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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで  作者: 角乃とうふ
第五章 大秦国炎上

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第二十四陣 限界突破、その先に見つけた居場所

「ヒロト、聞こえる!?」


 雑音の海を切り裂いて、尋人のコックピットに甲高い声が響いた。


「エレナ!? 通信妨害をどうやって……」

「私を誰だと思っているのよ!! ヒロト、今から送る補正術式を受信して! クラウスのリミッターを強制解除するわ!」

「リミッター解除……!?」


 驚く尋人に、エレナは悲壮な覚悟で叫んだ。


「機体が壊れるのが先か、敵を殲滅(せんめつ)するのが先か……私を、クラウスを信じて!」


 直後、霊子硝子盤に「制限解除」の警告が赤々と点滅する。


「信じるに決まってるだろ……っ! 頼むぞ、エレナ!」


 尋人が硝子盤の脇にある決定ボタンを叩き込んだ瞬間、クラウスの霊子機関「紫電」が、次元の違う凄まじい咆哮を上げた。

 ゴォォォォンッ!! と、戦場の大気を震わせる爆音。

 装甲の継ぎ目という継ぎ目から、霊子結晶の極限燃焼による「まばゆい光」が噴き出す。深緑の機体は、まるで光の風そのものへと変貌したかのように発光し始めた。


「なんだ、この尋常じゃない力は……!」


 操縦桿(かん)から伝わる途方もない力に、尋人は歓喜の戦慄を覚えた。


 * * *


「くそっ、動け! 動けよっ!」


 白銀の機体のコックピットで、白龍(ばいろん)は血を吐くような悲鳴を上げた。

 高機動型無人機巧兵(スチームドール)の放った特殊ワイヤーが、膝を付く氷閃(ひょうせん)の関節部を無慈悲に締め上げている。装甲が軋む不快な金属音が鳴り響き、複数の敵機がとどめを刺すべく、鈍く光る鉄槌を高く振り上げた。


(ここまでか……瑛華(えいか)様、申し訳ありませ……っ!)


 白龍は死を覚悟し、きつく目を閉じる。振り下ろされる鉄槌が氷閃の頭部を砕こうとした刹那。

 ドンッ!! と、大気が爆発したような音がした。

 同時に、深緑の閃光が、尋常ならざる超加速で目前を横切った。


「え……?」


 気が付いた時、白銀の機体を縛り上げていた敵機群は、装甲ごと真っ二つに両断され、次々と爆散していった。遅れて、激しい風圧が氷閃を揺らす。

 尋人は熱を帯びた大太刀を振り抜きながら、息を呑んで計器を見た。


「すごい……信じられない反応速度だ。エレナ、お前ってやつは……本当に天才かよ!」


 尋人は間髪入れずに、白龍に向けて通信を開いた。


「白龍、立てるか!?」

「佐藤……! お前、その機体は……!?」


 光を吹き出すクラウスを見上げ、白龍は呆然と呟く。


「俺が血路を切り拓く! だから、共に戦おう! 背中は君に任せる!」


 尋人の力強い叫びに、白龍の胸が熱くなる。

 命を懸け合える「最高の戦友」がそこにいた。


「応ッ!! 私のすべてを、お前に預ける!」


 氷閃が残ったワイヤーを引きちぎり、猛然と立ち上がった。


「行くぞ!」


 尋人が操縦桿を押し込むと、光を纏うクラウスが再び弾け飛んだ。

 そこから先は、帝国軍の蒸気演算も予測不能な未知の領域だった。

 リミッターを解除したクラウスが縦横無尽に無人機巧兵を切り裂く。

 それに呼応するのは、防御のすべてを尋人に委ね、完全なる「攻撃特化」へとシフトした氷閃。

 二機は言葉を交わすことなく、阿吽の呼吸で戦場を駆け抜けた。深緑と白銀の軌跡が螺旋を描き、巨大な竜巻となって帝国軍の包囲網を次々と粉砕していく。


「そこだぁッ!」


 クラウスの一閃が敵の重装甲をこじ開け、


「ハァァァァッ!」


 氷閃の青龍刀が、その隙間から敵の急所を正確に貫く。

 数に任せた完璧なはずの布陣を、たった二機の規格外な怪物がズタズタに引き裂いていく。

 機体性能と操縦者の技量の完全なる融合。尋人という戦友を得て、新たな武の高みへと達した白龍は、共に死地を脱していった。


 * * *


 怒涛の連撃で帝国軍の罠を打ち破り、一次的な安全圏へと離脱した尋人は、大きく息を吐きながら通信機のスイッチを入れた。


「エレナ! 聞こえるか!? 包囲網を突破したぞ!」

「……ええ、霊子波動で確認したわ。無事で何よりよ、ヒロト」


 通信の向こうのエレナの声は、どこか沈んでいた。彼女は手元の懐中通信機を見つめ、意を決したように唇を噛む。


「ヒロト……。驚かずに、聞いて。私、あなたに言わなければならないことがあるの。本当の私は――」

「ブリタニア王国のトゥールビヨンだろ! 知ってるよ!!」


 裏切りを告白しようとしたエレナの言葉を、尋人の興奮した大声が遮った。


「あの、とんでもない出力! 新生クラウスに性能向上したばかりなのに、まさかの第三形態があるなんてな!! あんな狂気じみたチューンナップ、エレナにしかできないよ! お前のおかげで、俺は今ここに生きてる! ……本当に、ありがとな!!」


 雑音混じりの通信機から響くのは、裏切りへの疑念など微塵もない、あまりにも真っ直ぐで純粋な感謝の言葉だった。

 自分を一人の技術者として、かけがえのない仲間として百パーセント信頼してくれている。尋人の熱い想いが、エレナの心に沁み込んでいく。


「……っ」


 視界が急激に涙で滲む。エレナは慌てて袖口で目元を拭うと、声が震えるのを隠すように、いつもの強気な口調で軽口を叩いた。


「……ちょっと! 人がせっかくシリアスな告白をしようとしてるのに、空気読みなさいよ、この戦闘バカ!」

「へ? シリアスって、何の話だ?」

「なんでもないわよ! それに、感謝するならその機体を無事に私のところまで持って帰ってからにして。もし私の可愛いクラウスを大破でもさせたら、次は蒸気排熱をコックピットに送風する術式を送りつけてやるから!」

「や、やめろよ、熱中症になるだろ! 了解! 無事に帰還してみせるよ!」


 尋人の明るい笑い声を聞きながら、エレナの胸の支(つか)えは綺麗に消え去っていた。

 もう迷わない。私の居場所は、彼のいる此処(ここ)なんだ。

エレナの決断で、からくも窮地を脱した尋人たち。

次回、衝撃の展開となる第五章最終話です。


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