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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話完結】  作者: 角乃とうふ
第五章 大秦国炎上

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第二十陣 白き龍の素顔、戦場に吹く風

 大秦国の国境地帯は、すでに焦熱(しょうねつ)の地獄と化していた。

 天を覆う黒煙の中、インペトラル帝国の無人機巧兵(スチームドール)の大軍が、統制された動きで進軍していく。それを迎え撃つ大秦国の防衛部隊は、圧倒的な物量と火力の前に次々と瓦解しつつあった。

 その絶望的な戦場を、一筋の白い閃光が駆けていた。

 大秦国の機巧武者氷閃(ひょうせん)だ。白龍(ばいろん)が駆るそれは、単騎で死地を駆け回り、帝国軍の進撃を辛うじて食い止めていた。


「ハァッ……ハァ……!」


 コックピットの中で、白龍は荒い息を吐く。


 機体の損傷を示す警告音が鳴り響き、右脚部の霊子圧が急激に低下していく。いくら白龍の技量が突出していようと、この大軍の前では限界が近かった。

 その時、氷閃の死角から大型無人機巧兵の鉄槌が振り下ろされる。

 回避が間に合わないっ……! 白龍が覚悟した瞬間――


「――三、二、一……目標捕捉、発射!」


 詩織の合図で丘陵の向こう側から放たれた霊子徹甲弾が、大型無人機巧兵の胸部を正確に撃ち抜いた。

 続いて、激しい土煙を上げながら猛スピードで突進してきた深緑の機体が、その重量を活かした豪快な体当たりで敵の陣形を瞬く間に打ち崩していく。

 息を呑む白龍の耳に、今度は聞き覚えのある少年の声が外部通信から飛び込んできた。


「白龍、無事か!?」

「佐藤……!? なぜ、皇國の貴様らが!」

「昨日の敵は今日の友ってな! ここまで強行軍でぶっ飛ばしてきたんだぜ!」


 大太刀を構えたクラウスが、蒸気を噴き上げながら氷閃を庇うようにその前に立ち塞がる。


「――そこをどけえっ!」


 尋人が吠えると同時に、クラウスの排気筒から爆発的な蒸気があふれ出す。刹那、大太刀が横一文字に閃き、迫り来る敵機の先頭集団を一撃で粉砕した。それを皮切りに機巧甲冑を纏った凛と蘭が追撃し、無人機巧兵の波を切り崩していく。


「白龍、一旦後退しろ! 機体のダメージが限界を超えてる!」

「……くっ、恩に着る!」


 白龍は前線を凛たちに任せ、尋人と共に後方の岩陰へと機体を後退させた。


 * * *


 氷閃が無事に予定地点で停止したのを確認すると、尋人はクラウスから飛び降りた。

 直後、後方支援のため追尾していた蒸気四輪車が猛スピードで横付けし、大きな工具鞄を抱えたエレナが勢いよく飛び出してきた。


「ひどい損傷ね……。関節部のギアが完全に焼き付いてるわ。ヒロト、私はすぐに駆動系の応急処置に入るから、あなたはパイロットのサポートをお願い!」


 エレナが氷閃の脚部へと駆け寄り、手際よく工具を展開し始めたその時、緊急脱出レバーが引かれ、白龍がコックピットから這い出してきた。

 激しい戦いによる熱気のためか、白龍は上着のファスナーを半ばまで下ろしていた。


「おい、大丈夫か……」


 差し出そうとした尋人の手が、止まる。

 そこには、これまで少年のような装束で隠されていた、しなやかで曲線的な肩のラインと、パイロットスーツ越しでも分かる薄く細い腰つきがあった。乱れた呼吸に合わせて上下する胸元の起伏は、紛れもなく女性のそれだった。


(海市の時から、もしやとは思っていたが……やっぱり、そうだったのか)


 目の前の光景に確信を得ながらも、尋人は必要以上に動揺を見せず、落ち着いた視線で彼女に向き合った。


「……気付かれたか」


 白龍は自嘲気味に笑い、視線を伏せた。


「私は、女帝陛下とこの国を護る(つるぎ)だ。舐められぬよう、女であることを隠し、戦士として生きる道を選んだ。……滑稽だろう? 結局、最後は他国のお前たちに助けられている」


 自らを卑下するように呟く彼女に、尋人は湧き上がる気持ちをぶつけた。


「君が背負ってきた重圧も、祖国を愛する想いも、俺は知ってる。男だろうが女だろうが関係ない! 君は俺の知る限り、最高のパイロットだ!!」

「佐藤……」


 その真っ直ぐな言葉と瞳に、白龍は目を見開いた。

 戦うためだけに固く閉ざされていた彼女の心が、ふっと解ける。

 微かな笑みを浮かべた白龍は、尋人が差し出した手を取り、力強く立ち上がった。


 ――それから、数分。

 激しい砲声が遠くに(とどろ)くなか、岩陰にはエレナが必死に工具を振るう金属音と、時折噴き上がる高圧蒸気の音が絶え間なく響いていた。

 やがて、氷閃の関節部から「プシューッ!」と余剰圧力を逃がす鋭い排気音が上がる。


「ふぅ……! よし、応急処置完了よ!」


 油汚れのついた額の汗を拭いながら、氷閃の足元からエレナが顔を覗かせた。


「熱で膨張して噛み込んじゃった主歯車(メインギヤ)に、高圧の冷却潤滑油をブチ込んで強引に隙間を作ったわ。低下してた霊子圧のバイパスも繋ぎ直したけど……あくまで気休めだから、無理は禁物よ!」

「感謝する、皇國の技師!」


 白龍はエレナに短く感謝を告げると、凛とした表情を取り戻して再びコックピットへと飛び乗った。


「……私の背中を、預ける。共に戦ってくれるか、佐藤」

「ああ、もちろん! 俺の戦術と君の腕があれば、帝国の連中なんて目じゃないさ!」


 エレナの迅速な処置によって息を吹き返した氷閃が、クラウスと共に激戦の渦中へと舞い戻る。


 尋人の戦術眼が敵陣の(ほころ)びを見つけ、白龍の天才的な操縦技術がその穴を穿(うが)つ。深緑のクラウスと白銀の氷閃。二機は大地を蹴り、蒸気の尾を引きながら、地を滑るような高速機動で帝国軍を翻弄していった。


 * **


 はるか後方、大秦国軍の本陣。

 天幕の中からその戦況を双眼鏡で見つめていた女帝・瑛華(えいか)は、フッと柔らかな微笑みを浮かべる。


「……風が吹いている。あの娘の頑なな心を溶かす、一陣の風が……」


 女帝は姉のような優しい眼差しで、二人の若き戦士の背中を見守っていた。

 帝国の悪意に満ちた侵略に対し、大秦国と六花分隊の反抗が始まろうとしていた。

間一髪、白龍の救援に間に合った尋人たち。

次回、敵味方それぞれの思惑が交錯する夜が訪れます。


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