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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話完結】  作者: 角乃とうふ
第四章 不夜の海市、偽りの仮面 

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第十七陣 託された想い、暁の誓い

「こっちだ、急げ!」


 増援の帝国兵が現れたため、尋人たちは、蒸気が立ち込めるテラス席から運河沿いの狭い路地へと逃げ込んだ。気配を押し殺して様子を(うかがう)うと、帝国兵の激しい足音が次第に遠ざかっていく。


「……行ったか」


 白龍(ばいろん)が安堵のため息を漏らした。

 しんと静まり返った闇の中。聞こえるのは、自分たちの荒い鼓動と呼吸音だけだった。隣で息を整える白龍の端正な横顔が、運河の街灯に微かに照らされている。


「……驚いたな。貴様の指示、まるで空の上から戦場を見ているかのようだったぞ」


 白龍が、感心したように口角を上げる。その瞳には、先ほどまでの冷徹な戦士の光ではなく、かつてない高揚と、戸惑いに似た奇妙な信頼が宿っていた。


「言っただろ、ちょっとした心得があるって。……白龍、あんたの動きこそ、凄かったよ。俺の指示に、即座に反応してくれたから、何とかやり過ごせたんだ」

「……私はただ、いつも通り動いただけだ」


 そう言って白龍は視線を落とし、エレナが抱えている木箱――「霊子結晶」へ目を向けた。

 恐らく、大秦国にとっても喉から手が出るほど欲しい戦略物資なのだろう。


「……霊子結晶は、貴様たちが持っていけ」

「いいのか? 白龍の目的も、これだったはずだろ」


 尋人が問い返すと、白龍はふいと顔を背けた。


「勘違いするな。これは『投資』だ。……不可思議な力を持つ、にわか戦士が見せる夢物語へのな。案外、貴様のような馬鹿に預けた方が、面白い結果になりそうだと思っただけだ」


 白龍は立ち上がり、夜霧が立ち込める運河の先を見つめる。尋人は彼の背中に、何かを思い定めたような強い意志を感じた。


「次に戦場で相見(あいまみ)えれば、私達は再び敵同士となる定め。……だが、佐藤。もし貴様が本当に帝国の支配を覆し、この歪んだ世界の理を正そうというのなら――」


 白龍は言葉を切り、肩越しに一度だけ尋人を見た。


「その時は、また背中を預けてやらんでもない」

「……わかった。この霊子結晶、決して無駄にはしない!」


 白龍は背中を向けたまま右手を上げると、音もなく夜霧の中へと消えていった。

 後に残されたのは、湿った風の匂いと、尋人の中に確かに芽生えた新たな決意だった。


* * *


 しばらく路地裏の物陰に身を潜めた後、尋人たちは、慎重に気配を消して緊急時の合流地点へと向かった。港湾沿いの倉庫裏に辿り着いた時には、東の空がかすかに白み始めていた。


「尋人様! よくご無事で!!」


 弥生が安堵の声を上げて駆け寄ってきた。その後ろには、周囲を警戒している凛と蘭、にゃん丸の姿もある。


「ああ、なんとかね。エレナ、霊子結晶は無事か?」

「バッチリよ! これさえあれば、クラウスを別次元の機体に作り替えられるわ。詩織さんも、それに合わせた新たな術式構想を練り始めてるしね」


 エレナが自信満々に胸を叩き、詩織が頷く。だが、尋人の表情が晴れないのを見て、凛が心配そうに覗き込んできた。


「……尋人? 何かあったのか?」


 尋人は深く息を吐き、仲間たちの顔を一人ずつ見つめた。

 そして、白龍から聞いた、この世界の、そして大秦国の真実を打ち明けた。

 それを聞いた凛たちは、重苦しい雰囲気に包まれた。


「……許せない。無辜(むこ)の民の暮らしを人質に取るなど、帝国には武人としての誇りはないのか!」


 凛が拳を握りしめ、吐き捨てる。


「この戦いを終わらせるためには、皇國を守るだけじゃ足りない気がする。俺にどこまでできるか分からないけど、託されたこの霊子結晶を、白龍の想いを無駄にしたくないんだ」


 一瞬の沈黙。

 しかし、その沈黙を破ったのは、いつもは冷静な詩織だった。


「大秦国を帝国の支配から解放し、共闘関係を築くことは、皇國防衛上も戦略的合理性があります。帰還後、直ちに大鳥居指令に報告して、今後の作戦を協議しましょう」

「あたしも賛成! そんな卑怯な奴ら、クラウス改でボコボコにしてやりましょうよ!」


 エレナが勢いよく拳を突き上げる。それに続くように、弥生がそっと一歩前に進み出た。


「尋人様が決意されたのなら、私はどこまでもお供します。全力でお支えいたしますね!」

「おうっ! 大船に乗ったつもりであたしたちに任せろ!」


 穏やかな笑みを浮かべた弥生がそう告げると、蘭も力強く吠えた。にゃん丸がニヤリと笑う。静かな闘志を燃やす凛は尋人を真っ直ぐに見つめながら、小さく頷いた。


「みんな、ありがとう」


 胸が熱くなった尋人は夜空を見上げた。運河の向こう、水平線の彼方から、微かに明け方の光が差し込み始めている。その東雲(しののめ)の空は、尋人たちの決意の写し鏡のように輝き始めていた。

尋人と白龍の間に芽生えた絆。六花分隊は新たな決意を胸に海市を去ります。

次回、新生クラウス爆誕です!


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