい表情をふっと緩め、目じりを下げる。


「白龍、佐藤尋人。無事だったとは重畳(ちょうじょう)


 瑛華は安堵した眼差しを二人に向け、それから、目前に迫る黒鉄の大軍を見据えて不敵に笑った。


「帝国の青狸よ。今は、束の間の勝利に酔っているがよい。いずれ冷や水を浴びせてやる」


 瑛華は静かに(きびす)を返すと、宮殿の奥へと姿を消した。


 かくして、大秦国の首都龍京は、インペトラル帝国の手に落ちた。

 だが、撤退する六花分隊の、そして佐藤尋人の瞳の奥の炎は消えていない。

 間近に迫る、過酷な撤退戦に向けて、尋人は次なる一手を見据える。

 そして、その作戦の要となる殿しんがりを引き受けるべく、一人の少女が戦斧を握り直していた。


 反撃への歯車は、この絶望の底から静かに回り始める。

第五章「大秦国炎上」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

これまでで、もっとも激動の展開だったと思います。


さて、第六章のタイトルは「女帝の帰還」です。迫り来る帝国軍の追撃をどう凌ぐのか? はたして尋人たちに反撃のチャンスは訪れるのか? この戦いの結末まで描き切る、本作中盤の最大の山場です!


もし「尋人と白龍の絆に泣ける!」「エレナ、全力で推せる!」「続きが気になる!」と少しでも思っていただけましたら、ぜひ尋人たちの戦いを応援してくださると嬉しいです!


ページ上部にある**【ブックマーク追加】や、下部の【評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に)】**をポチッと押していただけますと、本作がより多くの読者様に届く大きなチャンスに繋がります。


それでは、大反撃に期待の第六章でまたお会いしましょう!

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