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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで 【全61話完結】  作者: 角乃とうふ
第四章 不夜の海市、偽りの仮面 

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第十六陣 不意の襲撃、背中合わせの共闘

 運河を流れる蒸気船の汽笛が鳴り終わるかどうかの時だった。

 突如、隣接する機械工房の方角から、鼓膜をつんざくような爆発音が(とどろ)いた。


「なんだっ!?」


 尋人が立ち上がると同時に、テーブルを挟んで向かい合っていた白龍(ばいろん)も、音もなく立ち上がり、腰の短剣に手を掛ける。

 テラス席の赤い提灯が爆風で激しく揺れ、運河の水面が波立つ。その時、工房の屋根から、黒々とした煙が立ち昇るのが見えた。


「なっ!? 工房の中にはまだ、エレナと詩織さんが!!」


 他のパーツも物色したいと、まだ工房に残っていたはずだった。尋人の頭を嫌な予感がかすめる中、濛々(もうもう)と渦巻く煙を突き抜けて、二人がテラス席に飛び込んで来た。


「エレナ! 詩織さん! 二人とも無事か!?」

「ゲホッ、ゲホッ! 間一髪だったわ!」


 煤だらけになったエレナが、しっかりと霊子結晶の入った木箱を抱えて叫ぶ。その後ろから、複数の人影がテラス席へと躍り出た。


 全身黒ずくめで頭にフードを被り、顔を不気味な仮面で隠した集団。ただの暴漢ではない、と尋人は直感した。


「尋人君、気をつけてください! あの装束……インペトラル帝国の工作機関が身に纏う『虚面(こめん)装束』です!」 


 詩織の切迫した声に、尋人の背筋に冷たいものが走った。

 ――帝国の刺客!


「チッ……帝国の犬どもめ。こんなところまで、嗅ぎ回っていたか」


 白龍が舌打ちをする。男たちの一人が、仮面の奥でくぐもった声を上げた。


「目標、大秦国の白龍を確認。……海市における不慮の事故として、速やかに処理しろ。高純度霊子結晶も回収する」


「なっ……暗殺だと!?」

「そうらしい。帝国に奪われるくらいなら、霊子結晶は貴様たちにくれてやる。それを持ってとっとと逃げろ」


 言うが早いか、白龍はしなやかな豹のように地を蹴った。

 白い長袍チャンパオの裾が舞い、抜かれた真鍮装飾の短剣が、夕闇の中で鋭い軌跡を描く。先頭の帝国兵が構えた小銃を弾き飛ばし、そのまま流れるような体術で一人のみぞおちに強烈な蹴りを叩き込んだ。

 見事な体術に尋人は目を見張る。だが、敵は多勢だ。工房の屋根からも、新たに三人の帝国兵が姿を現し、白龍へと銃口を向けているのが見えた。


「逃げろと言われて、はいそうですかって訳にはいかねえよ!」


 尋人は、白龍が使っていた陶製のジョッキを掴むと、屋根の上の敵に向かって投げつけた。ジョッキは敵の顔面に命中し、銃の狙いが大きく逸れる。


「白龍! 十時の方向、屋根の上から増援だ! 右に飛べ!」


 尋人の叫びに、白龍は咄嗟に右へと跳躍した。直後、彼が先ほどまでいたテラスの床板を、無数の銃弾が蜂の巣に変えていく。


「ふん……倭國の新兵にしては、悪くない指示だ」

「TPS……まぁ、模擬訓練的なことは結構やってたもんでね。俯瞰で戦況を読むのは得意なんだよ!」


 尋人の言葉に呼応するように、詩織が卓上に霊子演算器を設置して素早く操作し始めた。


「尋人君、周囲の熱源反応から敵の配置状況を割り出しました!」

「ヒロト! こいつらの着てる装備、旧式の霊子駆動よ! 肩や膝の関節部の装甲が薄いはず!」


 詩織の情報分析とエレナの的確な助言。必要なピースは揃った。

 この運河沿いの酒場には、無数に張り巡らされた鋼管から、海市の動力源である高温の蒸気が流れている。ならば――


「聞いたな、白龍! 三歩下がって、頭上の赤いバルブがついてる鉄パイプを斬れ! その後、奴らの関節を狙うんだ!」

「図に乗るな!」


 そう言いながらも、白龍は尋人の指示通りに頭上目掛けて跳躍し、短剣を一閃させた。

 刃が鋼管を切り裂くや、中から圧縮された超高温の白煙が凄まじい勢いで噴出する。


「ぐあっ!?」

「視界が……!」


 厚い蒸気の煙幕が帝国兵たちの視界を奪い、陣形を崩していく。


「今だ! 左の二人は体勢を崩してる!」

「応っ!!」


 白龍が蒸気の中から幽鬼のように現れ、瞬く間に二人の帝国兵の装甲の隙間、肩と膝の関節を正確に突いて無力化する。

 尋人もただ隠れているわけではなかった。テラスの椅子を蹴り飛ばして敵の足止めをしつつ、白龍の死角を補うように声を張り上げた。

 蒸気と火花が散る中、二人はいつしか背中合わせになっていた。

 互いの体温と、張り詰めた息遣いが伝わってくる距離だ。


「……足手まといにはならないようだな」

「そりゃ、どうも。あんたこそ、俺の指示に的確に合わせてくれて助かるよ」


 肩越しに視線を交わす。

 さっきまで、互いに譲れない霊子結晶を前に火花を散らしていた二人。それが今、帝国の刺客を前に完璧に息を合わせていた。


「よし、一気に片付けるぞ!」

「承知!」


 種々の鮮やかな提灯が揺らめく海市の熱帯夜に、彼らの反撃の狼煙が上がった。

尋人と白龍、まさかの共闘!

はたして、この戦いの行方とその先にあるものとは……。

次回もお楽しみに!


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