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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話完結】  作者: 角乃とうふ
第五章 大秦国炎上

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第二十三陣 明らかになる策略、技術者の決意

 局地的な勝利の手ごたえを掴みつつあった尋人たちに、詩織から悲鳴にも似た通信が入った。


「皆さん、直ちに前線から離脱してください!! 敵の主力部隊が、防衛線を迂回して首都・龍京(りゅうけい)へ向かっています! 目の前の敵は陽動だったんです……!」

「なんだって……!?」


 クラウスのコックピットで、尋人は目を見開いた。

 直後、詩織から転送された、敵味方の現況配置図が霊子硝子盤に映し出される。

 そこには、尋人たちが眼前の敵軍と対峙するはるか後方、帝国の別動隊を示す赤い部隊記号が、大秦国の心臓部を目指して直進していた。

 

「……龍京を急襲するだと!? 冗談ではない、そんなこと、私が断じて許さん!!」


 通信越しに響く白龍(ばいろん)の声は、怒りに震え、冷静さを失っていた。

祖国が蹂躙されるという圧倒的な恐怖と焦燥。白龍は損傷の残る氷閃(ひょうせん)の出力を無理やり上げ、単騎で敵陣の奥深くへと突撃していった。


「待て、白龍! 龍京を守るなら、相手にするのはそいつらじゃない!!」


 尋人が制止の声を上げた時には、すでに遅かった。

 退却していく無人機巧兵(スチームドール)の影から、土煙を上げて新たな機影が次々と飛び出してきた。それは先ほどの重装甲型とは違う、細身で奇妙な関節構造を持った「高機動型」の無人機巧兵。

 彼らは追い打ちを掛けられることも想定して、周到に罠を張っていたのだ。


「しまっ……!」


 完全に虚を突かれた氷閃の四方を、高機動型が取り囲む。白龍が青龍刀を振るうよりも早く、敵の放った特殊なワイヤーが氷閃の駆動部を幾重にも絡め取った。


「白龍!!」


 尋人はクラウスの操縦(かん)を倒し、強引に救出へ向かおうとした。しかし、敵も案山子(かかし)ではない。尋人の動きを封じるように、無数の無人機巧兵が文字通り「壁」となって立ち塞がる。

 大太刀で何機切り捨てようと、後から後から機械の波が押し寄せてくる。そこに追い打ちをかけるように、操縦席の無線機に耳障りな雑音が鳴り響いた。


「……ひろ……聞こえ……! 妨害霊波(ジャミング)が……」


 先ほどまで的確な情報を送ってくれていた詩織からの通信が、無情にも途絶える。指揮系統を分断され、数の暴力に押し潰されそうになる中、コックピット内の霊圧計が警告音を鳴らし始めた。連続稼働による霊子炭の異常消耗と、霊子圧の低下。このままでは、白龍どころか尋人自身も機体ごと鉄屑にされてしまう。


「くそっ……俺がここで止まったら、誰が彼女を助けるんだ!」


 尋人は血の滲むような力で操縦桿を握りしめた。


***


 同時刻、戦場から少し離れた後方の蒸気四輪車の中。

 薄暗い車内で、エレナは一人、戦況を示す霊子硝子盤と、手元の懐中通信機を交互に見つめていた。硝子盤には、通信障害の向こうで孤立し、徐々に赤い部隊記号に飲み込まれていく深緑の記号が映し出されている。クラウスの霊子圧は危険な領域まで落ち込んでいた。


「チチチチ……」


 その時、手元の通信機にブリタニア王国公使の父からの暗号文が着信した。通信機の内部の歯車が噛み合い、その内容が硝子盤に映し出される。


『龍京の陥落は不可避。直ちにクラウスのコアデータを回収し、指定ポイントより単独で帰還せよ。これ以上の潜入は無用である』


 それは、ブリタニア王国の利益のみを優先する、あまりにも非情な最終命令だった。

 今すぐクラウスの核心情報を写し取り、この場から逃げ出せば、エレナは優秀な諜報員として父の期待に応えることができる。それが、祖国、引いては世界平和につながるのだと(さと)されてきた。


 ――だが、エレナの手は動かなかった。

 霊子硝子盤の向こう側から、尋人の「絶対に諦めない!」という魂の叫びが聞こえる気がした。

 一緒に徹夜で機体の調整をしてくれた詩織。自分に尊敬の眼差しと心優しい気遣いをしてくれた弥生。真っ直ぐに自分を仲間だと信じてくれる凛や蘭の笑顔が、脳裏を駆け巡る。


 彼女はゆっくりと、父からの通信文を消去した。

 返信はしない。従うつもりは、もはや無かった。


(……お父様、ごめんなさい。今の私は、ブリタニアの技官なんかじゃない)


 エレナは胸の前で両手をきつく握りしめ、強く心の中で宣言した。


(私は、六花分隊の……佐藤尋人の専属技術者(メカニック)です!)


 エレナは車載の蒸気演算機の前に身を乗り出すと、目にも止まらぬ速さで真鍮のキーボードを激しく叩き始めた。

 盗み出すはずだった「クラウスのコア情報」。その奥深く、固く封印されたブラックボックスの秘匿領域に接続し、霊子変換の機関制御術式を書き上げていく。


「ヒロトの霊子力と、私の調整した霊子機関なら、絶対に耐えられる……!」


 それは、安全を担保するためのリミッターをすべて破棄し、機体の潜在能力を極限まで引き出す禁断の応急術式。


「死なせない……。ヒロトも、白龍さんも、絶対に!!」


 技術者としての意地と、仲間への想いを乗せた演算式。その進捗を示す真鍮の目盛り針が、今動き出していた。

エレナの想いは尋人に届くのか!?

次回、その行方を見届けてください!


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