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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話・執筆済】  作者: 角乃とうふ
第一章 深緑の機巧武者、皇都に立つ

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第二陣 七級の実力

「……重い。なんだよ、この感覚」

「文句言うな。この機巧武者は、(おそ)れ多くも帝の御料機。搭乗できるだけで(ほま)れと思え」

「そんなこと言われたって……」


 クラウスのコックピット。見晴らしの良い操縦席の下部には、モニターのような硝子盤が据えられている。その両側には、真鍮フレームで縁取られた大小様々な円形圧力計が整然と並び、赤い針が小刻みに震えていた。カチカチと音を立てる計器音と、背後から伝わるボイラーの心地よい熱気。


 当然のことながら、尋人にとってそれは未知の機械だった。しかし、油と蒸気の匂いに包まれる中、彼は何故だか、この鉄の巨躯を自分の手足のように操縦できそうな気がしていた。


「大切なのはイメージだ。クラウスと一体になったつもりで操縦(かん)を操作しろ」


 浮かんでいる黒猫のホログラムが尋人の直観を後押しする。

 正面。インペトラル帝国の無人機巧兵(スチームドール)の一体が、無限軌道(キャタピラ)で石床を削りながら突進してくる。人型の上半身が、両手に持った巨大な鉄槌を力任せに振り下ろした。


「危なっ……!」


 尋人は咄嗟に操縦桿を引いた。

 ガキッ! と耳を突き刺す金属音が響き、クラウスの右腕が敵の鉄槌を受け止める。

 衝撃がコックピットを揺らした。だが、クラウスは全くの無傷だった。


「ふん、驚くことじゃない。機体の性能差に加え、その霊子力。……想定通りだが、やはりお前の出力は桁外れだな」


 黒猫が、満足げな表情を浮かべた。

 その時だった。戦場の空気を切り裂くような、鋭い声が響く。


「――そこまでだ、賊徒ども!」


 戦場を横切る青白い閃光。

 それは、機巧武者よりも小さく、しかし無人機巧兵を遥かに凌駕する速さで動く「人」の影だった。

 濃紺の袴を模した積層装甲に、真鍮の胸当て。背中の小型ボイラーから襟巻のように青い蒸気をなびかせ、一人の少女が立ちはだかる。


「――機巧甲冑『蒼月(そうげつ)』。四条凛のお出ましか」


 黒猫がその名を呟く。彼女はクラウスに鉄槌を振り下ろした無人機巧兵に向かって、腰の刀を抜きざまに斬撃した。刀身が輝き、白い蒸気がほとばしる。刹那、閃光と共に、無人機巧兵の胴が横に真っ二つに裂け、爆発した。彼女は振り返ると、背後に立つ深緑の巨躯――尋人の乗る機体を見て、驚愕した。


「なぜ、甲一型が動いている……!? 適合者は未だ不在のはずだ! ……貴公がどこの所属かは知らぬが、下がっていろ! 実戦投入できる段階ではないはずだ。ここは私――皇國特務隊、四条凛が引き受ける!」


 通信機から響く、凛々しくも困惑の混じった少女の声。

 しかし、後に控えた複数の無人機巧兵が、計算され尽くした連携で彼女を包囲していく。四条凛の機巧甲冑は、人型サイズだ。ゆえに、一撃でも加えられれば致命傷となってしまうのでは――そう心配する尋人の身体は勝手に動いていた。


「……四条さん、避けてくれ!」


 尋人は無我夢中で、クラウスの操縦桿を深く、真っ直ぐに押し込んだ。クラウスが腰の大太刀を引き抜いて、中段に構える。


「なっ……!? 待て、貴公、本気か! 適合試験も済んでいない機体でその出力……制御不能で自壊するぞ!」


 確かに、クラウスの計器類は針を振り切り、警告音が鳴り響いている。

 だが、尋人には確信があった。

 この有り余る力、真っ直ぐにぶつければ「一本」取れる。

 彼は目を閉じた。

 体育館の床を素足で踏む感触。何度も繰り返した素振り。一、二、三……。

 そして、先生に口が酸っぱくなるほど言われ続けた言葉。


 ――『背筋を伸ばし、真っ直ぐに、最短距離で打て』


 クラウスの高圧蒸気ボイラーの内圧が一気に上昇する。

 尋人の霊子力が機体と完全に同期し、正面に直線の青白い軌条(レール)が形成されるのが見えた。


 一歩。信じられない加速で、五メートルを超す巨体が地を蹴った。


「……めぇぇぇぇんっ!!」


 最短距離。一切の無駄を省いた、垂直の振り下ろし。

 クラウスの巨大な太刀が、深緑の残像を伴って、敵陣中央の無人機巧兵へと叩きつけられた。


 ドゴォォォォォォォーンッ!!


 衝撃波が周囲の無人機巧兵をまとめて吹き飛ばし、静寂が訪れる。

 直撃を受けたそれは、頭部から無限軌道(キャタピラ)の底までを完璧に一文字に両断されていた。

 刀を振り下ろした姿勢のまま静止する、鋼鉄の武者。


「……嘘。あんな無茶苦茶な出力で、僅かのブレもなく一点に……?」


 通信機から、四条凛の信じられないものを見たような声が聞こえる。


「本当に、特務が捜し続けてきた『適合者』だというのか……!? 貴公一体、何者だ!」


 尋人は荒い息を吐きながら、操縦桿を握る手の震えを抑えた。

 クラウスの足元で、凛が自身の数倍もの大きさを誇る深緑の機体を見上げている。


「……何者って、帰宅部の高校生です」


 尋人がそう答えた瞬間、一刀両断された残骸がゆっくりと左右に広がるように崩れ落ちた。

 この時、彼はまだ知らなかった。

 この「基本の一撃」が、列強渦巻くこの世界の常識を、根本から揺るがすことになるなんて。

最後までお読みいただきありがとうございます!

尋人とクラウスの初陣、いかがだったでしょうか?

次回は、強敵にして宿敵が早くも登場します!


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