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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで  作者: 角乃とうふ
第五章 大秦国炎上

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第二十二陣 芽生える熱、切り替わる局面

 夜明けと共に、地平線は黒鉄色に塗り潰された。

 インペトラル帝国の誇る重装機甲師団。おびただしい数の無人機巧兵(スチームドール)が、一糸乱れぬ足取りで進軍してくる。その排熱蒸気が空を鉛色に覆い、文字通り「鋼鉄の(ひょう)」が降り注ぐかのような重圧が、大秦国の防衛線を圧迫していた。


「……ものすごい数だな。これが帝国の『見せしめ』ってやつか」


 クラウスのコックピットで、尋人は詩織の索敵分析により作成された戦術マップを見つめ、息を呑んだ。特に大型機の数が昨日の比ではない。だが、機械的な進軍パターンに若干のズレがあることを、尋人は見逃さなかった。


「凛! 帝国軍は数が多い分、行軍が長引けば、わずかなタイムラグが大きな乱れに繋がる。俺たちが出来る限り敵を引きつけ、陣形を間延びさせてから横腹を突くのはどうかな? あのすり(ばち)状の地形に誘い込めれば、高低差の地の利も生かせる!」


 尋人は通信機越しに、分隊長である凛に提案した。

 前衛で機巧甲冑「蒼月(そうげつ)」を纏い、蒸気刀を構えていた凛が、力強く頷いて見せる。


「良い視点だ、尋人! その策で行こう!」


 凛はすぐさま、張りのある声で分隊全体へ指示を飛ばした。


「六花分隊、聞いての通りだ! 各自、防衛線を下げて指定座標へ展開! 蘭は遊撃に回り、敵が間延びした瞬間に側面から分断しろ! 詩織、後方支援を頼む! 弥生とエレナは霊子回復及び機体修復の支援に回れ!」

「了解! あの軍隊アリども、あたしの戦斧で木端微塵にしてやるよ!」


 凛の号令のもと、六花分隊は統制の取れた動きで後退し、帝国軍を誘い込んでいく。

 戦闘が始まると、尋人は操縦(かん)を握り直し、深く息を吐いた。


 シミュレーションゲームのように盤面全体を動かすことはできない。尋人にできるのは、一人の兵士として目の前の敵を確実に減らすことだった。


「すり足で間合いを詰め……一歩で踏み込む!」


 尋人がかつて道場で繰り返した、剣道の初歩的な足さばき。

 ただの基本動作に過ぎないが、霊子結晶を搭載した新生クラウスの圧倒的な追従性と加速力が合わさることで、それは次元の違う戦闘力へと昇華された。

 凄まじい踏み込みで無人機巧兵の懐に潜り込み、上段から振り下ろす、基本通りの「面」。

 装甲ごと叩き割られた敵機が爆発する前に、クラウスはすでに次の標的へと「すり足」で移動し、無駄のない胴打ちを見舞う。力任せではない、剣道の型をなぞるような淀みない連続攻撃が、帝国の鋼鉄の波を次々と切り崩していった。


 しかし、多勢に無勢。破壊された無人機を盾にし、後続の敵機が尽きることなく押し寄せる。感情のない機械の軍勢は、恐れを知らず防衛線を削り取っていった。

 徐々に押し込まれ始めた大秦国軍と六花分隊。戦いの趨勢が動き始めたその時。


 帝国軍の中に、複数の排気筒から黒煙混じりの蒸気を吹き上げる「大型無人機巧兵」が現れた。その無機質な単眼が見つめる先は――大秦国の象徴である氷閃(ひょうせん)無限軌道(キャタピラ)が土煙を巻き上げ、両手に持った長大な戦棍(メイス)を振り上げる。


「しまっ……!?」


 氷閃は、昨夜の整備で換えが利かなかった関節部の歪みからか、一瞬回避が遅れた。重い一撃がガードを突き抜けて装甲にダメージを与え、火花を散らして膝をつく。


「く……まだだ、まだ私は倒れるわけには……!」


 無理に機体を立て直そうとする白龍。だが、大型機の無慈悲な追撃が迫る。

 刹那、クラウスが、弾丸のようにその間へと割り込んだ。

 尋人は「すり上げ面」の要領で巨大な戦棍を大太刀でいなすと、間髪入れず敵の頭部を叩き割った。


「無茶するなよ、白龍! 大丈夫か!」


 爆炎を背に、クラウスが氷閃を庇うように立つ。


「佐藤……お前こそ無茶するな。ここは私が食い止める、お前たちは下がれ……!」

「水臭いこと言うなよ。一緒に戦って活路を開こうぜ!」


 尋人が気負うでもなく、当たり前のように放ったその言葉は、白龍の胸を鋭く射抜いた。

 操縦桿を握り直そうとした指先が、微かに震える。

 これまで「大秦国の(つるぎ)」として、一人で全てを背負ってきた。女であることを隠し、誰かに庇われることなど想像すらしていなかった。

 だが今、この少年は、自分をただの一人の戦友として、守ろうと立ちはだかっている。

 その飾らない背中を見つめていると、白龍の奥底で張り詰めていた鋼の糸が、ふっと緩んでいく感覚があった。同時に、頬が戦いの熱とは違う理由で、微かに熱を帯びていくのを感じる。


(……私を庇って立つその背中が、ひどく頼もしく見える。……困ったものだな)


 胸の奥で小さく跳ねた鼓動の理由を、彼女はあえて深く考えないようにした。


「……フッ。つくづく、おかしな男だ、お前は」


 白龍の声は、いつもの厳しい響きを潜め、どこか柔さを孕んでいた。


「ならば、私の青龍刀でお前のために道を切り拓こう。……遅れるなよ、佐藤!」

「ああ、力を合わせて、ここを一気に押し返すぞ!」


 二機の機巧武者が、重なり合うように動き出す。クラウスが隙を作り、息を吹き返した氷閃が神速の青龍刀を叩き込む。白銀と深緑の連携はさらなる高みへと達し、互いを補い合うように戦場を舞った。


* * *


 その戦いぶりを、後方の装甲指揮車から見ていた参謀イワンは、チェスの駒を指先で弄びながら目を細めた。


「あの深緑の機体……圧倒的な出力と、無駄のない挙動。これまでの損害を考えると、これ以上物量で押すのは得策ではないな……」


 イワンは静かに顔を上げると、次の命令を下した。


「『鋼鉄の(ひょう)』の第一フェーズは終了だ。本命を動かせ。標的は大秦国の首都、龍京(りゅうけい)だ」


 影が足元へと短く縮みはじめた頃、ついに帝国軍は潮を引くように撤退していった。だがこの時、尋人たちは戦いが次の局面に移ろうとしていることなど、知る由もなかった。

次第に尋人に惹かれていく白龍。そんな二人を切り裂くように、戦局が大きく変わろうとしていた……。

次回、過酷な状況下で、エレナにも決断の時が迫ります!


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